
動画で見る診断ノートの記事説明
※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。
外食産業全体では、値上げによる増収効果が鈍化し、減益に転じる企業も出始めています。
客単価は上がったものの、客数が伸びない。
価格改定だけでは収益を維持しにくい局面に入りつつあります。
そうした中で、サイゼリヤと日高屋は増収増益を維持しています。
値上げを抑えながら客数を伸ばしている点が注目され、
「低価格戦略が支持された」と語られることが多い状況です。
しかし、この現象を単純に「安いから選ばれている」と捉えると、本質を見誤ります。
両社が行っているのは、価格競争ではありません。
SKU(商品数)を絞り込み、オペレーションを再設計することで、低価格が成立する構造を先につくっているのです。
売価は結果であり、原因ではありません。
どの商品を残し、どの商品をやめ、
どの動線で提供し、
どの工程を省くのか。
現場の設計を積み重ねた結果として、価格が維持されています。
これは外食大手の特殊な話ではなく、
中小企業の現場にもそのまま接続できるテーマです。
価格を下げるかどうかではなく、
その価格が成立する構造を持っているかどうかが問われています。
この記事を読むことで得られること
- 外食業界で「値上げが効きにくくなっている」背景と、いま何が起きているかを事実ベースで整理できます
- サイゼリヤ/日高屋がやっていることが「低価格」ではなく、SKUと現場設計による“構造づくり”だと理解できます
- 自社で価格を動かす前に見直すべきポイント(SKU・動線・原価の固定)を、具体的な一手として持ち帰れます
まず結論:価格は原因ではなく結果であり、安さは思想ではなく“現場の設計”が整ったときにだけ成立します。
何が起きているのか(事実整理)
外食業界全体では、ここ数年続いてきた「値上げによる増収増益」の流れに変化が見え始めています。主要外食21社の業績では、純利益が前年同期比で減少し、売上高の伸びも鈍化しました。原材料費や人件費の上昇に対応するため各社が進めてきた価格改定は、客単価の上昇という形では一定の効果を上げてきましたが、客数の減少を補いきれない局面に入りつつあります。
そのような環境の中で、サイゼリヤと日高屋は異なる動きを示しています。サイゼリヤは増収増益を確保し、既存店の客数も前年を上回る状態が継続しています。日高屋を展開するハイデイ日高も増益を記録し、増益率は24%となりました。いずれも売上の伸びは客単価の上昇よりも、客数の増加による影響が大きいとされています。
両社に共通しているのは、値上げ幅が外食業界の平均と比べて小さい点です。価格改定を行っていないわけではありませんが、上昇率は限定的であり、低価格帯を維持しています。その結果として来店頻度が維持され、客数の増加につながっています。
ここで確認できるのは、
- 外食全体では値上げによる収益改善が鈍化している
- 値上げ幅を抑えた企業が客数を伸ばしている
- 客数増が業績を押し上げている
という事実です。
この段階では、戦略の良否を判断する必要はありません。まずは、業界全体の減益傾向と、特定企業の増収増益、そして客数増が業績を押し上げているという数字の関係を整理しておくことが重要です。
なぜ値上げモデルが効かなくなっているのか
これまで外食各社は、原材料費や人件費の上昇に対応するため、価格改定を進めてきました。客単価は上昇し、売上高や利益の改善につながる局面もありました。しかし、その効果には一定の限界があります。価格を引き上げ続けることで、客単価は上がっても来店頻度が低下し、結果として客数が伸びにくくなる傾向が見え始めています。
背景には、実質所得の伸び悩みがあります。名目賃金は上昇していても、物価上昇の影響を受け、消費者の可処分所得は大きく増えていません。そのため、外食に使える金額は以前よりも慎重に配分されるようになり、「どの店に行くか」を選ぶ行動が強まっているのです。
この状況では、単純な値上げは収益改善の手段として機能しにくくなります。価格が上がることで一時的に売上が伸びても、来店回数が減少すれば中長期的には売上の維持が難しくなります。つまり、客単価の上昇だけでは収益構造を支えきれない局面に入りつつあります。
その結果として、消費者側では外食の「選別」が進みます。価格に対して提供価値が明確な店、あるいは価格が抑えられている店に来店が集中し、そうでない店は客数の回復に時間がかかる構造が生まれています。
ここで起きているのは、価格を上げれば売上が伸びるという従来のモデルが機能しにくくなり、値上げをしても客数が戻らないという状態です。外食企業にとっては、価格設定だけではなく、来店頻度を維持できる構造そのものが問われている段階に入ったと言えます。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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2社がやっているのは「価格戦略」ではなく「構造戦略」
サイゼリヤと日高屋の取り組みを整理すると、共通しているのは「価格を下げる施策」ではなく、価格が成立する構造の再設計です。
サイゼリヤ:SKU最適化とオペレーション再設計
まずサイゼリヤは、メニュー数の削減を進めています。商品点数を絞ることで、
- 仕入れの集約
- 調理工程の標準化
- 在庫管理の効率化
が可能になります。これは単に品数を減らすのではなく、SKUを最適化し、現場のオペレーション負荷を下げる施策です。
SKU(エスケーユー)とは
Stock Keeping Unit の略で、
「在庫を管理する最小単位の商品アイテム数」を指します。もっと現場寄りに言うと: “売っている商品の種類数”です。
注文方式についても、従来の手書きオーダーからQRコードを用いたスマートフォン注文へ移行しています。タブレット端末を各席に設置する方式と異なり、設備投資を抑えながら注文処理の効率化を実現しています。
さらに、自社工場を中心としたサプライチェーンの内製化を進め、食材やソース類の加工を自社で行うことで原価の変動を抑えています。調達から加工までをコントロールすることで、価格を維持できる基盤を構築しています。
日高屋:ドミナント戦略とセントラルキッチン
一方、日高屋はドミナント出店を進め、特定エリアに店舗を集中させることで物流効率を高めています。
また、セントラルキッチン方式により半製品を一括製造し、各店舗では仕上げのみを行う体制を採用。これにより、
- 調理時間の短縮
- 品質の均一化
を実現しています。
注文についてもタッチパネルを導入し、追加注文が入りやすい仕組みを整備。接客負担を増やさずに客単価を高める構造をつくっています。メニュー構成も定番商品に絞られており、SKUを増やさず回転率を維持しています。
両社に共通する「構造戦略」
両社に共通するのは、
- 工程
- 品数(SKU)
- 物流
- 調達
といった要素を組み合わせ、コスト構造そのものを設計している点です。
結果として価格が抑えられているのであり、低価格は施策ではなく、構造の帰結だと言えます。
中小企業への示唆
この構造を中小企業の現場に置き換えると、見え方が変わってきます。
「価格を下げたいが、下げると赤字になる」
多くの事業者が直面している状態です。
しかしこれは、価格の問題というよりも、構造が未設計のままになっている状態だと言えます。
商品数が多く、仕入れが分散し、在庫が増え、工程が複雑になっている場合、
売価を下げる余地はほとんどありません。
値下げができないのではなく、値下げが成立する構造になっていないということです。
ここで必要になるのは、価格の議論ではなく現場の設計です。
- SKUを絞り、扱う商品点数を減らす
- 調理や提供の動線を見直し、工程を短縮する
- 原価の変動要因を減らし、仕入れを集中させる
- 利益に貢献しない商品、回転しない商品を“売らない”と決める
これらは一見すると売上を減らす判断に見えますが、
実際には原価率と作業負荷を下げ、回転率を高める効果があります。
価格は、理念や願望だけで決められるものではありません。
原価、工程、在庫、時間配分といった要素の積み重ねによって決まります。
つまり、価格は戦略の出発点ではなく、
構造を設計した結果として現れるものです。
中小企業にとって重要なのは、
「いくらで売るか」よりも、
「その価格が成立する現場になっているか」
を問い直すことだと言えます。
診断士視点:安さは思想ではなくオペレーション
現場でよく聞くのは、「価格を下げたい」という言葉です。
しかし同時に、商品構成や仕入れ方法、作業手順、人員配置はそのままというケースが少なくありません。
価格だけを動かし、設計を変えない場合、利益率は下がり、現場の負荷は増えます。
その結果、品質が不安定になり、回転率が落ち、さらに収益が悪化するという循環に入りやすくなります。
これは価格の問題というより、構造とオペレーションの問題です。
一方で、低価格を維持している企業は、売価そのものではなく、その背後にある工程を見直しています。
- 調理工程を短縮する
- 商品点数を絞る
- 仕入れ先を集約する
- 作業動線を単純化する
- 人員配置を最適化する
これらを組み合わせることで、同じ時間内に提供できる数量が増え、在庫のロスが減り、原価のばらつきが小さくなります。
その結果として、価格を抑えても収益が成立します。
つまり、安さは理念やスローガンで実現されるものではありません。
工程、品数、調達、配置といった要素を再設計した結果として現れる状態です。
低価格とは、値付けのテクニックではなく、
オペレーションが整ったときに初めて成立する完成形だと言えます。
まとめ|価格ではなく、設計で選ばれる時代
値上げをするか、値下げをするか。
それ自体は経営判断の一部ですが、本質ではありません。
価格は原因ではなく、結果として現れるものです。
問われているのは、
その価格を支えられる構造を持っているかどうかです。
- 商品構成は最適化されているか
- 工程は短縮されているか
- 原価は安定しているか
- 作業動線と人員配置は整理されているか
これらが整っていれば、価格は無理なく維持されます。
整っていなければ、値上げをしても収益は安定せず、値下げをすれば赤字になります。
この構造は、企業規模に関係ありません。
大手外食チェーンでも、中小企業でも同じです。
価格は戦略の出発点ではなく、現場設計の到達点です。
あらためて問いかけます。
あなたの会社の価格は、設計の結果でしょうか。
それとも、願望のままに置かれているものでしょうか。

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