
動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
「最近、店長がずっと忙しそうで……」
そう語られる職場ほど、実は大きな問題を抱えています。
売上は極端に落ちていない。
クレームも多くない。
スタッフも真面目に働いている。
それでも、店長だけが疲弊し続け、
意思決定が遅れ、現場は次第に“指示待ち”になっていく。
──そんな組織は少なくありません。
この状態を、
「店長の能力が高すぎるから」
「責任感が強いから仕方ない」
と片づけてしまうと、問題は必ず深刻化します。
本当の原因は、個人の資質ではなく、
“全部自分でやる”ことを前提に回ってしまっている構造にあります。
店長が頑張れば頑張るほど、
周囲は考えなくなり、
組織は静かに弱体化していく──。
今回は、店長が疲弊していく組織と、
“自分でやらなくても回る構造”へ転換できた組織を対比しながら、
この問題の正体と、終わらせ方を整理していきます。
この記事を読むことで得られること
- 店長の疲弊を「能力・性格の問題」ではなく、“判断が集中する構造”として整理できます
- 「聞いた方が早い」「店長が決める前提」が、現場を指示待ちに変えていくメカニズムがわかります
- 判断基準の可視化・情報の分散・役割再設計によって、“自分でやらなくても回る状態”へ転換する具体像が掴めます
まず結論:店長の疲弊は頑張りすぎの問題ではなく、判断が一点に集中する“前提設計”の帰結なので、解決は「人を変える」ではなく「判断を渡せる構造をつくる」ことです。
失敗ケース(A店)|“抱え込む店長”が生まれる組織
A店は、複数名のスタッフを抱える小売・サービス業の店舗です。
売上は一定水準を保ち、致命的なトラブルもありません。
それでも、店長だけが常に忙しく、休みの日も連絡が入る状態が続いていました。
理由はシンプルです。
判断・調整・トラブル対応のすべてが、店長に集まっていたからです。
在庫判断、クレーム対応、シフト調整、スタッフ間の意見調整。
「最終的には店長が決める」という前提が、いつの間にか
「最初から店長がやったほうが早い」という運用に変わっていきました。
■「聞いた方が早い」が常態化する現場
スタッフ側に悪意はありません。
むしろ、効率を重視した結果でした。
- 「これ、どうしますか?」
- 「一応、店長に確認したほうがいいですよね?」
- 「判断ミスしたら怖いので…」
こうした言葉が飛び交ううちに、
スタッフは自分で考えるより、聞く方が安全だと学習していきます。
判断基準が共有されていないため、考えても正解かどうかわからない。
結果として、思考を止め、確認に頼る。
その瞬間から、考える力は個人の中ではなく、店長の頭の中に集約されていきます。
■ 情報・判断・責任が一点に集中する構造
A店では、日々の小さな判断が積み重なり、すべて店長のスケジュールを圧迫していました。
- 些細な判断でも連絡が入る
- 判断の背景は共有されない
- 決定理由が残らない
- 次回もまた同じ質問が来る
その結果、店長は常に“即断即決”を求められ続ける存在になります。
判断が集中すれば、当然ミスのリスクも増えます。
ミスが起きれば「やはり店長が見ていないとダメだ」という認識が強化され、さらに任せられなくなる。
こうして、
任せられない → 集中する → さらに任せられない
という悪循環が完成します。
■ 店長不在で、現場が止まる
A店では、店長が休みの日に必ず起きる現象がありました。
- 判断が遅れる
- 対応が後回しになる
- スタッフ同士で決めきれない
- 「店長が戻ってから」に流れる
つまり、店長がいない=現場が止まる状態です。
これは店長の能力が高いからではありません。
判断を渡す設計が存在しないから起きている現象です。
■ 疲弊・離職・属人化が同時に進む
結果として、A店では次の3つが同時進行します。
- 店長は慢性的に疲弊する
- スタッフは成長実感を得られず離職する
- 業務は属人化し、引き継げない
誰か一人が頑張ることで、組織全体が静かに弱くなっていく。
■ 問題は「頑張りすぎ」ではない
A店の問題を「店長が頑張りすぎ」「責任感が強すぎる」と片づけるのは簡単です。
しかし本質はそこではありません。
- 👉 問題は、任せられない構造
- 👉 そして、判断を渡せない設計
人ではなく、前提と仕組みが、“抱え込む店長”を必然的に生み出していたのです。
成功ケース(B店)|“自分でやらなくても回る”構造へ
B店は、A店と同じ小売・サービス業で、
スタッフ数や客層、売上規模もほぼ同等の店舗でした。
違いがあったのは、店長の働き方そのものです。
B店の店長は、かつてA店と同じように、
判断・調整・トラブル対応をすべて自分で抱えていました。
しかし、ある時から方針を大きく転換します。
目指したのは、
「自分が動かなくても、店が回る状態」でした。
■ 店長の役割を「実行者」から「設計者」へ
B店で最初に変えたのは、
「店長は何をする人か」という定義です。
- すぐ判断する人
- その場で処理する人
- 全部知っている人
こうした役割を手放し、
判断が生まれる“仕組みをつくる人”へと役割を切り替えました。
店長が現場で手を動かす時間を減らし、
代わりに時間を使ったのは、
- 判断基準の整理
- 情報共有の設計
- 役割の線引き
■ 判断基準・共有シート・役割分担を明文化
B店では、
「これは誰が、どこまで決めていいのか」を曖昧にしませんでした。
- 金額〇円以内の判断は現場でOK
- クレーム初期対応はスタッフ判断
- 例外だけ店長にエスカレーション
こうした基準を、共有シートとして見える形に落とし込みます。
口頭での「だいたいこうして」ではなく、
誰が見ても同じ解釈になるように整理されたルール。
これにより、
「聞かないと進めない仕事」が、
「考えて進めていい仕事」へと変わっていきました。
■ 現場で判断できる領域を、意図的に増やす
B店の特徴は、一気に任せたわけではない点です。
- まずは影響の小さい判断から
- 次に頻度の高い判断へ
- 最後に例外対応だけを残す
判断を“段階的に渡す”設計を行いました。
スタッフは最初こそ不安を感じます。
しかし、判断基準があることで、
「間違えても学びになる」環境が整います。
結果として、スタッフ同士で考え、相談し、決める場面が増えていきました。
■ 店長がいなくても、一定レベルで回る状態へ
こうした積み重ねにより、B店では店長が不在でも、現場が止まらなくなります。
- 日常業務は滞りなく進む
- トラブルも初期対応は現場で完結
- 店長への連絡は“例外”だけ
店長は常に対応を迫られる存在ではなくなり、
必要なときに判断する立場へと変わりました。
■ 稼働が減るほど、全体の質が上がる
興味深いのはその後です。
- 店長の残業時間は大幅に減少
- スタッフの定着率が向上
- 現場の対応スピードが改善
店長が動かなくなったのではありません。
動かなくてもよい構造が整ったのです。
結果として、店長は本来注力すべき業務──
改善、育成、仕組みづくりに時間を使えるようになり、
店舗全体の質が底上げされていきました。
▶︎ [初めての方へ]
この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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スタッフの物語|「考えていいんだ」と気づいた瞬間
B店で働くスタッフの一人、山田さん(仮名)は、
以前A店で勤務していた経験を持っています。
A店での日々を振り返ると、
真っ先に思い浮かぶのは「判断してはいけない」という感覚でした。
■ A店時代:「確認しないと不安」な毎日
A店では、どんなに小さなことでも判断は店長に委ねられていました。
- 価格の調整
- イレギュラーな要望への対応
- クレームの初期対応
山田さん自身も、
「自分で決めて失敗したらどうしよう」という不安を抱えていました。
結果として、確認待ちが当たり前になります。
考えなくなったわけではありません。
考えても、使う場がなかったのです。
次第に、
「自分の仕事は、言われた通りに動くこと」
そう割り切るようになっていきました。
■ B店移行後:判断基準が“渡された”感覚
B店に移った直後、山田さんは少し戸惑いました。
「これは、どこまで自分で決めていいですか?」
その問いに対して返ってきたのは、
具体的な指示ではなく、判断基準そのものでした。
- ここまでは現場判断
- 迷ったらこの基準
- 例外だけ共有
それらはシートとして整理され、
誰でも確認できる形で共有されていました。
■ 小さな判断を任される経験
最初に任されたのは、本当に小さな判断でした。
「この対応で進めていいと思います」
そう言って動いた後、否定されることはありませんでした。
むしろ、「考えてくれてありがとう」という言葉が返ってきたのです。
その瞬間、山田さんの中で何かが変わりました。
■ 「考えていいんだ」と気づいた瞬間
それまでは、考えることは“リスク”でした。
B店では、考えることが“仕事”になっていました。
正解かどうかよりも、どう考えたかが尊重される。
間違いがあっても、責められるのではなく、
「次に活かそう」と扱われる。
山田さんは、
人が変わったのではなく、環境が変わったのだ
と実感します。
■ 環境が、人を「考える存在」に変える
B店での経験を通じて、山田さんはこう語ります。
「以前は、自分には判断できないと思っていました。
でも今は、考えることが仕事の一部だと思えます」
人を育てたのは、叱咤でも教育でもありません。
考えていいと伝える構造でした。
比較と学び|疲弊を生む構造/回る構造の違い
──「誰が判断するか」を見える化できるか
A店とB店の差は、
「店長が頑張ったかどうか」ではありません。
判断が、どこに集まり、どこを循環していたか。
その構造の違いです。
■ A店とB店の構造比較
| 観点 | A店 | B店 |
|---|---|---|
| 判断の所在 | 店長個人 | 構造・判断基準 |
| 情報の流れ | 店長に集約 | 現場で共有 |
| スタッフの役割 | 実行者 | 判断者 |
| 店長の仕事 | すべて対応 | 設計・調整 |
| 組織の強さ | 個人依存 | 再現性あり |
A店では、
「判断=責任=リスク」という意識が強く、
それを引き受けられるのが店長しかいませんでした。
B店では、
判断は個人の勇気ではなく、構造として扱われていました。
■ 疲弊は偶然ではない。構造上の必然である
A店のような状態になると、次の現象が必ず起きます。
- 判断が集まる
- 判断が遅れる
- 判断が重くなる
- 判断を避ける人が増える
結果、
「全部自分でやる店長」が生まれるのは必然です。
👉 疲弊は例外ではありません
👉 前提設計の帰結です
■ B店が行ったのは「判断を渡す設計」
B店が優れていたのは、スタッフの意識改革でも、研修でもありません。
判断を“渡せる形”に分解したことです。
そこで導入されたのが、
判断の流れを見える化するための「つなぐシート」でした。
■ 店舗運営版・つなぐシートの役割
今回のB店におけるつなぐシートの目的は、ひとつです。
「判断がどこで止まり、どこで渡されたかを可視化する」
▼ シート構造(最小構成)
GSS作成イメージ
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 内容 | 日付 | 業務カテゴリ | 判断内容 | 判断レベル | 使用した判断基準 | 次回の基準修正要否 |
| 入力形式 | 自動 | 選択式(接客/在庫/クレーム 等) | 簡易記述 | 選択式(現場/相談/店長) | 選択式 | チェック |
※ 記入時間は30秒以内
※ 目的は管理ではなく「判断の通過点」を残すこと
■ このシートが生んだ決定的な違い
A店
- 判断は頭の中
- 理由は共有されない
- 次回も同じ質問が来る
B店
- 判断がログとして残る
- 「なぜそうしたか」が共有される
- 次回は現場判断で進められる
判断は「消費」されるものではなく、
蓄積される資産に変わりました。
■ 判断の扱い方には3段階ある
- 抱え込む(属人化) → 店長が疲弊する
- 引き受けさせる(放任) → 現場が混乱する
- 構造として渡す(設計) → 組織が回り始める
B店は、
判断を「誰がやるか」ではなく、
「どう循環させるか」として設計しました。
■ 学び
👉 疲弊は「頑張りすぎ」の問題ではない
👉 組織は「前提設計」でほぼ決まる
つなぐシートは、店長の仕事を減らすためのツールではありません。
判断を、個人から組織へ引き渡すための橋です。
A店の問いは
「なぜ自分ばかり忙しいのか?」
B店の問いは
「この判断、次は誰に渡せるか?」
この問いの違いが、組織の寿命を分けます。
中堅・大企業への展開視点|“属人化マネジメント”の限界
この問題は、店舗や小規模組織だけの話ではありません。
むしろ規模が大きくなるほど、同じ構造が強化されやすいのが実情です。
中堅・大企業では、
「全部わかっている人」が必ず存在します。
- 特定の管理職
- ベテランリーダー
- 長年その部署を見てきた人物
その人がいるから何とかなっている。
その人に聞けば早い。
──そうした状態は、一見すると安定して見えます。
■ 管理職・リーダー層の過剰負荷は、構造問題
現場で起きていることは、A店と同じです。
- 判断が一部の人に集中する
- 情報がそこに集まる
- 相談が殺到する
- 決定が遅れ、疲弊する
本人の能力や責任感の問題ではありません。
判断を集めてしまう前提が、組織に組み込まれているのです。
■ 「全部わかっている人」に依存する組織の危うさ
属人化マネジメントの最大のリスクは、
人が抜けた瞬間に、組織の思考が止まることです。
- 異動
- 退職
- 休職
そのたびに、
「なぜこれで回っていたのか」がわからなくなる。
判断基準が人に埋もれ、構造として残っていないからです。
■ 人的資本経営の観点で見ると
人的資本経営が目指すのは、
個人の能力に依存しない持続的な成長です。
この視点に立てば、答えは明確です。
- 判断を渡せない組織は、育たない。
- 判断を経験できない人は、成長する機会を持てません。
結果として、人は育たず、負荷はさらに一部に集中します。
■ 必要なのは「人を増やすこと」ではない
中堅・大企業で必要なのは、
人員増強や教育投資の前に、前提の再設計です。
具体的には、次の3点です。
- 判断基準の可視化
正解を教えるのではなく、どう考えるかを共有する - 情報の分散
情報を集めるのではなく、使える場所に置く - 役割の再設計
決める人を減らすのではなく、決められる人を増やす
■ 属人化を終わらせるとは、能力を解放すること
属人化マネジメントを手放すことは、優秀な人を軽視することではありません。
むしろ逆です。
優秀な人の判断を、組織に引き渡すこと。
それができた組織だけが、変化に耐え、育ち続けることができます。

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