
動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
老舗の商店街が静かに消えていく光景は、いま全国各地で起きています。
かつては「買い物といえばこの通り」だった場所が、いつの間にか“通り抜けるだけの街”になっている――。
空き店舗が増え、シャッターが閉じ、賑わいが戻らない。
そんな状況を「少子高齢化だから仕方ない」と片付けてしまう声もありますが、本当にそれだけでしょうか。
実は、商店街が衰退する理由の多くは、人口減少や競合だけではありません。
むしろ、“立ち寄りたくなる理由”をつくれなかった構造的な問題が根本にありました。
今回のケースでは、同じ商店街の中で
- 通り抜けられる店 A
- 立ち寄られる店 B
の対照的な2つの存在に焦点を当てます。
同じ環境・同じ客層・同じ通りでありながら、なぜこれほど結果が分かれたのか。
その差をほどくことで、商店街だけでなく 地方の観光地・市街地再生・個店経営 にも通じる示唆が見えてきます。
では、失敗例と成功例を比較しながら考えていきましょう。
この記事を読むことで得られること
- 商店街が「通り抜けられる街」になる構造的理由と、人口減少だけではない衰退要因を整理できます
- A店(失敗)/B店(成功)の対比から、入口設計・滞在理由・スタッフの役割・通り全体の編集といった具体レバーが分かります
- 学びを企業・組織に転用し、最初の接点や定着設計をどう整えるか──“通りの温度”を上げる最初の一歩が見えます
まず結論:商店街も企業も、成果を分けるのは商品力ではなく、「入口→滞在→会話」の接点設計で“通りの温度”を上げられるかどうかです。
軽量版へのリンク
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業種・ケースの背景:消えゆく老舗商店街の現在地
商店街の衰退と現在地
商店街が静かに消えていく光景は、全国どこでも見られるようになりました。
昭和の頃には夕方になると子ども達の声が響き、買い物袋を両手に下げた人々が行き交う「生活の中心」だったはずの通りが、今は“歩かれるための道”に変わっています。
人は通るのに、立ち止まらない。店はあるのに、選ばれない。商店街という存在が“生活導線から外れた場所”になったとき、その衰退は静かに、しかし確実に進行していきます。
ケースの舞台:地方都市の商店街
今回扱うのは、とある地方都市の商店街です。駅から徒歩圏ではあるものの、大型商業施設が近くにできたことで、買い物目的の人流は多くがそちらへ流れました。
しかし、散策をするには悪くない距離感があり、観光客も一定数歩いている。
にもかかわらず、この商店街は「通り抜けるだけの道」になっていました。
象徴的な2つの店舗
その通りに、2つの象徴的な店舗があります。
- 創業60年の老舗雑貨店(A店)
日用品から趣味の小物まで扱い、地元の高齢層の生活を支えてきた店です。
しかし、客の姿はあるのに店に入っていく人はごくわずか。入口は薄暗く、季節感のない並べ方のまま。品揃えは悪くないのに、その価値が外へ届いていない店でした。 - 若い三代目が立ち上げた複合型飲食・雑貨店(B店)
地域の食材を使った小さなテイクアウト商品や、作家ものの雑貨を扱う店で、オープン当初から若い人が少しずつ立ち寄る姿が見られていました。
ただし、商店街全体の雰囲気が停滞しているため、一店だけ頑張っている状態。三代目は、「店を変えるだけでは街は変わらない。でも、街が変わらなければ店も伸びない」というジレンマを抱えていました。
商店街という業態の構造的課題
商店街という業態には、個店の努力だけではどうにもならない構造があります。
- 共通の導線
- 商店街全体の“温度”
- 空き店舗の見え方
- 「入っても大丈夫なのか」と思わせる心理的ハードル
- 常連文化の濃淡
こうした要素が複雑に絡み合い、どれかひとつが欠けるだけで、街全体の印象は一気に重くなります。
2つの店舗の対比が示すもの
A店とB店は、同じ通り沿いにありながら、全く異なる未来に向かって歩み始めています。
- 片や「人は通るのに入られない店」
- 片や「街の温度を上げる小さな成功の芽」
2つの店舗の対比を通じて見えてきたのは、商店街再生の鍵が“商品そのもの”ではなく、“通りに対してどう存在するか”にあるということでした。
同じ通りでも、入口の作り方やスタッフの言葉ひとつで、店の未来は大きく変わる。
今回のケースは、商店街という難易度の高い舞台で、「価値の届け方」がどれほど結果を分けるかを浮き彫りにしてくれます。
失敗ケース:A店──価値はあるが“届かない”老舗の構造
A店の背景
A店は、商店街の中でも最も歴史ある雑貨店のひとつでした。品揃えは地元の生活に寄り添っており、実は「近くにあると助かる店」でもありました。しかし、その価値は、外から見ればまったく伝わっていませんでした。
店の前を行き交う人は確かにいる。
しかし、誰も入口に視線を向けない。
それは、店の魅力が低いからではなく、“入りにくさ”が圧倒的に勝っていたからです。
入口の典型的な問題
① “薄暗い入口”が心理的な壁を生む
商店街の空き店舗が増えると、通り全体の照度が下がります。そこに加えて、A店の入口は色褪せた日除けと、季節感のないPOPが貼られたまま。
外から見える店内も薄暗く、「今、開いているのか?」「入ったら買わされる?」という不安のほうが先に立ってしまう状態でした。
人は「よくわからない店」には入れません。
価値があるかどうか以前に、「この店に入っても大丈夫だろうか」という無意識のブレーキが働くからです。
「何を売っている店か」が曖昧
A店は雑貨・日用品・趣味小物など幅広い商品を扱っていましたが、その幅広さが逆に“特徴のなさ”につながっていました。
- どんな店か分からない
- 誰に向けた店か分からない
- 何が人気なのか分からない
外から見た瞬間、その店のイメージをつかめないと、人は素通りしてしまいます。
「入ってみれば分かる」が通じるのは、信頼関係がある常連だけです。
変化を恐れた結果、“過去のままの店”になった
A店の店主は誠実で、来た客には丁寧に対応していました。しかし、外に向けた発信や入口のアップデートには消極的でした。
「うちは昔からこれでやってきたから」
「常連さんには喜ばれているから」
その気持ちは決して悪いわけではありません。
ただ、商店街が“通り抜けられる場所”に変化してしまった以上、店側も変わらなければならなかったのです。
しかしA店は、
- 入口の色を変える
- 商品を一部想定顧客に寄せる
- 人気商品を外に出す
- 店内照明を明るくする
という小さな改善すら「やる必要がない」と判断してしまった。
結果、「価値がない店」ではなく、「価値が隠れた店」になっていたのです。
スタッフの“沈黙”が、店の停滞を加速させた
A店にはパートスタッフが一人いました。
しかし、そのスタッフは「店を良くしたい」という気持ちを持ちながらも、店主に遠慮して何も言えませんでした。
「商品を見えるように出したいんですが、“昔からのやり方”を崩すのが怖くて…。」
この沈黙こそが、A店の最大のリスクでした。
現場をよく知る人が改善の芽を持っているにもかかわらず、それを伝えられない。
結果として、変わるチャンスは何度もあったのに、店は“変わらないこと”を選び続けてしまったのです。
失敗の核心まとめ
A店が衰退した理由は、「客が減ったから」だけではありません。
- “入りにくい”という入口設計の失敗
- “何の店か分からない”という価値の不透明さ
- “変わらない”ことへの過度な固執
- “言えない”組織文化
つまり、A店は価値はあるのに存在が届かない店になっていたのです。
同じ通りで、B店がどのように“立ち寄られる店”をつくり出していったのか。
次のセクションで対比しながら見ていきます。
成功ケース:B店──“通りの温度”を上げる店づくり
B店の背景
B店は、三代目が商店街の未来に危機感を持ち、「まずは自分の店から変えていこう」と立ち上げた複合型の飲食・雑貨店でした。
扱う商品は地域の食材を使ったテイクアウト商品や、地元作家の小物など一見すると小さな取り組みばかり。
しかし、その積み重ねが通りの温度を上げ、結果的に商店街の“雰囲気そのもの”を変えていく原動力になりました。
B店の成功は、「商品が良かった」からではありませんでした。
最大の要因は、“立ち寄られる理由”を外側に向けて設計できていたことです。
■ つなぐシートで実装する|「通りの温度」を上げる“接点改善ログ”(入口→滞在→会話)
B店が強かった理由は、商品やセンスではなく、「入口→滞在→会話」という接点を設計し、それを毎週アップデートし続けた点にあります。
ただ、ここが属人的だと再現性が落ちます。
そこで、つなぐシートとして接点の改善を“見える化して回す”ためのログを用意します。
▼ シート項目例(最小形)
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | G列 | H列 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 項目 | 観察日 | 接点フェーズ(選択) | 起きたこと(事実) | 仮説(なぜ?) | 改善アクション(1つ) | 担当 | 試行結果 | 次の一手 |
| 記入の意図 | 変化を追えるようにする | 入口/滞在/会話のどこを触ったか明確にする | 印象ではなく“見た事実”を残す | 犯人探しではなく構造を見る | 大きく変えず“小さく1つ”動かす | 属人化を防ぐ | 良し悪しではなく“差分”を残す | 改善を止めない |
▼ 選択肢例(運用が止まらない最小分類)
| 接点フェーズ(B列) | 入口 | 滞在 | 会話 |
|---|---|---|---|
| 具体例 | 入口の明るさ/看板/POP/見える位置のベストセラー | ベンチ/テイクアウト導線/撮影スポット/休める余白 | 一言目/街の案内/近隣店紹介/イベントの話題 |
▼ 記入イメージ
| A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | G列 | H列 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1/12 | 入口 | 通行人は多いが、入口で足が止まらない | 店が“開いている感”が弱い | 入口照明を通り向きに1灯追加/POPを手書きに | 三代目 | 入口前で立ち止まる人が増えた | ベストセラーを外に1点だけ出す |
| 1/19 | 滞在 | ベンチ利用者が増えたが、回転が悪い | “買った人だけ”の空気が出ている | 「休憩どうぞ」表示+ゴミ箱位置の見直し | スタッフ | 観光客が座りやすくなった | 近隣店マップを置く |
| 1/26 | 会話 | 「おすすめありますか?」が増えた | 街の案内が“個人技”になり始めた | 案内トークのテンプレを3つ作る | 全員 | スタッフ間で会話の質が揃い始めた | イベント告知の定型文を作る |
ポイント:
商店街は「個店の努力」だけでは変わりません。
だからこそ、B店のように“接点の改善”をログ化し、共有し、連鎖させることで、通りの温度が上がっていきます。
このつなぐシートは、店を管理するためではなく、
通りの温度を上げる“改善の回路”をつくるための道具です。
① 入口は「開放感」を最優先した
B店の三代目は、まず“入口”から変えました。
- 暖簾や看板を季節ごとに変える
- 店内照明は通りから見える位置を優先して配置
- 人気商品は見える位置に小さくレイアウト
- 「TAKE OUT OK」と手書きで伝える
特別な設備を入れたわけではありません。
ただ、「この店は入っても大丈夫」と思わせる“安心感”を入口で設計したのです。
通りを歩く人は、何度もその入口の変化を目にします。
すると、興味が薄かった人でも「最近、人が入ってるな」と無意識に認知し始める。
この“目に触れる回数”が、商店街では特に効果を発揮します。
「商店街は“入口の連続”です。
一つの入口が明るいと、通り全体の気持ちが上がるんです。」
商品ではなく「滞在体験」を設計した
B店は単なるテイクアウトや雑貨の店ではありませんでした。
店の前に小さなベンチを置き、買った商品をその場で楽しめるようにしたのです。
このベンチが、店の未来を大きく変えました。
- 通りに座る人が増える
- 人が立ち止まる
- 人の気配が通りに“滞留”する
- 次の通行人が「活気がある」と感じる
ほんの小さな仕掛けですが、商店街に必要だったのは“滞在の理由”でした。
買い物だけを目的にする時代はとっくに終わり、「少し立ち寄りたい」という心理を刺激できるかどうかが、これからの商店街の明暗を分けます。
“街の編集者”としての役割を自覚した
三代目は、自店の利益だけを追求しませんでした。
- 地元作家の展示会を店内で開催
- 商店街の空き店舗前に季節の装飾を設置
- SNSで近隣店舗の紹介を積極的に投稿
- 商店街の小さなイベントを自ら企画
この一連の行動は、「地域の編集者」としての姿でした。
商店街は、単独で成功しても意味がありません。
通り全体の魅力が上がって初めて、“街として選ばれる”という段階に到達します。
B店の行動は、周辺の店舗にもゆっくりと波及しました。
最初は遠巻きに見ていた老舗も、「うちも少し入口を変えてみようか」と声を上げ始め、通り全体の“温度”は少しずつ上がっていきました。
スタッフの「接点の質」が、店の価値を変えた
B店には若いスタッフが1名いました。
彼女は接客経験が浅かったものの、三代目はこう伝えていました。
「商品の説明より、街のことを話せばいいよ。
お客さんは“人の気配”を求めて来てるから。」
この言葉で、スタッフの接客は大きく変わりました。
- 「このお菓子は近くの農家さんの◯◯が素材なんですよ」
- 「この辺りに最近できたお店、すごく素敵で」
- 「今度、通りでイベントがあるんです」
スタッフの役割は“販売員”ではなく、“街の案内人”になったのです。
この“小さな会話”こそが、商店街に必要な温度でした。
人の温度が通りに滞留すると、それは“立ち寄られる街”の最初の兆しになります。
成功の核心まとめ
B店の成功は、商品力ではなく、以下の積み重ねでした。
- 入口の開放感で心理的なハードルを下げた
- 滞在体験を通りに“滞留させる”仕組みをつくった
- 商店街全体を編集する行動を続けた
- スタッフを“街の案内人”として育てた
つまり、B店は店の外側にある“通りそのもの”をデザインできた店だったのです。
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経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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スタッフの物語──“街を好きになる”という最強の変化
スタッフ・佐伯さんの存在
B店の成功を語る上で欠かせないのが、若いスタッフ・佐伯さん(仮名)の存在でした。
彼女は特別なスキルがあるわけでも、商店街への強い思い入れがあったわけでもありません。
むしろ、入社時の彼女は、商店街という場所を「なんとなく暗い」「ちょっと入りづらい」と感じていた側の人間でした。
しかし、三代目の店で働くことになってから、彼女の中で小さな“変化の芽”が生まれていきます。
「商品を売る」から「街を伝える」への転換
入社当初、佐伯さんは接客が苦手でした。
「何を話せばいいのか分からない」「説明の仕方に自信がない」──そんな悩みを抱えていました。
そんな彼女に、三代目は最初にこう伝えます。
「この店の役割は商品を売ることだけじゃないよ。
街の魅力を“つなぐ”場所なんだ。
だから、街の好きなところを見つけてみて。」
最初は戸惑いましたが、彼女は昼休みに商店街をゆっくり歩いてみることにしました。
すると、今まで気づかなかった小さな風景が次々と目に入ってきます。
- 古い建物の木枠に残る手作り感
- 長年続く和菓子店の店主のあいさつ
- 空いているけれど妙に風情のある路地
- 高齢の方がベンチで話し込む姿
「この街、思っていたより温かいかもしれない。」
そんな“気づき”が、彼女の表情を変えていきました。
小さな一言が、店の空気を変えた
ある日、テイクアウト商品を買いに来た観光客の方が
「このあたり、ほかにおすすめのお店ありますか?」
と尋ねました。
以前の彼女なら、「特に…」と返してしまっていたかもしれません。
しかし、この日は違いました。
「すぐ近くに、創業50年の和菓子屋さんがあるんです。
そこの最中がすごくおいしくて。
よかったら寄ってみてください。」
この一言が、店の空気を大きく変えました。
お客様は嬉しそうに和菓子屋へ向かい、帰る際には再びB店に立ち寄り、飲み物を購入してこう言いました。
「教えてくれてありがとう。
この街、すごくいいところですね。」
その瞬間、佐伯さんの中で“店の役割”が明確になったのです。
商店街のイベントで見えた「街の力」
季節のイベントを商店街で行ったときのこと。
三代目から「飾り付けを一緒に考えてほしい」と頼まれた佐伯さんは、近隣店舗を回って意見を聞きながら飾りを作りました。
イベント当日、通りにはいつもより人が集まり、親子連れが写真を撮る姿も。
その光景を見たとき、佐伯さんは泣きそうになったといいます。
「ああ、街って変わるんだ。
そして私も、変えられる側の人間なんだ。」
この感情を境に、彼女は「この街で働くこと」に強い誇りを持つようになりました。
スタッフの変化は、店の未来を変えた
佐伯さんの変化は、そのまま店の価値に直結しました。
- 接客の言葉に街への愛が滲む
- SNS投稿が“街と店の混ざった視点”になる
- 常連さんとの会話が深まる
- 他店の店主とも自然に挨拶するようになる
彼女の接客をきっかけに、“人が立ち寄る理由”が増えたのです。
そして三代目はこう語ります。
「商店街を変えるのは、結局“人”なんですよ。
彼女が街を好きになった瞬間から、この店も街も変わり始めました。」
単なるスタッフが“街の案内人”へと変わる。
この変化は、商品以上に商店街を動かす原動力となりました。
比較と学び──A店とB店を分けた「通りの温度」設計の差
決定的な差は「商品力」でも「立地」でもない
A店とB店は、同じ通り、同じ客層、同じ商店街の空気の中で日々を過ごしています。
しかし、その結果は大きく分かれました。
- A店は、“通り過ぎられる店”として沈んでいった
- B店は、“立ち寄られる店”として商店街全体の温度を上げていった
この差を生み出したのは、表面的には小さく見える「行動の選択」でしたが、深く掘り下げると、そこには構造そのものの設計思想の違いがありました。
① 「入口」は“店の顔”なのか、“通りの装置”なのか
A店は、入口を「店の境界」として扱っていました。
入口を変えることは“自分の店の文化を壊すこと”と捉え、昔ながらの色褪せた暖簾も、薄暗い照明もそのままにしてきました。
一方、B店の三代目は、入口を“通りの温度を上げる装置”として認識していました。
- 季節に応じてレイアウトを少し変える
- 看板を明るいトーンに統一
- 外に一つだけベストセラーを置く
- 手書きPOPで「気軽にどうぞ」を伝える
この小さな工夫が、通りに“温度の差し色”を入れる役割を果たしていました。
A店 → 店の中に価値を閉じ込めてしまった
B店 → 店の外から価値を滲ませていた
入口は「境界」ではなく、「最初の接点」。ここをどう設計するかが、お店の未来を大きく左右します。
「品揃え」ではなく「滞在理由」を作れるか
A店の失敗は、商品を揃えること自体が目的化していた点でした。
品揃えは豊富で、生活者の困りごとを解決する商品も揃っている。
しかし、その価値は“棚の中”に眠ったままでした。
逆に、B店は「滞在の理由」をつくることに重点を置きました。
- ベンチを置く
- 店の前で食べられる一品をつくる
- ちょっとした撮影スポットを用意する
これらの行動はすべて“通りに滞在を生み出す設計”です。
滞在が生まれると、人は立ち止まり、立ち止まる人を見てさらに人が集まる。
これが商店街再生で最も重要な“滞在の連鎖”であり、A店にはそれが欠けていました。
「変化は悪」とみるか、「変化は提案」とみるか
A店の店主は「昔ながらの形を守ること」が善であると信じていました。
背景には、商店街で長年築き上げた常連文化への敬意があります。
しかし、街の構造が変わった以上、顧客の期待も変わっている。
変わらないことは、結果的に「顧客不在」と同義になってしまいました。
B店は、「変化は街への提案」と捉えていました。
- 季節の装飾
- 新商品の試作
- SNSでの発信
- 他店とのコラボ
これらは「うちの店の挑戦」ではなく、「街がこうであってほしいという姿の提案」でした。
その提案が通りを変え、周囲を巻き込み、街の空気を少しずつ変えていったのです。
スタッフを“販売員”か“街の案内人”として扱うか
A店のパートスタッフは、改善したい気持ちがあっても、意見できませんでした。
スタッフの変化は芽のまま閉じ込められ、“沈黙”が店の停滞を生んでいました。
一方、B店のスタッフは「街の案内人」という役割を与えられ、街の魅力を伝える伝道者として育ちました。
- おすすめスポットを案内
- 地元の作家や農家の話をする
- 街の小さな物語を語る
この接点の質が、店の価値を“街の価値”へと拡張していきました。
A店 → スタッフの成長が止まった店
B店 → スタッフの成長が街を変える店
この差は、長期的には店舗力の差そのものになります。
⑤ 商店街再生は「個店の努力」ではなく「接点の連鎖」
商店街の本質は、入口 × 滞在 × 会話の掛け算です。
A店は個店の価値を高めることに集中していましたが、
B店は「通り全体の価値を上げること」を目的化していました。
商店街再生の最大のポイントはここにあります。
- 個店が自分の利益だけを見るか
- 通り全体を“編集”しようとするか
この違いが、長期的な街の未来を決めます。
比較まとめ(A店 vs B店)
| 観点 | A店(失敗) | B店(成功) |
|---|---|---|
| 入口 | 境界として扱う | 通りの装置として扱う |
| 接点 | 店内中心 | 店外中心+通り全体 |
| 滞在 | 発生しない | “滞在の理由”を設計 |
| 変化 | 過去を守る枠組み | 街への提案と捉える |
| スタッフ | 販売員として扱う | 街の案内人として育てる |
| 商店街との関係 | 個店完結 | 通り全体を編集 |
A店は“店の中だけ”を見てしまい、
B店は“街の未来そのもの”を見ていました。
中堅大企業への展開視点──「通りの温度」は組織にも当てはまる
商店街の学びは企業にも通じる
商店街という小さな街区で起きたA店・B店の対比は、中堅企業や大企業でもそのまま当てはまります。
むしろ、規模が大きい企業ほど“入口”や“滞在理由”といった概念が、より複雑に、そしてより影響力を持って現れます。
では、今回の学びをどのように企業運営へ展開できるのかを整理していきます。
① 「入口」=最初の接点の設計は企業でも最重要
商店街の入口は、企業で言えば次のようなものに相当します。
- 採用ページ
- サービス紹介ページ
- 初回接触の営業同行
- カスタマーサクセスの最初のメール
- 新人が配属された初日の雰囲気
A店のように「昔ながらのスタイル」「内部の都合」だけで入口を設計すると、外部の人は“入りづらい組織”と感じます。
一方、B店は入口そのものを“通りに対する提案”として捉えていました。
企業も同様です。
最初の接点の温度が、組織の魅力と採用力の8割を決める。
たった一つのページ、たった一通のメールで雰囲気は大きく変わります。
「滞在理由」=顧客や社員が“戻ってくる理由”
商店街での滞在は、企業ではこう置き換えられます。
- 顧客がサービスに定着する理由
- 社員が働き続ける理由
- 取引先が長く付き合いたくなる理由
- 社内コミュニケーションの質
A店は「商品を揃えれば来る」という古い発想に固執していました。
これは企業で言えば、給与や機能追加、設備投資など“内部目線の施策”に近いものです。
しかし、B店が示したように、人がその場に滞在し関係が深まるのは「仕組み」ではなく「体験の温度」です。
- ちょっとした雑談が生まれる工夫
- 意見を言える雰囲気
- 成果を共有できる“見える化”
- 成長の手応えを感じられるタッチポイント
こういった小さな“滞留の設計”が、人の気持ちをつないでいきます。
「通り全体を見る」という視点は事業ポートフォリオに直結
B店の三代目は、店単体での成功ではなく“通り全体の魅力”を見ていました。
これは企業にとって以下に置き換えられます。
- 複数事業の連携
- サービス間の導線設計
- 自社とパートナー企業の共創
- エコシステム(事業生態系)の設計
- 顧客旅程(Customer Journey)の一貫性
A店のように“自分の領域だけ”を見る会社は事業が孤立し、シナジーが生まれにくくなります。
逆に、B店のように全体を見る会社は、他部門・他事業・他社との連携により“関係性の価値”をつくり出せます。
これは企業がスケールする際の最大の武器になります。
スタッフを“販売員”ではなく“案内人”として育てる組織設計
B店のスタッフが「街の案内人」になったように、企業にとっても社員を“役割遂行者”ではなく、“価値の案内人”に変えることは極めて重要です。
- 営業が“売る人”ではなく“顧客価値をつなぐ人”になる
- カスタマーサクセスが“サポート”ではなく“体験デザイナー”になる
- 現場スタッフが“作業者”ではなく“ブランドの語り手”になる
こうした役割転換は、企業文化の再設計と社員の心理的安全性の向上に直結します。
A店のように「言えない文化」が根付くと組織は変化を拒みます。
一方で、B店のように小さな意見が歓迎される組織は、改善が連続し、強くなっていきます。
⑤ 企業にも必要なのは「接点の連鎖」という発想
商店街再生の本質は、“通りに接点の連鎖をつくること”でした。
企業でも同じです。
- 整合性のある採用
- スムーズなオンボーディング
- 相談しやすい上司
- 顧客の声を拾う仕組み
- 部門間での情報共有
- 退職や異動時のフォロー
こうした“接点”の質を揃えることで、企業は強くなります。
A店 → “点”で価値を出そうとした
B店 → “つながり”で価値を設計した
企業が長期的に競争力を持つためには、“接点の連鎖”という発想が不可欠です。
まとめ:B店の発想はそのまま企業経営の核心
A店とB店の差は商店街に限った話ではありません。
- 入口の設計
- 滞在の理由
- 変化への姿勢
- 人の育て方
- 全体最適を見る視点
これらは企業が“選ばれる組織”として生き残るための核心そのものです。
商店街という小さな世界で起きた成功事例は、
中堅企業や大企業が再成長を果たすための極めて実践的なヒントを与えてくれます。
まとめ+問いかけ──“立ち寄られる存在”をどうつくるか
外部要因に左右されない未来の可能性
老舗商店街が衰退する背景には、人口減少や大型店の進出など、外部環境の変化が必ず語られます。
しかし、A店とB店の対比が教えてくれたのは、「外部要因が強くても、店の未来は変えられる」という事実でした。
A店は価値を“店の中”に閉じ込めていました。
照明の暗さ、入口の古さ、変化を避ける姿勢、スタッフが意見を言えない文化。
これらはすべて、「通りに価値が届かない構造」をつくり出していたのです。
一方、B店の三代目は、“通りの温度”そのものを上げることで店の未来を変えました。
- 入口の開放感を設計した
- 滞在の理由を通りに生み出した
- 街全体を編集する姿勢を持った
- スタッフを“街の案内人”へと育てた
その結果、B店は「単に売れる店」ではなく、「立ち寄られる店」になったのです。
商店街から企業・組織への示唆
そしてこの構図は、商店街だけでなく企業・組織・サービスにもそのまま当てはまります。
入口の設計、滞在の理由、変化への姿勢、スタッフの役割、全体最適の視点――。
これらはすべて、どんな事業にも共通する“選ばれる構造”です。
商店街が教えてくれる「選ばれる構造」の本質
B店が実践したのは、特別なことではありませんでした。
- 小さなベンチ
- 季節ごとのレイアウト変更
- SNSでの情報発信
- 他店の紹介
- 通りの装飾
- スタッフの一言
どれも、大きな投資が必要なものではない。
けれど、それが“通りに滞在する理由”“街を好きになる理由”を生み、商店街の温度を上げていったのです。
商店街再生の本質は、「個店の努力」ではありません。
通りの接点同士が、連鎖していく仕組みにこそあります。
これは企業にも言えます。
- 部門間の連携
- 顧客接点の一貫性
- 新人を迎える空気
- 小さな改善が言える文化
- 社員が“自社の案内人”になる状態
組織の温度を上げるのは、大きな戦略ではなく、日々の接点から生まれる温かな連鎖です。
読者への問いかけ──あなたの「通り」は、立ち寄られていますか?
商店街の話は、事業でも組織でも個人でも同じ問いを投げかけます。
- あなたのビジネス(部署・店舗・サービス)は、“通り抜けられる存在”になっていませんか?
- サイトや店頭、SNSは“入りやすい入口”になっているか
- 初回接点で温かさや安心感を届けられているか
- 顧客や社員が“滞在したい理由”を設計できているか
- 変化を恐れて“過去の成功”に縛られていないか
- スタッフは、単なる“役割”ではなく“案内人”になっているか
- 自分の領域だけでなく、“通り全体”を見渡せているか
小さな改善の積み重ねだけで、店も組織も“通りの温度”は確実に変わります。
そして、その温度は、必ず人を呼び込みます。
まとめ
商店街の再生は難しいと言われます。
しかし、B店が示したように、難しいからこそ“挑戦する店”が通りの未来を変えていきます。
A店のように価値が閉じてしまうのか。
B店のように価値を広げていくのか。
その分岐点は、小さな入口の明るさ、スタッフの一言、滞在の理由づくりといった非常にささやかなところにあります。
選ばれる街には、選ばれる店がある。
選ばれる企業には、選ばれる接点がある。
選ばれる人には、選ばれる姿勢がある。
商店街の温度が上がるように、
あなたのビジネスの“通りの温度”も、何度だって上げることができます。

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