店長が疲弊する組織の特徴─“全部自分でやる”構造の終わらせ方【経営プログレッションVol.34】 | ソング中小企業診断士事務所

店長が疲弊する組織の特徴─“全部自分でやる”構造の終わらせ方【経営プログレッションVol.34】

店長が疲弊する組織の特徴─“全部自分でやる”構造の終わらせ方【経営プログレッションVol.34】

動画で見る経営プログレッションの記事説明

※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。

「最近、店長がずっと忙しそうで……」
そう語られる職場ほど、実は大きな問題を抱えています。

売上は極端に落ちていない。
クレームも多くない。
スタッフも真面目に働いている。

それでも、店長だけが疲弊し続け、
意思決定が遅れ、現場は次第に“指示待ち”になっていく。
──そんな組織は少なくありません。

この状態を、
「店長の能力が高すぎるから」
「責任感が強いから仕方ない」
と片づけてしまうと、問題は必ず深刻化します。

本当の原因は、個人の資質ではなく、
“全部自分でやる”ことを前提に回ってしまっている構造にあります。

店長が頑張れば頑張るほど、
周囲は考えなくなり、
組織は静かに弱体化していく──。

今回は、店長が疲弊していく組織と、
“自分でやらなくても回る構造”へ転換できた組織を対比しながら、
この問題の正体と、終わらせ方を整理していきます。

この記事を読むことで得られること

  • 店長の疲弊を「能力・性格の問題」ではなく、“判断が集中する構造”として整理できます
  • 「聞いた方が早い」「店長が決める前提」が、現場を指示待ちに変えていくメカニズムがわかります
  • 判断基準の可視化・情報の分散・役割再設計によって、“自分でやらなくても回る状態”へ転換する具体像が掴めます

まず結論:店長の疲弊は頑張りすぎの問題ではなく、判断が一点に集中する“前提設計”の帰結なので、解決は「人を変える」ではなく「判断を渡せる構造をつくる」ことです。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. 失敗ケース(A店)|“抱え込む店長”が生まれる組織
    1. ■「聞いた方が早い」が常態化する現場
    2. ■ 情報・判断・責任が一点に集中する構造
    3. ■ 店長不在で、現場が止まる
    4. ■ 疲弊・離職・属人化が同時に進む
    5. ■ 問題は「頑張りすぎ」ではない
  2. 成功ケース(B店)|“自分でやらなくても回る”構造へ
    1. ■ 店長の役割を「実行者」から「設計者」へ
    2. ■ 判断基準・共有シート・役割分担を明文化
    3. ■ 現場で判断できる領域を、意図的に増やす
    4. ■ 店長がいなくても、一定レベルで回る状態へ
    5. ■ 稼働が減るほど、全体の質が上がる
  3. スタッフの物語|「考えていいんだ」と気づいた瞬間
    1. ■ A店時代:「確認しないと不安」な毎日
    2. ■ B店移行後:判断基準が“渡された”感覚
    3. ■ 小さな判断を任される経験
    4. ■ 「考えていいんだ」と気づいた瞬間
    5. ■ 環境が、人を「考える存在」に変える
  4. 比較と学び|疲弊を生む構造/回る構造の違い
    1. ■ A店とB店の構造比較
    2. ■ 疲弊は偶然ではない。構造上の必然である
    3. ■ B店が行ったのは「判断を渡す設計」
    4. ■ 店舗運営版・つなぐシートの役割
    5. ■ このシートが生んだ決定的な違い
    6. ■ 判断の扱い方には3段階ある
    7. ■ 学び
  5. 中堅・大企業への展開視点|“属人化マネジメント”の限界
    1. ■ 管理職・リーダー層の過剰負荷は、構造問題
    2. ■ 「全部わかっている人」に依存する組織の危うさ
    3. ■ 人的資本経営の観点で見ると
    4. ■ 必要なのは「人を増やすこと」ではない
    5. ■ 属人化を終わらせるとは、能力を解放すること

失敗ケース(A店)|“抱え込む店長”が生まれる組織

A店は、複数名のスタッフを抱える小売・サービス業の店舗です。
売上は一定水準を保ち、致命的なトラブルもありません。
それでも、店長だけが常に忙しく、休みの日も連絡が入る状態が続いていました。

理由はシンプルです。
判断・調整・トラブル対応のすべてが、店長に集まっていたからです。

在庫判断、クレーム対応、シフト調整、スタッフ間の意見調整。
「最終的には店長が決める」という前提が、いつの間にか
「最初から店長がやったほうが早い」という運用に変わっていきました。

■「聞いた方が早い」が常態化する現場

スタッフ側に悪意はありません。
むしろ、効率を重視した結果でした。

  • 「これ、どうしますか?」
  • 「一応、店長に確認したほうがいいですよね?」
  • 「判断ミスしたら怖いので…」

こうした言葉が飛び交ううちに、
スタッフは自分で考えるより、聞く方が安全だと学習していきます。

判断基準が共有されていないため、考えても正解かどうかわからない。
結果として、思考を止め、確認に頼る。

その瞬間から、考える力は個人の中ではなく、店長の頭の中に集約されていきます。

■ 情報・判断・責任が一点に集中する構造

A店では、日々の小さな判断が積み重なり、すべて店長のスケジュールを圧迫していました。

  • 些細な判断でも連絡が入る
  • 判断の背景は共有されない
  • 決定理由が残らない
  • 次回もまた同じ質問が来る

その結果、店長は常に“即断即決”を求められ続ける存在になります。

判断が集中すれば、当然ミスのリスクも増えます。
ミスが起きれば「やはり店長が見ていないとダメだ」という認識が強化され、さらに任せられなくなる。

こうして、
任せられない → 集中する → さらに任せられない
という悪循環が完成します。

■ 店長不在で、現場が止まる

A店では、店長が休みの日に必ず起きる現象がありました。

  • 判断が遅れる
  • 対応が後回しになる
  • スタッフ同士で決めきれない
  • 「店長が戻ってから」に流れる

つまり、店長がいない=現場が止まる状態です。

これは店長の能力が高いからではありません。
判断を渡す設計が存在しないから起きている現象です。

■ 疲弊・離職・属人化が同時に進む

結果として、A店では次の3つが同時進行します。

  • 店長は慢性的に疲弊する
  • スタッフは成長実感を得られず離職する
  • 業務は属人化し、引き継げない

誰か一人が頑張ることで、組織全体が静かに弱くなっていく。

■ 問題は「頑張りすぎ」ではない

A店の問題を「店長が頑張りすぎ」「責任感が強すぎる」と片づけるのは簡単です。
しかし本質はそこではありません。

  • 👉 問題は、任せられない構造
  • 👉 そして、判断を渡せない設計

人ではなく、前提と仕組みが、“抱え込む店長”を必然的に生み出していたのです。

成功ケース(B店)|“自分でやらなくても回る”構造へ

B店は、A店と同じ小売・サービス業で、
スタッフ数や客層、売上規模もほぼ同等の店舗でした。
違いがあったのは、店長の働き方そのものです。

B店の店長は、かつてA店と同じように、
判断・調整・トラブル対応をすべて自分で抱えていました。
しかし、ある時から方針を大きく転換します。

目指したのは、
「自分が動かなくても、店が回る状態」でした。

■ 店長の役割を「実行者」から「設計者」へ

B店で最初に変えたのは、
「店長は何をする人か」という定義です。

  • すぐ判断する人
  • その場で処理する人
  • 全部知っている人

こうした役割を手放し、
判断が生まれる“仕組みをつくる人”へと役割を切り替えました。

店長が現場で手を動かす時間を減らし、
代わりに時間を使ったのは、

  • 判断基準の整理
  • 情報共有の設計
  • 役割の線引き

■ 判断基準・共有シート・役割分担を明文化

B店では、
「これは誰が、どこまで決めていいのか」を曖昧にしませんでした。

  • 金額〇円以内の判断は現場でOK
  • クレーム初期対応はスタッフ判断
  • 例外だけ店長にエスカレーション

こうした基準を、共有シートとして見える形に落とし込みます。
口頭での「だいたいこうして」ではなく、
誰が見ても同じ解釈になるように整理されたルール。

これにより、
「聞かないと進めない仕事」が、
「考えて進めていい仕事」へと変わっていきました。

■ 現場で判断できる領域を、意図的に増やす

B店の特徴は、一気に任せたわけではない点です。

  • まずは影響の小さい判断から
  • 次に頻度の高い判断へ
  • 最後に例外対応だけを残す

判断を“段階的に渡す”設計を行いました。

スタッフは最初こそ不安を感じます。
しかし、判断基準があることで、
「間違えても学びになる」環境が整います。

結果として、スタッフ同士で考え、相談し、決める場面が増えていきました。

■ 店長がいなくても、一定レベルで回る状態へ

こうした積み重ねにより、B店では店長が不在でも、現場が止まらなくなります。

  • 日常業務は滞りなく進む
  • トラブルも初期対応は現場で完結
  • 店長への連絡は“例外”だけ

店長は常に対応を迫られる存在ではなくなり、
必要なときに判断する立場へと変わりました。

■ 稼働が減るほど、全体の質が上がる

興味深いのはその後です。

  • 店長の残業時間は大幅に減少
  • スタッフの定着率が向上
  • 現場の対応スピードが改善

店長が動かなくなったのではありません。
動かなくてもよい構造が整ったのです。

結果として、店長は本来注力すべき業務──
改善、育成、仕組みづくりに時間を使えるようになり、
店舗全体の質が底上げされていきました。

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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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スタッフの物語|「考えていいんだ」と気づいた瞬間

B店で働くスタッフの一人、山田さん(仮名)は、
以前A店で勤務していた経験を持っています。

A店での日々を振り返ると、
真っ先に思い浮かぶのは「判断してはいけない」という感覚でした。

■ A店時代:「確認しないと不安」な毎日

A店では、どんなに小さなことでも判断は店長に委ねられていました。

  • 価格の調整
  • イレギュラーな要望への対応
  • クレームの初期対応

山田さん自身も、
「自分で決めて失敗したらどうしよう」という不安を抱えていました。

結果として、確認待ちが当たり前になります。
考えなくなったわけではありません。
考えても、使う場がなかったのです。

次第に、
「自分の仕事は、言われた通りに動くこと」
そう割り切るようになっていきました。

■ B店移行後:判断基準が“渡された”感覚

B店に移った直後、山田さんは少し戸惑いました。

「これは、どこまで自分で決めていいですか?」

その問いに対して返ってきたのは、
具体的な指示ではなく、判断基準そのものでした。

  • ここまでは現場判断
  • 迷ったらこの基準
  • 例外だけ共有

それらはシートとして整理され、
誰でも確認できる形で共有されていました。

■ 小さな判断を任される経験

最初に任されたのは、本当に小さな判断でした。

「この対応で進めていいと思います」

そう言って動いた後、否定されることはありませんでした。
むしろ、「考えてくれてありがとう」という言葉が返ってきたのです。

その瞬間、山田さんの中で何かが変わりました。

■ 「考えていいんだ」と気づいた瞬間

それまでは、考えることは“リスク”でした。

B店では、考えることが“仕事”になっていました。

正解かどうかよりも、どう考えたかが尊重される。
間違いがあっても、責められるのではなく、
「次に活かそう」と扱われる。

山田さんは、
人が変わったのではなく、環境が変わったのだ
と実感します。

■ 環境が、人を「考える存在」に変える

B店での経験を通じて、山田さんはこう語ります。

「以前は、自分には判断できないと思っていました。
でも今は、考えることが仕事の一部だと思えます」

人を育てたのは、叱咤でも教育でもありません。
考えていいと伝える構造でした。

比較と学び|疲弊を生む構造/回る構造の違い

──「誰が判断するか」を見える化できるか

A店とB店の差は、
「店長が頑張ったかどうか」ではありません。

判断が、どこに集まり、どこを循環していたか。
その構造の違いです。

■ A店とB店の構造比較

観点 A店 B店
判断の所在 店長個人 構造・判断基準
情報の流れ 店長に集約 現場で共有
スタッフの役割 実行者 判断者
店長の仕事 すべて対応 設計・調整
組織の強さ 個人依存 再現性あり

A店では、
「判断=責任=リスク」という意識が強く、
それを引き受けられるのが店長しかいませんでした。

B店では、
判断は個人の勇気ではなく、構造として扱われていました。

■ 疲弊は偶然ではない。構造上の必然である

A店のような状態になると、次の現象が必ず起きます。

  • 判断が集まる
  • 判断が遅れる
  • 判断が重くなる
  • 判断を避ける人が増える

結果、
「全部自分でやる店長」が生まれるのは必然です。

👉 疲弊は例外ではありません
👉 前提設計の帰結です

■ B店が行ったのは「判断を渡す設計」

B店が優れていたのは、スタッフの意識改革でも、研修でもありません。
判断を“渡せる形”に分解したことです。

そこで導入されたのが、
判断の流れを見える化するための「つなぐシート」でした。

■ 店舗運営版・つなぐシートの役割

今回のB店におけるつなぐシートの目的は、ひとつです。

「判断がどこで止まり、どこで渡されたかを可視化する」

▼ シート構造(最小構成)

GSS作成イメージ

A列 B列 C列 D列 E列 F列
内容 日付 業務カテゴリ 判断内容 判断レベル 使用した判断基準 次回の基準修正要否
入力形式 自動 選択式(接客/在庫/クレーム 等) 簡易記述 選択式(現場/相談/店長) 選択式 チェック

※ 記入時間は30秒以内
※ 目的は管理ではなく「判断の通過点」を残すこと

■ このシートが生んだ決定的な違い

A店

  • 判断は頭の中
  • 理由は共有されない
  • 次回も同じ質問が来る

B店

  • 判断がログとして残る
  • 「なぜそうしたか」が共有される
  • 次回は現場判断で進められる

判断は「消費」されるものではなく、
蓄積される資産に変わりました。

■ 判断の扱い方には3段階ある

  1. 抱え込む(属人化) → 店長が疲弊する
  2. 引き受けさせる(放任) → 現場が混乱する
  3. 構造として渡す(設計) → 組織が回り始める

B店は、
判断を「誰がやるか」ではなく、
「どう循環させるか」として設計しました。

■ 学び

👉 疲弊は「頑張りすぎ」の問題ではない
👉 組織は「前提設計」でほぼ決まる

つなぐシートは、店長の仕事を減らすためのツールではありません。
判断を、個人から組織へ引き渡すための橋です。

A店の問いは
「なぜ自分ばかり忙しいのか?」

B店の問いは
「この判断、次は誰に渡せるか?」

この問いの違いが、組織の寿命を分けます。

中堅・大企業への展開視点|“属人化マネジメント”の限界

この問題は、店舗や小規模組織だけの話ではありません。
むしろ規模が大きくなるほど、同じ構造が強化されやすいのが実情です。

中堅・大企業では、
「全部わかっている人」が必ず存在します。

  • 特定の管理職
  • ベテランリーダー
  • 長年その部署を見てきた人物

その人がいるから何とかなっている。
その人に聞けば早い。
──そうした状態は、一見すると安定して見えます。

■ 管理職・リーダー層の過剰負荷は、構造問題

現場で起きていることは、A店と同じです。

  • 判断が一部の人に集中する
  • 情報がそこに集まる
  • 相談が殺到する
  • 決定が遅れ、疲弊する

本人の能力や責任感の問題ではありません。
判断を集めてしまう前提が、組織に組み込まれているのです。

■ 「全部わかっている人」に依存する組織の危うさ

属人化マネジメントの最大のリスクは、
人が抜けた瞬間に、組織の思考が止まることです。

  • 異動
  • 退職
  • 休職

そのたびに、
「なぜこれで回っていたのか」がわからなくなる。

判断基準が人に埋もれ、構造として残っていないからです。

■ 人的資本経営の観点で見ると

人的資本経営が目指すのは、
個人の能力に依存しない持続的な成長です。

この視点に立てば、答えは明確です。

  • 判断を渡せない組織は、育たない。
  • 判断を経験できない人は、成長する機会を持てません。

結果として、人は育たず、負荷はさらに一部に集中します。

■ 必要なのは「人を増やすこと」ではない

中堅・大企業で必要なのは、
人員増強や教育投資の前に、前提の再設計です。

具体的には、次の3点です。

  1. 判断基準の可視化
    正解を教えるのではなく、どう考えるかを共有する
  2. 情報の分散
    情報を集めるのではなく、使える場所に置く
  3. 役割の再設計
    決める人を減らすのではなく、決められる人を増やす

■ 属人化を終わらせるとは、能力を解放すること

属人化マネジメントを手放すことは、優秀な人を軽視することではありません。
むしろ逆です。

優秀な人の判断を、組織に引き渡すこと。
それができた組織だけが、変化に耐え、育ち続けることができます。

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