
動画で見る診断ノートの記事説明
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アサヒグループHDがサイバー攻撃により受注・出荷システムを停止し、11月のビール事業の売り上げが2割以上減少したことが報じられました。大企業であっても、システムが止まるだけで「販売計画」「繁忙期の商機」「流通の回復速度」まで大きく狂ってしまう――その現実があらためて浮き彫りになっています。
そしてこれは、IT投資の規模が限られる中小企業にとっても“他人事”ではありません。クラウド会計、POS、予約管理、受注システムなど、どの業種もデジタルに依存する度合いが年々高まっています。もし、ある朝突然システムが止まったら、受注は?決済は?納品は?営業は?その答えを持たないまま日常業務を続けている企業は少なくありません。
今回の記事では、「システム障害=ITの問題」ではなく「売上と信用の問題」と捉え、障害時に何が起きるのか、どこに経営リスクが潜んでいるのか、そして中小企業が“明日から備えられるBCP”について整理していきます。
この記事を読むことで得られること
- サイバー攻撃やシステム障害が起きたときに、自社の「どのシステムが止まると、何の売上が止まるのか」を具体的にイメージできるようになります。
- 障害発生時にあえて商品・サービスを絞り込むなど、「売上最大化より混乱最小化を優先する」非常時の意思決定の考え方が整理できます。
- アナログ代替手段・判断権限の整理・2ページの簡易手順書という、明日から中小企業でも始められる最低限のBCPの作り方がわかります。
まず結論:システム障害はIT部門のトラブルではなく売上と資金繰りに直結する経営リスクであり、「止まった瞬間に現場が迷わない仕組み」をどこまで用意できるかが、中小企業の持久力を決めます。
今回のニュースが示す現実:システム停止=売上停止
今回のアサヒグループHDの事例は、「サイバー攻撃」という特殊な出来事に見えるかもしれません。
しかし、本質的には“システムが止まる=売上が止まる”という単純かつ重い現実を示しています。
企業規模にかかわらず、現代のビジネスは多くの部分がデジタルの上に成立しています。
受注、在庫、決済、出荷、品質管理、カスタマーサポート…。
そのどれかひとつが止まるだけで、連鎖的にビジネス全体が機能不全に陥ります。
アサヒの場合、9月の障害発生直後から一部の受注を電話・FAXで代替していました。
しかし、その負荷は現場に重くのしかかり、繁忙期の商品供給にも制約がかかり、
結果として販売計画の見直しや商品の絞り込みに直結しました。
つまり、システム障害というITの問題が、そのまま売上・ブランド・信頼の問題に変換されてしまうのです。
これは、大企業に限らず中小企業でも同じです。
むしろ、余力のない中小企業のほうが影響は深刻になりやすいと言えます。
たとえば…
- 予約管理システムが落ちて来店数が読めない店舗
- クラウド会計が止まって請求処理が遅れる事務所
- ECの受注が入らず“売れたはずの売上”が消える事業者
- 取引先からのEDI注文が受信できない製造業
どれも「一時的な不具合」と捉えたくなりますが、実際は企業活動の根本を揺るがすインシデントです。
ここで注目すべきは、「原因がサイバー攻撃だったかどうか」ではありません。
重要なのは“どのシステムが止まると、何が止まるのか”を経営者自身が把握しきれていないケースがあまりにも多いという点です。
中小企業の現場では、次のような声がよく聞かれます。
- 「クラウドだから大丈夫だと思っていた」
- 「管理は外部に任せているので何が起きるかわからない」
- 「代替手段をつくる時間もコストもない」
- 「止まったときの影響を具体的に考えたことがない」
しかし、この“見ないふり”が、最も危険です。
どれだけ売上の柱が強くても、どれだけ顧客との関係が良くても、
デジタルに依存している限り、システム停止は一瞬で売上停止に転化するリスクを持っています。
さらに今回、アサヒは「流通が平常に戻るのは来年2月」と発表しています。
つまり、障害そのものよりも、回復までの時間的損失が企業活動に与えるダメージが大きいということです。
ここには「障害発生 → 一時停止 → 復旧」の単純な直線ではなく、
むしろ“復旧までの数ヶ月間の売上逸失”という長い影の部分が存在します。
中小企業にとってはなおさら重要な示唆です。
なぜなら、多くの中小企業は売上の谷をひと月つくるだけで資金繰りが急速に悪化する体質を持っているからです。
システム停止が1週間で済むのか、1ヶ月かかるのか、2ヶ月に伸びてしまうのかで、経営の安全度は大きく変わります。
今回のニュースは、技術的な課題を超えて、経営にとって次の問いを投げかけています。
- 「自社の売上は、どこまでシステムに依存しているのか?」
- 「そのシステムが止まったら、明日の売上はどうなるのか?」
「その答えを持たないことは、現代の経営において『運転中に目隠しをしている状態』に等しいと言えます。今回のニュースは、技術的な課題を超えて、経営にとって次の問いを投げかけています。
これは“ITの問題”ではなく、“経営の持久力”の問題です。
それを強く示したニュースだと言えます。
電話・FAXに戻る現場──「デジタル依存」の裏返し
サイバー攻撃によるシステム障害が起きた瞬間、全国の営業現場は一斉に“アナログ回線”へと後戻りしました。
電話、FAX、メール、手書き伝票……。表向きは「代替手段に切り替えて受注対応を継続」と聞こえますが、実際の現場はまったく別の風景だったはずです。
これは単なる不便さの問題ではなく、日本企業の“デジタル依存のリスク構造”が露わになった象徴的な出来事と言えます。
まず、電話やFAXで受注が戻るということは、人的処理能力に売上が制約されるということです。
システムであれば1秒で処理できた大量の注文も、人が読む・書く・確認するというプロセスを経る以上、処理能力は飛躍的に低下します。
ミスも増え、確認作業が増え、1件当たりの処理時間も伸び続ける。
実際、今回のアサヒでは「年末商戦の商品を大幅に絞らざるを得なかった」という報道がありますが、これは裏を返せば、受注量を増やすと現場が破綻するという判断だったはずです。
次に起きるのが、「優先順位の変化」です。
デジタルが機能している通常時は、営業も物流も“同じ画面”を見て処理できます。
しかし、電話・FAXに戻った瞬間、情報の流れはバラバラになり、“声が大きい取引先から処理される”という歪みが必ず生まれます。
現場に全ての情報が集約されないため、売り逃しや出荷の遅れが発生し、結果的に売上の低下につながります。
さらに深刻なのが、現場の心理的負荷です。
- 「またFAXが来た」
- 「ダブルチェックしないと間違える」
- 「受注漏れがあったらどうしよう」
こうした不安は、ただでさえ繁忙期の年末に現場を追い込みます。
ITシステムが担っていた“負担の吸収装置”が失われたため、人間がその役割を肩代わりするしかありません。
これは単なる作業量の増加ではなく、現場が本来注力すべき価値活動(提案・販売・関係構築)が奪われることを意味します。
そして今回、もう一つの構造的示唆があります。
多くの企業が「デジタル化を進めている」と言いますが、その実態は“デジタルが止まると業務が成立しないほど依存しているのに、止まったときの代替設計はほぼない”というアンバランスな状態だったということです。
これは、DXの本質を見誤ると必ず起きる現象です。
本来DXとは、「デジタル前提で仕事を再設計する」ことであり、“止まったときの再設計”も含めてシステムの一部であるべきです。
しかし多くの会社では、止まる前提を持たないまま、デジタル化だけが先行してしまいました。
その結果、今回のように、攻撃1つで数十億〜数百億レベルの機会損失が生まれ、復旧してもなお数か月単位で流通が混乱し続ける、という深刻な事態になります。
今回のアサヒのケースは、単に「アナログへの後戻りが大変だった」という話ではありません。
むしろ、“デジタル依存社会の裏側に潜む脆弱性が、現場にどれだけ負荷として跳ね返るか”を可視化したと言えるでしょう。
そして、どの企業も他人事ではありません。
サイバー攻撃は防げない。止まることを前提にした設計ができているか。
そして、止まったとき、現場の負担をどう最小化するか──。
今回のニュースは、その問いを強く突きつけています。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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繁忙期の商品絞り込みに見る、障害時の“集中戦略”
今回のアサヒグループHDの事例で特徴的だったのは、システム障害の只中にありながら、あえて年末のお歳暮商戦に向けた商品のラインナップを絞り込んだという点です。
一見すると「売れる時期に商品を減らすのは逆効果では?」と思われがちですが、経営の視点で見ると、この判断こそが混乱期の“集中戦略”として極めて合理的です。
システム障害が発生していた11月、同社は電話・FAXなどのアナログ手段で受注を処理していました。
しかし、アナログ手段は処理速度が遅く、ミスも起きやすく、何より現場の負荷が急増します。
つまり「売上を最大化する」という通常モードは完全に機能しない状態でした。
むしろ、商品数を増やすほど注文管理は複雑になり、受注漏れ・出荷遅延・誤配送といった“ブランドダメージ”につながるリスクが跳ね上がります。
ここでポイントになるのは、障害時の優先順位は「売上よりも、混乱の最小化」に移るということです。
企業はどんな時でも利益を追求するべきだという意見もあるでしょう。
しかし、障害発生のような「非常時」では、利益を追うことがむしろ損失を拡大させるケースがあります。
今回の商品絞り込みは、まさにそのリスクを見極めたうえでの判断でした。
特に年末商戦は、ギフト需要や季節商品が多く、注文量の振れ幅も大きい特殊な時期です。
この時期に誤配送や在庫切れが起きれば、取引先からの信頼が揺らぎ、
「アサヒの商品は頼んでも届かない」という誤った印象が広がる可能性すらあります。
ブランド毀損は、短期の売上減少では済みません。数年単位で影響が残ることも珍しくありません。
つまり今回の意思決定は、短期的売上を捨ててでも“信頼の毀損回避に全振りした”戦略と捉えるべきです。
またこの判断は、物流現場のキャパシティを理解しているからこそできたものでもあります。
デジタルが止まった状態では、商品数が多いほど作業は指数関数的に複雑化します。
SKUを絞り、出荷すべき商品を限定することで、現場に“守るべき最優先ライン”を提示できる。
これにより、混乱とストレスが一定レベルで抑えられ、事故も最小限に留めやすくなります。
さらに、障害からの復旧フェーズにおいてもこの“集中戦略”は効果的です。
システム受注の再開後、流通が通常化するのは「来年2月」とされていますが、その間に商品種類を戻しすぎると、
- 在庫調整の乱れ
- 取引先ごとの注文変動
- 新旧の受注方式の混在
といった新たな混乱が生まれます。
段階的に商品群を戻すことで、復旧プロセスを整え、安定した供給構造へ滑らかに移行できます。
今回の判断は、DXが進む時代だからこそ、なおさら重要な示唆を含みます。
デジタル化が進めば進むほど、障害発生時の影響は“より広く・より深く”なります。
その中で企業が取れる最も合理的な選択肢は、
「あれもこれも」はやらない。守るべき最小限に集中する。
という一点です。
非常時における“捨てる勇気”こそが、ブランドを守り、復旧を早め、そして中長期の利益を守る。
今回のアサヒの判断は、その典型例だったと言えるでしょう。
そしてこれは、どの企業にとっても他人事ではありません。
あなたの会社は、もし明日システムが止まったら、どの商品・サービスに集中しますか?
その優先順位は、組織内で共有されていますか?
今回のニュースは、混乱の中でこそ問われる“選択と集中”の重要性を示しています。
復旧後も売上は戻らない──時間差リスクと資金繰り
今回のアサヒグループHDのケースで見落としてはならないのが、
「システムが復旧したからといって、売上がすぐに戻るわけではない」という点です。
企業の業務基盤は、見えないところで複雑に連動しており、一度止まった仕組みが元の軌道に戻るまでには“時間差”が必ず生じます。
今回、同社が「流通の通常化は来年2月になる見通し」としているのは、まさにこの構造を示しています。
まず、サイバー攻撃による停止期間が長かったことで、卸・小売側の発注リズムが崩れたことが大きいでしょう。
小売店は商品棚の管理や在庫の最適化を行いますが、一度入荷が不安定になると、発注量自体を慎重に調整する傾向があります。
「入ってくるかどうかわからない商品」を大量に発注するリスクは取れないため、どうしても控えめな注文となり、結果として“復旧後の売上も低水準でスタートする”状態になります。
次に、商品の供給が止まっていた期間、代替商品への切り替えが発生した可能性があります。
特にビール業界はブランド数が多く、棚替えも柔軟に行われます。
数週間〜1か月の供給停止があれば、小売側は売り場の空白を埋めるために他社商品や別カテゴリを置かざるを得ません。
消費者もまた、一度代替商品を買って「これも悪くない」と感じれば、そのまま購買行動が変わることもあります。
つまり障害期間中に、
- 取引先側の棚・発注ロジックが変わる
- 消費者側の購買行動が変化する
という二段階の“離脱”が起きている可能性があるのです。
このズレが、復旧後の売上回復をさらに遅らせます。
また、流通現場では出荷停止期間中のバックログ(未処理注文)や、誤差調整、各拠点ごとの在庫再配置など、多数の作業が発生します。
これらはすぐに片付くものではなく、現場の労力を奪い続けます。
復旧直後の現場は、実はフル稼働で“処理”に追われており、新しい受注への柔軟対応が難しいタイミングなのです。
そして中小企業にとって特に重要なのは、こうした売上回復の遅れが資金繰りへ直撃するという点です。
- 売上が落ちる
- しかし仕入や人件費、固定費は止まらない
- 復旧後も売上が伸びず、キャッシュが戻らない
これが数か月続けば、資金ショートの危険性が高まります。
今回のアサヒのような大企業であれば、資金力である程度吸収できます。
しかし中小企業では、わずか1〜2か月の売上低下が致命傷になることも珍しくありません。
サイバー攻撃に限らず、設備故障、仕入停止、店舗休業など「一時的な停止」が続いた後に売上が戻らないケースは非常に多いのです。
だからこそ今、多くの中小企業が考えておくべきことは:
- 復旧後の売上がすぐ戻らない前提で、どれだけの資金余力があるか
- もし1〜2か月売上が半減した場合のキャッシュフローはどうなるか
- 代替販路/代替商品/縮小運転などの“緊急モード”を設計しているか
という点です。
システム障害は決してIT部門だけの問題ではありません。
売上、在庫、取引先との信頼関係、そして何より資金繰りに連動する“経営そのもののリスク”です。
アサヒの事例は、その規模を超えて「流通回復は遅れる」という普遍的な教訓を示しています。
あなたの会社は、「復旧後の時間差リスク」まで想定した資金計画を持っていますか?
中小企業が今からできる最低限のBCP(アナログ代替/権限整理/手順書)
大企業のシステム障害であっても、復旧までに数か月を要し、売上の戻りも遅れる──今回のアサヒHDの事例は、規模を問わず「止まることの怖さ」を改めて示したと言えます。
では、中小企業はどこから備えれば良いのでしょうか。完全なBCP(事業継続計画)をつくるのは難しくても、“最低限の3つ”を整えておくだけで、障害時の打撃は大幅に減らせます。
① アナログ代替手段を必ず確保しておく(電話/FAX/紙台帳/Excel)
今回のニュースでも象徴的だったのが、「受注が電話・FAXに逆戻りした」という点です。
皮肉なようですが、どれほどDXが進んでも、アナログの代替手段は依然として最強です。
中小企業が最低限用意しておきたいのは:
- 売上日報の紙フォーマット
- 納品書・請求書を手書きで発行できるテンプレート
- 顧客台帳のExcelバックアップ
- 主要取引先の電話番号・FAX番号
- LINEや携帯電話など、緊急時の連絡ルート
特にクラウドシステムを利用している企業ほど、ログイン不能=事業停止につながるため、紙やExcelへの「定期バックアップ」は非常に重要です。
「最悪の場合、この手段で1週間は回せる」という状態をつくるだけで、事業継続の可能性は一気に高まります。
② 権限整理──誰が“代替判断”をするのかを決めておく
システム障害が起きたとき、最も混乱するのは“判断者不在”の状態です。
- 出荷を止めるのか、部分再開するのか
- この注文を受けてもいいのか
- 仕入れをどこまで続けるのか
- 顧客への案内は誰が発信するか
これらを現場が判断できず、社長の判断待ちになると、現場は完全に止まります。
だからこそ、「障害発生時に、誰が何を判断するか」を事前に決めておく必要があります。
例)
- 商品別の出荷判断 → 店長
- 取引先への説明 → 営業責任者
- 損害額の見積り → 管理部
- 最終的な謝罪・方針提示 → 社長
判断権限を事前に決めておくことで、混乱は大幅に防げます。
アサヒHDのように規模が大きい企業でも復旧に数か月かかるのですから、中小企業が“判断の遅れ”を放置するのは極めて危険です。
③ 手順書(マニュアル)は“2ページでいい”──全員がすぐ動ける文書にする
BCPというと、100ページの分厚い計画書を想像するかもしれません。しかし現場で使われることはほぼありません。
実際に使われるのは、障害直後の「最初の2時間」で何をするかが書かれた短い手順書です。
最低限、以下の内容をまとめた「2ページの簡易手順書」を作るだけで十分です:
- 最初に確認すること(停電か/回線か/システムか)【重要:情報漏洩の可能性の有無】
- どこに連絡するか(業者・責任者・取引先)【重要:情報漏洩時は個人情報保護委員会への連絡窓口も明記】
- 当日の運用ルール(手書き対応・電話受付の範囲)
- 顧客への案内文テンプレ
- 復旧後の作業一覧(バックログ処理の方法)
大切なのは、“専門知識がなくても、その紙を見れば動ける”状態を作ることです。
結論:BCPとは「止まったときの最初の一歩」を準備すること
完璧な計画をつくる必要はありません。
ただし今回のニュースが示す通り、システム障害は売上、流通、資金繰りまで連鎖的に影響します。
だからこそ中小企業がまずやるべきことは:
- アナログで最低限動ける
- 判断者が明確
- 最初の一歩が紙で見える
という状態をつくることです。
BCPとは「大企業が作る立派な計画書」ではなく、
“止まった瞬間に、現場が迷わないための準備”に他なりません。
あなたの会社にも、今日からできる対策があります。

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