観光地のInstagram依存─“映える”が経営を弱くする構造【経営プログレッションVol.40】 | ソング中小企業診断士事務所

観光地のInstagram依存─“映える”が経営を弱くする構造【経営プログレッションVol.40】

観光地のInstagram依存─“映える”が経営を弱くする構造【経営プログレッションVol.39】

動画で見る経営プログレッションの記事説明

※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。

この記事を読むことで得られること

  • 観光地で「人は増えたのに売上が安定しない」理由を、Instagram依存という“構造”として整理できます
  • A地域(失敗)とB地域(成功)の比較から、投稿数ではなく「滞在・回遊・再訪」を生む設計の違いが掴めます
  • 来訪を関係性に変換するための観測装置として、つなぐシート(観光導線可視化版)の考え方と使いどころがわかります

まず結論:SNSは集客の“目的”ではなく接点の入口であり、入口の後に「滞在・回遊・記憶」を設計できた地域(企業)だけが、来訪を関係性に変えて経営を強くできます。

近年、多くの観光地でInstagramをきっかけとした来訪が増えています。
写真を見て訪れ、同じ構図で撮影し、投稿する。
この流れ自体は決して悪いものではありません。

実際、来訪者数は伸び、地域は一時的に賑わいます。
「人が増えた」という実感も生まれます。

しかし現場では、別の違和感が広がっています。

  • 滞在時間が短い
  • 消費が浅い
  • 再訪につながらない

人は来ているのに売上が安定しない。
忙しさの割に利益が残らない。
地域内での回遊も起きない。

つまり、数は増えているのに経営が強くなっていないという状態です。

「発信を増やす」だけでは解決しない理由

多くの地域はここで、

  • 「もっと発信を増やそう」
  • 「さらに映えるスポットを作ろう」

と考えます。

しかし問題はSNSそのものではありません。
Instagramはあくまで入口にすぎません。

本質的な課題は、特定チャネルへの依存構造にあります。

入口だけが強く、
滞在・回遊・関係性への設計がないと、
来訪は単発で終わります。

集客が増えるほど疲弊し、収益は安定しない。
これは構造的な問題です。

地域経営に必要なのは「来てもらうこと」ではない

地域経営に必要なのは、
来訪を関係性に変換する設計です。

入口の強さだけでは地域は持続しません。
滞在し、回遊し、再訪し、関係が深まる仕組みがあって初めて、
地域経営は安定します。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

    1. 「発信を増やす」だけでは解決しない理由
    2. 地域経営に必要なのは「来てもらうこと」ではない
  1. 失敗ケース(A地域)|“映えスポット”化した観光地
    1. 来訪者の行動が「消費」ではなく「撮影」に偏った
    2. 来訪者数は波のように増減し、安定しない構造に
    3. 集客には成功したが、関係性を設計できなかった
  2. 成功ケース(B地域)|“記録される体験”から“記憶に残る体験”へ
    1. 滞在導線の再設計から始めた
    2. 「投稿後の行動」を設計したことが決定的な違い
    3. 結果として地域経営が強くなった
    4. “記録される場所”から“記憶に残る場所”へ
  3. 現場の物語|「写真は撮られるのに売れない」
    1. 地域全体の「回遊設計」が転機になった
    2. 「過ごす場所」へと変わった瞬間
    3. 写真は記録、経営を支えるのは「記憶」
  4. 比較と学び|“投稿数”と“関係性”の違い
    1. 構造比較
    2. つなぐシート(観光導線可視化版)とは
      1. ▼ 基本項目
    3. つなぐシート(観光導線可視化版)とは
      1. ▼ シート項目(最小形)
      2. ■ 記入の原則
      3. ■ 記入の原則
    4. B地域で見えた変化
    5. 学び|接触ではなく、記憶を設計する
  5. 中堅・大企業への展開視点|SNS依存マーケの限界
    1. SNS指標は「接触量」であって「関係性」ではない
    2. 必要なのは「ブランド体験の設計」
    3. KPIの再設計が不可欠
    4. 入口最適化では関係は深まらない
  6. まとめ+読者への問い
    1. 強い地域・強い企業が設計しているもの
    2. 問い

失敗ケース(A地域)|“映えスポット”化した観光地

A地域は、自然景観と個性的なカフェ、手作り雑貨店が点在する地方観光地でした。もともとはゆったりと滞在し、地元の人との会話や回遊を楽しむ「滞在型」の地域でした。

転機は、ある写真がInstagramで拡散されたことです。海沿いのカフェの窓から見える夕景が「映える」と話題になり、週末には行列ができるほどの人気スポットになりました。

来訪者数は急増し、統計上も数字は伸びました。一見すると成功のように見えます。しかし現場では、別の現象が起きていました。

来訪者の行動が「消費」ではなく「撮影」に偏った

  • 写真を撮る
  • 飲み物を一つ頼む
  • 投稿する
  • すぐ次の場所へ移動する

滞在時間は短く、客単価は上がらず、周辺店舗への回遊も起きません。

カフェは席の回転を優先せざるを得ず、長時間滞在できる雰囲気は失われていきました。雑貨店には人が流れず、食事をせずに帰る来訪者も増えます。

結果として、「人は増えたのに売上は変わらない」状態が続きました。

来訪者数は波のように増減し、安定しない構造に

やがて他地域でも似た景観が拡散され、A地域の来訪者数は波のように増減するようになります。安定した顧客は育たず、価格を下げて呼び込むしかなくなりました。

週末は混雑し、平日は閑散。オーバーツーリズムによる住民との摩擦も生まれ、地元事業者の疲弊が進みます。

集客には成功したが、関係性を設計できなかった

A地域は、確かに集客には成功しました。しかしそれは、

「地域を消費する行動」であって、
「地域と関係を持つ行動」ではありませんでした。

その結果、収益は不安定なまま、現場の負担だけが増えていきました。

これはSNSの問題ではなく、“映え”を目的化してしまった構造が生んだ結果です。

成功ケース(B地域)|“記録される体験”から“記憶に残る体験”へ

B地域も、自然景観とカフェ、小規模な雑貨店が点在する地方観光地でした。条件や規模はA地域とほぼ同じで、こちらもInstagramで景観写真が拡散し、来訪者数は急増しました。

しかしB地域は、その段階でSNSを「目的」にしませんでした。
位置づけはあくまで入口
「写真を撮りに来た人が、その後どこへ行くのか」「どれだけ滞在するのか」を設計対象にしたのです。

滞在導線の再設計から始めた

B地域が最初に取り組んだのは、来訪者の滞在導線の再設計でした。

  • 写真スポットの近くに、短時間で体験できる小さな飲食メニューを配置
  • そのレシートを持参すると、次の店舗で“地域限定の一言ストーリー”が聞ける仕組みを導入
  • さらに、そのストーリーに登場する場所へ行くと、別の体験が用意されている

クーポンではなく、物語で回遊を生む設計です。

来訪者の行動は次のように変化しました。

  • 写真を撮る
  • 次の場所へ行く理由が生まれる
  • 会話が発生する
  • 滞在時間が伸びる

「投稿後の行動」を設計したことが決定的な違い

A地域では、

撮影 → 投稿 → 離脱

で終わっていました。

一方B地域では、

撮影 → 体験 → 会話 → 記憶 → 投稿

という順序に変わりました。

つまり、写真を撮る理由が滞在する理由に変換されたのです。

結果として地域経営が強くなった

この設計変更により、B地域では明確な成果が生まれました。

  • 滞在時間が伸びる
  • 客単価が上がる
  • 地域内回遊が増える
  • 再訪率が改善する

SNS投稿の数自体はA地域と大きく変わりませんでした。しかし投稿内容は、

「景色がきれい」→「この地域で過ごした時間」

へと変化していきました。

“記録される場所”から“記憶に残る場所”へ

B地域は、SNSを活用しながらも依存しない構造を作り、
来訪を関係性へと変換する地域設計に成功しました。

その結果、地域は「記録される場所」から「記憶に残る場所」へと転換したのです。

現場の物語|「写真は撮られるのに売れない」

語り手は、B地域で小さなカフェを営む店主です。海が見える窓際の席が人気で、Instagramでは何度も紹介されていました。週末には行列ができ、店の前には人が絶えません。当初は「これは成功だ」と感じていました。

しかし売上は思ったほど伸びません。多くの来訪者はドリンクを一つ注文し、写真を撮り、短時間で席を立ちます。店内での会話は少なく、追加注文もほとんどありません。雑貨棚を見る人もいない。

「こんなに人がいるのに、なぜ利益が残らないのだろう」
その違和感が積み重なっていきました。

地域全体の「回遊設計」が転機になった

状況が変わったのは、地域全体で回遊設計を導入したときです。

カフェでは、注文時に短い“地域の物語カード”を渡すようになりました。そのカードに登場する場所が、徒歩数分の雑貨店につながっています。

雑貨店では、カードを見せた人にだけ制作背景の話をする。さらにその話が、次の景観ポイントへ続いていく。

すると、店内の様子が明らかに変わりました。

  • 来訪者がカードの内容について質問する
  • スタッフが説明する
  • 会話が生まれる

滞在時間が自然に伸び、追加注文が増えました。雑貨を手に取る人も増え、地域内を歩く人の流れが変わっていきました。

「過ごす場所」へと変わった瞬間

店主が最も印象に残っているのは、ある来訪者の言葉です。

「ここ、ただ写真を撮る場所じゃなくて、過ごす場所なんですね」

それまでカフェは“投稿される場所”でした。しかし設計が変わってからは、“過ごされる場所”へと変わりました。

人の数は大きく変わっていません。変わったのは、来訪者の行動と関係性です。

写真は記録、経営を支えるのは「記憶」

店主はこう語ります。

「SNSの人気があること自体は悪くない。でも、それだけでは経営は成り立たないと気づきました」

写真は記録です。しかし、経営を支えるのは記憶に残る体験です。
現場は、その違いをはっきりと体感していきました。

比較と学び|“投稿数”と“関係性”の違い

A地域とB地域の違いは、SNSを使ったかどうかではありません。
SNSを「何として扱ったか」という設計思想の差でした。

A地域は投稿数を増やすことを目的化しました。
B地域はSNSを接点の入口と捉え、その後の行動を設計しました。

構造比較

A列 B列 C列
観点 A地域 B地域 補足(意味)
SNSの役割 集客の目的 接点の入口 入口に依存するか/入口を起点にするか
KPI 投稿数・来訪数 滞在・回遊・再訪 “接触量”か、“関係性の深さ”か
顧客行動 撮影 → 離脱 体験 → 共有 → 再訪 次の行動理由を持つかどうか
収益構造 単発消費 関係性消費 忙しさが利益に変換されるか

A地域では「どれだけ投稿されたか」「どれだけ人が来たか」が評価指標でした。
しかしそれは来訪の“数”を測っているだけで、地域との関係性は測れていません。

一方B地域は、来訪後の行動に着目しました。

  • どれだけ滞在したか
  • どこを回遊したか
  • どこで会話が生まれたか
  • 何が購入のきっかけになったか

つまり、関係が発生したポイントを観測対象にしたのです。

つなぐシート(観光導線可視化版)とは

この観測を可能にしたのが、つなぐシート(観光導線版)です。
目的は、来訪が関係性に変換された地点を記録すること。

▼ 基本項目

つなぐシート(観光導線可視化版)とは

この観測を可能にしたのが、つなぐシート(観光導線版)です。
目的は、来訪が関係性に変換された地点を記録すること。

▼ シート項目(最小形)

A列 B列 C列 D列 E列 F列
項目 来訪経路 滞在時間 回遊先 会話発生ポイント 購入のきっかけ 次回来訪理由(推定)
入力形式 選択(SNS/紹介/再訪) 選択(〜30分/1h/2h+) 選択+短文 選択+短文 選択+短文 選択+短文
意図 入口チャネルの把握 “過ごした”度合いの把握 地域内連結(導線)を可視化 関係が生まれた地点を特定 行動が収益に変わる条件を抽出 次の設計(季節・物語)に接続

■ 記入の原則

  • 評価コメントを書かない
  • “良かった/悪かった”を記録しない
  • 行動と接点だけを記録する

つまり、“映えたか”ではなく “どこで関係が生まれたか” を蓄積します。

■ 記入の原則

  • 評価コメントを書かない
  • “良かった/悪かった”を記録しない
  • 行動と接点だけを記録する

つまり、
“映えたか”ではなく “どこで関係が生まれたか” を蓄積します。

B地域で見えた変化

このシートを運用すると、投稿数は重要指標ではなくなりました。
代わりに見えてきたのは、

  • どの接点で滞在が伸びるか
  • どの会話で購入が生まれるか
  • どの導線で再訪意向が高まるか

という関係生成ポイントです。

SNSは入口として機能し続けています。
しかし価値を生んでいるのは、入口の後に設計された体験です。

学び|接触ではなく、記憶を設計する

投稿数は接触を示します。
関係性は記憶を示します。

A地域は接触を最大化していました。
B地域は記憶を設計していました。

収益を安定させるのは、来訪の数ではなく、関係の深さです。

つなぐシートは来訪者を管理するためのものではありません。
来訪がどこで関係に変わったかを記録し、次の設計につなげるための装置です。

SNS時代の地域経営に必要なのは、
投稿されることではなく、関係が生まれる構造を持つことなのです。

中堅・大企業への展開視点|SNS依存マーケの限界

この構造は観光地だけの問題ではありません。
企業のマーケティングにも同じ現象が起きています。

  • フォロワー数が増える
  • 表示回数が伸びる
  • リード数が増える

数字は成長しているように見えます。
しかし売上や利益は比例せず、LTVも伸びない。

原因は、接触と関係を同一視していることにあります。

SNS指標は「接触量」であって「関係性」ではない

フォロワー数は接触の量を示すだけで、
選ばれる理由関係の深さは示しません。

また、リード獲得偏重の運用では、
獲得後の体験設計が弱くなります。

その結果、

  • 比較される
  • 価格で判断される
  • 離脱される

という構造に陥ります。

必要なのは「ブランド体験の設計」

企業が設計すべきなのは、

  • どの接点で
  • どの記憶が残り
  • どの意味で選ばれるのか

というブランド体験の構造です。

これがなければ、接触は単なるノイズになります。

KPIの再設計が不可欠

従来のKPIは、

  • 接触数
  • クリック数
  • リード数

といった「入口の量」を測るものでした。

しかし必要なのは、関係性指標への転換です。

  • 滞在時間
  • 再接触率
  • 指名率
  • 紹介発生率

これらは「どれだけ残ったか」を示す指標です。

入口最適化では関係は深まらない

SNSは依然として強力な入口です。
しかし入口だけを最適化すると、関係は浅くなります。

強い企業は、

接触を増やすのではなく、接触を関係に変換する設計を持っています。

つまり評価軸を、

「どれだけ届いたか」から「どれだけ残ったか」へ
切り替えているのです。

まとめ+読者への問い

SNSは強力なツールです。しかしそれはあくまで入口であって、目的ではありません。
“映え”は来訪や接触を生みますが、それだけでは関係性の代替にはならないからです。

記録は残っても、記憶が残らなければ次の選択にはつながりません。

強い地域・強い企業が設計しているもの

強い地域や企業は、投稿数や接触数を追うのではなく、

  • 滞在
  • 回遊
  • 記憶

を設計しています。

来てもらうことより、過ごしてもらうこと
過ごしてもらうことより、思い出してもらうこと

そこまで設計されて初めて、接点は関係性に変わります。

問い

あなたの集客は、投稿で終わっていますか?
その接点は、関係性に変換されていますか?

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