第8回 [H-1]|話すことで、居場所が生まれる — 自分を取り戻す対話の始め方【迎える経営論|対話編(働く側視点)】 | ソング中小企業診断士事務所

第8回 [H-1]|話すことで、居場所が生まれる — 自分を取り戻す対話の始め方【迎える経営論|対話編(働く側視点)】

第8回 [H-1]|話すことで、居場所が生まれる — 自分を取り戻す対話の始め方【迎える経営論|対話編】

「話すのが苦手なんです。」

そう言う人は少なくありません。迷惑をかけたくない、場を乱したくない、うまく言葉にできない――そんな思いが重なると、人は自然と「黙る」という選択をします。
かつての私自身も、会社員時代に同じ悩みに長く苦しんだ一人でもあります。

けれど、黙っているからこそ、孤独は深まっていきます。
仕事はできている。トラブルも起こしていない。周りとも衝突していない。
それでも、「ここにいてもいいのだろうか」と心が少しだけ浮いたままになることがあります。

話すことは、相手を説得することではありません。
自分の意見を押しつけることでも、正しさを示すことでもありません。

話すとは、
「私はここにいます」と小さく手を上げること。
自分の内側にある、まだ形になりきらない思いや感情を、そっと外に出してみる行為です。

それは、弱さではなく 関係への“招待状” です。

「わかってほしい」ではなく、
「ここにいたい」という静かな願い。

その言葉が誰かに受け取られたとき、人は初めて「居場所がある」と感じます。

迎える経営論マトリクス

テーマ 主題 視点
企業側 働く側 支援側
思想編 「迎える経営」とは何か 採用・関係性の哲学的出発点 A B C
信頼編 信じて差し出す経営 信頼の先行が組織文化を変える D E F
対話編 わかり合う職場をつくる 面談・1on1・心理的安全性 G H I
定着編 続く人、育つ文化 定着率向上とキャリアデザイン J K L
理念編 共感でつながる採用 理念採用・共感ベースの発信 M N O
実装編 「みえるシート」による循環設計 仕組み化・可視化・データ共有 P Q R
成長編 挑戦を迎え、共に学ぶ組織 若手育成・失敗の受容・共進化 S T U
未来編 人を中心にした経営のゆくえ 人的資本経営の次フェーズを描く V W X

左右にスクロールできます。

本コンテンツ「迎える経営論」は、8つの編と3つの視点、あわせて24のグループに記事を分けて展開していきます。

記事No:H-1
③ 対話編|わかり合う職場をつくる
主題:面談・1on1・心理的安全性主題
働く側視点

この記事を読むことで得られること

  • なぜ人が「言わないほうが安全」と学習し、沈黙が孤立を深めてしまうのかが理解できます
  • 出来事ではなく内側を伝える「事実→感情→願い」の3ステップという、すぐ使える話し方の型が手に入ります
  • 小さな一言から居場所が育つ仕組みと、今日から試せる最初の一歩(短い例文つき)を持ち帰れます

まず結論:話すことは弱さの表明ではなく「私はここにいたい」という関係への招待であり、等身大の一言があなたの居場所をつくり始めます。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

「言わないほうが安全」という学習と言葉を取り戻す小さな一歩

「言わないほうが安全」という学習

人は、ある日急に「話せなくなる」のではありません。
話そうとしたときに、うまく受け取られなかった経験が積み重なり、
少しずつ「言わないほうが安全だ」と学習していきます。

たとえば、学生時代。
「空気を読め」と言われたことはありませんか。
自分の意見を言うより、正解らしいものに合わせるほうが評価される。
意見を出すと、「それってさ…」と返され、笑われたこともあるかもしれません。

あるいは、前職やアルバイト先。
改善の提案をしたら「それは現場を知らないからだ」と切り捨てられた。
困っているときに相談したら「それぐらい自分で乗り越えろ」と言われてしまった。
そんな体験が蓄積していくと、人は静かにこう思うようになります。

話さないほうが、うまくいく。

話すことは、勇気を要します。
言葉を外に出すというのは、自分の内側を、他者が触れる場所に置くことだからです。
そこには、理解されないかもしれないという不安があります。
否定されるかもしれないという怖さがあります。

だからこそ、多くの人は「黙る」ことを選びます。
黙っている限り、傷つくことはありません。
黙っている限り、波風は立ちません。
そして、黙っている限り、周囲との関係も大きく乱れません。

けれど同時に、黙っている限り、人は誰からも知られないままです。

仕事をしていても、「役割をこなしている人」として認識されるだけで、
「自分」という存在は見えないまま。
そこにいるのに、いないように感じる瞬間が、心の奥に影のように残ります。

本当は、誰だって「わかってほしい」わけではありません。
ただ、
「ここにいてもいい」
「この場に自分の居場所がある」
そう感じたいだけなのです。

しかし、居場所は与えられるものではありません
「誰かが用意してくれたら、そこに座る」ものではないのです。

居場所は、
自分が言葉を出したときに、その言葉が受け取られたときに生まれるもの。

言葉を出さなければ、居場所は生まれません。
誰かに気づかれることもありません。
「自分はここにいる」という輪郭が、組織の中に刻まれないままになってしまいます。

そして、怖いのはここです。

黙っていると、 自分の存在を感じられなくなる。

仕事はしている。
責任も果たしている。
けれど、「自分の人生を生きている」という実感が薄れていく。

その状態は、一見、安定しているように見えて、
実は、心が静かに疲弊していく状態です。

だからこそ、
話すことは「勇気」ではなく、自分の存在を自分に取り戻す行為です。

そしてその一歩は、決して大きなものではなくていい。

  • 今日はちょっと疲れました
  • ここ、うまくいかなかったんです
  • 実は少し悔しかったです

そんな、本当に小さな言葉でいいのです。

その一言が、
自分と、誰かとの間に「つながり」を生む最初の瞬間になります。

反転の視点|話すことは「弱さの表明」ではなく「関係の招待」

話すことは弱さではなく、存在の表明

多くの人は、「話すこと」は自分の弱さをさらけ出す行為だと感じています。
「こんなことを言ったら迷惑かもしれない」
「変に思われるかもしれない」
「未熟だと思われたらどうしよう」
──そうした不安が、言葉を飲み込ませます。

しかし実際には、話すことは弱さを見せることではありません。

話すことは、
「私はここにいたい」と相手にそっと手を伸ばす行為です。

相手を動かそうとする必要はありません。
理解してもらおうと力む必要もありません。
届かなくてもいい。完璧でなくていい。

「私はここにいます」
と、静かに存在を示すだけでいいのです。

居場所は“与えられる”ものではなく、“育つ”もの

私たちはどこかで、「居場所は誰かが作ってくれるもの」だと思いがちです。

  • 歓迎される
  • 認められる
  • 必要とされる
  • 評価してもらえる

その条件が揃った場所に、自分が座れるのだと。
でも、本当は逆です。

居場所は、対話の中で育っていくものです。

小さな言葉を交わすたびに、
相手と自分の間に、細い線が一本引かれます。
それが何本も重なることで、やがて「つながり」になります。

居場所とは、「つながり」の総量です。

話す=「関係に参加する」こと

沈黙したままでは、関係に参加できません。
ただ“そこにいる人”で終わってしまいます。

でも、たとえ短い言葉であっても、
「今日の自分」を少しだけ外に出した瞬間、
人は関係の中に自分の輪郭を持ち始めます。

話すとは、相手に自分を近づける、小さな一歩です。
それは決して押しつけではありません。

「私はここにいたいんです」

というおだやかなサインです。

届かなくても、価値はある

そして重要なのは、相手に完璧に理解される必要はないということです。

むしろ、人は完全にはわかり合えません。
でも、「わかろうとしてくれた」という経験は、人を強くします

話す行為そのものが、
すでに自分の存在を肯定する行為なのです。

だから、話すということは、
自分のためであり、同時に
関係に参加し、居場所を育てるための営みでもあるのです。

実践の型|“出来事”ではなく“自分の内側”を言葉にする

出来事の説明ではなく、内側を共有する

「話そう」と思ったとき、多くの人は出来事の説明をしようとします。

  • 「今日の会議で、意見がまとまりませんでした。」
  • 「お客様とのやりとりで少し時間がかかりました。」
  • 「作業が予定より遅れました。」

もちろん、出来事を共有することにも意味はあります。
しかし、居場所は「出来事の説明」からは生まれません。

居場所は、
その出来事が自分にとって“どんな意味を持ったのか”を共有したときに生まれます。

言い換えれば、
人は“事実”ではなく、“内側”でつながるのです。

言葉にするときの3つの順番

話す内容 具体例(会議で意見が言えなかった場合)
事実 何があったのか 「会議で意見を言えませんでした。」
感情 どう感じたのか 「本当は言いたいことがあったのに、言えなくて悔しかったです。」
願い どうありたいのか 「次は少し勇気を出して、言葉にしてみたいです。」

この3つが揃ったとき、
その言葉は「自分の居場所をつくる言葉」になります。

居場所は「願い」を表した瞬間に芽を出す

多くの人は、「事実と感情」までは話せても、最後の“願い”を口にすることができません。

なぜなら、願いは「自分の大事な部分」だからです。
そこを否定されると、とても痛い。

でも、ここにこそつながりの種があります。

願いとは、
「私はこうありたい」
という未来への小さな灯りです。

その灯りを、誰かがそっと受け取ってくれたとき、
人は「この場所にいていい」と思えるようになります。

完璧な言葉でなくていい

言葉はうまくまとまらなくていい。
言い淀んでもいい。
途中で止まってもいい。

むしろ、その不器用さの中に、
その人の「等身大」が現れます。

居場所は、うまく話せたときに生まれるのではなく、
本当の言葉を出したときに生まれるのです。

文化になる瞬間|言葉が“自分の居場所”をつくる

小さな言葉が線を引く

一つの言葉は、とても小さなものです。
数秒で消えてしまいそうなほど、か弱くて、細い。

けれど、その小さな言葉が、人と人の間に一本の線を引きます。

  • 「今日、少し不安でした。」
  • 「実はちょっと悔しかったんです。」
  • 「次は、もう少しうまくやりたいです。」

その線は、最初はとても細く、頼りないものです。
けれど、もう一度話すと、その線はもう一本増えます。
さらに話せる日は、また一本。

そうして、線が何本も重なったとき、“つながり”と呼べるものが生まれます。

居場所は「知ってくれている人」の存在で形になる

人は、「理解された」ときではなく、
「覚えていてくれる人がいる」と感じたときに居場所を持ちます。

たとえば、次の日。

「昨日、悔しかったって言ってたよね。今日はどう?」

その一言だけで、人はこう感じます。

ああ、私はちゃんとここにいるんだ。

居場所とは、部屋でも席でも制度でもなく、
関係の中に生まれる感覚です。

話す人が増えると、孤立は自然と減っていく

組織には、話せる人と話せない人がいます。
しかし、話す人が一人でも増えると、沈黙は少しずつほどけていきます。

話す人が増えると、「話していい」という合図が共有されます。

すると、話すことは「特別」ではなくなり、日常の一部になっていきます。

それは、職場の雰囲気が変わるというより、
職場の“呼吸”が変わるという表現のほうが近いでしょう。

言葉を飲み込む息づかいから、言葉を出していい息づかいへ。
その変化は、静かで、繊細で、しかし確かです。

居場所は「誰かがくれるもの」ではなく「育つもの」

居場所は、最初から用意されているわけではありません。
また、優しい誰かがプレゼントしてくれるものでもありません。

居場所は、言葉の往復によって“育つ”ものです。

  • 話した言葉を、誰かが受け取る
  • 受け取られた経験が、「また話してもいい」という許可を自分に与える
  • そしてまた言葉が生まれる

こうして、

言葉 → 許可 → つながり → 居場所

という循環が始まります。

その循環が続く場所を、人は「安心できる場所」と呼びます。

結び|読者への問い

話すことは勇気。でも大きなものでなくていい

話すことは、勇気がいることです。
でも、その勇気は大きなものでなくて構いません。

言葉は、きれいである必要も、正確である必要もありません。
言い淀んでもいい。途中で止まってもいい。
うまく伝わらなくてもいい。

大切なのは、
「自分の中にあるものを、自分がちゃんと扱おうとした」という事実です。

その姿勢は、必ず誰かに届きます。

そして、その瞬間に
あなたと誰かの間に細い一本のつながりが生まれます。

そのつながりが重なれば、
そこは「あなたがいていい場所」になります。

居場所は言葉と受け取る姿勢の間で育つ

居場所は、最初からどこかにあるものではなく、
あなたの言葉と誰かの受け取る姿勢のあいだで、そっと育っていくものです。

だから、今日の一言で十分です。

  • 「今日は少し疲れました。」
  • 「ここ、悔しかったです。」
  • 「もっとよくしたいと思ってるんです。」

ほんの一言だけでいいのです。

最後の問いかけ

では、最後に小さな問いを置きます。

今日、あなたはどんな言葉を外に出してみますか?

そして、その言葉は
誰とつながるための一歩になるでしょうか?

その一言が、
あなたの居場所のはじまりかもしれません。


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