第7回 [G-1]|上司が「聞く」だけで変わるチーム — 対話が文化になる瞬間【迎える経営論|対話編(企業側視点)】 | ソング中小企業診断士事務所

第7回 [G-1]|上司が「聞く」だけで変わるチーム — 対話が文化になる瞬間【迎える経営論|対話編(企業側視点)】

第7回 [G-1]|上司が「聞く」だけで変わるチーム — 対話が文化になる瞬間【迎える経営論】

職場の空気は不思議なもので、「話せる日」と「話せない日」の違いは、主に「聞く側」(上司)の状態によって生まれます。上司が忙しそう、あるいは結論を急ぐなど、「聞く余白」がないと、部下は「本音を言っても意味がない」と感じ、職場から言葉が消えていきます。

多くの組織で会話は「報告・相談・指示」に偏りがちですが、人が動くには、「自分の思いが受け取られた」という静かな実感が必要です。しかし、「1on1が続かない」「本音を言える雰囲気がない」という課題が多くの企業で聞かれます。
「話してもいい」という空気は、制度や仕組みだけではつくれません。

対話を生む最初の小さな一歩は、上司が「話す」量を減らし、「聞く」姿勢を少しだけ増やすことです。上司は完璧に理解する必要はなく、ただ相手の言葉が自分の中に入ってくる「余白」を空けておくだけで、チームの言葉量は変わります。
言葉になっていない思いこそ、仕事を前に進める力であり、その芽を育てるか摘むかは、上司の「聞き方」によって決まります。

本稿では、上司が「聞く」ことでチームがどう変わるのか、
そして、それを組織文化として根づかせていくための具体的な視点を考えていきます。

迎える経営論マトリクス

テーマ 主題 視点
企業側 働く側 支援側
思想編 「迎える経営」とは何か 採用・関係性の哲学的出発点 A B C
信頼編 信じて差し出す経営 信頼の先行が組織文化を変える D E F
対話編 わかり合う職場をつくる 面談・1on1・心理的安全性 G H I
定着編 続く人、育つ文化 定着率向上とキャリアデザイン J K L
理念編 共感でつながる採用 理念採用・共感ベースの発信 M N O
実装編 「みえるシート」による循環設計 仕組み化・可視化・データ共有 P Q R
成長編 挑戦を迎え、共に学ぶ組織 若手育成・失敗の受容・共進化 S T U
未来編 人を中心にした経営のゆくえ 人的資本経営の次フェーズを描く V W X

左右にスクロールできます。

本コンテンツ「迎える経営論」は、8つの編と3つの視点、あわせて24のグループに記事を分けて展開していきます。

記事No:G-1
③ 対話編|わかり合う職場をつくる
主題:面談・1on1・心理的安全性主題
企業側視点

この記事を読むことで得られること

  • 「業務の会話」と「内側の言葉」の違いが整理でき、上司の“聞く余白”が職場の空気を変える理由がわかります
  • 誰でも再現できる〈三層で聞く(事実・解釈・背景)〉と、今日からできる3つの態度(結論を急がない/答えを与えない/沈黙を待つ)を具体的に掴めます
  • 1人の上司の選択がチームの文化と生産性に波及するプロセスを理解し、現場での最初の一歩が明確になります

まず結論:対話は特別なスキルではなく「選択」であり、上司が話す量を減らして〈事実・解釈・背景〉の三層で“聞く余白”をつくるだけで、職場の言葉と成果は動き出します。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. 職場の感情が行き場をなくす理由──“指示と報告”に閉じた組織構造の限界
    1. 業務会話だけでは人は前向きに動けない──内側の言葉が扱われない職場
    2. 業務会話には意味があるが、帰属感は生まれない──感情の受け止め不足
    3. 言葉にならない不安は沈黙となって蓄積される──話さないことが正解になる職場
    4. 必要なのは話す努力ではなく聞く器──関係性が対話を育てる
  2. 上司が“話さずに聞く”だけで変わる職場関係──対話の前提を反転する視点
    1. 話すほど部下は話さなくなる──正しさよりも沈黙を生む構造
    2. 聞くとは理解ではなく尊重──言葉が存在できる場をつくる
    3. 聞く上司がいるだけで変わるチーム──言葉量と空気の変化
    4. 対話は能力ではなく選択──今日からできる3つの態度
  3. 現場で再現できる聞き方の設計──「三層で聞く」対話の実践モデル
    1. 聞くことの構造化──三層で言葉を受け取る技術
    2. 第一層:事実の層を聞く──出来事を丁寧に確認する
    3. 第二層:解釈の層を聞く──感情の受け止めを許可する
    4. 第三層:背景の層を聞く──価値観に触れる深い対話
    5. 聞くことの目的──結論や助言は最後でいい
  4. 対話が文化になる瞬間──話すことと聞くことが当たり前になる職場づくり
    1. 日常のささやかな対話が文化をつくる──特別な場ではなく積み重ねが鍵
    2. 対話は場づくりではなく関係の質──制度よりも関係性が先にある
    3. 対話が葛藤を資源に変える──違いを前進のエネルギーに
    4. 上司の態度が文化を変える──言葉から成果へつながる連鎖
  5. 対話は誰にでもできる実践──「聞くこと」から始まる信頼の文化
    1. 対話とは相手の存在を尊重する最小の行為──特別な才能も時間もいらない
    2. 読者への問い──今日、誰の言葉を受け取りますか

職場の感情が行き場をなくす理由──“指示と報告”に閉じた組織構造の限界

業務会話だけでは人は前向きに動けない──内側の言葉が扱われない職場

多くの現場では、会話が「業務のやり取り」だけに固定されています。

  • 「○○の件、どうなっている?」
  • 「すぐ確認します」
  • 「次回から気をつけて」

──これ自体は必要な会話です。仕事は進みます。
けれど、このやり取りだけでは、人は前向きには動けません。
人が力を発揮するのは、自分の中にある「考え」や「感じていること」の扱い方が整っているときです。
しかし、多くの組織ではその「内側の言葉」を扱う文化が十分に育っていません。

理由はシンプルです。
“感情や解釈の話は、生産性が低いものとして扱われやすいから”。
特に忙しい職場ほど、上司も部下も「とにかく業務を進めること」が第一になります。
その結果、「余白」の価値が過小評価されてしまうのです。

業務会話には意味があるが、帰属感は生まれない──感情の受け止め不足

業務会話には意味があります。必要です。
しかしそれだけでは、人は「ここにいていい」とは思えません。

たとえばこんな場面があります。

部下:「最近、少し負担が大きい気がしていて……」
上司:「そうか。でも今は繁忙期だから、みんな踏ん張ってるよ」

この返しは、正しいようで、実は会話を終わらせています。
「他の人も大変だよ」という言葉は、本人の感情を比較して消してしまうからです。
本人は「繁忙だから辛い」のではなく、「辛さに対して受け止められていないこと」が苦しいのです。

言葉にならない不安は沈黙となって蓄積される──話さないことが正解になる職場

人は、言葉にできない感情を抱えたままでも働くことはできます。
しかし、それは長くは続きません。
表面では普通に仕事をしながら、内側ではこう考えています。

  • 「言ってもわかってもらえない」
  • 「迷惑をかけるだけだ」
  • 「これくらい自分で耐えないと」

そうして、組織の中に “話さないことが正解” という暗黙のルール が積み重なります。
そしてその沈黙は、

  • 突然の離職
  • 急なモチベーション低下
  • 小さなトラブルの連鎖

として、ある日、表に現れます。
つまり、会話が成立していない組織は、静かに壊れていきます。

必要なのは話す努力ではなく聞く器──関係性が対話を育てる

「もっと話そう」と言ってもうまくいかない理由はここにあります。
話す側に努力を求めても、その言葉が「受け取られる」という確信がなければ、人は話しません。

本当に必要なのは、話す技術ではなく、聞く側の“器”を広げること。
上司が構える必要はありません。
深く理解する必要もありません。
ただ、相手が安心して言葉を置ける「場所」になれるかどうか。
組織における対話は、能力ではなく、関係のデザイン なのです。

上司が“話さずに聞く”だけで変わる職場関係──対話の前提を反転する視点

話すほど部下は話さなくなる──正しさよりも沈黙を生む構造

多くの上司は、「良い上司とは、正しい方向へ導ける人だ」と考えています。
困っている部下を見れば、助言したくなります。
悩んでいる様子を見れば、励ましたくなります。
仕事につまずいていれば、解決策を提示したくなります。
もちろん、その思いは真剣で、誠実です。

しかしここに、見落とされやすい前提があります。
それは、「上司が話すほど、部下は話さなくなる」ということです。
上司が話せば話すほど、部下は「答えは上司が持っている」と感じます。
すると、部下は「考える」前に「正解を探す」ようになります。
その瞬間、主体性は静かに失われていきます。

聞くとは理解ではなく尊重──言葉が存在できる場をつくる

「聞くことが大事」と言うと、「ちゃんと理解しなければならない」と思う人がいます。
しかし、対話における「聞く」は、理解の深さを競うものではありません。
本質は、相手の言葉が自分の中に“そのまま存在できる場所”を用意することです。

  • 否定せず
  • 評価せず
  • 急がず

ただ、「そう感じているのだ」と受け取る。
人は、理解されたときよりも、受け止められたときに安心します。

聞く上司がいるだけで変わるチーム──言葉量と空気の変化

組織文化は、多数決で形成されるのではありません。
「誰が場の空気を握っているか」で決まります。
もしチームの中心にいる上司が「聞く」人であれば、それだけで他のメンバーは “話していい” と理解します。

上司が

「そのとき、どんなふうに感じた?」

と問い、沈黙して待ち、出てきた言葉をそのまま受け取る。
たったそれだけで、職場の前提が変わります。

“意見は求められているもの”から、
“思いは歓迎されているもの”へ。
この転換は、表面的なコミュニケーション改善ではありません。
組織の呼吸そのものが変わる瞬間です。

対話は能力ではなく選択──今日からできる3つの態度

聞くことは、才能や訓練が必要な高度なスキルだと思われがちです。
もちろん、技術として磨く段階はあります。
しかし最初に必要なのは能力ではなく、態度の選択です。

  • 「すぐに結論を言わない」
  • 「急いで答えを与えない」
  • 「相手が言葉を探している時間を待つ」

この3つを、“意識して選ぶ”だけで、対話は成立します。
そしてこれは、どれも今日からできることです。

現場で再現できる聞き方の設計──「三層で聞く」対話の実践モデル

聞くことの構造化──三層で言葉を受け取る技術

「聞くことが大切」と言われても、現場で再現できなければ意味がありません。
そこで本稿では、どんな現場でも使える 聞き方の基本構造 を示します。
それが、『三層で聞く』という聞き方の設計です。

人の言葉には常に、

  • 事実
  • 解釈
  • 背景

の三層が存在します。
この3つを分けて受け取るだけで、対話は驚くほどスムーズになります。

第一層:事実の層を聞く──出来事を丁寧に確認する

「何が起きたのか」を丁寧に受け取る段階です。
多くの対話がうまくいかない理由は、事実が共有される前に “解釈” や “評価” が混ざるためです。

例:「営業会議で否定されてモチベーションが下がりました」
この言葉には、

  • 会議で何が言われたのか(事実)
  • それをどう受け取ったのか(解釈)
  • なぜそう感じたのか(背景)

が混ざっています。
まずはここを丁寧に分けます。問いはシンプルで良いのです。

「そのとき、実際にはどんなやりとりがありましたか?」

事実を落ち着いて確認するだけで、感情の濁りが少しずつ透明になります。

第二層:解釈の層を聞く──感情の受け止めを許可する

ここでは、「相手はその出来事をどう受け取ったのか?」を確かめます。
同じ出来事でも、人によって受け取り方はまったく違います。
ここを飛ばして「正論」や「改善案」を語ると、相手の言葉は閉じます。

「そのとき、どんなふうに感じましたか?」

この質問は、相手に「自分の感情を扱っていい」という許可を渡します。
対話が成立する瞬間です。

第三層:背景の層を聞く──価値観に触れる深い対話

最後に、より深い部分に触れていきます。

「なぜ、その出来事があなたにとって大事だったのでしょう?」

ここに出てくるのは、

  • 価値観
  • 人生経験
  • 過去の痛み
  • 仕事観

といった、その人を形づくる核の部分です。
この層を急いで聞く必要はありません。
しかし、ここに触れた瞬間、相手はこう感じます。

「自分は、この組織で大切にされているかもしれない。」

チームにとって、これ以上強いエネルギーはありません。

聞くことの目的──結論や助言は最後でいい

上司が「聞く」ことの目的は、相手の中にある言葉が育つ場所を整えることです。
結論を急がなくてもいい。
正しい助言を探さなくてもいい。
部下の言葉が、部下自身にとって意味を持ち始めるまで、待てばいいのです。

上司は「成長させる側」ではありません。
成長が起きる空間の“土壌”を耕す側です。
その土壌を耕す最小の行為こそ、聞くという選択です。

対話が文化になる瞬間──話すことと聞くことが当たり前になる職場づくり

日常のささやかな対話が文化をつくる──特別な場ではなく積み重ねが鍵

対話は、特別な時間をつくらなければ成立しないものではありません。
もちろん 1on1 や面談のような「場」を設定することも大切ですが、
本当に組織を変えていくのは 日常の中での、ささやかな対話の積み重ね です。

  • 朝の引き継ぎの5分
  • 業務後の帰り際の一言
  • 休憩中の短いやりとり

こうした「ちょっとした会話」に、
事実 → 解釈 → 背景 を丁寧に扱う姿勢があるかどうかで、
組織のコミュニケーションは大きく変わります。

対話は場づくりではなく関係の質──制度よりも関係性が先にある

ある会社では、毎週 1 時間の 1on1 を制度として運用していました。
しかし現場の声はこうでした。

  • 「話しても結局、改善はない」
  • 「何を話したらいいかわからない」
  • 「日々の忙しさに押されてしまう」

これは、対話が“イベント”になっている状態です。
形式はあるのに、関係が追いついていない。

本当に対話が根づく組織では、次の順番で変化が起きます。

  1. 一人の上司が「聞く」ことを選ぶ
  2. その上司の周りで「話せる人」が少しずつ増える
  3. 言葉が循環しはじめ、共有の解釈が育つ
  4. 「話せる関係」がチームの標準になる

これは制度ではなく 文化の変容 です。

対話が葛藤を資源に変える──違いを前進のエネルギーに

組織に葛藤がなくなることはありません。
むしろ、挑戦している組織ほど葛藤は発生します。
大切なのは、葛藤を避けることではなく、
葛藤を言葉で受け止められる状態にしておくこと。

対話がある組織では、「違い」が対立ではなく 意味ある気づき に変わります。

  • 価値観の違い
  • 経験の違い
  • 役割の違い

その差異を「ぶつかるエネルギー」ではなく、
「前に進むエネルギー」に変換できるのです。
対話は、組織にとっての変換装置です。

上司の態度が文化を変える──言葉から成果へつながる連鎖

組織の変化は、大きな施策よりも小さな態度から始まります。
上司が、

「今、どう感じている?」
「それは、なぜ大事だと思った?」

と問い、急がずに待つ。
それだけで、部下は

「自分の言葉が、この組織の中で生きていい」

と理解します。

その理解が、

  • 自発性
  • 協働
  • 信頼
  • 成果

へと連なっていくのです。
つまり、対話とは生産性そのものです。

対話は誰にでもできる実践──「聞くこと」から始まる信頼の文化

対話とは相手の存在を尊重する最小の行為──特別な才能も時間もいらない

対話は、特別な才能がある人だけが扱えるものではありません。
また、時間に余裕のある組織にしか許されないものでもありません。
対話とは、「相手の存在を尊重する」ための最も小さな実践です。

上司が、すべてを理解しなくていい。
正しい助言ができなくていい。
励ましの言葉を用意できなくてもいい。
ただ、相手が言葉を探す 沈黙の時間を一緒に耐えること

その沈黙の中に、人が本当に大切にしている思いや、不器用な願いが育っています。
それを急いで言語化しないこと。
評価しないこと。
「こうあるべきだ」と結論を先に置かないこと。

その態度こそが、信頼を生む「迎える」側の構えです。

読者への問い──今日、誰の言葉を受け取りますか

では、最後に一つだけ、問いを置きます。

あなたの職場では、誰が誰の話を聞ける状態になっていますか?

そして、もうひとつ。
あなた自身は、今日、誰の言葉を受け取ることができるでしょうか?

対話は、明日でも来月でもなく、
「今日この瞬間」から始められます。
その最初の一歩は、ほんの小さなことです。
話さずに、聞いてみること。


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