成功事例を真似しても伸びない理由─“前提”の違いを読み解く力【経営プログレッションVol.36】 | ソング中小企業診断士事務所

成功事例を真似しても伸びない理由─“前提”の違いを読み解く力【経営プログレッションVol.36】

成功事例を真似しても伸びない理由─“前提”の違いを読み解く力【経営プログレッションVol.36】

動画で見る経営プログレッションの記事説明

※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。

「この会社、これで伸びたらしいですよ」
「この施策、成功したって記事で見ました」
そんな言葉をきっかけに、同じことを試してみた経験はありませんか。

資料を集め、
手順をなぞり、
見よう見まねで実行してみる。

けれど――
なぜか、思ったような成果が出ない。

やり方は合っているはず。
タイミングも悪くない。
それでも結果がついてこない。

このとき多くの人は、
「実行力が足りなかった」
「もっと徹底すべきだった」
と考えます。

しかし、本当の原因は別のところにあります。

それは、
“前提”が違っていたという事実です。

成功事例は、
やり方だけ切り取っても再現できません。
その裏にある

・組織の状態
・顧客との関係性
・積み上げてきた歴史
・当たり前になっている文化

こうした“見えない前提”が違えば、
同じ打ち手でも、まったく別の結果になります。

今回は、
成功事例をそのまま真似して失敗したA社と、
“前提”を読み替えて成果につなげたB社を対比しながら、
再現性のある学びの取り方を整理していきます。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. 失敗ケース(A社)|成功事例をそのままコピーした会社
    1. ■ しかし、数か月経っても成果は出ない
    2. ■ 現場は疲弊していく
    3. ■ A社は“成功事例を真似したつもり”で、何も再現できていなかった
    4. ■ A社の失敗は「能力不足」でも「努力不足」でもない
  2. 成功ケース(B社)|“前提”を読み替えた会社
    1. ■ 成功事例を見ても、すぐにツール導入に走らなかった理由
    2. ■ B社がやったのは“構造の抽出”と“翻訳”
    3. ■ 現場の空気を変えた“3つの言葉”
    4. ■ 半年で見えた変化
    5. ■ 成功の本質は「ツール」ではなく「前提」
  3. 現場の物語|「同じことをやってるのに…」の違和感
    1. ■ B社に転職して感じた“空気の違い”
    2. ■ 「言っていいんだ」から始まった変化
    3. ■ A社とB社、決定的に違ったのは「前提」だった
  4. 比較と学び|“やり方コピー”と“前提設計”の決定的違い
    1. + つなぐシート(前提可視化版)
    2. ■ B社が使った「つなぐシート(前提設計版)」
      1. ▼ シート構造(最小構成)
      2. ▼ 実際の記入イメージ
    3. ■ ポイント
    4. ■ A社は“正解探し”、B社は“素材編集”
    5. ■ 学び
  5. 中堅・大企業への示唆|“ベンチマーク経営”の落とし穴
    1. ■ 他社事例依存の危険性
    2. ■ “正解探し”文化の限界
    3. ■ 戦略はコピーできない
    4. ■ これから求められる3つの力
      1. ① 前提把握力
      2. ② 仮説設計力
      3. ③ 学習速度
    5. ■ 示唆
  6. まとめ+問い
    1. 問い

失敗ケース(A社)|成功事例をそのままコピーした会社

A社は、地方都市に本社を構える中堅のBtoBサービス企業です。
社員数は40名ほど。長年、地域の中小企業向けに業務支援を行い、堅実に成長してきました。

経営者の佐藤社長(仮)は50代。真面目で勉強熱心なタイプです。
経営誌やセミナーで情報収集を欠かさず、「成功している会社のやり方を学べば、自社も成長できる」と信じていました。

ある日、佐藤社長は大手企業のDX成功事例に出会います。

  • 顧客管理システムの導入
  • データ活用による営業効率化
  • 社内コミュニケーションツールの刷新

「これだ。これをうちでもやろう」

そう決めると、同じツール、同じ運用フローを一気に導入しました。
導入支援会社も大手と同じところを選び、説明会も丁寧に実施。
社長としては「万全の準備」をしたつもりでした。

■ しかし、数か月経っても成果は出ない

  • 入力されないシステム
  • 形だけの会議
  • 増え続ける業務負担

現場からは、こんな声が漏れ始めます。

  • 「結局、今までと何が変わったんですか?」
  • 「入力するだけで仕事が増えた感じです」
  • 「正直、面倒くさいです」

それでも表向きは「導入しました」という形だけは残ります。
会議資料にはグラフが並び、社内チャットも動いているように見える。
しかし実態は、誰も本気で使っていない状態でした。

■ 現場は疲弊していく

  • 二重入力が増える
  • ルールが増えて混乱
  • 本来の仕事に集中できない

それでも、誰も「やめましょう」とは言いません。
社長が決めたことだからです。

佐藤社長自身も困っていました。

  • 「大手と同じことをやっているのに、なぜうまくいかないんだ…」
  • 「うちの社員の意識が低いのか?」
  • 「実行力が足りないのか?」

原因がわからないまま、時間だけが過ぎていきます。

■ A社は“成功事例を真似したつもり”で、何も再現できていなかった

大手企業が成功した背景には、

  • ITリテラシー
  • 組織文化
  • 役割分担
  • 評価制度

といった「前提条件」がありました。

しかしA社は、そこを見ずに
“見える部分”だけをコピーしてしまった

結果、

  • なぜやるのか分からない
  • 誰のための仕組みか分からない
  • どう使えばいいか分からない

そんな“目的不在のDX”になってしまったのです。

■ A社の失敗は「能力不足」でも「努力不足」でもない

構造を見ずに、形だけを真似したことがすべてでした。

成功ケース(B社)|“前提”を読み替えた会社

B社もA社と同じく、地方に本社を置く中堅BtoBサービス企業です。
社員数もほぼ同じ40名規模。顧客も地域の中小企業が中心です。

規模も業種も似ている2社ですが、
DXへの向き合い方はまったく違いました。

■ 成功事例を見ても、すぐにツール導入に走らなかった理由

B社の社長・田中社長(仮)は、成功事例を見たとき、まずこう考えました。

「なぜこの会社はうまくいったのか?」

つまり、ツールではなく
“構造”や“動いている理由”に目を向けたのです。

  • なぜ現場が動いたのか
  • なぜデータが集まったのか
  • なぜ活用できたのか

その結果、成功企業には次のような“前提”があると気づきました。

  • 現場が数字を見る習慣がある
  • 判断基準が共有されている
  • 小さな改善を歓迎する文化
  • 失敗を責めない評価制度

「うちは、ここが全然違うな」
田中社長はそう気づき、同じことをやっても再現しないと判断しました。

■ B社がやったのは“構造の抽出”と“翻訳”

B社が取り組んだのは、成功事例の“構造”だけを抜き取り、
自社の前提に合わせて翻訳することでした。

たとえば、次のような進め方です。

  • いきなり全社導入はしない
  • まず1チームだけで実験
  • 入力項目は最小限にする
  • 週1回、振り返りの時間をつくる

ツールよりも先に、
「どう運用するか」を決めたのです。

■ 現場の空気を変えた“3つの言葉”

田中社長は現場にこう伝えました。

  • 「完璧にやらなくていい」
  • 「うまくいかなかったら変えよう」
  • 「試すこと自体が価値だ」

この言葉で現場の空気が変わり、次第に改善案が出るようになります。

  • 使いづらい点を出す
  • 入力項目を減らす
  • 会議の進め方を変える

B社は、

小さく試す → 振り返る → 直す

このサイクルを意図的に回し続けました。

■ 半年で見えた変化

半年ほどで、次のような成果が現れます。

  • 入力率が安定
  • 会議時間が短縮
  • 案件管理が見える化
  • 属人化が減少

さらに数字面でも改善が進みました。

  • 受注率の安定
  • リピート率向上
  • 売上のブレが減少

■ 成功の本質は「ツール」ではなく「前提」

田中社長はこう語ります。

「大事だったのは、ツールじゃなく“前提”だったんです」

B社の成功は、成功事例をコピーしたことではありません。

  • 前提を読み替え
  • 自社用に再設計し
  • 小さく回した

この“設計力”こそが差でした。

現場の物語|「同じことをやってるのに…」の違和感

語り手は、A社からB社へ転職した若手社員の山本さん(仮)です。
年齢は20代後半。前職でも今でも、現場の最前線で顧客対応を担当しています。

A社にいた頃、DXツールの導入が決まったときのことを、山本さんはこう振り返ります。

「正直、よくわからないまま始まりました」

マニュアルが配られ、

  • 「とにかく入力して」
  • 「決められた通りに使って」

と言われる日々。

山本さん自身も、
「何のためにやっているのか」
よくわからないまま作業していました。

入力しても、そのデータがどう使われているのか見えません。

「これ、本当に意味あるのかな…」

そんな疑問を持ちつつも、聞ける雰囲気ではありません。

成果が出ないと、

  • 「ちゃんと使ってる?」
  • 「入力が甘いんじゃない?」

と責められます。

でも、

「どうすれば良くなるのか」
は誰も教えてくれません。

山本さんは次第に、

  • 「言われた通りやっているのに…」
  • 「自分が悪いのかな…」

と、自分を責めるようになっていきました。

■ B社に転職して感じた“空気の違い”

転職してB社に入ったとき、最初に驚いたのはミーティングの雰囲気でした。

いきなりツールの話ではなく、

  • 「これ、何のためにやると思う?」
  • 「現場で困ってることある?」

そんな問いから始まったのです。

上司はこう言いました。

  • 「正解はないから」
  • 「まず試して、変えよう」

A社との一番の違いは、
“なぜやるか”を先に共有することでした。

B社では、

  • なぜこの項目を入れるのか
  • 入れたデータをどう使うのか
  • 何が変わると嬉しいのか

を、必ずセットで説明します。

山本さんは初めて、

「あ、自分の仕事とつながってる」
と実感できたと言います。

■ 「言っていいんだ」から始まった変化

ある日、入力項目が多すぎると感じた山本さんは、

「ここ、使ってない気がします」

と意見を出しました。

すると上司は、

「いいね、消そうか」

と即決。

その瞬間、山本さんは驚きました。

  • 「言っていいんだ…」
  • 「変えていいんだ…」

そこから、山本さんは自分で考えるようになったと言います。

  • もっと楽にできないか
  • 他の人は困ってないか
  • こうしたら良さそう

自然と、“自分ごと”で仕事を見るようになりました。

■ A社とB社、決定的に違ったのは「前提」だった

しばらくして山本さんは気づきます。

「A社とB社、やってること自体はそんなに変わらない」

ツールも、入力内容も、大きく違うわけではありません。

でも、決定的に違ったのは、

“前提”でした。

A社:
「言われた通りやるもの」

B社:
「意味を理解して使うもの」

その違いが、
現場の動きも、成果も、すべて変えていたのです。

山本さんはこう語ります。

「人が違うんじゃなかった」
「前提が違っただけだった」

同じことをやっているのに、結果が違う。
その理由は、人の能力ではなく、構造だった。

そう気づいた瞬間、
山本さんの中で霧が晴れたような感覚があったそうです。

この文章が生まれた “背景” が気になる方へ
サービスの詳細や考え方は「初めての方へ」にまとめています。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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比較と学び|“やり方コピー”と“前提設計”の決定的違い

+ つなぐシート(前提可視化版)

A社とB社の差は、
「どの施策を選んだか」ではありません。

“どう捉えたか”です。

まず、2社の構造を整理してみます。

観点 A社 B社
参照の仕方 成功施策をそのままコピー 成功構造を分解して抽出
見ているもの 成功“結果” 成功“前提”
導入姿勢 一気に全社展開 小さく実験
現場の役割 指示を実行する人 前提を検証する人
学習 失敗=終了 失敗=次の設計材料

A社は、

「この会社がこれで成功した」
→「じゃあ、うちもやろう」

という発想でした。
つまり、“結果”をコピーしています。

一方B社は、

  • 「なぜ成功したのか?」
  • 「どんな前提があったのか?」
  • 「うちではどう変換するか?」

と考えました。
こちらは“構造”を抽出しています。

ここが決定的な分岐点でした。

■ B社が使った「つなぐシート(前提設計版)」

B社が導入したのが、
前提を可視化するための“つなぐシート”です。

目的はひとつ。

成功事例と自社の「前提差」を見える形にすること

▼ シート構造(最小構成)

A列 B列 C列 D列 E列 F列 G列 H列
項目 参照した成功事例 成功事例の前提条件 自社の現状 差分 調整アイデア 試行内容 結果 学び
入力形式 記述 箇条書き 記述 選択+記述 記述 記述 数値・感想 記述
意図 どの事例か明確化 文化・人材・顧客など 現実の前提把握 近い/違う どう翻訳するか 実際にやったこと 変化の記録 次に活かす

▼ 実際の記入イメージ

A列 B列 C列 D列 E列 F列 G列 H列
大手IT企業 現場が数字を見る文化 数字は管理職のみ 違う 見る指標を3つに限定 1チームで共有 会話が増えた 指標は少ない方が動く

■ ポイント

  • いきなり実行しない
  • まず「前提」を書き出す
  • 合っていない部分を可視化する

これだけで、
「真似して失敗」が激減しました。

■ A社は“正解探し”、B社は“素材編集”

A社の問いはこうです。

  • 「どれが正解か?」
  • 「うまくいく方法はどれか?」

B社の問いはこうでした。

  • 「なぜうまくいったのか?」
  • 「この前提、うちにはあるか?」
  • 「どう変えれば使えるか?」

ここが本質です。

成功事例は“正解”ではなく“素材”

料理と同じです。

  • A社:レシピをそのまま真似る
  • B社:食材だけ抜き取って自分流にする

だから、
B社の方が再現性を持てました。

■ 学び

  • うまくいった方法は、その会社専用
  • 再現できるのは「構造」だけ
  • 前提を見ずに動くと、必ず歪む
  • 小さく試せば、失敗は“情報”になる

成功事例とは、答えではなく、問いの材料です。

中堅・大企業への示唆|“ベンチマーク経営”の落とし穴

規模が大きくなるほど、企業は「他社事例」を求めるようになります。

  • どこが成功しているか
  • 何をやっているか
  • どのツールを使っているか

そして、

  • 「A社がやっているなら」
  • 「業界トップが導入したなら」

という理由で、同じ施策を取り入れようとします。
これがいわゆるベンチマーク経営です。

もちろん、参考にすること自体は悪くありません。
問題は、“参照”と“依存”の境界が曖昧になることです。

■ 他社事例依存の危険性

他社事例に頼りすぎると、次の状態に陥りやすくなります。

  • 自社で考えなくなる
  • 施策の理由を説明できない
  • 失敗すると「事例が悪かった」と外部要因化
  • 学習が止まる

つまり、思考停止したまま動く組織が出来上がります。

A社もまさにこの状態でした。

「うまくいっているらしい」という理由だけで導入し、
なぜ失敗したかを説明できなかった。

これは、多くの中堅・大企業でも起きている構造です。

■ “正解探し”文化の限界

組織が大きくなるほど、

  • 失敗したくない
  • 説明責任が重い
  • 稟議を通す必要がある

という事情から、「正解っぽいもの」を探す癖が強くなります。

でも、経営や組織づくりに“唯一の正解”はありません。
市場も、人も、文化も違うからです。

正解を探し続ける組織ほど、

  • 動きが遅くなる
  • 実験ができなくなる
  • 環境変化に弱くなる

という矛盾を抱えます。

■ 戦略はコピーできない

コピーできるのは、

  • ツール
  • フレームワーク
  • 表面的な施策

だけです。

本当に差がつくのは、

  • なぜそれをやるのか
  • どう運用しているのか
  • 失敗をどう扱っているか

という内側の設計です。

戦略とは、
“選ばなかったこと”の集合体でもあります。

これを外から真似ることはできません。

■ これから求められる3つの力

B社の事例から、中堅・大企業に必要な力は明確です。

① 前提把握力

  • 自社の文化
  • 現場の実態
  • 人材の特性
  • 顧客との関係

これを正確に言語化できるか。

② 仮説設計力

  • うちの場合、どうなるか
  • 何が障害になるか
  • どこから試すか

を自分たちで考える力。

③ 学習速度

  • 小さく試す
  • すぐ振り返る
  • すぐ変える

この回転数が、変化への強さを決めます。

■ 示唆

これからの経営は、

「どの事例を選ぶか」ではなく、
「どう読み替えるか」
が問われます。

ベンチマークは、

  • 目標ではなく
  • 材料であり
  • 思考の起点

に過ぎません。

考えることを外注した瞬間、組織の成長は止まります。

まとめ+問い

成功事例は、
答えではありません。

それはあくまで
「その会社にとっての地図」です。

同じ地図を持っていても、

  • 出発地点が違えば
  • 体力が違えば
  • 目的地が違えば

進み方も、たどり着く場所も変わります。

A社は、
地図をそのままなぞろうとしました。

B社は、

  • 「自分たちは今どこにいるのか」

を確認した上で、
使える部分だけを抜き取りました。

違いを生んだのは、
施策でもツールでもなく、

“前提を読む力”です。

問い

あなたの会社は、
今、何をコピーしていますか?

それは

  • 誰の成功事例ですか?
  • どんな前提で成り立っていますか?

そして、

その前提は、本当にあなたの会社と同じでしょうか?

もし違うとしたら、

  • どこが違うのか
  • どう読み替えるべきか

そこから考え直すことが、
次の成長の入り口かもしれません。

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