IT需要は好調なのに倒産増加─ソフトウェア企業で何が起きているのか【診断ノート】 | ソング中小企業診断士事務所

IT需要は好調なのに倒産増加─ソフトウェア企業で何が起きているのか【診断ノート】

IT需要は好調なのに倒産増加─ソフトウェア企業で何が起きているのか【診断ノート】

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ソフトウェア業界で倒産が増えています
帝国データバンクの調査によると、
ソフト受託開発とパッケージソフトウェア業を合わせた「ソフトウェア業」の倒産件数は、
2025年度に2月までで195件となりました。
過去10年で最多だった2024年度の同時期と並ぶ水準です。

一方で、IT業界全体の需要は決して弱いわけではありません
景況感を示す指標では、情報サービス業は長く高水準を維持しており、
企業のDX投資やシステム開発の需要も続いています。

つまり、需要がある業界で倒産が増えているという状況です。

背景には、人手不足があります。
IT人材の獲得競争は激しく、給与水準も上昇しています。
しかし、そのコストを価格に転嫁できない企業も少なくありません。

特に受託開発の分野では、
仕事が多層の下請構造で流れることが多く、
下流の企業ほど価格交渉力が弱くなります。

需要はある。
仕事もある。
それでも倒産が増える。

これは単なるIT業界の景気の話ではありません。
構造の問題です。

ソフトウェア業界で起きているこの現象は、
多くの中小企業にも共通する経営課題を示しています。

この記事を読むことで得られること

  • ソフトウェア業界で「需要があるのに倒産が増えている」背景を、数字と構造の両面から整理できます
  • 受託開発の多層下請構造や、パッケージ企業の収益化の難しさが経営にどう影響するかが見えてきます
  • 中小規模のIT企業が今後生き残るために、どの立ち位置を目指すべきかの現実的な視点が得られます

まず結論:ソフトウェア業界の倒産増加は、需要不足や技術不足ではなく、「仕事があっても利益が残りにくい構造」に中小企業が置かれていることの表れです。

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何が起きているのか(事実整理)

帝国データバンクの調査によると、
ソフト受託開発とパッケージソフトウェア業を合わせた「ソフトウェア業」の倒産件数は、
2025年度に2月までで195件となりました。
これは、過去10年で最多だった2024年度の同時期と並ぶ水準です。
ソフトウェア業界では、倒産が高止まりしている状況が続いています。

負債額別に見ると、倒産企業の多くは小規模事業者です。
負債1億円未満の企業が165件を占め、
全体の約84.6%にのぼります。
この数字からも、小規模な開発会社を中心に淘汰が進んでいることが分かります。

業種別では、「ソフト受託開発」157件と大半を占めました。
ソフトウェア企業の中でも、
企業からの依頼を受けてシステムやソフトを開発する受託型の企業で、
倒産が多く発生しています。

一方で、「パッケージソフトウェア業」の倒産は38件でした。
件数は受託開発より少ないものの、
2000年度以降で最多となる見通しです。

倒産195件。
過去最多水準。
そのうち約85%が小規模企業。
そして受託開発企業が157件。

数字を整理すると、
ソフトウェア業界の中でも特に小規模な受託開発企業で
倒産が集中している状況
が見えてきます。

なぜ需要があるのに倒産するのか

ソフトウェア業界は、需要そのものが落ちているわけではありません
DX投資やシステム更新、業務効率化など、
企業のIT投資は続いています。
それでも倒産が増えている背景には、業界特有の構造があります。

下請構造の問題

まず挙げられるのが、下請構造です。
ソフト受託開発では、
大手企業が受注した案件が複数の企業に再委託される
多層構造になりやすい傾向があります。
元請企業から二次請け、三次請けと仕事が流れていく中で、
実際の開発作業は下流の企業が担うケースも少なくありません。

この構造の中で、下流の企業ほど価格交渉力が弱くなります。
発注条件が決まった後の工程を担当するため、
単価を引き上げることが難しいからです。
結果として、売上は確保できても利益が残りにくい状況になります。

人材面の課題

さらに、人材面の問題も重なります。
IT人材の不足が続く中、給与水準は上昇しています。
大手企業や成長企業が積極的に採用を進める一方で、
小規模な受託企業では賃上げの原資を確保できないケースもあります。

その結果、エンジニアがより条件の良い企業へ移る「人材流出」が起きます。
人手不足によって受注した案件をこなせなくなり
開発が遅れたり頓挫したりするケースも出てきます。

需要はある。
仕事もある。

しかし、
下請構造による価格制約と、
人材流出による開発力の低下

この二つが重なることで
経営が成り立たなくなる企業が増えているのです。

IT受託の構造問題

ソフト受託開発のビジネスでは、
案件が一社だけで完結するとは限りません
多くの場合、仕事は複数の企業を経由して進む構造になっています。

典型的な流れは次のようになります。

  • 元請企業
  • 二次請け企業
  • 三次請け企業
  • 実際の開発を担う下流企業

大手企業や大規模なSIerが顧客から案件を受注し、
その一部を他社へ再委託します。
さらにその企業が別の企業へ委託することで、
開発工程が段階的に分かれていきます。

この構造では、上流に近い企業ほど利益を確保しやすく
下流に行くほど利益率は低くなります。
開発工程を担当する企業は、
すでに決められた予算の中で作業を進めることになるため、
単価の交渉余地が小さいからです。

さらに、下流の企業ほど人件費の影響を直接受けます。
ソフトウェア開発は人の作業による部分が大きいため、
エンジニアの給与が上がると、そのままコスト増につながります。

しかし、契約単価を簡単に引き上げることはできません

その結果、仕事はあるのに利益が残らないという状況が生まれます。

👉 IT受託ビジネスでは、構造上、下流ほど利益が薄くなる傾向があります。

小規模な開発会社ほど、この構造の影響を強く受けやすいのです。

パッケージ企業の問題

ソフトウェア企業の中には、
自社で製品を開発し販売する「パッケージソフトウェア企業」もあります。
受託開発とは異なり、
特定の顧客から開発費を受け取るのではなく
自社で製品を作り、それを販売して収益を得るビジネスモデルです。

このモデルには、別の難しさがあります。

開発期間の長期化

まず、開発期間が長くなりやすい点です。
パッケージソフトは多くの企業やユーザーに使われることを前提に設計されるため、
機能開発やテストに時間がかかります
市場に出るまでに数年単位の開発期間が必要になることも珍しくありません。

収益化までの時間

次に、収益化までの時間が長いことです。
製品が完成するまでは売上がほとんど発生せず
開発投資だけが先に進みます
販売が軌道に乗るまでには、さらに時間がかかる場合もあります。

固定費の先行

その間も、企業はエンジニアの給与やオフィス費用などの固定費
支払い続ける必要があります。
人件費が中心となるIT企業では、
この固定費の負担が大きくなりやすい特徴があります。

つまり、収益が立ち上がる前にコストが積み上がる構造です。

  • 開発期間が長い。
  • 収益化まで時間がかかる。
  • 固定費が先行する。

こうした条件が重なると、
資金繰りが難しくなり、事業継続が困難になる企業も出てきます。

診断士視点:IT企業の倒産は技術ではなく構造の問題

IT企業の倒産と聞くと、
技術力が足りなかったのではないか」と考えられることがあります。
しかし実際には、必ずしもそうとは限りません

多くの企業は一定の技術を持ち
実際に開発案件も受注しています。
IT需要そのものも堅調で、
仕事がまったくないという状況ではありません

それでも経営が行き詰まる企業が出てくるのは、
技術の問題ではなく、構造の問題です。

受託開発では多層の下請構造が存在し、
下流の企業ほど価格交渉力が弱くなります。
人件費が上昇しても、
そのコストを価格に転嫁できない場合があります。

一方、パッケージソフトの企業では、
開発期間が長く、収益化まで時間がかかるという課題があります。
売上が立つ前に人件費などの固定費が積み上がるため、
資金繰りが難しくなるケースがあります。

つまり、技術力の有無ではなく
どのビジネスモデルの中に位置しているかが、
経営に大きく影響します。

IT企業の経営では、
どの技術を持つか」だけでなく、
どの構造で仕事をするか」が重要になります。

  • 受託開発であれば、どの工程を担うのか
  • 自社製品であれば、収益化までの資金をどう確保するのか

技術だけでは企業は存続できません。
構造を理解し、経営として設計できるかどうかが問われています。

中小規模のIT企業でもできる対策とは?

IT業界の構造を見ると、
小規模な企業ほど不利な立場に置かれやすいことは確かです。
しかし、すべての中小IT企業が同じ状況に陥るわけではありません
構造を理解したうえで、取れる対策も存在します。

1. 単純な下請からの脱却

まず重要なのは、単純な下請の位置から抜け出すことです。
受託開発でも、要件定義や設計といった上流工程に関わることで、
価格交渉力は大きく変わります
顧客と直接対話できる関係を築くことが、
単価や契約条件を守るための土台になります。

2. 特定分野への専門化

次に、特定分野への専門化です。
例えば特定の業界システム特定の技術領域に強みを持つことで、
「代替できない企業」になることができます。
専門性が明確になるほど、価格競争から距離を置きやすくなります。

3. 自社サービスやプロダクトの保有

さらに、自社サービスや小規模なプロダクトを持つことも一つの方法です。
すぐに大きな収益につながらなくても、
受託開発だけに依存しない収益源を持つことで、
経営の安定性は高まります

4. 人材戦略の強化

そしてもう一つ重要なのが、人材戦略です。
エンジニアの採用や育成は簡単ではありませんが、
働きやすい環境や明確なキャリアパスを示すことで、
定着率を高めることは可能です。

IT企業の経営では、
仕事を受ける力」だけでなく、
どの立ち位置で仕事をするか」を選ぶことが重要になります。

構造を理解し、少しずつでも自社の立ち位置を変えていくこと。
それが、中小IT企業が持続的に成長するための現実的な対策と言えます。

まとめ|需要があるのに倒産する業界

ソフトウェア業界は、決して需要が弱い業界ではありません
DX投資やシステム開発の需要は続き、
景況感も比較的高い水準を維持しています。

それにもかかわらず、倒産件数は過去最多水準となっています。

この現象は、需要不足では説明できません

  • 受託開発では、多層の下請構造によって利益が下流へ届きにくい
  • パッケージソフトでは、収益化までの時間固定費の負担が大きい。
  • 人材不足と賃上げの流れが、コストを押し上げている。

つまり問題は、技術でも需要でもなく、企業が置かれている構造です。

👉 構造が利益を奪う。

仕事があっても利益が残らない。
需要があっても企業が存続できない。

こうした状況は、IT業界だけの話ではありません

最後に問いかけます。

あなたの会社のビジネスモデルは、
利益が残る構造になっていますか。

それとも、
構造の中で利益を削られていませんか。

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