
動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
「最近の新人は育たない」
そう嘆く経営者や上司の声を、よく耳にします。
そこで多くの会社がやることは決まっています。
- 研修の回数を増やす
- OJT担当をつける
- マニュアルを分厚くする
「ちゃんと教えれば育つはずだ」
そう信じて、教育制度を強化していきます。
けれど現実はどうでしょうか。
- 研修を増やしても、現場では動けない。
- OJTをつけても、質問が出ない。
- マニュアルを整えても、指示待ちのまま。
「ここまでやっているのに、なぜ育たないのか」
そんなモヤモヤを抱えている企業は少なくありません。
そして多くの組織が、こう結論づけます。
- 「教え方が悪いのではないか」
- 「もっとわかりやすく教えるべきだ」
- 「指導者の力量の問題だ」
ですが、ここに大きな落とし穴があります。
本当に問題なのは、“教え方”そのものなのでしょうか。
実は、新人が育たない組織の多くは、そもそも
「学んでいい前提」
が設計されていません。
- 失敗したら評価が下がる
- 質問すると迷惑そうな顔をされる
- 自分で考えると怒られる
こうした空気の中で、人は本当に学べるでしょうか。
いくら研修を増やしても、どれだけ丁寧に教えても、
「学んでいい」と感じられない環境では、人は動けません。
新人が育たない理由は、
- スキル不足でもなく、
- 意欲不足でもありません。
多くの場合、
“学べる前提がない組織設計”
に原因があります。
この記事では、
- 育たなかった会社
- 育つようになった会社
を比較しながら、
「教え方」ではなく「育つ前提」をどう設計するか
を紐解いていきます。
この記事を読むことで得られること
- 新人が育たない原因が「教え方」ではなく「学んでいい前提の欠如」にあることを、構造として整理できます
- 失敗・質問・判断をどう扱うかで、人の動きが変わる──“育つ組織”の設計ポイントが具体的に掴めます
- 属人化した育成を「組織設計」に変えるための視点(比較表+つなぐシートの考え方)が手に入ります
まず結論:新人が育たないのは能力の問題ではなく、「失敗していい・聞いていい・考えていい」を本気で保証できていない“育つ前提の未設計”が原因です。
失敗ケース(A社)|「ちゃんと教えているのに育たない」会社
A社は、複数の新人が毎年入社するサービス業系の企業です。
営業職と現場職の両方を抱え、人材育成にはそれなりに力を入れてきました。
教育体制だけを見ると、決して悪くありません。
- 研修資料は分厚く整備
- 入社後研修も数日間実施
- OJT担当を1人ずつ配置
- 業務マニュアルも細かく作成
経営陣はこう思っていました。
「ここまでやっているのだから、育たないはずがない」
ところが、現場では別の光景が広がっていました。
■ 現場で起きていたこと
新人たちは、
- 自分から質問しない
- いつも指示待ち
- 判断が必要な場面で止まる
- 小さなミスを極端に恐れる
何かあるたびに、
- 「これ、どうしたらいいですか?」
- 「確認してもらっていいですか?」
と、すべて上司に判断を委ねるようになっていきます。
上司側も忙しく、
- 「さっき説明したよね?」
- 「まず自分で考えて」
と、少しトーンが強くなっていきました。
すると新人は、
- 「聞かない方がいいかも…」
- 「怒られるくらいなら黙っていよう」
と感じるようになります。
■ 「ちゃんと教えている」のに、なぜ育たないのか
A社の上司たちは、こう口をそろえていました。
- 「ちゃんと教えてるんです」
- 「研修もやってます」
- 「マニュアルも渡しています」
たしかに、“教える行為”は十分に行われていました。
しかし、
- 失敗すると評価が下がる
- ミスすると強く指摘される
- 質問すると空気が重くなる
そんな職場で、新人が安心して学べるでしょうか。
表向きは「わからなかったら聞いてね」と言われます。
でも実際には、
- 忙しそう
- 余裕がなさそう
- 聞くと嫌そうな顔
その空気を新人は敏感に感じ取ります。
結果、
- 「聞いてはいけない」
- 「失敗してはいけない」
という前提が、無意識に刷り込まれていきました。
■ 問題の正体
A社の問題は、決して
- 研修内容が悪い
- マニュアルが足りない
- 指導者の能力不足
ではありません。
本当の問題は、
👉 教え方ではなく
👉 「学んでいい空気がない」構造
にありました。
失敗=マイナス評価
質問=手間
判断=上司の仕事
こうした前提の中で、人は育ちません。
どれだけ制度を整えても、どれだけ資料を用意しても、
「学んでいい」と感じられない環境では、新人は一歩も踏み出せないのです。
成功ケース(B社)|“育つ前提”を設計した会社
B社もA社と同じく、サービス業を中心とした企業で、毎年数名の新人が入社してきます。
規模感もほぼ同じで、組織構造も大きくは変わりません。
つまり、条件はA社とほぼ同じでした。
それでも、B社では新人の育ち方がまったく違いました。
■ 教育制度より先に変えたこと
B社が最初に手をつけたのは、研修内容やマニュアルではありません。
変えたのは、“前提”でした。
具体的には、
- 失敗の扱い方
- 質問の扱い方
- 評価の仕方
この3つを、徹底的に見直しました。
■ 「できなくて当然」文化
B社の新人研修で、最初に伝えられる言葉があります。
- 「最初からできる人はいません」
- 「できなくて当然です」
これを、スローガンではなく本気で運用しています。
ミスが起きたときも、
- 「なんでできないんだ」ではなく、
- 「どこで詰まった?」
- 「どうしたら次いけそう?」
という会話になります。
失敗は、評価を下げる材料ではなく、
“次を良くする材料”として扱われました。
■ 質問=貢献という認識
B社では、質問することが評価されます。
- 「いい質問だね」
- 「それ助かる」
そんな言葉が、日常的に飛び交います。
なぜなら、
- 1人の疑問は、みんなのつまずき
だからです。
質問は、
👉 迷惑ではなく
👉 組織への貢献
という位置づけになっています。
その結果、新人も自然と口を開きます。
■ 小さな判断を任せる設計
B社では、
- どこまで自分で決めていいか
- どこから相談するか
を、最初から明確にしています。
たとえば、
- 価格調整はここまでOK
- 日程変更は自分で判断
- クレーム対応は共有
といった具合です。
これにより新人は、「考えていい範囲」がわかります。
だから、
- まず考える
- 仮説を持つ
- 相談する
という動き方に自然と変わっていきました。
■ 現場で起きた変化
こうした前提設計の結果、新人の行動が変わります。
- 自分から聞く
- まず試してみる
- 振り返りを言語化する
「正解を待つ人」ではなく、
“学習する人”に変わっていきました。
上司側も、
- 教え込む → 一緒に考える
というスタンスに変化。
結果として、
- 立ち上がりが早くなる
- 離職が減る
- 現場の雰囲気が軽くなる
と、組織全体が良くなっていきます。
■ B社の本質
B社がやったのは、教育制度の強化ではありません。
“育つ前提”の設計です。
失敗していい
聞いていい
考えていい
この3つが本気で保証されたとき、
人は勝手に育ち始めます。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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スタッフの物語|「聞いていいんだ」と気づいた瞬間
語り手は、A社からB社へ転職した若手社員の中村さん(仮)。
20代後半、今は現場の第一線で活躍しています。
A社にいた頃のことを、中村さんはこう振り返ります。
「正直、聞くのが怖かったです」
わからないことがあっても、
- 上司はいつも忙しそう
- 声をかけると少し嫌そうな顔
- 「それ前も言ったよね」と言われる
そんな経験が何度か続くと、だんだん聞かなくなっていきました。
「また怒られるくらいなら、自分で何とかしよう」
「間違えないように、慎重にやろう」
結果、
- 判断が遅くなる
- 仕事のスピードが落ちる
- それでもミスをしてしまう
そしてミスをすると叱責。
「なんで確認しなかったの?」
そう言われるたびに、
(聞きにくかったからなんだけど…)
と心の中で思いながら、何も言えなくなっていきました。
中村さんは次第に、
- 「聞かない方がいい」
- 「失敗しない方がいい」
そう思い込むようになっていったそうです。
■ B社で起きた“最初の違い”
B社に転職して、最初のミーティング。
中村さんが恐る恐る質問すると、返ってきたのは意外な言葉でした。
- 「いい質問だね」
- 「それ、他の人も気になってたと思うよ」
一瞬、耳を疑ったそうです。
(え、怒られないんだ…)
さらに驚いたのは、ミスをしたときでした。
- 「どうしてこうなったと思う?」
- 「次はどうする?」
責められるのではなく、一緒に振り返る時間が始まりました。
「ここで詰まったんだね」
「じゃあ、次はこうしてみようか」
そのやり取りの中で、中村さんは初めて、
「失敗してもいいんだ」
と感じたと言います。
■ 任される経験が“判断”を育てる
ある日、上司からこう言われました。
- 「この案件、任せてみる?」
- 「途中で相談してくれればいいから」
最初は不安でした。
でも、
- どう進めるか自分で考える
- 仮説を持って動く
- わからない所だけ相談
そんな経験を重ねるうちに、仕事が「作業」ではなく
“自分の判断”に変わっていきました。
■ 気づいたこと:「自分が変わったんじゃない」
しばらくして、中村さんは気づきます。
「自分が変わったわけじゃないな」
「環境が変わっただけだ」
A社でも、
- やる気がなかったわけではない
- 能力が低かったわけでもない
ただ、
- 聞いていいと思えなかった
- 失敗していいと思えなかった
それだけでした。
B社に来て、
- 聞いていい
- 間違えていい
- 考えていい
そう感じられるようになっただけで、行動が変わった。
中村さんは、そう語ります。
「人を変えようとしなくても、
環境が変われば、人は自然に動くんですね」
比較と学び|「教える組織」と「育つ組織」の決定的差+ つなぐシート(育成前提可視化版)
A社とB社の違いは、研修内容でも、マニュアルの質でもありません。
「育成をどう捉えているか」という前提が、根本から違いました。
まずは構造を整理してみます。
▼ 構造比較
| 観点 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 育成観 | 教える側が主役 | 学ぶ側が主役 |
| 失敗の扱い | 評価ダウン | 学習材料 |
| 質問 | 迷惑・手間 | 組織への貢献 |
| 判断 | 上司のみ | 現場に委譲 |
| 成長 | 受け身 | 自走 |
A社では、
- 教えるのは上司
- 新人は聞く側
- 失敗はマイナス
という前提でした。
一方B社では、
- 学ぶ主体は新人
- 上司は伴走役
- 失敗はデータ
という考え方です。
ここが決定的な分岐点でした。
■ A社は「知識移転」、B社は「学習設計」
A社の育成は、
- 「どう教えるか」
- 「どう伝えるか」
に意識が集中しています。
つまり、“知識を渡すこと”がゴールです。
B社は違いました。
- なぜ詰まったのか
- 何を考えていたのか
- 次はどうするか
“考えるプロセス”に焦点を当てます。
育成とは、
👉 知識移転ではなく
👉 学習プロセスの設計
だったのです。
■ つなぐシート(育成設計版)
B社が導入したのが、
「育成前提」を可視化する つなぐシートです。
目的はひとつ。
新人を変えるのではなく、環境の設計を変えること。
▼ シート項目例
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | G列 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 項目 | 新人のつまずきポイント | その時の上司の反応 | 新人の心理 | 本来取りたい行動 | 環境側の改善案 | 試行結果 | 学び |
| 記録内容 | どこで止まったか | 何と言ったか | どう感じたか | 聞く/試す/相談 | 声かけ・ルール | 変化はあったか | 次に活かすこと |
| 意図 | 詰まり箇所の特定 | 迎え方(反応)の可視化 | 心理的安全性の観測 | 育てたい行動の定義 | 再現できる環境設計 | 効果検証のログ化 | 改善の蓄積 |
▼ 記入イメージ
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | G列 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| クレーム対応で止まる | すぐ代わって処理 | 失敗したらダメだと思った | まず自分で考える | 途中まで任せる | 3回目まで本人対応 | 任せた方が覚える |
ポイント
- 新人を評価しない
- 上司の関わり方を見る
- 構造を疑う
つまり、
👉 「なぜできないか」ではなく
👉 「なぜそうなったか」
を扱うシートです。
■ 何が変わったか
このシートを回し始めてから、B社では変化が起きました。
- 上司がすぐ手を出さなくなる
- 新人が考える時間が増える
- 失敗の共有が増える
結果として、
- 質問が増える
- 仮説を持つ
- 振り返る
という行動が自然に生まれました。
■ 学び
A社は
「どう教えるか」を磨き続けました。
B社は
「どう育つか」を設計しました。
違いは、
👉 人 ではなく
👉 前提と構造
です。
育成とは、
人を変えることではありません。
環境を設計し直すことです。
中堅・大企業への展開視点|「育成属人化」の限界
組織の規模が大きくなるほど、育成は「人」に依存しやすくなります。
- ベテランが教える
- 面倒見のいい上司に任せる
- 指導がうまい人に丸投げする
一見すると合理的ですが、ここに大きな落とし穴があります。
■ ベテラン任せ育成の問題
属人化した育成では、
- 教え方が人によって違う
- 厳しい人/優しい人の差が激しい
- 方針が現場ごとにバラバラ
という状態になります。
結果、
- 伸びる新人
- 伸びない新人
が、配属ガチャで決まってしまう。
これが、いわゆる
👉 「当たり外れ問題」
です。
本人の努力ではなく、
「誰に教わったか」で成長が決まる。
これは組織として、かなり危険な状態です。
■ 人的資本経営の視点
今、多くの企業が「人的資本経営」を掲げています。
しかし現実には、
- 育成は現場任せ
- 評価は結果だけ
- 成長プロセスは見ていない
という会社が少なくありません。
本来、人的資本経営とは、
👉 人を“資産”として
👉 再現性ある形で育てる設計
です。
つまり、育成を
「個人スキル」から「組織設計」へ
切り替える必要があります。
■ これから必要な3つの設計
① 失敗の扱い方の統一
- ミスしたらどうするか
- 誰が、どう声をかけるか
- 評価にどう反映するか
これがバラバラだと、新人は行動できません。
失敗=学習
という共通ルールを組織で持つこと。
② 質問歓迎の文化設計
「聞いていいよ」と言うだけでは不十分です。
- 忙しくても手を止める
- 良い質問を言語化して褒める
- 会議で質問を拾う
“聞いていい空気”を意図的につくる設計が必要です。
③ 判断委譲の基準化
- どこまで任せるか
- どこから相談か
これを明文化します。
基準がないと、
- 怖くて動けない
- 勝手にやって怒られる
という最悪の状態になります。
■ 示唆
育成を、
- 優秀な上司
- 面倒見の良い人
に頼るほど、組織は弱くなります。
必要なのは、
👉 「誰がやっても育つ」
👉 構造をつくること
人的資本経営とは、
人を増やすことではありません。
“育つ確率”を上げる設計
をつくることです。
まとめ+読者への問い
新人が育たないのは、
能力不足ではありません。
教え方が悪いからでもありません。
多くの組織で起きているのは、ただひとつ。
「育てる前提」がない
それだけです。
失敗してはいけない
聞くと迷惑そう
判断すると怒られる
こんな空気の中で、人が育つはずがありません。
逆に言えば、
- 失敗していい
- 聞いていい
- 考えていい
この3つが本気で保証されたとき、
人は勝手に育ち始めます。
育成とは、
人を変えることではなく、環境を設計し直すことです。
問い
あなたの組織で、
「聞いていい人」は誰ですか?
特定の人だけになっていませんか。
新人が失敗したとき、
最初にかける言葉は何でしょう。
「なんでできないの?」
それとも
「どこで詰まった?」でしょうか。
その環境は、
本当に
「育つ設計」
になっていますか。

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