
動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
名物は「ある」だけでは機能しない
かつては、その名前を聞くだけで人が集まりました。
「ここに来たら、これを食べる」「これを見るために訪れる」
──そんな“地域名物”は、確かに観光の中心でした。
しかし今、多くの地域で
名物が売れなくなるという現象が起きています。
味が落ちたわけではありません。
品質に手を抜いたわけでもありません。
むしろ、つくり手は真面目に、誠実に、続けています。
それでも選ばれなくなる理由は、
努力や完成度の問題ではなく、意味の劣化にあります。
名物は「ある」だけでは機能しません。
生活者にとっての意味が更新されなければ、
名物は徐々に「ただの定番」へと変わっていきます。
観光にも、実は賞味期限があります。
それは食べられるかどうかではなく、
「今の生活や価値観の中で、わざわざ選ぶ理由があるかどうか」。
多くの地域は、競争に敗れているのではありません。
問題は、名物の設計が更新されないままであること。
この回では、
名物を「守る対象」として扱い続けた地域と、
名物を「再編集する資源」として捉え直した地域を対比しながら、
観光の賞味期限をどう伸ばしていけるのかを考えていきます。
失敗ケース(A地域)|「名物があるから大丈夫」という思考停止
A地域は、長年“地域名物”を軸に観光客を集めてきた地方観光地です。
メディアに取り上げられ、団体客が訪れ、
一時期は「この名物がある限り安泰だ」とまで言われていました。
その成功体験が、やがて前提になります。
■ 過去の成功体験が、思考を止める
A地域では、
名物は「集客の答え」として扱われていました。
- 雑誌に載った
- テレビで紹介された
- バスツアーに組み込まれた
これらの記憶が、「変えなくても大丈夫」という安心感を生みます。
結果として、新しい問いは生まれなくなりました。
■ 名物を「守る」ことが目的化する
名物は次第に、
「育てるもの」ではなく「守るもの」へと変わっていきます。
- 作り方を変えてはいけない
- 見せ方も昔のまま
- 説明文も変えない
変えることが「価値を壊す行為」だと捉えられるようになります。
その間も、生活者の価値観や旅の動機は静かに変わっていました。
■ 体験・文脈・接点が、昔のまま
A地域の名物は、
「行けばわかる」「食べれば伝わる」設計のままでした。
- 事前に知る理由がない
- 体験の文脈が説明されない
- 記憶に残る接点が設計されていない
名物はそこにあるのに、
わざわざ行く理由が言語化されていない状態です。
■ 若年層とリピーターが、静かに離れる
A地域で最初に変化が現れたのは、
若年層とリピーターでした。
- 初回で満足して終わる
- SNSで語られない
- 再訪の理由が見つからない
不満が出るわけではありません。
クレームもありません。
ただ、次の候補から外れていく。
■ 売上は減るが、理由が見えない
売上は急落しません。
少しずつ、じわじわと下がっていきます。
関係者の間では、
- 「景気が悪いから」
- 「観光客全体が減っているから」
といった説明が繰り返されます。
しかし本質はそこではありませんでした。
■ 問題は“中身”ではなく“置かれ方”
👉 名物の味や品質が問題だったのではない
👉 努力が足りなかったわけでもない
名物の“置かれ方”が、時代からズレていただけです。
名物が
- 「なぜ今、選ばれるのか」
- 「誰のどんな時間に、どう機能するのか」
その問いが更新されないまま、
A地域は過去の成功の延長線に立ち続けていました。
成功ケース(B地域)|名物を「固定資産」から「編集資源」へ
B地域は、A地域と同じように地方観光地であり、
名産品・地域名物を軸に観光を展開してきました。
規模や立地条件、アクセスも大きくは変わりません。
違っていたのは、
名物の捉え方でした。
■ 名物を「完成品」ではなく「素材」と再定義
B地域では、名物を
「これで完成しているもの」
として扱うことをやめました。
代わりに置いた問いは、
「この名物は、どんな体験を生み出せる素材か」。
味や製法、歴史は変えていません。
変えたのは、名物が果たす役割です。
名物はゴールではなく、
体験の入口として再定義されました。
■ 食・景観・人・物語を“再編集”する
B地域では、名物を単体で売るのではなく、
周囲の要素と組み合わせていきます。
- 食べる場所の景観
- 作り手の語り
- 地域の日常風景
- 名物が生まれた背景
これらを組み合わせることで、
「買う・食べる」から
「体験する」へと意味が広がりました。
名物は、
地域を語るための編集素材として使われ始めます。
■ 季節・時間帯・来訪動機ごとに役割を変える
B地域が特に意識したのは、
来訪の文脈ごとに、名物の見え方を変えることでした。
- 初めて訪れる人
- 何度も来ている人
- 家族連れ
- 一人旅
さらに、
- 朝・昼・夜
- 平日・週末
- 季節ごと
名物は同じでも、
語られる意味や体験の入口は変わります。
名物を固定せず、
文脈に合わせて役割を変化させたのです。
■ 名物そのものは変えず、「意味」だけを更新
重要なのは、
名物そのものを変えなかった点です。
- 味は同じ
- 製法も同じ
- 伝統もそのまま
変えたのは、
- 「どう体験されるか」
- 「どんな時間に置かれるか」
その結果、
名物は“古いもの”ではなく、
今の旅にフィットする存在へと変わっていきました。
■ 数字が示した変化
B地域では、次の変化が見られます。
- リピーターの増加
- 紹介による来訪の増加
- 滞在時間の延長
名物は「一度体験すれば終わり」ではなく、
何度でも違う顔を見せる存在になりました。
■ 成功の本質
B地域が行ったのは、
名物の刷新ではありません。
名物の意味を、編集し続ける構造を持ったこと。
その違いが、
A地域との明暗を分けていきました。
▶︎ [初めての方へ]
この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
▶︎ [全体の地図はこちら]
現場の物語|「この名物、誰に向けて出しているんだろう?」
B地域で観光関連の仕事に就く佐々木さん(仮名)は、
もともと地域の名物に強い誇りを持っていました。
小さい頃から当たり前にあった味。
観光客が必ず立ち寄る定番。
「これを出していれば間違いない」──
そう信じて疑いませんでした。
■ 「言われた通り出すだけ」の日々
A地域と同じように、
佐々木さんの仕事は明確でした。
- 決められた場所に名物を置く
- 決められた説明をする
- 決められた流れで案内する
そこに疑問を挟む余地はありません。
名物は「完成しているもの」。
現場は、それを正しく出す役割でした。
■ お客の反応が、少しずつ薄くなる
変化は急ではありませんでした。
- 写真は撮るが、感想は少ない
- 説明を聞いても、会話が続かない
- すぐ次の場所へ移動していく
「悪くはないんだけどね」
そんな空気だけが残ります。
不満は出ません。
クレームもありません。
それがかえって、
違和感として積み重なっていきました。
■ 名物を疑うことへの怖さ
佐々木さんの頭に、
ふとした疑問が浮かびます。
「この名物、今のお客さんにとって、
本当に“意味のある時間”になっているんだろうか?」
しかし、その問いはすぐに打ち消されます。
- 名物を疑うのは失礼ではないか
- 先輩たちが守ってきたものだ
- 変えるなんて、とんでもない
名物を疑うことは、地域を否定することのように感じられたのです。
■ 「意味を考えていい」と言われた日
転機は、B地域での方針転換でした。
会議で投げかけられたのは、
「どうすれば売れるか」ではありません。
「この名物は、
誰の、どんな時間に寄り添っていると思う?」
佐々木さんは、戸惑いました。
正解を求められているわけではなかったからです。
初めて、
意味を考えていいと言われた感覚でした。
■ 名物が「誇り」から「対話の材料」へ
それ以降、佐々木さんの見方は変わります。
- 今日は誰が来ているのか
- どんな理由でここを選んだのか
- この名物は、今どんな入口になるのか
名物は、
「説明するもの」から
会話を始めるきっかけになりました。
お客の反応も変わっていきます。
- 「こういう背景があるんですね」
- 「この時間帯だから、いいですね」
- 「次は別の季節にも来たいです」
■ 現場が変わると、名物の顔が変わる
佐々木さんはこう振り返ります。
「名物を誇りに思う気持ちは、今も変わりません。
でも今は、“守るだけ”じゃなく、
“対話し続けるもの”だと思えるようになりました」
人が変わったわけではありません。
名物の扱い方を考えていい環境が生まれただけです。
その環境が、
名物を再び“生きた存在”に変えていきました。
──名物を「評価」するか、「意味の消費」を見るか A地域とB地域の差は、 名物の良し悪しではありません。 名物をどう扱い、どう観測していたか。 その視点の違いが、結果を分けました。 ■ 構造比較:名物の“中身”ではなく“位置づけ”の違い
| 観点 | A地域 | B地域 |
|---|---|---|
| 名物の扱い | 固定された完成品 | 編集可能な資源 |
| 観光設計 | 来ればわかる | 来る理由を設計 |
| 顧客理解 | 属性・人数 | 来訪動機・変化 |
| 改善軸 | 露出・価格 | 意味・文脈 |
A地域は、
「名物そのもの」を磨き、守ることに注力していました。
B地域は、
「名物がどんな意味で使われているか」に注目していました。
この違いは、
日々集める情報の質を大きく変えます。
■ A地域が見ていたのは「評価」
A地域が集めていたのは、主に次のような情報です。
- 何人来たか
- 売上はいくらか
- アンケートの満足度
これらは重要な数字です。
しかし、すべて“結果”の情報です。
名物が
- 「なぜ今、選ばれたのか」
- 「どんな文脈で消費されたのか」
は、見えていませんでした。
■ B地域が見ていたのは「意味の消費」
B地域では、
名物を評価することをやめました。
代わりに見ていたのは、
名物がどんな意味で消費されているかです。
そのために導入されたのが、
観光版つなぐシートでした。
■ 観光版つなぐシートの目的
つなぐシートの目的は、ひとつだけです。
名物が、どの文脈で“入口”として使われたのかを残すこと
評価も、点数も、良し悪しも書きません。
意味の置かれ方だけを記録します。
▼ 観光版つなぐシート(最小構成例)
- 来訪理由
初回/再訪/同行者(家族・友人・一人 など) - 名物への反応
言葉(原文)/行動(写真を撮る・滞在時間・会話の有無) - 期待の変化(選択式)
- 体験重視
- 学び・背景重視
- 非日常感
- 効率・手軽さ
- 次は別季節で見たい
- 次の接点・再編集アイデア
次回提案/季節違い/別の語り口/人の紹介
※ 記入は1件30秒以内
※ 正解を書く必要はありません
■ ここで重要なのは「評価しない」こと
つなぐシートでは、
「良かった」「満足した」とは書きません。
なぜなら、
名物が消える理由は不満ではなく、
意味が更新されないことだからです。
- 写真は撮ったが、語られなかった
- 食べたが、背景には反応しなかった
- 一度で十分、という消費だった
こうした情報こそが、
次の設計に必要な材料になります。
■ B地域が扱ったのは「名物」ではなく「意味の流れ」
A地域は、
名物そのものを改善しようとしました。
B地域は、
名物が
- 「誰の、どんな時間に、どう使われたか」
を積み上げました。
結果、
名物は固定された商品ではなく、
文脈に応じて役割を変える資源になります。
■ 学び
👉 名物を評価している限り、次は見えない
👉 名物がどんな意味で消費されたかを見て、初めて更新できる
つなぐシートは、
名物を管理するためのものではありません。
名物の“意味の寿命”を延ばすための観測装置です。
A地域の問いは
「どうすれば、もっと売れるか?」
B地域の問いは
「この名物は、今どんな意味で使われているか?」
この問いの違いが、
観光の賞味期限を分けていきます。
中堅・大企業への展開視点|「看板商品」にも賞味期限がある
この構造は、観光地だけの問題ではありません。
企業に置き換えれば、それは「看板商品」「主力ブランド」です。
長年売れてきた。
会社を支えてきた。
それがあるから、今がある。
──そうした成功体験ほど、問い直しづらいものはありません。
■ 主力商品・ブランド依存の危険性
中堅・大企業ほど、
売上の柱となる商品やブランドに依存しやすくなります。
- 定番だから売れる
- 認知があるから選ばれる
- 今さら変える必要はない
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
「なぜ売れてきたのか」を、言葉で説明できなくなっているのです。
■ 「売れてきた理由」を説明できない組織の脆さ
売れている間は、問題は表面化しません。
ところが、市場環境が変わった瞬間──
価格、チャネル、価値観、競合構造が変わった瞬間に、
急に選ばれなくなります。
そのとき組織は、こう言います。
- 昔は売れていた
- 品質は変わっていない
- なぜかわからないが、売れなくなった
これは、
名物が売れなくなったA地域と、まったく同じ構図です。
■ 市場が変わっても、「看板」だけが残る構造
問題は、商品そのものではありません。
- 中身は良い
- 技術もある
- 実績も十分
それでも選ばれなくなるのは、
使われ方・意味・文脈が更新されていないからです。
看板だけが残り、
それをどう使うかが設計されていない。
この状態は、
企業にとっての「賞味期限切れ」と言えます。
■ 必要なのは「壊すこと」ではない
ここで必要なのは、刷新やリニューアルではありません。
- 派手なデザイン変更
- 大きな方針転換
そうしたことではなく、
問いを立て直すことです。
① 意味の再編集
この商品は、
今の顧客のどんな時間に機能しているのか。
② 使われ方の更新
購入後、どう使われ、どう記憶されているのか。
③ 顧客文脈との再接続
顧客の生活・仕事・価値観の中で、
どこに置かれているのか。
■ 名物・看板は「守るもの」ではない
👉 名物・看板は、守るだけでは劣化する
👉 問い直し続けてこそ、価値を保てる
B地域が行ったのは、
名物を壊すことではありません。
「今も意味を持っているか」を問い続けたことです。
それは、
企業の主力商品やブランドにも、そのまま当てはまります。
■ 学び
看板商品があることは、強みです。
しかし、それを問い直せないことは、最大のリスクになります。
観光地の名物と同じように、
企業の看板にも賞味期限があります。
その期限を延ばせるかどうかは、
品質ではなく、
意味を更新し続けられるかどうかで決まります。
まとめ+読者への問い
観光の賞味期限を延ばせる組織とは、
特別な資源を持っている組織ではありません。
名物が消えるのは、
魅力がなくなったからではありません。
多くの場合、
「意味が更新されない」ことで、選ばれなくなっていくのです。
名物は、
ただ存在しているだけでは機能しません。
品質が高いだけでも、十分ではありません。
今の生活者にとって、
- なぜ今、それを体験するのか
- どんな時間や気持ちに寄り添うのか
その設計が更新されなければ、
名物は静かに“過去の成功”になっていきます。
重要なのは、
壊すことでも、変えることでもありません。
問い直し続けられる構造を持てるかどうか。
賞味期限は延ばせます。
それは品質の問題ではなく、
意味と文脈を設計し直せるかどうかの問題です。
■ 問い
あなたの地域(会社)の“名物”は、
今、誰のためのものですか?
それは、
「過去の成功」に向けた設計のままになっていませんか?
その名物は、
次の10年も、意味を持ち続けるでしょうか?
問いを立て続けられる限り、
名物は、まだ未来を持っています。

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