新人が育たない本当の理由─“教え方”ではなく“前提”の問題だった【経営プログレッションVol.37】 | ソング中小企業診断士事務所

新人が育たない本当の理由─“教え方”ではなく“前提”の問題だった【経営プログレッションVol.37】

新人が育たない本当の理由─“教え方”ではなく“前提”の問題だった【経営プログレッションVol.37】

動画で見る経営プログレッションの記事説明

※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。

「最近の新人は育たない」
そう嘆く経営者や上司の声を、よく耳にします。

そこで多くの会社がやることは決まっています。

  • 研修の回数を増やす
  • OJT担当をつける
  • マニュアルを分厚くする

「ちゃんと教えれば育つはずだ」
そう信じて、教育制度を強化していきます。

けれど現実はどうでしょうか。

  • 研修を増やしても、現場では動けない。
  • OJTをつけても、質問が出ない。
  • マニュアルを整えても、指示待ちのまま。

「ここまでやっているのに、なぜ育たないのか」
そんなモヤモヤを抱えている企業は少なくありません。

そして多くの組織が、こう結論づけます。

  • 「教え方が悪いのではないか」
  • 「もっとわかりやすく教えるべきだ」
  • 「指導者の力量の問題だ」

ですが、ここに大きな落とし穴があります。

本当に問題なのは、“教え方”そのものなのでしょうか。

実は、新人が育たない組織の多くは、そもそも
「学んでいい前提」
が設計されていません。

  • 失敗したら評価が下がる
  • 質問すると迷惑そうな顔をされる
  • 自分で考えると怒られる

こうした空気の中で、人は本当に学べるでしょうか。

いくら研修を増やしても、どれだけ丁寧に教えても、
「学んでいい」と感じられない環境では、人は動けません。

新人が育たない理由は、

  • スキル不足でもなく、
  • 意欲不足でもありません。

多くの場合、
“学べる前提がない組織設計”
に原因があります。

この記事では、

  • 育たなかった会社
  • 育つようになった会社

を比較しながら、

「教え方」ではなく「育つ前提」をどう設計するか
を紐解いていきます。

この記事を読むことで得られること

  • 新人が育たない原因が「教え方」ではなく「学んでいい前提の欠如」にあることを、構造として整理できます
  • 失敗・質問・判断をどう扱うかで、人の動きが変わる──“育つ組織”の設計ポイントが具体的に掴めます
  • 属人化した育成を「組織設計」に変えるための視点(比較表+つなぐシートの考え方)が手に入ります

まず結論:新人が育たないのは能力の問題ではなく、「失敗していい・聞いていい・考えていい」を本気で保証できていない“育つ前提の未設計”が原因です。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
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現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

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診断ノート
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次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

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実装・仕組み

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つなぐシート
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理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

失敗ケース(A社)|「ちゃんと教えているのに育たない」会社

A社は、複数の新人が毎年入社するサービス業系の企業です。
営業職と現場職の両方を抱え、人材育成にはそれなりに力を入れてきました。

教育体制だけを見ると、決して悪くありません。

  • 研修資料は分厚く整備
  • 入社後研修も数日間実施
  • OJT担当を1人ずつ配置
  • 業務マニュアルも細かく作成

経営陣はこう思っていました。
「ここまでやっているのだから、育たないはずがない」

ところが、現場では別の光景が広がっていました。

■ 現場で起きていたこと

新人たちは、

  • 自分から質問しない
  • いつも指示待ち
  • 判断が必要な場面で止まる
  • 小さなミスを極端に恐れる

何かあるたびに、

  • 「これ、どうしたらいいですか?」
  • 「確認してもらっていいですか?」

と、すべて上司に判断を委ねるようになっていきます。

上司側も忙しく、

  • 「さっき説明したよね?」
  • 「まず自分で考えて」

と、少しトーンが強くなっていきました。

すると新人は、

  • 「聞かない方がいいかも…」
  • 「怒られるくらいなら黙っていよう」

と感じるようになります。

■ 「ちゃんと教えている」のに、なぜ育たないのか

A社の上司たちは、こう口をそろえていました。

  • 「ちゃんと教えてるんです」
  • 「研修もやってます」
  • 「マニュアルも渡しています」

たしかに、“教える行為”は十分に行われていました。

しかし、

  • 失敗すると評価が下がる
  • ミスすると強く指摘される
  • 質問すると空気が重くなる

そんな職場で、新人が安心して学べるでしょうか。

表向きは「わからなかったら聞いてね」と言われます。
でも実際には、

  • 忙しそう
  • 余裕がなさそう
  • 聞くと嫌そうな顔

その空気を新人は敏感に感じ取ります。

結果、

  • 「聞いてはいけない」
  • 「失敗してはいけない」

という前提が、無意識に刷り込まれていきました。

■ 問題の正体

A社の問題は、決して

  • 研修内容が悪い
  • マニュアルが足りない
  • 指導者の能力不足

ではありません。

本当の問題は、

👉 教え方ではなく
👉 「学んでいい空気がない」構造

にありました。

失敗=マイナス評価
質問=手間
判断=上司の仕事

こうした前提の中で、人は育ちません。

どれだけ制度を整えても、どれだけ資料を用意しても、
「学んでいい」と感じられない環境では、新人は一歩も踏み出せないのです。

成功ケース(B社)|“育つ前提”を設計した会社

B社もA社と同じく、サービス業を中心とした企業で、毎年数名の新人が入社してきます。
規模感もほぼ同じで、組織構造も大きくは変わりません。

つまり、条件はA社とほぼ同じでした。
それでも、B社では新人の育ち方がまったく違いました。

■ 教育制度より先に変えたこと

B社が最初に手をつけたのは、研修内容やマニュアルではありません。
変えたのは、“前提”でした。

具体的には、

  • 失敗の扱い方
  • 質問の扱い方
  • 評価の仕方

この3つを、徹底的に見直しました。

■ 「できなくて当然」文化

B社の新人研修で、最初に伝えられる言葉があります。

  • 「最初からできる人はいません」
  • 「できなくて当然です」

これを、スローガンではなく本気で運用しています。

ミスが起きたときも、

  • 「なんでできないんだ」ではなく、
  • 「どこで詰まった?」
  • 「どうしたら次いけそう?」

という会話になります。

失敗は、評価を下げる材料ではなく、
“次を良くする材料”として扱われました。

■ 質問=貢献という認識

B社では、質問することが評価されます。

  • 「いい質問だね」
  • 「それ助かる」

そんな言葉が、日常的に飛び交います。

なぜなら、

  • 1人の疑問は、みんなのつまずき

だからです。

質問は、

👉 迷惑ではなく
👉 組織への貢献

という位置づけになっています。

その結果、新人も自然と口を開きます。

■ 小さな判断を任せる設計

B社では、

  • どこまで自分で決めていいか
  • どこから相談するか

を、最初から明確にしています。

たとえば、

  • 価格調整はここまでOK
  • 日程変更は自分で判断
  • クレーム対応は共有

といった具合です。

これにより新人は、「考えていい範囲」がわかります。

だから、

  • まず考える
  • 仮説を持つ
  • 相談する

という動き方に自然と変わっていきました。

■ 現場で起きた変化

こうした前提設計の結果、新人の行動が変わります。

  • 自分から聞く
  • まず試してみる
  • 振り返りを言語化する

「正解を待つ人」ではなく、
“学習する人”に変わっていきました。

上司側も、

  • 教え込む → 一緒に考える

というスタンスに変化。

結果として、

  • 立ち上がりが早くなる
  • 離職が減る
  • 現場の雰囲気が軽くなる

と、組織全体が良くなっていきます。

■ B社の本質

B社がやったのは、教育制度の強化ではありません。
“育つ前提”の設計です。

失敗していい
聞いていい
考えていい

この3つが本気で保証されたとき、
人は勝手に育ち始めます。

この文章が生まれた “背景” が気になる方へ
サービスの詳細や考え方は「初めての方へ」にまとめています。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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スタッフの物語|「聞いていいんだ」と気づいた瞬間

語り手は、A社からB社へ転職した若手社員の中村さん(仮)。
20代後半、今は現場の第一線で活躍しています。

A社にいた頃のことを、中村さんはこう振り返ります。

「正直、聞くのが怖かったです」

わからないことがあっても、

  • 上司はいつも忙しそう
  • 声をかけると少し嫌そうな顔
  • 「それ前も言ったよね」と言われる

そんな経験が何度か続くと、だんだん聞かなくなっていきました。

「また怒られるくらいなら、自分で何とかしよう」
「間違えないように、慎重にやろう」

結果、

  • 判断が遅くなる
  • 仕事のスピードが落ちる
  • それでもミスをしてしまう

そしてミスをすると叱責。

「なんで確認しなかったの?」

そう言われるたびに、

(聞きにくかったからなんだけど…)
と心の中で思いながら、何も言えなくなっていきました。

中村さんは次第に、

  • 「聞かない方がいい」
  • 「失敗しない方がいい」

そう思い込むようになっていったそうです。

■ B社で起きた“最初の違い”

B社に転職して、最初のミーティング。
中村さんが恐る恐る質問すると、返ってきたのは意外な言葉でした。

  • 「いい質問だね」
  • 「それ、他の人も気になってたと思うよ」

一瞬、耳を疑ったそうです。

(え、怒られないんだ…)

さらに驚いたのは、ミスをしたときでした。

  • 「どうしてこうなったと思う?」
  • 「次はどうする?」

責められるのではなく、一緒に振り返る時間が始まりました。

「ここで詰まったんだね」
「じゃあ、次はこうしてみようか」

そのやり取りの中で、中村さんは初めて、

「失敗してもいいんだ」

と感じたと言います。

■ 任される経験が“判断”を育てる

ある日、上司からこう言われました。

  • 「この案件、任せてみる?」
  • 「途中で相談してくれればいいから」

最初は不安でした。
でも、

  • どう進めるか自分で考える
  • 仮説を持って動く
  • わからない所だけ相談

そんな経験を重ねるうちに、仕事が「作業」ではなく
“自分の判断”に変わっていきました。

■ 気づいたこと:「自分が変わったんじゃない」

しばらくして、中村さんは気づきます。

「自分が変わったわけじゃないな」
「環境が変わっただけだ」

A社でも、

  • やる気がなかったわけではない
  • 能力が低かったわけでもない

ただ、

  • 聞いていいと思えなかった
  • 失敗していいと思えなかった

それだけでした。

B社に来て、

  • 聞いていい
  • 間違えていい
  • 考えていい

そう感じられるようになっただけで、行動が変わった。

中村さんは、そう語ります。

「人を変えようとしなくても、
 環境が変われば、人は自然に動くんですね」

比較と学び|「教える組織」と「育つ組織」の決定的差+ つなぐシート(育成前提可視化版)

A社とB社の違いは、研修内容でも、マニュアルの質でもありません。
「育成をどう捉えているか」という前提が、根本から違いました。

まずは構造を整理してみます。

▼ 構造比較

観点 A社 B社
育成観 教える側が主役 学ぶ側が主役
失敗の扱い 評価ダウン 学習材料
質問 迷惑・手間 組織への貢献
判断 上司のみ 現場に委譲
成長 受け身 自走

A社では、

  • 教えるのは上司
  • 新人は聞く側
  • 失敗はマイナス

という前提でした。

一方B社では、

  • 学ぶ主体は新人
  • 上司は伴走役
  • 失敗はデータ

という考え方です。
ここが決定的な分岐点でした。

■ A社は「知識移転」、B社は「学習設計」

A社の育成は、

  • 「どう教えるか」
  • 「どう伝えるか」

に意識が集中しています。
つまり、“知識を渡すこと”がゴールです。

B社は違いました。

  • なぜ詰まったのか
  • 何を考えていたのか
  • 次はどうするか

“考えるプロセス”に焦点を当てます。

育成とは、

👉 知識移転ではなく
👉 学習プロセスの設計

だったのです。

■ つなぐシート(育成設計版)

B社が導入したのが、
「育成前提」を可視化する つなぐシートです。

目的はひとつ。

新人を変えるのではなく、環境の設計を変えること。

▼ シート項目例

A列 B列 C列 D列 E列 F列 G列
項目 新人のつまずきポイント その時の上司の反応 新人の心理 本来取りたい行動 環境側の改善案 試行結果 学び
記録内容 どこで止まったか 何と言ったか どう感じたか 聞く/試す/相談 声かけ・ルール 変化はあったか 次に活かすこと
意図 詰まり箇所の特定 迎え方(反応)の可視化 心理的安全性の観測 育てたい行動の定義 再現できる環境設計 効果検証のログ化 改善の蓄積

▼ 記入イメージ

A列 B列 C列 D列 E列 F列 G列
クレーム対応で止まる すぐ代わって処理 失敗したらダメだと思った まず自分で考える 途中まで任せる 3回目まで本人対応 任せた方が覚える

ポイント

  • 新人を評価しない
  • 上司の関わり方を見る
  • 構造を疑う

つまり、

👉 「なぜできないか」ではなく
👉 「なぜそうなったか」

を扱うシートです。

■ 何が変わったか

このシートを回し始めてから、B社では変化が起きました。

  • 上司がすぐ手を出さなくなる
  • 新人が考える時間が増える
  • 失敗の共有が増える

結果として、

  • 質問が増える
  • 仮説を持つ
  • 振り返る

という行動が自然に生まれました。

■ 学び

A社は
「どう教えるか」を磨き続けました。

B社は
「どう育つか」を設計しました。

違いは、

👉 人 ではなく
👉 前提と構造

です。

育成とは、
人を変えることではありません。
環境を設計し直すことです。

中堅・大企業への展開視点|「育成属人化」の限界

組織の規模が大きくなるほど、育成は「人」に依存しやすくなります。

  • ベテランが教える
  • 面倒見のいい上司に任せる
  • 指導がうまい人に丸投げする

一見すると合理的ですが、ここに大きな落とし穴があります。

■ ベテラン任せ育成の問題

属人化した育成では、

  • 教え方が人によって違う
  • 厳しい人/優しい人の差が激しい
  • 方針が現場ごとにバラバラ

という状態になります。

結果、

  • 伸びる新人
  • 伸びない新人

が、配属ガチャで決まってしまう。

これが、いわゆる

👉 「当たり外れ問題」

です。

本人の努力ではなく、
「誰に教わったか」で成長が決まる。
これは組織として、かなり危険な状態です。

■ 人的資本経営の視点

今、多くの企業が「人的資本経営」を掲げています。

しかし現実には、

  • 育成は現場任せ
  • 評価は結果だけ
  • 成長プロセスは見ていない

という会社が少なくありません。

本来、人的資本経営とは、

👉 人を“資産”として
👉 再現性ある形で育てる設計

です。

つまり、育成を

「個人スキル」から「組織設計」へ
切り替える必要があります。

■ これから必要な3つの設計

① 失敗の扱い方の統一

  • ミスしたらどうするか
  • 誰が、どう声をかけるか
  • 評価にどう反映するか

これがバラバラだと、新人は行動できません。

失敗=学習
という共通ルールを組織で持つこと。

② 質問歓迎の文化設計

「聞いていいよ」と言うだけでは不十分です。

  • 忙しくても手を止める
  • 良い質問を言語化して褒める
  • 会議で質問を拾う

“聞いていい空気”を意図的につくる設計が必要です。

③ 判断委譲の基準化

  • どこまで任せるか
  • どこから相談か

これを明文化します。

基準がないと、

  • 怖くて動けない
  • 勝手にやって怒られる

という最悪の状態になります。

■ 示唆

育成を、

  • 優秀な上司
  • 面倒見の良い人

に頼るほど、組織は弱くなります。

必要なのは、

👉 「誰がやっても育つ」
👉 構造をつくること

人的資本経営とは、
人を増やすことではありません。

“育つ確率”を上げる設計
をつくることです。

まとめ+読者への問い

新人が育たないのは、
能力不足ではありません。
教え方が悪いからでもありません。

多くの組織で起きているのは、ただひとつ。

「育てる前提」がない
それだけです。

失敗してはいけない
聞くと迷惑そう
判断すると怒られる

こんな空気の中で、人が育つはずがありません。

逆に言えば、

  • 失敗していい
  • 聞いていい
  • 考えていい

この3つが本気で保証されたとき、
人は勝手に育ち始めます。

育成とは、
人を変えることではなく、環境を設計し直すことです。

問い

あなたの組織で、
「聞いていい人」は誰ですか?
特定の人だけになっていませんか。

新人が失敗したとき、
最初にかける言葉は何でしょう。

「なんでできないの?」
それとも
「どこで詰まった?」でしょうか。

その環境は、
本当に
「育つ設計」
になっていますか。

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