所有から活用へ─定期借地権付きマンションが映す“新しい豊かさ”【診断ノート】 | ソング中小企業診断士事務所

所有から活用へ─定期借地権付きマンションが映す“新しい豊かさ”【診断ノート】

所有から活用へ─定期借地権付きマンションが映す“新しい豊かさ”【診断ノート】

動画で見る診断ノートの記事説明

※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。

首都圏の新築マンション価格が高止まりするなか、土地を「買う」ではなく「借りる」かたちで建てられる“定期借地権付きマンション”の人気が高まっています。地価上昇が止まらない都市部では、購入者・土地所有者・不動産会社それぞれにとって合理的な選択肢となりつつあり、2025年には供給戸数が過去最多となる見込みです。借地期間が定められたこの仕組みは、土地の有効活用と価格抑制のバランスを取る「三方よし」モデルとして注目されています。

一方で、資産価値や契約期間満了後の扱いなど、長期的な課題も見え始めています。住宅市場の構造変化が進む今、土地の所有・利用・価値のあり方をどう再定義していくのかが問われています。

本稿では、中小企業診断士の視点から「自社・地域でどんな“住まいの選択肢”を支えられるか」を詳説します。

この記事を読むことで得られること

  • 定期借地権付きマンションの基本と、購入者・土地所有者・事業者それぞれの利点と留意点が整理できます
  • 「所有から活用へ」という価値転換が、都市経済や資産構造・金融/制度に与える影響を俯瞰できます
  • 中小企業が今取れる実務の一歩(遊休地の活用、長期の出口設計、関係者との連携)のヒントが得られます

まず結論:定期借地権は、土地を「持つ」から「活かす」へ価値を転換し、都市と企業の持続性を高める現実的な解答です。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
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現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. 地価高騰と定期借地権付きマンションが示す都市の土地構造変化|首都圏の住宅価格と代替的住まい選択
    1. 地価高騰が映す“持てない時代”──都市の土地構造が変わり始めた
    2. 地価上昇の背景と複合要因
    3. 都市集中と需要の地理的偏在
    4. 定期借地権付きマンションとは
    5. 購入者にとっての合理性
    6. 土地所有者にとっての資産戦略
    7. 開発事業者にとってのビジネス機会
    8. 三方よしの評価と残る課題
    9. 所有から利用へ価値観が移る意味
  2. 定期借地権付きマンションの三方よし構造|購入者・土地所有者・企業が得る経済合理性と都市資源の流動化
    1. 第2章 三方よしの構造
    2. 購入者にとっての合理性
    3. 土地所有者にとっての利点
    4. デベロッパー・不動産事業者の視点
    5. 都市的インパクトと制度的示唆
    6. 課題と留意点
    7. 結論
  3. 都市の資産構造変化と定期借地権付きマンションが促す持続可能な居住への転換
    1. 第3章 都市の資産構造が変わる──持続可能な居住への転換
    2. 歴史的背景と現状認識
    3. 所有から利用への価値転換
    4. 経済的効果と資産の流動化
    5. 制度設計と長期的課題
    6. 共有型住居の海外事例と示唆
    7. 金融・不動産市場へのインパクト
    8. 中長期的な展望
    9. 結論
  4. 中小企業が活かす定期借地権と所有から活用への転換|遊休地を収益化する土地活用戦略
    1. 第4章|中小企業の視点から見る「所有から活用」への転換
  5. 定期借地権付きマンションと所有から利用へ転換する都市の豊かさ|持続可能な住まいの未来
    1. 終章|“持つ時代”の終わりに──変わる豊かさのかたち
    2. 読者への問いかけ

地価高騰と定期借地権付きマンションが示す都市の土地構造変化|首都圏の住宅価格と代替的住まい選択

地価高騰が映す“持てない時代”──都市の土地構造が変わり始めた

首都圏の新築マンション価格は、いまや多くの人にとって「一生に一度の買い物」というよりも、「手が届かない投資対象」になりつつあります。不動産経済研究所の調査によれば、首都圏の新築マンション平均価格は2024年に初めて1戸当たり8,000万円を超えました。これは10年前の約1.5倍にあたります。特に東京都心3区(千代田・中央・港)では平均価格が1億円を超え、一般のサラリーマン世帯ではローン審査の時点で対象外となるケースも増えています。

地価上昇の背景と複合要因

背景には、土地価格の構造的な高止まりがあります。日本の不動産市場では、バブル崩壊以降「地価は下がるもの」という認識が長らく続いていました。しかし、2020年代に入りその潮目が明確に変わりつつあります。海外投資家による不動産ファンドの流入、都心再開発の連鎖、建築コストの上昇、低金利政策の長期化──これらが重なり合い、地価を押し上げる要因が複層的に絡み合っています。

都市集中と需要の地理的偏在

また、人口減少時代に入ったとはいえ、都市集中の流れは止まっていません。東京都や神奈川・埼玉・千葉の主要駅近エリアでは、共働き世帯を中心に「通勤1時間圏内の利便性」を最優先する住宅需要が根強く残り、供給が追いつかない状態が続いています。特に、再開発によって生活利便性が高まった湾岸エリアでは、需要の一部が投資目的の購入層とも重なり、実需と投資の双方で価格を押し上げる構図となっています。

定期借地権付きマンションとは

こうした状況のなかで登場したのが、定期借地権付きマンションという選択肢です。定期借地権とは、一定期間(一般的に50年~70年)に限って土地を借り、その上に建物を建てて利用する仕組みを指します。契約期間が終われば土地は地主に返還されますが、その代わり、購入価格を大幅に抑えられるという特徴があります。近年、首都圏で供給が急増しているのは、まさにこのモデルです。

購入者にとっての合理性

この仕組みの魅力は、「土地を所有しなくても都市に住める」という合理性にあります。土地を持たずに利用権だけを得るという考え方は、一見するとマイナスに聞こえるかもしれません。しかし、住宅価格が高騰するなかで、所有にこだわらず利便性や資金効率を優先する世帯が増えています。例えば東京都渋谷区の笹塚駅近くに建設中の「パークタワー渋谷笹塚」では、同等の分譲マンションよりも約2割安い価格設定となり、販売開始から即日完売するほどの人気を集めました。

土地所有者にとっての資産戦略

また、土地を提供する側にとっても、この方式は「売らずに活かす」資産戦略となります。土地を手放さずに長期的に借地料を得られるため、将来的な地価上昇リスクを回避しつつ、安定した収益源を確保できます。かつては工場跡地や企業の社宅跡地など、遊休地を手放す以外に活用策がなかった企業が、いまや借地型マンションとして新しい収益モデルを生み出しています。こうした「持たない・売らない」土地活用の潮流は、長期的に見れば都市構造の変化を象徴する動きといえるでしょう。

開発事業者にとってのビジネス機会

さらに、開発する不動産会社にとっても、この仕組みは新しいビジネスチャンスです。再開発が進む都心部では、既に売却可能な土地が限られており、土地の確保そのものがボトルネックになっていました。定期借地権を活用すれば、土地所有者に「売却以外の選択肢」を提示でき、プロジェクトの幅が広がります。不動産会社は建設・販売・管理を通じて事業機会を拡大しつつ、地価上昇に依存しない持続的なモデルを描くことができるのです。

三方よしの評価と残る課題

このように、定期借地権付きマンションは購入者・土地所有者・デベロッパーの“三方よし”を実現する仕組みとして注目されています。しかし同時に、見逃してはならない課題もあります。例えば、借地契約が満了した後の扱い。建物は老朽化し、土地は返還する必要があるため、将来的に「資産として残るか」という点で不安を持つ人も少なくありません。また、借地料の設定や更新時の税制上の扱いなど、長期的なリスクをどうマネジメントするかは今後の重要なテーマです。

所有から利用へ価値観が移る意味

とはいえ、所有から利用へ、そして“資産”から“暮らし”へと価値観が変わるなかで、定期借地権付きマンションは都市生活の持続可能なかたちを示すひとつの解答かもしれません。土地を「持つ」ことだけが豊かさではなくなり、限られた資源をどう共有・循環させていくか──。その問いの先に、日本の都市経済の新しい地図が描かれつつあります。

定期借地権付きマンションの三方よし構造|購入者・土地所有者・企業が得る経済合理性と都市資源の流動化

第2章 三方よしの構造

定期借地権付きマンションは「所有しない選択」を合理化するモデルです。購入者・土地所有者・不動産事業者の三者に明確な利点をもたらし、都市の土地資源を流動化する新しい循環を生み出しています。

購入者にとっての合理性

価格を抑えて立地を確保:土地を購入しない分、同等仕様の分譲より価格を2〜3割抑えられるため、利便性の高い立地で実需を確保しやすい。

家計の柔軟化:ローン総額が下がることで教育・老後・投資などへの資金配分がしやすくなる。

所有リスクの軽減:修繕費・固定資産税・相続評価などの長期負担を相対的に小さくでき、利用価値を重視する選択肢が広がる。

土地所有者にとっての利点

売らずに収益化:所有権を維持しながら長期的な地代収入を確保でき、地価上昇リスクを回避できる。

遊休地の有効活用:工場跡地や社宅跡地などを借地型マンションとして活用し、企業資産を地域と共有する新たな戦略となる。

事業承継対策:現金化せず資産価値を維持しつつ収益化する手段として有効。

デベロッパー・不動産事業者の視点

土地取得の制約緩和:所有を前提としない土地活用でプロジェクトの選択肢が増える。

販売裾野の拡大:価格を抑えた商品設計により購入層を広げられる。

運営フェーズの事業化:開発後も管理・再契約支援など運営を含む長期的収益モデルを構築できる。

都市的インパクトと制度的示唆

資産の流動化:土地を手放さずに社会で循環させることで、富の固定化を緩和し地域格差の拡大を抑える可能性がある。

関係性の変化:地主・デベロッパー・住民が長期的パートナーとして都市資源を共有する共創型の関係へと移行する。

金融・制度の再設計:使用期間に基づく融資や残存期間を想定した商品設計など、時間価値を前提にしたファイナンスの整備が必要になる。

課題と留意点

契約満了後の出口設計:建物老朽化、再開発、入居者の住み替え支援などを含む出口戦略の明確化が不可欠である。

心理的抵抗への対応:購入者の「最終的に土地を所有したい」という期待に配慮し、契約条件や税制上の扱いを丁寧に説明する必要がある。

透明性と公平性の確保:借地料設定、再契約条件、税制処理などの制度透明化が信頼醸成の前提となる。

結論

定期借地権付きマンションは、所有から利用へと価値観が移る現代都市における実践的な解答です。三者の利害が整合する設計と制度の安定化を進めれば、都市の資源を循環させる新しい共有インフラとして機能し得ます。

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都市の資産構造変化と定期借地権付きマンションが促す持続可能な居住への転換

第3章 都市の資産構造が変わる──持続可能な居住への転換

地価上昇と住宅価格の高止まりが続くいま、住宅は「個人が所有して蓄える資産」という枠組みを超え、都市の社会インフラとしての役割を帯びつつあります。定期借地権付きマンションの拡大は、その象徴的な変化のひとつです。

歴史的背景と現状認識

戦後の高度成長期において土地所有は経済的成功の象徴でしたが、人口減少と地価の二極化により「土地=安全資産」という認識は揺らいでいます。地方の価格下落リスクと都市部の取得コスト上昇という二面性が、保有リスクを高めています。

所有から利用への価値転換

その結果、「持たずに使う」発想が現実的な選択肢として広がりました。たとえば借地マンションは契約期間中に安全で利便性の高い住まいを提供し、人生100年時代においては所有の永続性より利用の安心が重視されるようになっています。

経済的効果と資産の流動化

借地権の活用は、土地を所有者のもとに残しつつ第三者が活用できる仕組みであり、**固定資産の循環**を促して地域経済の流動性を高めます。企業が保有地を開放することで住宅供給の担い手となり、都市経済に新たな循環が生まれます。

制度設計と長期的課題

一方で借地期間満了後の更新・再開発・入居者保護など、出口戦略の設計が不可欠です。土地の一時的共有という性格上、行政・企業・金融機関による連携と制度の信頼性向上が求められます。

共有型住居の海外事例と示唆

ヨーロッパのコーポラティブ住宅や共同所有型賃貸などは、個人と地域の中間に位置する住宅形態の成功例です。日本でも定期借地権を軸に「住む場所を共有しながら価値を育てる」モデルが定着する可能性があります。

金融・不動産市場へのインパクト

借地権前提の住宅供給は既存のローン・投資モデルを変えます。契約期間内の使用価値を評価する融資や、残存期間に応じたリース的商品など、**時間価値に基づく資産モデル**の開発が求められます。

中長期的な展望

日本の不動産市場は「所有」から「共有」、さらに「循環」へと段階的に移行すると考えられます。土地再開発や住宅供給が地域の持続性を高める行為として位置づけられれば、住宅は個人資産を超えた社会的装置として機能します。

結論

地価上昇の裏側で進む価値観の変化は、所有から活用へと舵を切る社会的転換を示しています。定期借地権付きマンションは単なるトレンドではなく、日本の資産構造と都市の持続性を再定義する一つの実践解です。

中小企業が活かす定期借地権と所有から活用への転換|遊休地を収益化する土地活用戦略

第4章|中小企業の視点から見る「所有から活用」への転換

住宅を「持たない選択」が広がる流れは、個人の暮らしだけでなく、企業経営にも静かに影響を与えています。特に、土地や建物を保有している中小企業にとって、“売却しない活用”という新しい発想が求められています。

  • たとえば、創業時に取得した社屋や工場、倉庫が現在は遊休化している企業は少なくありません。そうした資産を「保有コスト」として抱えるのではなく、地域の需要に合わせて貸し出す・共同利用する・開発に参画するといった形で活かす動きが、これからの経営の現実的な選択肢となります。
  • 借地権や定期使用契約の仕組みを理解し、行政やディベロッパーと協働できれば、売却益に頼らずとも、長期的かつ安定した収益を確保できる可能性が広がります。
  • また、建設・不動産・設計・設備といった関連業界の中小企業にとっても、この潮流は新たなビジネスチャンスです。定期借地権付きマンションのような長期プロジェクトでは、建設後も管理・メンテナンス・更新契約といった“時間軸の長い取引”が生まれます。「建てて終わり」ではなく「運営を支える」仕事へ──。これまで請負型だった中小企業が、持続的なサービス提供型へと進化する契機にもなります。
  • さらに、地域金融機関や行政にとっても、この仕組みは重要な検討テーマです。資産の流動化や事業承継の一環として、定期借地を含む土地活用スキームを支援できれば、地域経済全体の資金循環を安定させることができます。地価上昇や人口変動の影響を受けにくい「地域に根ざした資産形成」の考え方を広げることが、結果的に中小企業の持続性を支える基盤にもなっていくでしょう。
  • “所有から活用へ”という変化は、住宅だけでなく、あらゆる資産・設備・事業リソースに共通するキーワードです。自社の「持っているもの」を、もう一度「どう使うか」という視点で見直すこと──。そこに、変化の時代を生き抜く企業経営のヒントがあるのかもしれません。

定期借地権付きマンションと所有から利用へ転換する都市の豊かさ|持続可能な住まいの未来

終章|“持つ時代”の終わりに──変わる豊かさのかたち

定期借地権付きマンションの拡大は、単に住宅価格の問題にとどまらず、
「持つこと」そのものの意味を問い直す動きの象徴です。
所有することで安心を得る時代から、共有しながら利用する時代へ。
その変化は、住まいという最も身近な経済行動のなかで、
日本社会の価値観の転換を静かに映し出しています。

  • 経済的には、所有リスクを減らし、資産を社会の中で循環させる仕組みとして機能し始めました。
  • 社会的には、土地を「私有」ではなく「共に活かす」方向へと転換する契機になっています。
  • そして心理的には、「一生の家」という概念が、「人生を共にする住まい」へと変わりつつあります。

不動産市場は今後も変化を続けるでしょう。
地価の上昇、人口構造の変化、金融政策の転換──。
その中で、私たちは「住まい」を資産として持つのか、それとも利用価値として活かすのか、
新しい判断軸を求められています。

所有は確かに安心をもたらします。
しかし、利用を前提とした柔軟な暮らし方もまた、時代に合った豊かさの形かもしれません。
土地を手放さずに貸す地主、販売価格を抑えて供給する企業、利便性を重視して購入する世帯──。
それぞれの思惑が交わる場所に、持続可能な都市の未来が見えてきます。

所有の終わりとは、自由の始まりでもあります。
人が土地に縛られず、街とともに生きる社会へ。
定期借地権という仕組みは、その未来を先取りする試みの一つなのです。

読者への問いかけ

  • あなたにとって「住まい」とは、守るための“資産”でしょうか。
  • それとも、日々を豊かにする“場所”でしょうか。
  • もし所有にこだわらずとも、自分らしく暮らせる選択肢が増えていくとしたら──あなたはどんな「豊かさ」を選びますか?

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