
動画で見る診断ノートの記事説明
※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。
日本マクドナルドは、およそ6割の商品について10円〜50円の値上げを行うと発表しました。
原材料費・人件費・エネルギーコストの上昇が続いていることが理由とされています。
値上げは約1年ぶりです。
ここだけを見ると、
「コスト増に対応した一般的な価格改定」というニュースに見えます。
しかし、近年の業績推移を重ねてみると、まったく別の構造が浮かび上がります。
値上げしても客数が落ちないという“構造”
マクドナルドはここ数年、既存店売上や客数を回復させ、成長局面に入っています。
価格を引き上げても、来店頻度が大きく落ちにくい状態を維持しています。
つまり重要なのは、
「値上げした」という事実ではなく、
値上げしても客数が維持される構造を持っていることです。
問われているのは“値上げの是非”ではない
企業に問われているのは、
- 値上げをするかどうか
ではなく、
- 値上げが成立するだけのブランド力
- 利用頻度を支える日常性
- オペレーションの安定性
これらが設計されているかどうかです。
価格は単独で存在しない
価格は単体で成立するものではありません。
それを支えているのは、
- 提供速度
- 注文のしやすさ
- 商品構成
- 来店動機
といった、日常の体験の積み重ねです。
このニュースが示している本質
一見すると価格改定のニュースですが、実際には、
ブランドと現場設計がどのように価格を成立させているか
を示す事例だと言えます。
この記事を読むことで得られること
- マクドナルドの値上げを「コスト増対応」で終わらせず、客数が落ちにくい“構造”として読み解けます
- 価格は単体では成立せず、提供速度・注文のしやすさ・商品構成など「日常体験の設計」が支えていると整理できます
- 中小企業でも応用できる、“値上げの前に見直すべき体験”と「値上げできる会社の共通点」が明確になります
まず結論:値上げの是非ではなく、値上げしても選ばれ続ける「体験と回転」の設計こそが、価格を成立させる力です。
何が起きているのか(事実整理)
日本マクドナルドは、全商品のうちおよそ6割を対象に、10円〜50円の値上げを実施すると発表しました。
対象にはビッグマック、ダブルチーズバーガー、フライドポテトなど主要商品が含まれます。
理由として挙げられているのは、
- 原材料費の上昇
- エネルギーコストの高騰
- 人件費の増加
といったコスト構造の変化です。
前回の値上げは2025年3月で、今回は約1年ぶりの価格改定となります。
業績の背景:既存店売上・客数は回復基調
一方で、近年の業績を見ると、
- 既存店売上高は回復
- 客数も増加傾向
という成長局面にあります。
さらに、モバイルオーダーやデリバリーの利用比率が高まり、
販売チャネルの構成が大きく変化しています。
店頭注文だけでなく、アプリ経由の注文や配達サービスが売上の一定割合を占めるようになり、
購買行動そのものが変わりつつあります。
客単価の上昇は「値上げだけの結果」ではない
客単価も上昇傾向にありますが、これは単純な値上げの影響だけではありません。
- セットメニューの利用増加
- 注文方法の変化(アプリ注文など)
- 商品構成の変化
といった複数の要因が重なっています。
今回の値上げは「成長局面の中での価格改定」
ここで確認できるのは、
- コスト上昇への対応として値上げが行われたという事実
- 既存店売上・客数・客単価が回復しているという状況
この2つが同時に存在しているという点です。
つまり今回の値上げは、単独で起きたものではなく、
成長局面の中で実施された価格改定として位置づけられます。
なぜ値上げしても客数が落ちにくいのか(背景)
マクドナルドの強さを支えているのは、単なる価格設定ではなく、
「値上げしても選ばれ続ける構造」そのものです。
① 圧倒的なブランド想起率
マクドナルドは、外食の選択肢を考えるときに
最初に思い浮かぶ存在として位置づいています。
これは、
- 広告露出の多さ
- 店舗数の多さ
- 立地の良さ
- 日常的な接触頻度
といった複数の要因が積み重なって形成されたものです。
意思決定の初期段階に入り込んでいるため、
多少の価格変動では選択肢から外れにくくなります。
② 利用頻度の高さ(習慣化された来店)
マクドナルドは、
- 朝食
- 昼食
- 間食
- 持ち帰り
といった複数の利用シーンを持ち、
「習慣的に利用される業態」になっています。
来店頻度が高い業態では、価格が多少変動しても利用が継続されやすく、
客数が大きく落ちにくい構造になります。
③ 低価格帯の商品が“基準点”として存在する
マクドナルドには、
- 100円台の商品
- 比較的安価なセット
といった低価格帯の基準点が残されています。
これにより、全体の価格が上がっても、
「手頃な店」という認識が維持されるため、価格感の印象が大きく変わりにくくなります。
④ 期間限定商品が来店動機を更新し続ける
マクドナルドは定期的に期間限定商品を投入し、
「一度行ってみよう」という行動を生み出しています。
これは価格とは別軸で来店理由をつくる仕組みであり、
来店頻度の維持に大きく貢献しています。
⑤ 単価モデルではなく「頻度モデル」で成立している
これらを組み合わせると、マクドナルドの収益モデルは、
単価の引き上げで成立しているのではなく、
来店頻度によって支えられている
という構造が見えてきます。
値上げが行われても客数が大きく落ちにくいのは、
単価依存ではなく、利用頻度を前提としたモデルになっているためです。
強さの源泉は「価格」ではなく「回転設計」
マクドナルドのメニューは一見すると種類が多く見えますが、実際には主要な原材料や工程が共通化されており、SKUは高度に標準化されています。
バンズ、パティ、ソース、トッピングの組み合わせでバリエーションを作っているため、
個別の商品ごとに工程が増える構造にはなっていません。
これは在庫管理の安定化と調理時間の均一化を同時に実現する設計です。
① セントラルキッチン × 店舗の最終工程という分業
調理工程は、
- セントラルキッチンでの下処理
- 店舗での最終工程
という分業体制が確立されています。
さらに作業手順はマニュアル化され、
品質と提供時間のばらつきが最小化されるよう設計されています。
現場の経験値に依存せず、誰が作っても一定の速度で提供できる体制です。
② 店舗動線は「秒単位」で設計されている
店舗内の動線は、調理・包装・受け渡しまでの工程が最短になるよう秒単位で設計されています。
これにより、
- 回転率が高い
- ピーク時間帯でも処理能力が落ちにくい
- 人員配置が時間帯別に最適化されている
といった特徴が生まれます。
③ モバイルオーダーが回転率をさらに押し上げる
モバイルオーダーの普及により、レジでの注文処理が減少し、
会計待ちの時間が大幅に短縮されています。
注文工程が分散されることで、
- 店舗側の負荷が軽減
- 顧客側の待ち時間も短縮
という双方にメリットが生まれています。
④ 体験が変わらないから、価格が変わっても離れない
提供速度、待ち時間、品質の安定性が一定に保たれているため、
価格が変動しても利用体験そのものは変わりません。
その結果、値上げ後も来店頻度が維持されやすくなります。
結論:支えているのは「価格」ではなく「回転率」
マクドナルドの強さは、価格の安さではなく、
回転率と体験の安定性によって成立しているモデル
にあります。
だからこそ、値上げが行われても客数が大きく落ちにくいのです。
中小企業への示唆
この構造を中小企業の現場に置き換えると、別の課題が見えてきます。
多くの企業が、
「値上げをすると客離れが起きるのではないか」
という不安から、価格改定を先送りにしがちです。
しかし実際に客数を左右している要因は、価格だけではありません。
来店頻度が高い店に共通する「体験の設計」
来店頻度が高い店には、いくつかの共通点があります。
- 利用目的が明確である
- 滞在時間が想定しやすい
- 注文から提供までの時間が安定している
- メニュー構成が分かりやすい
これらが整っている場合、多少の価格改定があっても来店行動は大きく変わりません。
価格よりも「負担の総量」が顧客行動を左右する
逆に、
- 提供時間が読めない
- メニューが多く選びにくい
- 注文方法が複雑
といった状態では、価格を据え置いても来店頻度は下がりやすくなります。
顧客にとっての負担は金額だけではなく、
時間や判断の手間にも存在するためです。
中小企業が見直すべきは「単価」よりも「体験」
中小企業の場合、客単価の調整よりも、
利用体験の設計を見直す余地の方が大きいケースが多くあります。
たとえば、
- 提供までの工程を短縮する
- メニューを整理し、選択肢を絞る
- 注文方法を簡素化する
- 混雑時間帯の作業動線を整える
といった取り組みは、価格を変えなくても来店頻度の維持につながります。
価格は来店理由の一部にすぎない
実際に客数を決めているのは、
利用しやすさという体験の設計です。
中小企業にとっても、値上げの可否を考える前に、
利用体験が安定しているかどうかを確認することが重要になります。
診断士視点:値上げできる会社の共通点
現場で見ていると、値上げが成立する会社にはいくつかの共通点があります。
単に「コストが上がったから価格を上げる」のではなく、
顧客が利用を継続する理由が明確に存在しているのが特徴です。
① 自社の価値を言語化できている
値上げが成立する会社は、
- 何に対して対価を払ってもらっているのか
- 自社の価値はどこにあるのか
を明確に説明できます。
価値が言語化されているため、価格が変わっても
顧客側に納得感が生まれやすい状態になっています。
② 利用理由が具体的で複数ある
値上げが成立する会社は、顧客の利用理由が価格以外にも複数存在します。
- 立地の利便性
- 提供速度
- 品質の安定性
- 利用シーンへの適合
こうした動機が複数あるため、
価格だけが選択理由になっていないのです。
その結果、価格改定があっても利用が継続されます。
③ オペレーションが安定している
提供時間や品質のばらつきが小さい会社は、
顧客が「いつもの体験」を期待して来店できます。
この状態では、価格よりも体験の安定性が優先されるため、
値上げの影響が小さくなります。
④ 比較されにくい構造を持っている
値上げが成立する会社は、商品そのものだけでなく、
- 利用体験
- 提供速度
- 利便性
といった複数の要素が組み合わさっており、
単純な価格比較の対象になりにくい構造を持っています。
結論:値上げは「強さの結果」であって、弱さの補填ではない
ここまで整理すると、値上げは経営の弱さを補う手段ではなく、
すでに成立している構造の上に成り立つ結果だと言えます。
価格改定が可能かどうかは、
- 価値の伝達ができているか
- 利用動機が複数あるか
- 現場のオペレーションが安定しているか
といった要素が整っているかどうかに依存します。
つまり、値上げの可否は「原価」ではなく、
構造の強さによって決まるのです。
まとめ|価格は信頼残高の結果
今回の値上げをどう評価するかが本質ではありません。
価格を上げるか据え置くかは、外部環境やコスト構造によって変わるため、
単独で善悪を判断できるものではないからです。
本当に問われているのは、
値上げをしても顧客が離れにくい構造を持っているかどうかです。
値上げが成立するために必要な要素
- 利用頻度が維持される理由があるか
- 提供体験が安定しているか
- 価格以外の選択動機が設計されているか
これらが整っている場合、価格改定は
収益構造の調整として機能するようになります。
逆に、選ばれる理由が価格だけに依存している場合、
値上げは客数減少に直結しやすい構造になります。
価格は「関係性の結果」である
価格は単独で存在するものではありません。
顧客との関係性、利用体験、オペレーションの安定性といった
積み重ねの結果として現れるものです。
言い換えれば、
価格は信頼残高の表れです。
最後の問い
あなたの会社は、値上げを検討する前に「選ばれる理由」を設計していますか。

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