![第11回 [K-1]|「ここで働きたい」と思える瞬間 ― 働き続ける理由は関係の中で育つ【迎える経営論|定着編】](https://song-cs.com/wp-content/uploads/33266203_s.jpg)
「ここで働きたい」と心の底から思える瞬間は、待遇や制度が理由になるとは限りません。むしろ、多くの人にとってその瞬間は、驚くほど“個人的でささやかな出来事”から生まれます。
たとえば、忙しい中でもこちらの話を丁寧に聞いてくれた上司の姿。
初めて任された仕事を一緒に確認してくれた同僚。
失敗したとき、「大丈夫、一緒に振り返ろう」と寄り添ってくれた一言。
そうした小さな経験の積み重ねが、「この場所なら、自分は力を伸ばせる」「ここにいていいんだ」という安心となり、働き続ける動機に変わっていきます。
人は意外なほど、“働く理由”ではなく、“続けたいと思えた瞬間”で職場を決めています。
それは条件表でも就業規則でもなく、日々の関係性の中で生まれる“心の居場所”です。
この記事では、働く側の視点から、「ここで働きたい」と思える瞬間がどこから生まれるのかを掘り下げます。
それは偶然ではなく、企業側のふるまいや文化設計によって、確かに育てることができます。
迎える経営論マトリクス
| 編 | テーマ | 主題 | 視点 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 企業側 | 働く側 | 支援側 | |||
| 思想編 | 「迎える経営」とは何か | 採用・関係性の哲学的出発点 | A | B | C |
| 信頼編 | 信じて差し出す経営 | 信頼の先行が組織文化を変える | D | E | F |
| 対話編 | わかり合う職場をつくる | 面談・1on1・心理的安全性 | G | H | I |
| 定着編 | 続く人、育つ文化 | 定着率向上とキャリアデザイン | J | K | L |
| 理念編 | 共感でつながる採用 | 理念採用・共感ベースの発信 | M | N | O |
| 実装編 | 「みえるシート」による循環設計 | 仕組み化・可視化・データ共有 | P | Q | R |
| 成長編 | 挑戦を迎え、共に学ぶ組織 | 若手育成・失敗の受容・共進化 | S | T | U |
| 未来編 | 人を中心にした経営のゆくえ | 人的資本経営の次フェーズを描く | V | W | X |
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本コンテンツ「迎える経営論」は、8つの編と3つの視点、あわせて24のグループに記事を分けて展開していきます。
記事No:K-1
④ 定着編|続く人、育つ文化
主題:定着率向上とキャリアデザイン
働く側視点
この記事を読むことで得られること
- 人が「ここで働きたい」「ここで続けたい」と感じる瞬間が、どのような小さな出来事や関わりから生まれるのかが整理できます。
- 働く側の安心や「ここにいていい」という実感を支える条件(気持ちを否定しない空気・観察されている実感・弱さを出せる関係性・成長の軌道)が具体的にイメージできます。
- 言葉の選び方や聞く姿勢、日常の小さなフォローといった“迎える作法”を通じて、「続けたい職場」を意図的につくるための視点が得られます。
まず結論:「ここで働きたい/ここで続けたい」という感情は、待遇や制度ではなく、日々のふるまいの中で「自分は受け入れられ、大事にされている」と実感できたときに生まれるものであり、その瞬間は企業が迎える作法として意図的に育てることができます。
心が動く瞬間の正体──人は“待遇”ではなく“扱われ方”で働き続ける
「ここで働きたい」は、日常のふるまいから生まれる
「ここで働きたい」と思える瞬間は、必ずしも大きな出来事から生まれるわけではありません。
多くの場合、それはほんの数十秒の対話や、ささやかな仕草、ちょっとした気配りといった“日常のふるまい”の中に潜んでいます。
人が働き続ける理由は、条件表ではなく、自分がどう扱われているかという経験によって決まっていくからです。
安心を生む、たった一言の力
たとえば、新人が初めての業務に挑戦した日のことを想像してみてください。
緊張している様子に気づいた上司が、「ゆっくりで大丈夫、一緒に確認しよう」と声をかける。
そのたった一言だけで、その人は職場への印象を大きく変えます。
「自分をちゃんと見てくれている」「焦らなくていい」と感じられた瞬間、働く側の心には“安心”が宿ります。
これは待遇では生み出せない力です。
ミスの瞬間にこそ、信頼が育つ
同じく、ミスをしたときの対応も重要です。
「どうしてこんなことを?」と責められれば、心は一気に閉じます。
しかし、「まず状況を教えて。大丈夫、一緒に整理しよう」と寄り添われたとき、人は会社への信頼を強くします。
働く側にとって、ミスをした瞬間ほど“その職場の本音”が見える場面はありません。
安心して失敗できる場所は、安心して挑戦できる場所です。
そして挑戦できる職場は、「ここで働きたい」という主体的な感情を引き出します。
努力を見てくれる喜び
また、仕事の成果だけでなく、努力の過程に気づいてもらえたときの喜びは非常に大きいものです。
- 「昨日よりここがスムーズでしたね」
- 「この部分の準備が丁寧で助かりました」
こうした“見ているよ”のサインは、評価制度以上に働く人を支えます。
人は誰しも、「自分の存在が組織に影響している」と感じられたときに、居場所を実感します。
本音を言える相手の存在
さらに、働く側にとって欠かせない瞬間がもうひとつあります。
それは、本音を言える相手がいると気づいた瞬間です。
悩みを相談したとき、「そんなことで悩むなよ」と切り捨てられた職場で働きたいと思う人はいません。
一方で、忙しい中でも話を受け止め、「まず聞かせて」と姿勢を向けてくれる人がいると、
人は自然と“ここで続けよう”と感じるようになります。
「受け入れられている」という実感
これらの瞬間に共通しているのは、
働く人が「自分は受け入れられている」と実感する経験だということです。
待遇が良くても、受け入れられている実感がなければ職場はただの場所にすぎません。
しかし、受け入れられている実感があれば、多少の負荷があっても人は踏ん張ることができます。
働き続ける理由は、“条件”ではなく“関係性”の中から生まれるのです。
「続けたい職場」はふるまいから始まる
つまり、「ここで働きたい」と思える瞬間は、偶然に生まれるものではなく、
迎える側のふるまいがつくる必然です。
この視点に立ったとき、企業は初めて「続けたい職場」を設計するスタートラインに立てます。
安心が生まれる条件──“ここにいていい”を決めるもの
「ここで働きたい」と感じる瞬間の裏側には、必ず“安心”があります。
そしてこの安心は、偶然ではなく、いくつかの条件が揃ったときにだけ生まれます。
働く側にとっての安心とは、
「自分が受け入れられ、理解され、否定されない」という感覚のことです。
この感覚が揺らぐと、人はどれだけ待遇が良くても職場に居続けることが難しくなります。
安心の第一条件:気持ちを否定されない空気
仕事に慣れない時期は不安が多いものですが、
その不安を言葉にしたときに、相手がどんな反応を返してくるかで職場への印象は大きく変わります。
- 「そんなこと気にしなくていいよ」
- 「それくらい普通だよ」
こうした“軽い否定”は、悪気がなくても働く人の心を閉ざします。
一方で、
- 「そう感じるのは自然なことだよ」
- 「まず詳しく聞かせて」
と受け止めてくれる相手がいると、
その瞬間に“ここは味方がいる場所”へと変わります。
安心の第二条件:観察されている実感
努力したこと、昨日より少し改善できたこと、苦手な業務に挑戦したこと——
これらに気づいてもらえたとき、人は強い安心を感じます。
評価の話ではありません。
人として見てもらえているという実感が、職場への信頼を育てます。
逆に、どれだけ頑張っても誰にも気づかれなければ、
「自分はここで必要とされていない」と感じてしまう。
これは、離職意向が強まる大きな要因です。
安心の第三条件:弱さを出せる関係性
ミスを報告するときに緊張が走る職場では、人は本当の力を出せません。
しかし、失敗を共有しても責められず、
「どうして起きたか一緒に整理しよう」と言ってくれる環境があれば、
人は挑戦を続けられます。
弱さを見せても受け止めてもらえる職場は、
働く側にとって“かけがえのない居場所”になります。
安心の第四条件:成長の軌道が見えること
人は、「自分はどこに向かっているのか」が見えないと不安になります。
明確なキャリアパスでなくても構いません。
- 「この業務ができたら次はこれを任せたい」
- 「半年後にはここを一緒に目指そう」
こうした“未来への目印”が共有された瞬間、
働く側の迷いが減り、「続ける理由」が生まれます。
まとめ
これらの条件に共通しているのは、
働く人が「受け入れられている」と感じられるかどうかです。
受け入れられている実感こそ、
「ここで働きたい」という感情の核になります。
安心は制度では生まれません。
安心は人のふるまいから生まれます。
そしてそのふるまいは、企業が意図的に設計できるものです。
「ここで働きたい」と思える瞬間は、偶然ではなく、迎える側の姿勢がつくる必然なのです。
良い職場が共通して持つ“迎える作法”──続けたい気持ちは日常のふるまいで育つ
「ここで働きたい」と思える瞬間をつくる職場には、規模や業種に関わらず、ある共通点があります。
それは特別な制度や高待遇ではなく、迎える側の“作法”が揃っていることです。
これはルールのように形式的なものではなく、
文化として息づいている“ふるまいの基準”です。
言葉の選び方が丁寧である
たとえば、同じ内容でも、
- 「なんでこうなるの?」より「どこで迷ったかな?」
- 「早く覚えて」より「一緒に慣れていこう」
といった言葉は、働く側にまったく違う印象を与えます。
良い職場ほど、相手の尊厳を傷つけない言葉を自然に選ぶ文化があります。
この“ことばの優しさ”は、働き続ける上での強力な支えになります。
聞く姿勢が整っている
忙しいときほど上司や先輩は話を短く切り上げがちですが、
良い職場ではその逆です。
- 「少し時間をつくろうか」
- 「まず話を全部聞かせて」
こうした姿勢が当たり前になっている職場は、
働く人にとって安心できる場所になります。
聞いてもらえるという実感は、
自分の存在が受け入れられている証拠です。
フォローの早さと小ささ
大げさな支援は不要です。
- メモの取り方を一緒に確認する
- 困っていそうなら数分だけ隣に座る
- 新しい業務の最初の一回だけ付き添う
このような“小さなフォロー”が早い段階で入ることが、
働く側に大きな安心をもたらします。
逆に、困っている期間が長引くほど、
“孤立感”が強まり離職につながります。
ミスを共同作業として扱う文化
「どうして失敗した?」ではなく、
「一緒に原因を見つけよう」というスタンスが徹底されている職場。
失敗を個人の責任とせず、
チームの改善材料として扱う文化があると、
働き手が挑戦を恐れず、成長のスピードが上がります。
結果として、職場全体の雰囲気が柔らかくなります。
過程を認める文化
- 「昨日より少し進歩したね」
- 「この準備のおかげで助かったよ」
こうした“気づきの言葉”が飛び交う職場では、
働く側は自分の存在価値を感じられます。
逆に、成果のみを追う文化では、
努力しても報われない感覚が強まり、職場への愛着が薄れます。
弱さを見せられる関係性
不安や迷いを言っても否定されない、
困ったときには必ず誰かが手を差し伸べてくれる——
こうした環境で人は「ここで働きたい」という確信を育てます。
まとめ
これらの“迎える作法”は決して偶然ではありません。
企業が意識して積み重ねてきたふるまいの結果です。
つまり、どの会社でも再現可能であり、
「続けたい職場」はつくれるということです。
反転──働く側が「ここで続けたい」と決める瞬間
働く側が「ここで働きたい」ではなく、「ここで続けたい」と腹の底で決める瞬間があります。
それは待遇や制度では決まりません。
“この会社で働き続けてもいい”という感情は、
いつも人との関係性の中で静かに芽生えるものだからです。
その決定の瞬間は、劇的な出来事ではなく、
積み重ねの最後にふっと訪れるような、言葉にしづらい感覚として現れます。
- 自分の成長を一緒に喜んでくれた瞬間
- ミスをしたとき、責めるのではなく「状況を教えて」と言ってくれた瞬間
- 忙しいはずなのに、こちらの相談を後回しにしなかった瞬間
- 弱い気持ちを伝えたとき、「その気持ちわかるよ」と共感してくれた瞬間
こうした出来事は小さく見えますが、
働く側の価値観を大きく揺らす力を持っています。
「自分は大事にされている」という感覚
特に、続けたいと決める瞬間には、必ず
「自分は大事にされている」という感覚が存在します。
人は、合理的な理由よりも、感情的な安心を根拠に物事を選ぶ性質があります。
どれだけ待遇が良くても、“大事にされていない感”が積み重なれば人は離れていきますし、
待遇がそこまで高くなくても、“自分を理解してくれる人がいる”と感じれば、
迷わず職場に残る選択をします。
「この会社に残ろうと思った理由は、給料でも制度でもなくて、
ミスした日の帰りに上司が“今日はよく頑張ったね”って言ってくれたことなんです。」
本人にとっては何気ない一言のようでしたが、
この瞬間が“続けたい理由”を決定づけたのです。
働く側から見れば、大事にされている実感こそが、
職場への信頼の源泉になります。
完璧な職場でなくても生まれる感情
「続けたい」という感情は、必ずしも“完璧な職場”から生まれるわけではありません。
むしろ、多少の不便さや負荷があっても、
- 助けてくれる人がいる
- 相談すれば応えてくれる
- 弱さを受け止めてくれる
- 自分の努力に気づいてくれる
こうした経験があると、人はその職場への“粘り強さ”を発揮します。
つまり、人は「問題がない職場」に残るのではなく、
「問題があっても一緒に向き合ってくれる人がいる職場」に残るのです。
“続けたい瞬間”は設計できる
そして最も本質的なのは、
この“続けたい瞬間”は、企業の側が意図的に設計できるという点です。
迎える作法を磨き、丁寧な関係性を積み重ねていくことで、
働く側にとっての“続けたくなる理由”は必ず育ちます。
続けたいという気持ちは偶然の産物ではありません。
それは、「迎えられている」と実感した瞬間に初めて生まれる、
職場への静かな約束です。
結び|読者への問いかけ
「働きたい」と「続けたい」は、まったく別の瞬間
「ここで働きたい」と思える瞬間は、職場に対する好印象をつくります。
しかし、「ここで続けたい」と決断する瞬間は、それよりもずっと深い場所で生まれます。
決め手は“外側”ではなく“内側の安心”
それは制度や待遇といった“外側”ではなく、
日々のやり取りの中で感じる“内側の安心”によって決まるからです。
どれだけ職場が整っていても、
働く人が「自分は受け入れられている」「大切に扱われている」と感じられなければ、
その職場はただの“通過点”になってしまいます。
逆に、多少の負荷や不便さがあっても、
誰かの一言が、誰かの寄り添いが、
その職場を“居場所”へと変えていきます。
「続けたい理由」は育てられる
そして、私が現場支援の中で繰り返し感じてきたことは、
働く側の「ここで働きたい」「ここで続けたい」という瞬間は、
企業が意図的に育てられるということです。
迎える作法を磨き、丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、
「続けたい理由」は確実に増えていきます。
受け入れられた経験が、定着を支える
人が働き続ける背景には、
いつも小さな“受け入れられた経験”が存在します。
その積み重ねこそが、
離職を防ぎ、定着を支え、企業文化を静かに形づくります。
企業が見落としがちな「扱われ方」の視点
働く側の視点から見える「ここで働きたい」という瞬間は、
企業側が見落としがちな視点でもあります。
制度や待遇を整えることも大切ですが、
働く人にとって本当に心を動かすのは、
“自分がどう扱われたか”という体験です。
扱われ方が、職場の意味を決める
扱われ方が丁寧であれば、
その職場は働く人の人生の一部になり、
扱われ方が雑であれば、
どれほど条件が良くても長くは続きません。
読者の皆さまへ、問いかけ
あなたがこれまで働いてきたなかで、
「ここで働きたい」と感じた瞬間は、どんなときでしたか?
そしてその瞬間をつくったのは、
制度だったでしょうか?
それとも誰かの言葉、寄り添い、ふるまいだったでしょうか?
働く側が「ここで働きたい」と思える瞬間は、
偶然ではなく、迎える側がつくり出すものです。
今日の一言、今日の態度が、
誰かの“続けたい理由”になるかもしれません。
その積み重ねが、あなたの職場を
「選ばれる場所」から「続けたい場所」へと変えていきます。
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