大型再編は大企業だけの話ではない─大成建設×東洋建設TOBに学ぶ、中小企業の攻めと守りのM&A戦略【診断ノート】 | ソング中小企業診断士事務所

大型再編は大企業だけの話ではない─大成建設×東洋建設TOBに学ぶ、中小企業の攻めと守りのM&A戦略【診断ノート】

大型再編は大企業だけの話ではない─大成建設×東洋建設TOBに学ぶ、中小企業の攻めと守りのM&A戦略【診断ノート】

動画で見る診断ノートの記事説明

※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。

大成建設が海洋土木に強みを持つ東洋建設をTOB(株式公開買付け)で傘下に収めると発表しました。
一見すると「大企業同士の出来事」に思えるかもしれませんが、その背景には、業界構造の変化、人材不足、国際競争といった課題があり、これらは中小企業の経営現場にも確実に波及しています。

M&Aはもはや特別な出来事ではなく、事業承継や成長加速のための有力な選択肢です。
本稿では、今回の大型再編を題材に、「売り手」「買い手」双方の視点から中小企業が今から押さえておくべきポイントを解説。攻めと守りを両輪で回すことで、再編の波を“選び、乗りこなす”企業になるためのヒントをお届けします。

この記事を読むことで得られること

  • 大成建設×東洋建設TOBを起点に、再編の波が中小企業にも及ぶ理由と業界構造の読み方がわかります
  • 売り手・買い手それぞれの視点で、企業価値最大化/シナジーの数字化/PMI設計など実務の要点が整理できます
  • 今から始める最初の一歩(強みの言語化、財務・業務の可視化、攻めと守りのM&Aシナリオ作成)が明確になります

まず結論:M&Aは“危機回避の最後の手段”ではなく、攻めと守りを同時に進めるための現実的な経営手段です。波を選び乗る鍵は、事前準備と数字で語る設計にあります。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. そもそも TOBとは?国内における規模別・業種別実施状況
    1. TOB実施企業・対象企業の企業規模別状況(2024年実績)
      1. TOB実施企業(買付けを仕掛けた側)
      2. TOB対象企業(買い付けられた側)
      3. 買付代金(資金規模別)
    2. TOBの業種別傾向(2024年)
      1. TOB実施企業の業種
      2. TOB対象企業の業種
    3. 全体件数の動向(近年の増加傾向)
  2. 大成建設が東洋建設をTOBで買収した背景と建設業界再編の展望
    1. 買収の基本情報と企業概要
    2. 建設業界が直面する人手不足と資材高騰
    3. 陸海統合による事業シナジーと差別化戦略
    4. 中小企業が学ぶべき建設業界M&A戦略
    5. 国際競争を見据えた事業ポートフォリオ最適化
    6. 波を乗りこなすための準備ポイント
  3. 中小企業のM&A時代:事業承継と成長戦略の最前線
    1. 深刻化する後継者不足が中小企業を動かす
    2. 事業環境の激変が加速するM&Aニーズ
    3. 事業承継型と成長加速型M&Aの特徴比較
    4. 地方中小企業が切り開くM&A成功ストーリー
    5. 売り手と買い手が備えるべきM&A準備
    6. 統合後の組織文化融合と人材戦略
    7. 未来を切り拓くM&A意識の分岐点
  4. M&A売り手が高評価を獲得するための企業価値最大化ガイド
    1. 財務透明性でM&A評価を高める
    2. 業務プロセスの可視化で事業承継リスクを低減
    3. 人材安定化で買い手に安心感を提供
    4. 顧客資産の見直しで安定収益を実証
    5. ブランド力とESG対応でM&A差別化を実現
    6. いつでも売れる状態で選択肢を広げる経営
    7. 売り手準備チェックリスト
    8. 経営者への問いかけ
  5. 中小企業M&A買い手視点 リスク抑制とシナジー創出の完全ガイド
    1. 買収対象の本当の価値を正確に評価する
    2. シナジーを数字化して統合効果を明確化
    3. PMI統合プロセス設計で統合後の失敗を防ぐ
    4. 中小企業買い手特有のリスクと回避策
    5. 経営者への問いかけ
  6. 中小企業M&A攻めと守り戦略のポイント
    1. 攻めの戦略で新市場と既存事業を拡大
    2. 守りの戦略で財務体質と雇用を確保
    3. 攻めと守りがもたらす持続的成長
    4. M&Aシナリオを今から描く方法
    5. 経営者への最終問いかけ

そもそも TOBとは?国内における規模別・業種別実施状況

TOB(ティーオービー、英語:Take‑Over Bid)とは、公開会社の株式を、市場外で一定期間・一定価格・一定株数を公告して、不特定多数の株主から買い集める手法を指します。
主に企業買収や企業再編(M&A)の手段として用いられており、短期間に大量の株式を取得することが可能です。

さらに、TOBには「友好的TOB」(対象企業の経営陣が合意)と「敵対的TOB」(経営陣の合意を得ずに株主に直接提案)のように、性質によって分類されるケースもあります。

TOB実施企業・対象企業の企業規模別状況(2024年実績)

TOB実施企業(買付けを仕掛けた側)

  • 非上場(その他):最も多い(例:ファンドやMBO目的の特別設立会社)
  • 時価総額1,000億円超:大規模上場企業が次いで多い

TOB対象企業(買い付けられた側)

企業規模 割合
時価総額100億円以下 約50%
時価総額50億円以下 26%
時価総額1,000億円超 約14%

買付代金(資金規模別)

買付金額 割合
50億円以下 31%
100~500億円以下 31%
1,000億円超 約12%

TOBの業種別傾向(2024年)

TOB実施企業の業種

  • 非上場(その他):最も多い
  • 情報通信・サービスその他:次いで多い
    • 情報通信業:10社
    • サービス業:7社

TOB対象企業の業種

業種 社数
情報通信業 23社
サービス業 12社
その他製品 2社

業種としては、やはり情報通信業・サービス業がTOBの中心となっている傾向が顕著です。

全体件数の動向(近年の増加傾向)

  • 2024年のTOB件数:79件(再び増加傾向)
  • 2025年(年初4ヶ月):50件に到達し、前年度よりペースが速い
  • 最終的に再び100件の大台に達する可能性が高い状況

大成建設が東洋建設をTOBで買収した背景と建設業界再編の展望

買収の基本情報と企業概要

2025年8月8日、大成建設が東洋建設をTOB(株式公開買付け)で買収すると発表しました。大成建設は国内外の大型インフラや都市開発プロジェクトに強みを持つ総合建設会社です。東洋建設は海洋土木に特化し、防波堤や港湾整備などで高い技術力を誇ります。

建設業界が直面する人手不足と資材高騰

  • 建設技能労働者の平均年齢は50歳を超え、若手確保が急務になっている
  • 資材価格の高騰と国際物流の混乱でプロジェクト採算が年々悪化している
  • 国内市場の受注競争激化で限られたパイの奪い合いが深刻化している

陸海統合による事業シナジーと差別化戦略

陸上の都市開発やビル建築を強みとする大成建設と、海洋土木に特化した東洋建設。この統合により一貫したプロジェクト遂行能力が実現し、競合他社との差別化を図ります。

企業 主な強み 統合後のシナジー
大成建設 都市開発・大型インフラ 都市と港湾の連携施工
東洋建設 海洋土木技術 洋上風力・港湾一体開発

中小企業が学ぶべき建設業界M&A戦略

  • 自社の強みを言語化し、市場価値を明確化する
  • 外部パートナーとの協業で新規市場や技術を獲得する
  • 売却か買収かの選択は、準備次第で評価額が大きく変動する

国際競争を見据えた事業ポートフォリオ最適化

国内の大型インフラ案件が減少する中、海外市場や再生可能エネルギー分野への参入強化が求められています。中国や韓国、欧州勢との競争に対抗するため、規模とスピードを兼ね備えたアライアンス体制が重要です。

波を乗りこなすための準備ポイント

  • 市場環境で通用する強みを数値で評価する
  • 複数シナリオを数字とシナリオで比較検討する
  • 再編の波を選び、自社成長の機会に変える

中小企業のM&A時代:事業承継と成長戦略の最前線

M&Aと聞くと、かつては大企業同士の合併や買収を思い浮かべる人が多かったはずです。しかしここ数年、日本の中小企業の現場でも、M&Aは特別な出来事ではなくなりつつあります。背景には二つの大きな要因があります。

深刻化する後継者不足が中小企業を動かす

後継者不足は中小企業の存続を揺るがす最大の課題です。2025年までに70歳超の経営者が約245万人に達し、その半数以上が後継者未定という現実があります。その結果、黒字企業が後継者不在で年間5万件以上廃業しており、M&Aを緊急選択肢として検討せざるを得ない状況です。

事業環境の激変が加速するM&Aニーズ

  • 原材料価格高騰によるコスト負担増大
  • 円安進行が輸入コストをさらに押し上げ
  • デジタル化や脱炭素化への対応コスト

これらの要因が、中小企業の単独対応を困難にし、資金力や技術力のあるパートナーとの統合、あるいは吸収を通じた生き残り策を促進しています。

事業承継型と成長加速型M&Aの特徴比較

タイプ 主な目的 特徴 検討ポイント
事業承継型 後継者問題の解消 経営権の売却・統合 評価額と契約条件の明確化
成長加速型 新市場参入・技術獲得 買収や合併による事業拡大 資金調達と統合後シナジーの追求

地方中小企業が切り開くM&A成功ストーリー

  • 老舗食品メーカーが大手流通企業と提携し、販路を全国に拡大
  • 地元建設会社が異業種設備工事会社と統合し、再生可能エネルギー事業に進出

売り手と買い手が備えるべきM&A準備

  • 売り手:財務・事業構造を整理し、第三者に価値が伝わる状態をつくる
  • 買い手:獲得すべき経営資源を明確化し、資金調達と組織体制を構築する

統合後の組織文化融合と人材戦略

M&Aは株式や資産の売買を越え、人や文化の融合が成功を左右します。法務・財務のデューデリジェンスと並行して、経営者や幹部の信頼関係を基盤に組織文化の違いを緩和するコミュニケーション施策が欠かせません。

未来を切り拓くM&A意識の分岐点

M&Aを“危機回避の最後の手段”と捉えるか、“未来を切り拓く先手”と捉えるか。この意識の差が数年先の経営状態を大きく分けます。あなたの企業はどちらを選択しますか?

この文章が生まれた “背景” が気になる方へ
サービスの詳細や考え方は「初めての方へ」にまとめています。
▶︎ [初めての方へ]

この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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M&A売り手が高評価を獲得するための企業価値最大化ガイド

M&Aでの売却は、単に株式を譲渡する行為ではありません。それは、自社の歴史・人材・顧客関係・ノウハウといった、目に見えにくい資産を評価してもらうプロセスでもあります。売り手の立場としては、この評価をできるだけ高くし、好条件で契約を結ぶことが理想です。しかし、そのためには「売却の直前になって慌てる」のではなく、数年前からの準備が欠かせません。

財務透明性でM&A評価を高める

過去数年分の財務諸表を整理し、売上内訳や取引先依存度を明確化します。私的支出や過剰役員報酬は是正し、収益性とキャッシュフローの健全性を買い手にアピールしましょう。

業務プロセスの可視化で事業承継リスクを低減

  • 業務マニュアルと技術資料を文書化
  • 営業リストや案件フローを図解化
  • 経営者・キーパーソンの暗黙知を誰でも理解できる形に

人材安定化で買い手に安心感を提供

  • 中核社員との信頼関係構築
  • 評価制度・福利厚生を見直し、定着率を向上
  • M&A後のキャリアビジョンを共有して離職リスクを抑制

顧客資産の見直しで安定収益を実証

  • 長期取引先・リピート率の高い顧客をリストアップ
  • 特定顧客への依存度を分散する新規開拓戦略
  • 顧客満足度データを整理して信頼関係を可視化

ブランド力とESG対応でM&A差別化を実現

  • ESG・SDGsへの取り組み実績を具体化
  • CSR活動や地域貢献の成果を社内外に発信
  • 業界内評価やメディア掲載履歴をまとめ、ストーリー性を強化

いつでも売れる状態で選択肢を広げる経営

売却を前提にしない「常時M&A準備体制」は、銀行融資や補助金申請にも有利に働きます。買い手からの提案があっても「すぐに資料を提出できる」体制を整え、交渉の主導権を握りましょう。

売り手準備チェックリスト

準備項目 主な施策 期待効果
財務透明化 財務諸表整理・報酬是正 評価信頼性の向上
業務可視化 マニュアル化・フロー図作成 引き継ぎリスク低減
人材安定 制度整備・将来像共有 キーパーソン流出防止
顧客関係強化 取引先分散・満足度データ化 収益安定性の向上
ブランド/ESG CSR・ESG実績の発信 買い手関心の喚起

経営者への問いかけ

もし明日、思いもよらない買収提案が届いたら、あなたは売るか否かを即答できますか?その条件が本当に自社価値を反映していると確信できますか?この問いに迷いなく答えられる瞬間こそ、売り手としての準備が完了した証です。

中小企業M&A買い手視点 リスク抑制とシナジー創出の完全ガイド

中小企業がM&Aで「買う側」に回るケースは、以前に比べて確実に増えています。
理由は明快で、ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、既に動いている事業や顧客基盤、技術を持つ企業を取り込む方が、スピードも確実性も高いからです。特に市場環境が変化し続ける中では、時間をかけて市場参入準備をしている間に、競合に先行されるリスクがあります。その意味でM&Aは、スピード経営の有効な手段となります。

しかし、「買う側」には特有のリスクが存在します。経営者はそこを見誤ると、せっかくの投資が重荷になりかねません。以下では、中小企業が買収を検討するときに押さえておくべき3つの視点を整理します。

買収対象の本当の価値を正確に評価する

表面的な業績だけで判断せず、数字の裏側に潜むリスクと強みを掴みましょう。現場ヒアリングを通じて顧客構成や契約継続性、市場成長性を確認し、主要案件への依存や解約リスクを洗い出します。

  • 顧客依存度と契約更新サイクルの実態把握
  • 主要サービスの市場寿命と代替リスク分析
  • 競合ポジションと差別化要因の評価

シナジーを数字化して統合効果を明確化

「なんとなく相性が良い」ではなく、いつ・どれだけの効果を出すかを数値で示しましょう。具体的なクロスセル計画やコスト削減目標、新商品開発シミュレーションを用意することで、投資判断の精度が飛躍的に向上します。

  • 顧客基盤を活用したクロスセル予測
  • 設備統合によるコスト削減シミュレーション
  • 特許・技術活用による売上増加モデル

PMI統合プロセス設計で統合後の失敗を防ぐ

契約締結後のPost Merger IntegrationがM&A成功の鍵です。組織文化の融合やビジョン共有、キーパーソンとの対話計画を具体化し、人材流出や顧客離れを未然に防ぎます。

  • 文化ギャップを橋渡しするコミュニケーション戦略
  • 買収目的・統合ビジョンを全社員に展開
  • 主要人材との個別対話と定着支援プラン

中小企業買い手特有のリスクと回避策

限られた人材・資金リソースで統合を進めるには、事前準備が不可欠です。統合チームを早期編成し、PMI経験者や人事・財務の専門家を外部から招くことで負荷を分散し、キャッシュフロー圧迫リスクを抑えます。

  • 統合チーム体制の事前組成
  • PMI支援コンサルタントの活用
  • 返済計画を見据えた資金調達戦略

経営者への問いかけ

もし明日、条件の良い買収案件が目の前に現れたら、あなたは買うべき理由と買わない理由を数字と計画で明確に説明できますか?その判断は直感ではなく、具体的なシナジーモデルと統合プロセス設計に基づいていますか?

中小企業M&A攻めと守り戦略のポイント

大成建設と東洋建設の統合は、単なる規模拡大ではありません。
それは、今後の市場環境と業界構造の変化を見越し、「どこで勝つか」「何を守るか」を明確にした上での選択です。この姿勢は、大企業だけでなく中小企業にとっても、そのまま自社の生き残り戦略のヒントになります。

攻めの戦略で新市場と既存事業を拡大

  • 新市場へのスピード参入をM&Aで実現:既存顧客やノウハウを持つ企業を取り込む
  • 既存事業に外部技術を融合して価値向上:IT連携や他業種コラボで新価値を創出
  • 強固なブランド力を武器に交渉優位を確保:信頼性ある自社ブランドを提案材料に

守りの戦略で財務体質と雇用を確保

  • 雇用と企業文化の維持で統合後の安定を実現:従業員の安心感を保証
  • 財務健全性を強化し外部変化に耐える基盤を構築:借入依存を抑えキャッシュフローを安定化
  • 顧客基盤の分散でリスクを低減:複数の販路・契約形態で交渉力を向上

攻めと守りがもたらす持続的成長

攻守の好循環は、強固な財務基盤が新市場投資を支え、攻めで得た収益が守りを後押しします。両輪戦略で景気変動や業界再編に左右されにくい企業体質を築きましょう。

M&Aシナリオを今から描く方法

  • 売り手として動く場合:企業価値を最大化し好条件で売却する準備
  • 買い手として動く場合:M&A目的とシナジー、PMI計画を明確化
  • 両方を想定する場合:攻めと守りのバランスを保つ柔軟体制を構築

経営者への最終問いかけ

もし3年後、あなたの業界で再編の波が訪れたら、あなたの会社は波に飲まれる側でしょうか、それとも波を選び乗りこなす側でしょうか。攻めと守りを同時に磨く準備は、今から始まっています。

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