
再来店率より大事な指標──“選ばれ直す力”とは何か
「再来店率を上げましょう」
多くの現場で、当たり前のように使われる言葉です。
確かに、
一度きりで終わるより、
もう一度来てもらえた方がいい。
だから、
- 再来店率
- リピート率
- 継続率
こうした数字をKPIに設定する企業は少なくありません。
しかし、
数字を追えば追うほど、
こんな違和感が生まれていないでしょうか。
クーポンを出すと戻る
通知を送ると来る
施策を止めると来なくなる
「数字は動くけれど、手応えがない」
そんな感覚です。
それもそのはずです。
多くの再来店は、
「選ばれた」のではなく「促された」結果だからです。
割引があったから。
通知が来たから。
ポイントが貯まるから。
その行動は、
“再来”ではあっても、
“選ばれ直し”とは違います。
本当に強い関係性とは、
- 思い出された
- 比較された
- その上で選ばれた
このプロセスを経ています。
つまり重要なのは、
👉 「また来たか」ではなく
👉 「なぜ、もう一度選ばれたのか」
再来店率は結果です。
しかし、
“選ばれ直す力”は、
構造です。
この記事では、
- 再来店率だけを追って行き詰まった会社
- 選ばれ直す力を設計した会社
を比較しながら、
数字の裏にある
「選択の理由」をどう扱うかを整理していきます。
この記事を読むことで得られること
- 再来店率・リピート率を追っても手応えが残らない理由を、「促された再来」と「選ばれ直し」の違いから整理できます
- 割引や通知に頼らず、比較された上で選ばれるために必要な“選ばれ直す力”の構造(想起・意味・記憶)を掴めます
- A社(再来店率至上)とB社(選択理由の設計)を比較しながら、現場で「選ばれた理由」を蓄積し活かす具体の視点が得られます
まず結論:再来店率は追いかける目標ではなく結果であり、持続的に定着させる鍵は「なぜ、もう一度選ばれたのか」を現場で扱える形にして“選ばれ直す力”を設計することです。
失敗ケース(A社)|再来店率だけを追い続けた会社
A社は、郊外型のショッピングモールに入っている中規模の美容サロン(ヘア・ネイル併設)です。
スタッフは10名弱。新規はホットペッパーなどの予約サイトとSNS広告で一定数入ってきますが、課題はいつも同じでした。
「2回目が続かない」
「来店間隔が伸びる」
「気づくとフェードアウトしている」
そこでA社が掲げたKPIが、再来店率と来店間隔です。
- 30日以内再来率
- 60日以内再来率
- 来店間隔の平均(前回から何日空いたか)
- 失注(90日以上来店なし)率
数字が見えるようになったことで、会議は一気に“経営っぽく”なりました。
店長はこう言います。
「まずは30日以内再来を伸ばせば、売上は安定します」
■ 施策は早い。数字も動く。
A社は、再来店率を上げるために打ち手を次々に投入しました。
- 2回目限定クーポン(◯%OFF/トリートメント無料)
- ポイント2倍デー(来店間隔短縮を狙う)
- 予約リマインドLINE(◯日経過で自動送信)
- 次回予約の強い推奨(会計時に「次も同じ枠で押さえますね」)
すると、数字は確かに改善します。
- 30日以内再来率:上昇
- 来店間隔:短縮
- 月次売上:一時的に持ち直し
会議では拍手が起き、施策は「成功」と判定されました。
■ しかし、現場で静かに起きた“別の変化”
ところが数ヶ月が経つと、別の異変が出始めます。
1)利益率が下がる
売上は維持できても、粗利が残らない。
クーポンが当たり前になり、客単価がじわじわ下がっていきます。
- 「2回目割引」が“標準”になってしまう
- トリートメント無料が常態化する
- 値引き前提の客層が増える
結果、忙しいのに利益が薄い状態になります。
2)ロイヤル顧客が育たない
再来店は増えたのに、指名や高付加価値メニューが伸びません。
なぜなら、お客様が戻ってきている理由が
「ここが好きだから」ではなく
「得だから」「来るように言われたから」
に寄っているからです。
つまり“関係性”が積み上がっていない。
3)施策を止めると戻らない
これが決定打でした。
「今月は利益を残すためにクーポンを抑えよう」
そう判断した月、再来が急に落ちます。
- リマインドを止めると失注が増える
- ポイント施策をやめると来店間隔が伸びる
- 値引きをやめると2回目が消える
A社は気づきます。
「戻ってきていたのは、私たちが“押していた”からだ」
■ 現場で生まれた“歪み”
ここからが本当の問題です。
再来店率を追うほど、現場の言動が変わっていきました。
- 接客中も「次回予約」の話が最優先
- お客様の悩みより「クーポン案内」が先
- スタッフ同士の会話が「数字」中心になる
- “選ばれる理由”ではなく“戻す手段”に頭が向く
すると、お客様の側でも微妙な変化が起きます。
「悪くはない。でも…」
「次は別でもいいかな」
「クーポン来たら行く」
A社のサービスが嫌われたわけではありません。
ただ、“選ばれ直す理由”が育たなかったのです。
■ A社の状態はこう整理できます
A社は、再来店率という“結果”だけを押し上げました。
でも、その裏側にある
- なぜ選ぶのか
- 何が決め手なのか
- どんな期待があるのか
この部分を扱っていませんでした。
だから、
👉 再来はしているが
👉 “選ばれてはいない”状態
になったのです。
数字は動く。
けれど関係性は積み上がらない。
そして施策を止めた瞬間に、
“関係の薄さ”が露呈します。
成功ケース(B社)|“選ばれ直す力”を設計した会社
B社もA社と同じく、
郊外型の中規模美容サロンです。
スタッフ数、客単価、集客チャネルもほぼ同じ。
立地条件も大きな差はありません。
違いがあるとすれば、
B社はある時点で、
再来店率の見方を変えたことでした。
■ 再来店率を「追う指標」から「結果指標」へ
B社も、かつてはA社と同じ悩みを抱えていました。
- 2回目が続かない
- 来店間隔が伸びる
- 数字を追うほど現場が疲れる
その中で、B社の経営者はこう問い直します。
「再来店率って、“やること”なのか?
それとも“起きること”なのか?」
この問いをきっかけに、
B社は再来店率を
KPIの最上位から外しました。
再来店率は、
👉 追いかける目標
ではなく
👉 関係性の結果として現れる数字
と位置づけ直したのです。
■ 本当に見るべきものを変えた
B社が現場で見るようになったのは、
来店回数ではありません。
代わりに、こんな問いを立てました。
- なぜ今回、B社を選んだのか
- 他の店と迷わなかった理由は何か
- どの瞬間が記憶に残ったのか
つまり、
「行動」ではなく「選択の理由」
を扱い始めたのです。
カウンセリングや会話の中で、
- 「実は前回の〇〇が良くて」
- 「ここは安心感がある」
- 「前に言ったこと覚えてくれてて」
そんな言葉を、
価値ある情報として拾うようになりました。
■ 接点・提案・記憶の残り方を再設計
B社が見直したのは、
施策そのものではなく、接点の意味でした。
- 次回予約を“押す”のではなく「次はどうなっていたら嬉しいですか?」と聞く
- メニュー提案を価格やキャンペーン軸ではなく「前回からの変化」軸で組み立てる
- 来店後フォローを定型メッセージではなく“一言の記憶”を添える
すると、顧客の反応が変わってきます。
「ちゃんと見てもらえている」
「ここは自分のことを覚えている」
この感覚が、
“また選ぶ理由”
になっていきました。
■ 割引に頼らない“戻り方”が増える
B社で増えた再来は、
クーポン経由ではありません。
- スタッフ指名で戻る
- 家族・友人の紹介で来る
- 思い出して自分から予約する
つまり、
👉 「得だから戻る」
ではなく
👉 「ここがいいから選ぶ」
という戻り方です。
再来店率は、
結果として安定しました。
しかしそれ以上に、
- 値引き耐性が下がる
- 単価が安定する
- 紹介が増える
- スタッフのやりがいが上がる
といった変化が生まれます。
■ B社が設計したもの
B社が設計したのは、
施策ではありません。
“選ばれ直す力”です。
- なぜ思い出されるのか
- なぜ迷わず選ばれるのか
- なぜ人に勧められるのか
この理由を、
現場で扱える形に落とし込んだ。
その結果として、
再来店率がついてきました。
顧客の物語|「また行く」ではなく「ここを選んだ」
語り手は、B社を利用している30代女性の顧客です。
毎月必ず通うほどではありません。
忙しさや生活の変化で、
数ヶ月空くこともあります。
ある日、
久しぶりに美容室へ行こうと思いました。
■ 選択肢はいくつもあった
スマホを開くと、
候補はいくつも出てきます。
- 近所に新しくできた店
- 以前クーポンで行った店
- 友人が勧めていた店
値段も、距離も、
正直そこまで大きな差はありません。
「どこでもいいと言えば、どこでもいい」
そんな状況でした。
■ それでも、B社が浮かんだ理由
そのとき、
ふとB社のことを思い出しました。
理由ははっきりしていません。
- 前回、髪の悩みをちゃんと聞いてくれた
- 季節が変わる話をしていた
- 「次はこうなるかも」と言われた
そうした断片が、
自然に浮かんできました。
クーポンが届いたわけでもありません。
リマインド通知が来たわけでもありません。
“思い出された”
それだけでした。
■ 期待が更新されていた
B社を思い出したとき、
頭に浮かんだのは過去ではなく、
次の自分でした。
「今の生活だと、
このくらいの手入れが楽かも」
「前に言ってたこの時期、
たしか対策が必要って言ってたな」
それは、
「また行こう」
ではなく、
「ここを選ぼう」
という感覚です。
■ 「自分向け」だと感じた瞬間
予約画面を開いたとき、
少し安心しました。
「ここなら話が早い」
「説明しなくていい」
B社は、
“万人向けのサービス”ではなく、
「自分向けの場所」
として記憶されていたのです。
結果として、
迷いはほとんどありませんでした。
■ 再来と、選ばれ直しの違い
この顧客にとって、
再来は → 行動
選ばれ直しは → 意思
です。
割引に動かされたのではありません。
通知に押されたわけでもありません。
「ここがいい」
そう思って、選んだ。
この違いが、
B社とA社を分けていました。
比較と学び|再来店率と“選ばれ直す力”の決定的違い
― 行動を追うか、意思を捉えるか ―
A社とB社の違いは、
「KPIの設定」ではありません。
“顧客をどう見ているか”
その前提が、決定的に違っていました。
■ 構造比較|同じ「再来」でも、見ている次元が違う
| 観点 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 指標 | 再来店率 | 選ばれ直し |
| 見ているもの | 行動結果 | 選択理由 |
| 施策 | 割引・通知・回数促進 | 想起・意味・記憶 |
| 顧客理解 | 来た/来ない | なぜ選んだか |
| 関係性 | 受動(反応待ち) | 主体(意思) |
A社は、
「来た」という結果を見ていました。
B社は、
「なぜ選んだか」という理由を見ていました。
■ 再来店率が示すものの限界
再来店率は、
確かに分かりやすい指標です。
しかし、それが示すのは、
- 割引が効いた
- 通知に反応した
- 近かった
- たまたま空いていた
といった条件反射的な行動です。
つまり、
再来している=選ばれている
とは限りません。
A社は、
このズレに気づかないまま、
施策を積み重ねていました。
■ B社が見ていたのは「選択の瞬間」
B社が注目したのは、
顧客が選択肢を比較した“その瞬間”です。
- 他にどんな候補があったのか
- なぜ今回は迷わなかったのか
- 何が思い出されたのか
ここにこそ、
「次も選ばれるかどうか」のヒントがあります。
■ つなぐシート(選ばれ直し版)|「行動」ではなく「選択の理由」を蓄積する
B社がやったのは、再来店の回数を増やすことではありません。
「なぜ、もう一度選ばれたのか」を現場で扱える形にして、意思と判断基準を蓄積したことです。
重要なのは正解かどうかではなく、“どう見えたか”を仮説として残すこと。
仮説が溜まるほど、提案・会話・フォローが「押す」から「思い出される設計」へ変わります。
▼ シート項目(最小形)
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 項目 | 来店日 | 来訪理由(選択) | 比較対象(候補) | 決め手の一言・体験(原文) | 思い出された要素(想起トリガー) | 次回の設計(接点・提案) |
| 入力形式 | 日付 | 選択+記述 | 記述 | 短文(できれば原文) | 選択+短文 | 短文 |
| 意図 | 時系列で追う | 「促し」か「意思」かを見分ける | “比較された現実”を把握する | 選ばれ直しの核を残す | 記憶に残る要素を特定する | 押さずに思い出される形へ |
▼ 選択肢例(運用を止めない最小)
| 来訪理由(例) | 想起トリガー(例) |
|---|---|
| 初回/再訪/紹介/同行 | 前回の提案/会話/安心感/変化実感/季節の先回り |
▼ 記入イメージ(1行=1件の“選ばれ直し”素材)
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1/18 | 再訪(自発) | 近隣新店/以前クーポン店 | 「説明しなくていいのが楽」 | 前回の悩みを覚えていた | 次回は“季節の変化”から提案、来店後フォローに一言を添える |
ポイント:
再来店率は「結果」です。
つなぐシートは、その手前にある「選択の理由」を共有資産に変える装置です。
重要なのは、
正解かどうかではありません。
「どう見えたか」を仮説として残すことです。
■ A社とB社の“問い”の違い
A社の問いは、こうでした。
なぜ来なかったのか?
B社の問いは、こうでした。
なぜ選ばれたのか?
この問いの違いが、
施策・会話・記憶の設計すべてを変えました。
■ 学び
- 再来店率は「行動」を示す
- 選ばれ直しは「意思」を示す
- 行動は操作できる
- 意思は、設計でしか育たない
👉 「来なかった理由」ではなく
👉 「選ばれた理由」を蓄積する
ここから、
割引に頼らない関係性が生まれます。
中堅・大企業への展開視点|KPIが関係性を壊すとき
中堅・大企業ほど、
再購買率・継続率・解約率といったKPIを
精緻に、真面目に、正しく追っています。
にもかかわらず、
- ブランドロイヤルティは上がらない
- 指名・推奨は増えない
- 価格競争から抜け出せない
という矛盾を抱え続けているケースは少なくありません。
■ 再購買率・継続率至上主義の罠
KPIが強くなるほど、
現場ではこんな発想が生まれます。
- 「とにかく離脱を止めよう」
- 「続けさせる仕掛けを増やそう」
- 「辞めづらくする設計を入れよう」
結果として起きるのは、
- 割引・特典の常態化
- リマインドの過剰化
- 契約・制度の複雑化
数字は一時的に改善します。
しかしその裏で、関係性は浅くなっていく。
■ KPI最適化が生む“関係の浅さ”
KPIは「結果」を示します。
しかし、結果だけを最適化すると、理由が失われる。
- なぜ選ばれたのか
- なぜ他ではなく自社だったのか
- なぜ続けたいと思ったのか
これらが語られないまま、
継続している=評価されている
という錯覚が生まれます。
しかし実際には、
- なんとなく
- 変えるのが面倒で
- 他を探す余裕がなくて
続いているだけ、というケースも多い。
これは関係が強い状態ではありません。
■ 「選ばれ直し」はKPIでは測れない
選ばれ直しとは、
- ブランドとしてどう見られているか
- 人としてどう記憶されているか
- どんな意味を提供しているか
という、総合評価です。
それは、
- 数値の単点
- ダッシュボードの一行
では捉えられません。
選ばれ直しは、
顧客の頭の中で起きる“再評価”だからです。
■ 数字の前に扱うべきもの
B社型の組織が先に扱っていたのは、KPIではありません。
- どんな場面で思い出されているか
- 何と比較されたうえで選ばれたか
- そのとき、何が決め手になったか
つまり、選択の文脈です。
この文脈が見えれば、
- KPIは「目的」ではなく「結果」に戻る
- 数字が関係性を壊さなくなる
- 改善が割引依存にならない
■ 中堅・大企業に必要な視点転換
👉 KPIを疑うのではない
👉 KPI“だけ”を信じない
数字を追う前に、
- 選ばれた理由は何か
- 続いている本当の理由は何か
を扱える組織になること。
関係性は、数値で壊れ、文脈で回復する。
これが、
「選ばれ直される企業」への分岐点です。
まとめ+読者への問い
再来店は、結果です。
数字として観測できる「行動」です。
一方で、
選ばれ直しは、理由です。
顧客の頭の中で起きている「評価」と「意思」です。
強いのは、
👉 割引で戻ってくる店
👉 ではありません
👉 思い出され
👉 比較され
👉 それでも選ばれる存在
です。
再来店率が高くても、
「なぜ選ばれたのか」を誰も説明できない組織は、
関係性を積み上げているようで、実は消耗しています。
逆に、
- 思い出された理由
- 比較の中で残った価値
- 「やっぱりここだ」と思われた瞬間
これらを言葉で共有できる組織は、
割引に頼らず、KPIに振り回されず、
静かに強くなっていきます。
問い
あなたの顧客は、
なぜ、あなたを選び直したのでしょうか?
それを、
数字ではなく、
言葉で説明できますか?
もし説明できないとしたら、
改善すべきは施策ではなく、
「選ばれる理由」を扱えていない構造そのものかもしれません。

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