
動画で見る診断ノートの記事説明
※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。
日本企業が関わるM&A(合併・買収)の件数が、2025年に5,000件を超え、過去最多を更新しました。取引総額も35兆円を超え、「M&A活況」という言葉が現実の数字として表れています。
このニュースは、一部の大企業の派手な買収劇を示しているだけではありません。実は、経営の前提そのものが静かに書き換わっていることを示すサインでもあります。
かつてM&Aは「特別な経営判断」「一部の企業だけの話」という印象が強かった分野でした。しかし今は、事業の組み替え、選択と集中、事業承継など、あらゆる経営テーマの延長線上にM&Aが存在する時代になっています。
つまり「やるか・やらないか」ではなく、「いつ関わるか」「どの立場で関わるか」という問題に変わりつつあるのです。
今回のニュースをきっかけに、
- なぜここまでM&Aが増えているのか
- それは中小企業経営に何を突きつけているのか
- 経営者は何を考えておくべきなのか
を、現場視点で整理していきます。
この記事を読むことで得られること
- 「日本企業のM&Aが5,000件超」という数字が、単なるブームではなく“構造変化”を示している理由が整理できます
- M&Aの波が大企業だけの話ではなく、中小企業の取引・競争環境・承継判断にどう波及するのかが見えてきます
- M&A時代に備えるために、経営者が平時から整えておくべき「経営の中身」(財務・人材・顧客基盤)の視点が明確になります
まず結論:M&Aは特別なイベントではなく、経営の前提になりました。だからこそ中小企業ほど「いつ評価されても揺れない経営の中身」を日常から積み上げることが最大の備えになります。
5000件超という数字が示す「異常値」
日本企業が関わるM&Aの件数が、年間5,000件を超えたという事実は、単なる「過去最高更新」というニュース以上の意味を持っています。これまでの日本のM&A市場を振り返ると、2000年代以降じわじわと増加傾向にはありましたが、5,000件という水準は明らかに“異常値”といえる領域に入っています。
さらに注目すべきは「件数」だけでなく、「金額」も同時に膨らんでいる点です。取引総額は35兆円超と過去最高を更新しており、小規模な事業承継型のM&Aだけでなく、海外企業への大型投資やグループ再編といったスケールの大きな案件が同時多発的に起きていることが分かります。
つまり、「小さいM&Aが増えた」のではなく、「あらゆるサイズのM&Aが一斉に増えている」という状態です。
■ 一時的なブームではなく“構造変化”
ここで重要なのは、この動きが一時的な景気循環によるブームではないという点です。専門家が指摘している通り、これは経営者の“マインドセット”そのものが変わってきていることの表れでもあります。
かつての日本企業は、
- 一度始めた事業は簡単に手放さない
- グループ会社はできるだけ維持する
- M&Aは「最後の手段」
という発想が強くありました。
しかし現在は、
- 本業に集中するために事業を売却する
- 伸ばす領域に資本を集中的に投下する
- 外から買って成長スピードを上げる
といった資本効率を意識した経営判断が当たり前になりつつあります。
■ 背景にある“圧力”と“競争”
この変化の背景には、
- アクティビスト株主の存在感の高まり
- 株式市場からのプレッシャー
- 海外企業との競争激化
などがあり、「現状維持=安全」という時代が終わったことを、多くの経営者が肌で感じているとも言えます。
つまり、今回の「5,000件超」という数字は、
「M&Aが流行っている」というレベルの話ではなく、
経営の前提が、静かに、しかし確実に変わった
ことを示すシグナルなのです。
■ M&Aは“特別な判断”ではなくなる
もはやM&Aは「特別な経営判断」ではなく、
成長戦略・撤退戦略・承継戦略すべての延長線上にある“普通の選択肢”になりつつあります。
この構造変化を理解しないままニュースを見ると、
- 「大企業は大変だな」
- 「うちには関係ない話」
で終わってしまいます。
しかし実際には、この流れは必ず中小企業の現場にも波及してくるのです。
診断士の眼:買い手はあなたの会社の「どこ」を評価しているのか
M&Aにおいて、会社の価値は決算書の「数字」だけで決まるわけではありません。むしろ、数字の裏側にある「事業の継続性」と「再現性」が、評価の分かれ目になります。
■ 買い手が密かにチェックする「3つの地力」
-
1. 社長がいなくても「回る」仕組みがあるか
(属人性の排除:社長の勘と経験だけに頼った運営は、買収後の最大のリスクと見なされます)
-
2. その利益には「再現性」があるか
(収益の構造:特定の1社に売上の大半を依存していないか。リピートを生む独自の強みがあるか)
-
3. 現場に「文化」と「規律」が根付いているか
(組織の質:従業員の定着率や、報告・連絡の質。これは買収後の統合プロセスを左右する重要な指標です)
なぜ今、ここまでM&Aが増えているのか
M&Aの件数が過去最多を更新するほど増えている背景には、いくつかの明確な構造要因があります。単に「企業が元気だから買収している」という単純な話ではなく、経営環境そのものがM&Aを選びやすい状態に変わってきていると見る方が実態に近いです。
業績好調企業の「次の成長手段」
まず一つ目は、業績が好調な企業ほどM&Aに動いているという点です。これまでの日本企業は、成長すると
- 設備投資を増やす
- 新規事業を社内で立ち上げる
- 人を増やして事業を拡大する
といった「自前主義」での成長が基本でした。
しかし今は、
- 市場の変化が早い
- 人材確保が難しい
- 新規事業の立ち上げに時間がかかる
といった理由から、
「ゼロから育てる」より「すでにある事業を買う」方が早い
という判断が現実的になっています。
特にIT・AI・海外展開などの分野では、社内育成だけではスピードが追いつかず、
時間をお金で買う手段としてのM&Aが極めて合理的な選択になっています。
つまりM&Aは、
余裕があるからやるもの → 競争に勝つためにやらざるを得ない手段
へと位置づけが変わってきているのです。
アクティビスト株主の存在感
二つ目は、アクティビスト株主(物言う株主)の影響力です。
彼らは、
- 使われていない資産はないか
- 採算の悪い事業を抱え込んでいないか
- グループ構造が非効率になっていないか
といった点を徹底的にチェックし、経営陣に対して
「もっと資本効率を上げるべきだ」と強く要求してきます。
その結果、
- 不採算事業の売却
- 子会社の切り離し
- グループ再編
といった“守りのM&A”も増えています。
これまでなら
- 「長年やってきた事業だから」
- 「グループの一員だから」
という理由で残していた事業も、
「本当に今の戦略に必要か?」
という視点で冷静に見直される時代になりました。
「選択と集中」が経営の当たり前になった背景
三つ目が、「選択と集中」が当たり前になったことです。
かつての日本企業は、
- 事業の多角化
- リスク分散
- なんでも自社で抱える
という経営が主流でした。
しかし現在は、
- 経営資源は限られている
- すべてに力を入れるのは不可能
- 勝てる領域に集中すべき
という考え方が完全に主流になっています。
その結果、
- 伸ばす事業は買収して強化
- 伸びない事業は売却
- 自社の強みに集中
という動きが、経営の「普通の判断」になりました。
■ 今のM&A増加は「価値観の変化」の結果
つまり今のM&A増加は、
- 景気が良いから
- 流行っているから
ではなく、
「経営の考え方そのものが変わった結果」
なのです。
この流れは大企業だけの話ではありません。
この価値観の変化は、必ず中小企業の経営判断にも影響してきます。
次のセクションでは、
このM&Aの波が中小企業にどう波及してくるのかを整理していきます。
▶︎ [初めての方へ]
この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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事業承継M&Aが1000件超えた意味
今回のニュースの中でも、特に中小企業に直結するのが「事業承継M&Aが1000件を超えた」という点です。
これは単なる数字ではなく、日本の中小企業を取り巻く現実が、はっきりと表れた結果だと言えます。
■ 後継者不在という現実
中小企業の現場では、以前から
- 子どもに継ぐ意思がない
- そもそも子どもがいない
- 社内に任せられる人材がいない
といった後継者不在問題が続いています。
経営者が60代、70代になっても、
- 「まだ元気だから」
- 「今は忙しいから」
と先送りされがちですが、
実際には“決断のタイムリミット”は確実に近づいています。
これまでは
- 廃業
- たたむ
- 自分の代で終わらせる
という選択を取らざるを得ないケースも多くありました。
しかし今は、
「会社を残す」ための現実的な選択肢としてM&Aが定着し始めている
これが、1000件超という数字の本当の意味です。
■ 廃業以外の選択肢としてのM&A
事業承継M&Aが増えている背景には、
- 取引先に迷惑をかけたくない
- 従業員の雇用を守りたい
- 長年積み上げてきた事業を残したい
という経営者の想いがあります。
廃業を選ぶと、
- 取引先は代替先を探さなければならない
- 従業員は職を失う
- 地域から事業が消える
という影響が一気に広がります。
一方、M&Aで事業を引き継げば、
- 事業は継続できる
- 従業員の雇用が守られる
- 顧客や取引先との関係も維持できる
という「続けるための選択」が可能になります。
つまり今の事業承継M&Aは、
「売るため」ではなく「守るため」のM&A
という側面が強くなっているのです。
■ 「売る=負け」ではなくなった時代
かつては、
- 会社を売る=失敗
- 身売り
- 経営に行き詰まった証拠
といったネガティブなイメージが強くありました。
しかし今は、
- 自分の代で最適なバトンを渡す
- より成長できる環境に託す
- 従業員の未来を考えて決断する
という前向きな経営判断として捉えられるようになっています。
実際、
- 黒字のうちに売却
- 業績が良いタイミングで引き継ぐ
- 条件交渉を有利に進める
といった“戦略的な承継”を選ぶ経営者も増えています。
もはや
「売る=負け」ではなく
「どう残すかを考える経営」
へと価値観が変わってきているのです。
■ 事業承継M&A増加の本質
事業承継M&Aの増加は、
日本の中小企業が弱くなった証拠ではなく、
経営の選択肢が広がった結果
とも言えます。
次のセクションでは、
このM&Aの流れの中で、中小企業が今から何を考えておくべきかを整理していきます。
中小企業にも確実に波及してくる変化
M&Aの件数が過去最多を更新しているというニュースは、一見すると
「大企業の話」
「上場企業の世界」
のように感じるかもしれません。
しかし実際には、この動きは確実に中小企業の現場にも波及してきます。
■ 取引先の統合・再編が起きる
まず最初に影響が出るのが、
取引先のM&A・再編です。
例えば、
- 主要取引先が他社に買収される
- 親会社が変わる
- グループ再編で担当部署が消える
といったことは、すでに多くの現場で起きています。
すると、
- これまでの取引条件が見直される
- 価格交渉が厳しくなる
- 取引継続の判断がゼロベースでされる
という事態が突然起こります。
つまり、
「今までの関係性」が通用しなくなる瞬間がある
ということです。
M&Aは当事者だけの問題ではなく、
取引先すべてを巻き込む構造変化でもあります。
■ 突然「買われる側」「選ばれる側」になる可能性
もう一つ重要なのは、
自社が“当事者”になる可能性です。
具体的には、
- 競合から「買いたい」と声がかかる
- 取引先から統合の話が出る
- 金融機関や仲介会社から打診される
といったケースです。
これは、
- 業績が悪い会社
- 追い込まれている会社
に限りません。
むしろ、
- 技術を持っている
- 顧客基盤がある
- 地域でポジションを築いている
といった「価値のある会社」ほど声がかかります。
しかし多くの経営者は、
- そんな話、考えたこともない
- どう判断すればいいかわからない
- 誰に相談すればいいかわからない
という状態で、突然決断を迫られます。
準備していなければ、
- 相手の言い値で判断してしまう
- 感情で断ってしまう
- 本当は悪くない話を逃す
というリスクも高まります。
■ 何も準備していない企業が直面する現実
M&Aが当たり前になる時代において、
何も準備していない企業ほど不利になります。
具体的には、
- 自社の強みが言語化できていない
- 財務状況を正確に把握していない
- 事業の将来像を説明できない
こうした状態だと、
- 正しい評価をされない
- 交渉の主導権を握れない
- 条件を選べない
という結果になりやすくなります。
逆に、
- 自社の価値を整理している
- 事業の強み・弱みを把握している
- 「もしもの時」の選択肢を考えている
企業は、
「売られる側」ではなく「選ぶ側」になれる
可能性が高まります。
■ M&Aの増加は「怖い話」ではない
M&Aの増加は、
怖い話でも、特別な話でもありません。
むしろ、
「経営における普通の選択肢」になりつつある
という変化です。
次のセクションでは、
この時代に中小企業経営者が今から考えておくべき視点を整理していきます。
診断士視点:M&A時代に問われる経営の中身
ここまで見てきたように、
M&Aはもはや一部の企業だけの話ではなく、
中小企業も常に「当事者」になり得る時代に入りました。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、
「M&Aを意識して経営する」=「売る前提で経営する」ではない
という点です。
■ 「売るための経営」ではない
よくある誤解が、
- 高く売れるように数字を作ろう
- 見栄えのいい実績を作ろう
- とにかく利益を出そう
といった、「売却前提の小手先の経営」です。
しかし実際のM&A現場では、
- 無理に作った利益
- 一時的な数字の操作
- 表面だけの改善
は、すぐに見抜かれます。
むしろ評価されるのは、
- 長年積み上げてきた事業の強さ
- 継続的に利益が出る構造
- 属人化していない運営体制
といった、「普段の経営の質」そのものです。
つまり、
売るために頑張る経営ではなく、
生き残るために積み上げた経営が、結果的に評価される
という世界です。
■ 価値は日々の経営で決まる
企業価値は、
いざM&Aの話が出たときに突然決まるものではありません。
- 日々どういう判断をしているか
- 短期利益と長期視点、どちらを優先しているか
- 問題が起きたとき、どう向き合っているか
こうした日常の積み重ねが、
- 事業の強さ
- 組織の安定性
- 将来性
として評価されます。
極端に言えば、
「今日の経営判断」が数年後の企業価値を作っている
とも言えます。
M&A時代とは、
特別なテクニックが問われる時代ではなく、
経営の“地力”が丸裸になる時代
だと私は感じています。
■ 財務・人材・顧客基盤の見え方が変わる
M&Aの視点で見ると、
普段の経営指標の意味も変わってきます。
① 財務
「利益が出ているか」だけでなく、
- なぜ利益が出ているのか
- 一時的か、再現性があるか
- 特定取引先に依存していないか
といった「中身」が見られます。
② 人材
- 社長がいないと回らない
- 特定の社員だけが全て知っている
こうした状態は、大きなリスクとして評価されます。
逆に、
- 役割分担ができている
- 権限移譲が進んでいる
- 次世代が育っている
企業は、「続く会社」として高く評価されます。
③ 顧客基盤
- 売上の何割が上位1社か
- リピート率はどうか
- 価格交渉力はどちらにあるか
こうした構造が、
「安定して稼げる会社か」
「いつ崩れるかわからない会社か」
を分けます。
■ 診断士として見える本質
多くの現場を見ていると、
M&A時代に問われているのは、特別な戦略ではなく“経営の中身”そのもの
だと強く感じます。
- 数字をどう作っているか
- 人をどう育てているか
- 顧客とどう向き合っているか
そのすべてが、
「この会社は任せられるか」
「将来も残せるか」
という評価につながります。
M&Aが当たり前になる時代だからこそ、
目先のテクニックではなく、足元の経営を丁寧に積み上げることが、
最大のリスク対策であり、最強の価値創出になるのです。
「選ばれる会社」になるための経営設計
M&A時代に問われているのは、特別なテクニックではなく、経営の“地力”が丸裸になる時代です。
私は多くの現場で、以下の2種類の企業を見てきました。
| 評価が低迷する会社 | 高く評価(選ばれる)会社 |
|---|---|
| ・売却直前に慌てて数字を整える | ・平時から財務の透明性を維持している |
| ・社長が全決定権を握っている | ・NOと言える番頭や中間層が育っている |
| ・安売りで売上規模を維持している | ・「替えが利かない」独自の強みを持つ |
皮肉なことに、「いつ売ってもいい(いつでも評価される)」という状態を作っている会社ほど、実は自社で成長し続ける力が強く、経営者の選択肢は最大化されます。
逆に、何も準備していない会社は、いざという時に「買いたたかれる」か「廃業」かという、極端な二択を迫られることになります。
まとめ|M&Aは「特別なイベント」ではなくなった
かつてM&Aは、
一部の大企業や外資系企業だけが行う
“特別な経営イベント”という印象がありました。
しかし今や、
- 年間5,000件超という件数
- 事業承継でも当たり前に使われる手法
- 業績好調企業も積極的に活用
といった現実を見ると、
M&Aは完全に「経営の選択肢の一つ」になっています。
■ もはや経営の選択肢の一つ
成長のために、
- 新規事業をゼロから作る
- 人材を一から育てる
だけでなく、
- 既存事業を買う
- 強みを持つ会社と組む
という選択が、ごく自然な判断として行われる時代です。
また、
- 後継者がいない
- 体力的に続けられない
- 環境変化に対応できない
といった局面でも、
「閉じる」以外の選択肢としてM&Aが普通に検討されるようになりました。
■ 関係ない企業は存在しない
「うちは売る気も買う気もないから関係ない」
そう思っている企業ほど、最も影響を受けやすい立場にあります。
なぜなら、
- 取引先が買収される
- 業界再編が進む
- 突然、競合が巨大化する
といった変化は、
自社の意思とは関係なく起きるからです。
つまり、
M&Aは「自分がするもの」ではなく
「周りがすることで影響を受けるもの」
でもあります。
■ 今から考えておくべき視点
では、経営者は何を考えておくべきか。
それは、
- いつ売るか
- いくらで売るか
ではありません。
本当に大切なのは、
- 自社の強みは何か
- 誰に選ばれる会社なのか
- 何が評価される会社なのか
を、平時から言語化しておくことです。
その上で、
- 財務は健全か
- 人に依存しすぎていないか
- 顧客構造は安定しているか
といった「続く会社かどうか」を自分自身で点検すること。
■ M&A時代とは何か
M&A時代とは、
売るための準備をする時代ではなく、
“いつ評価されても恥ずかしくない経営”を日常的に積み上げる時代
だと私は思います。
特別なイベントとして構えるのではなく、
経営の一部として自然に捉えること。
そこからすでに、
次の時代の経営は始まっています。

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