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日本のコンビニエンスストア業界における王者、セブンイレブンの業績悪化が業界をにぎわせています。2024年の6~8月度の3カ月連続で前年同月比でマイナスとされており、その経営動向から目が離せません。本稿ではセブンイレブンが現在直面していると思われる課題と、ローソンやファミリーマートとの競争状況を詳述します。競争激化や顧客ニーズの変化によって苦戦しているセブンイレブンの現状、他のコンビニエンスストアの強み、そして今後の展望について中小企業診断士の視点から解説します。
コンビニエンスストアの業界構図と歴史
コンビニエンスストアは、1970年代に日本で誕生し、その後急速に成長しました。セブンイレブンは、1974年に日本で初めての店舗を開店し、その後の拡大戦略により市場シェアを急速に拡大しました。1980年代に入ると、24時間営業や店舗密度の向上、商品ラインナップの充実などを通じて、圧倒的な存在感を示すようになりました。ローソンやファミリーマートも同時期に成長を遂げました。ローソンは、牛乳屋として始まり、1980年代にコンビニエンスストア業界に進出しました。ファミリーマートは、1981年に第一号店を開店し、セブンイレブンやローソンに続く大手コンビニチェーンとしての地位を確立しました。
セブンイレブンの競争優位性
セブンイレブンは、以下の点で競争優位性を持っていました。ただし、今は他社も同様のサービスを行っているケースが多いため、現在も変わらない競争優位性を持っているとは必ずしも言い切れません。
- 多様な商品ラインナップ
- 24時間営業
- 高い店舗密度
- 革新的なサービス
セブンイレブンは、日用品から食品、飲料、雑誌、さらには金融サービスまで、幅広い商品とサービスを提供しています。たとえば、オリジナルブランド商品や季節限定商品、高品質の弁当やデザート類など、顧客の多様なニーズに応える商品ラインナップを揃えています。これにより、セブンイレブンは様々な顧客層に対して魅力的な選択肢を提供できました。
セブンイレブンの24時間営業は、顧客にとっていつでも利用可能な利便性を提供しました。深夜や早朝でも開いているため、急な買い物や仕事帰りの立ち寄り、夜間の軽食や飲み物の購入など、あらゆるシチュエーションで利用できるため、高い顧客満足度を生み出しました。
セブンイレブンは全国に数多くの店舗を展開しており、その店舗密度の高さが特徴です。特に都市部では、数百メートルおきに店舗が存在するため、顧客は最寄りのセブンイレブンを容易に見つけることができます。これにより、地域密着型のサービスを実現し、近隣住民にとって欠かせない存在となっています。
セブンイレブンは、顧客の利便性を向上させるための革新的なサービスを次々と導入してきました。例えば、セブン銀行のATMを店舗内に設置し、24時間365日いつでも銀行取引ができる環境を提供しています。また、セブンイレブンカードやnanacoポイントカードを活用したポイントプログラム、ネット注文サービスによる商品の受け取りや宅配サービスなど、時代のニーズに応じたサービスを提供しています。
なぜセブンイレブンは苦戦しているのか?
最近、セブンイレブンは苦戦していると言われています。その主な理由は以下のようなものが考えられます。
- 競争の激化
- 顧客のニーズの変化
ローソンやファミリーマートが積極的に新しいサービスや商品を導入し、顧客満足度を向上させています。特に、ローソンは健康志向の高まりに応じて、サラダボウルや低カロリースイーツなどの「健康志向商品」を展開し、顧客から高く評価されています。ファミリーマートは地域密着型の戦略を強化し、「地域限定商品」を提供することで地域ごとの顧客ニーズに応えています。これにより、両社は顧客の支持を集め、競争力を高めています。
インターネット通販の普及やスマートフォンの利用が増加し、消費者の購買行動が変化しています。特に若年層はオンラインショッピングにシフトしており、これがセブンイレブンの売上に影響を及ぼしています。さらに、ライフスタイルの変化により、コンビニ利用の頻度が減少していることも一因です。例えば、在宅勤務の増加によって通勤時の立ち寄り需要が減少し、夜間や早朝の利用が減少しています。
ローソンやファミリーマートの強みと躍進の理由
ローソンやファミリーマートは、以下のような強みを持っています。
- 新しいサービスの導入
- 顧客満足度の向上
- デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
ローソンは自動販売機の充実に加え、健康志向の高まりに対応したサラダボウルや低カロリースイーツなどの新商品を次々に投入しています。また、冷凍食品の充実やセルフレジの導入など、新しいサービスの提供に力を入れています。ファミリーマートも、24時間営業の弁当だけでなく、地域密着型のサービスを強化し、地域限定商品や地域イベントの協賛を積極的に行っています。これにより、地域ごとに異なるニーズに対応し、地域社会との結びつきを強化しています。
両社ともに顧客の声を反映したサービスの改善を行っており、顧客満足度を高めることに成功しています。例えば、ローソンは顧客の健康志向に対応した商品の開発を進め、健康を重視する消費者に支持されています。ファミリーマートは地域ごとのニーズに応じた商品を提供し、地域住民の支持を得ています。さらに、ファミリーマートは顧客のフィードバックを元に商品開発やサービス改善を行うことで、顧客満足度の向上に努めています。
ローソンとファミリーマートはデジタル技術を積極的に取り入れ、業務効率化や顧客サービスの向上を図っています。ローソンはセルフレジの導入や、スマートフォンアプリを通じたクーポン配信、ポイントプログラムの強化などに取り組んでいます。また、ファミリーマートはAIを活用した需要予測システムや在庫管理の高度化を推進し、無駄な在庫を削減しながら、顧客のニーズに迅速に対応しています。これにより、両社は顧客の利便性を高めるとともに、業務効率を向上させています。
コンビニエンスストア経営で重要なこと
コンビニエンスストアの経営において、以下の点が重要です。
- 顧客満足度の向上
- 競争力の強化
- イノベーションの推進
顧客のニーズを理解し、それに応える商品やサービスを提供することが重要です。例えば、商品の品質向上を図るために、定期的な品質チェックや新商品の試験販売を実施します。また、新しいサービスの導入として、セルフレジの設置やモバイルオーダーシステムの導入が考えられます。さらに、顧客の声を反映した改善活動として、アンケート調査やフィードバックを基にしたサービスの改善が求められます。
競合他社との差別化を図り、独自の強みを持つことが求められます。例えば、地域限定の商品やサービスを提供することで、地元の顧客に親しみやすい店舗を目指します。具体的には、地元産の食材を使用した商品や、地域特有のイベントと連携したサービス提供が考えられます。また、オリジナルブランド商品を開発し、高品質かつリーズナブルな商品ラインナップを展開することも重要です。特定の顧客層に特化したマーケティング戦略として、シニア層や若年層向けの商品やキャンペーンを企画します。
新しい技術やサービスを導入し、顧客に新しい体験を提供することが重要です。例えば、キャッシュレス決済の導入により、迅速かつ便利な会計を実現します。また、デジタルサイネージを活用した広告展開により、店舗内外での効果的なプロモーションを行います。さらに、AIを活用した需要予測システムの導入により、在庫管理の効率化や欠品防止を図ります。これにより、顧客のニーズに迅速に対応し、常に最新のサービスを提供することが可能となります。
今後の展望とアドバイス
セブンイレブンは、以下のようなアプローチを取ることで、競争力を回復し、今後の成長を目指すことができるのではないでしょうか。(今後の改善提言ですので必ずしも、下記ご提案を現在セブンイレブンが行っていないということではありません)
- 顧客満足度の向上
- 新しいサービスの導入
- 地域密着型のサービス
弁当の品質向上や、顧客の声を反映したサービスの改善を行うことが重要です。具体的には、商品の見直しや新商品開発、顧客対応の改善などが考えられます。弁当の品質向上に関しては、顧客の期待に応えるために、見た目だけでなく内容も充実させることが求められます。さらに、顧客のフィードバックを収集し、迅速に対応することで、信頼関係を築くことが重要です。
自動販売機の充実や、新しい食品の提供に力を入れることで、顧客のニーズに応えることができます。例えば、健康志向の商品ラインナップの充実や、地域限定商品の開発などが効果的です。健康志向の商品には、低カロリーやオーガニック食品、ヴィーガン向けのアイテムなどを追加し、健康意識の高い顧客層をターゲットにします。地域限定商品については、地元の特産品や季節限定商品を取り入れ、地域の魅力を引き出します。
地域ごとのニーズに応じたサービスを提供し、地域社会との連携を強化することが重要です。例えば、地域のイベントに積極的に参加し、地域住民との関係を深めることで、地域全体の信頼を得ることができます。具体的には、地域祭りやスポーツイベントのスポンサーとなったり、地元の小学校や自治体と連携して地域貢献活動を行ったりすることが考えられます。これにより、地域住民からの支持を集め、地域に根ざした店舗としてのブランドイメージを強化します。
コンビニエンスストアはどうやって顧客満足度を高め競争力を強化するべきか
コンビニエンスストアが顧客満足度を高め、競争力を強化するためには、以下のような取り組みが必要です。
- 商品開発の強化
- サービスの質の向上
- デジタル技術の活用
顧客のニーズに応じた新しい商品を開発することが重要です。例えば、季節限定商品や地域特産品を活用した商品、健康志向の商品などが考えられます。具体的には、顧客の意見を取り入れた商品開発プロセスを整備することで、顧客満足度を高めることができます。市場調査やアンケートを通じて顧客の好みを把握し、それに基づいた商品を開発・改良します。
顧客対応の質を向上させるための教育研修を実施し、従業員のスキルアップを図ります。具体的には、接客マナーや問題解決能力の向上を目的としたトレーニングを行い、店舗スタッフが一貫して高品質のサービスを提供できるようにします。また、店舗の清潔さやレイアウトの改善も顧客満足度の向上に寄与します。例えば、商品の陳列方法を見直し、顧客が探しやすい配置に変更することで、買い物体験を向上させます。
デジタル技術を活用したサービスの提供が求められます。例えば、スマートフォンアプリを通じたクーポン配信やポイントプログラムの強化、キャッシュレス決済の導入、AIを活用した在庫管理システムの導入などが考えられます。スマートフォンアプリでは、顧客の購買履歴を基にパーソナライズされたクーポンを配信し、リピート率を高めることができます。AIを活用した在庫管理システムは、需要予測に基づいた在庫補充を行うことで、欠品を防ぎ、販売機会を逃さないようにします。
これら事例から経営者として学べること
セブンイレブンや他のコンビニエンスストアの事例から学べることは、以下の点にまとめられます。
- 顧客のニーズを理解し、それに応える
- 競争力を強化するための差別化
- イノベーションの推進
- 地域社会との連携
顧客満足度を高めるためには、顧客が何を求めているのかを理解し、それに応じた商品やサービスを提供することが重要です。顧客のフィードバックを定期的に収集し、それを基に改善を行うことが求められます。例えば、顧客アンケートやレビューサイトの評価を分析し、顧客の要望に応じた改善策を実施します。
競合他社との差別化を図るために、独自の強みを持つことが重要です。地域限定の商品やサービス、特定の顧客層に特化したマーケティング戦略などを導入し、顧客に対して一貫性のあるメッセージを提供することが求められます。例えば、地元の特産品を活かした商品や、シニア層向けのサービスを導入し、特定の顧客層に対する訴求力を高めます。
新しい技術やサービスを積極的に取り入れることで、顧客に新しい価値を提供することができます。キャッシュレス決済の導入や、デジタルサイネージを活用した広告展開、AIを活用した在庫管理システムの導入などが考えられます。例えば、デジタルサイネージでは、季節や時間帯に応じたプロモーションを表示することで、顧客の購買意欲を刺激します。
地域密着型のサービスを提供することで、地域住民との信頼関係を築き、地域社会全体の発展に寄与することが重要です。地域イベントへの参加や、地元の特産品を活用した商品開発などが効果的です。具体的には、地域のニーズに応じたボランティア活動や、地元企業とのコラボレーションを通じて、地域全体の活性化を図ります。
まとめ
以上の内容から、中小企業診断士の視点から考える経営改善のためのポイントを述べます。「もし私がセブンイレブンの経営顧問であったなら」という前提でご提案させていただきます。
コンビニエンスストア業界は、常に変化する市場環境の中で競争を繰り広げています。セブンイレブンやローソン、ファミリーマートなどの大手企業は、それぞれ独自の強みを活かし、顧客満足度の向上や競争力の強化に努めています。
セブンイレブンが再び競争優位性を取り戻すためには、顧客の声を反映した商品・サービスの改善、新しいサービスの導入、地域密着型の戦略などを推進することが重要と考えます。今回の事例から経営者として学べることは、顧客のニーズを理解し、それに応えることが競争力の源泉であるという点です。また、常にイノベーションを追求し、競合他社との差別化を図ることが重要です。
これらのポイントを踏まえれば、セブンイレブンは再び競争優位性を取り戻し、持続可能な成長を遂げることができるでしょう。経営者の皆さまがこの記事で取り上げた内容を参考に、自社の戦略を見直し、実行に移すことで、企業の未来は明るく開けるはずです。逆に言えば、長年王者として君臨してきたセブンイレブンのような大手企業であっても、業績悪化の危険は常にあると言え、時代・ユーザーの変化を見落とさず、現状に甘んじることなく常に経営改善の道を探り続けることが長く企業経営を続けていくうえでの重要な課題となるでしょう。
そのための鍵は、この記事でも再三取り上げた顧客満足度の向上です。ユーザーニーズをいかに捉え付加価値を高めていくかが企業存続のポイントになります。SNSやYouTube動画などを少し見ただけでも、セブンイレブンの商品に対する最終消費者の声は多くあげられています。そういった声を可能な限りくみ取り、商品開発に反映させていくことが重要です。業種・規模問わず、今後もこの考え方は変わらない企業経営の本質であると言えるのではないでしょうか。
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