小林製薬“紅麹”問題36億円の特別損失が問いかけるもの─誠実さを損益計算書に落とせるか【診断ノート】 | ソング中小企業診断士事務所

小林製薬“紅麹”問題36億円の特別損失が問いかけるもの─誠実さを損益計算書に落とせるか【診断ノート】

小林製薬“紅麹”問題36億円の特別損失が問いかけるもの─誠実さを損益計算書に落とせるか【診断ノート】

動画で見る診断ノートの記事説明

※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。

小林製薬は、紅麹の成分を含むサプリメントをめぐる一連の問題について、
補償の対象となる被害者が510人にのぼることを明らかにしました。
また、補償や製品回収に関連する費用として、
昨年1年間で36億円余りの特別損失を計上したとしています。

表面的には、不祥事と補償額のニュースです。
被害者数や金額の大きさに目が向きがちになります。

しかし、本質はそこではありません。

この出来事が問いかけているのは、

企業が「誠実に対応する」と決めたとき、
それをどのように経営の数字に反映させるのか
という問題です。

「最後の1人まで、しっかりと誠実に補償する」という言葉は、理念としては理解しやすい。
しかし経営の現場では、それは特別損失という形で損益計算書(PL)に表れる

つまり、

誠実さは感情や声明ではなく、PLの中で判断されるということです。

これは大企業だけの話ではありません。
中小企業であっても、問題が起きたときに問われるのは同じです。

誠実さを、言葉で終わらせるのか。数字と仕組みで示すのか。

今回のニュースは、その違いを静かに示しています。

この記事を読むことで得られること

  • 小林製薬の紅麹問題を「被害者数・補償額」だけで終わらせず、“経営の論点”として整理できます
  • 「誠実に対応する」という言葉が、なぜ最終的にPL(特別損失)という形で評価されるのかが腹落ちします
  • 中小企業でも起こり得るトラブルに備え、補償範囲・判断基準・実行体制をどう設計すべきかのヒントが得られます

まず結論:信頼回復は“気持ち”ではなく、「どこまで責任を引き受けるか」を数字と仕組みに落とし込む設計で決まります。

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何が起きているのか(事実整理)

小林製薬は、紅麹の成分を含むサプリメントをめぐる一連の問題について、
昨年1年間の決算会見の中で現状を公表しました。

それによると、慰謝料など補償の対象となっている被害者は、
1月末時点で510人にのぼります。
このうち、約260人への支払いが完了しているとしています。

健康被害の具体的な症状については明らかにされていませんが、
会社は補償および製品回収などに関連する費用として、
36億円超の特別損失を計上しました。

確認できる事実(4点)

  1. 紅麹成分を含むサプリメントをめぐる問題が発生していること
  2. 補償対象となる被害者が510人に上っていること
  3. そのうち約260人への支払いが完了していること
  4. 補償・回収関連費用として36億円超を特別損失として計上したこと

まずは、数字として何が起きているのかを整理しておくことが重要です。

なぜここまで大きな問題になったのか

今回の問題がここまで大きく受け止められている背景には、
扱っている商品の性質があります。

まず、健康に関わる商品、そして「口に入るもの」は、
消費者にとって信頼の塊です。
食品やサプリメントは、購入時にその安全性を自分で完全に検証することができません。
だからこそ、企業やブランドへの信頼を前提に選ばれています。

“医薬品と食品のあいだ”というサプリメント特有の構造

サプリメントは法制度上「食品」に分類されます。
医薬品のように治療を目的とするものではない一方で、
健康維持や機能性を期待して購入されるという、

“医薬品と食品のあいだ”の領域

に位置しています。

この曖昧さは市場拡大や利便性をもたらす一方で、
リスクが顕在化したときに不安を増幅しやすい構造でもあります。

信頼を積み上げてきた企業ほど、揺らぎの影響が大きい

小林製薬のように長年ブランド信頼を築いてきた企業ほど、
問題が起きたときの影響は大きくなります。

信頼を前提に成り立つビジネスは、
裏を返せば信頼が揺らいだときの影響も大きいということです。

現代の企業に求められるのは「品質」だけではない

現代の企業環境では、単に品質が一定水準を満たしているかどうかだけでは足りません。

問題が起きたときに、

  • どこまで情報を開示するのか
  • どのように説明するのか
  • どの範囲まで対応するのか

といった説明責任と透明性が同時に問われます。

つまりこれは、品質管理の問題であると同時に、
信頼をどう設計し、どう回復させるのかという経営全体の設計が試される局面だと言えます。

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ここで問われていることの本質は“補償額”ではない

36億円という数字は、決して小さくありません。
特別損失として計上される規模としても大きく、企業の損益に直接影響を与えます。

しかし、このニュースの本質は「金額の多寡」ではありません。

本当に問われているのは、次の点です。

  • どこまでを補償対象とするのか
  • どの基準で線を引くのか
  • どこまで誠実に対応すると決めるのか

補償額とは、これらの判断の結果として現れた数字に過ぎません。

その前段階には、

  • 補償範囲の定義
  • 被害認定の基準
  • 支払いプロセスの整備

といった、数多くの経営判断が存在します。

誠実さは「仕組み」と「数字」で示される

さらに重要なのは、これらが一時的な対応ではなく、
組織として実行できる構造になっているかどうかです。

  • 誰が判断するのか
  • どの情報を基に決めるのか
  • どのタイミングで公表するのか
  • 費用はどの会計処理で反映させるのか

これらが曖昧であれば、いくら「誠実に対応する」と表明しても、実行は揺らぎます。

信頼の回復は、声明文では完結しません。
企業の姿勢は、最終的に損益計算書やキャッシュの動きとして表れます。

信頼回復とは、言葉ではなく“設計”の問題

つまり、信頼回復とは
言葉の問題ではなく、設計の問題です。

どこまで責任を引き受けるのかを決め、
それを数字と仕組みに落とし込めているか

そこにこそ、経営としての真価が問われています。

中小企業にどう関係するか

この問題を中小企業に置き換えると、決して遠い話ではありません。
規模や金額は違っても、企業活動を続ける以上、次のような出来事はどの会社にも起こり得ます。

  • クレーム
  • 事故
  • 品質トラブル
  • SNSでの炎上
  • 契約をめぐる行き違い

重要なのは、「問題が起きるかどうか」ではないという点です。
現実的には、どれだけ注意していても何らかのトラブルは発生します。

問われるのは、起きた後にどう動ける構造になっているか。

対応の質は「準備」で決まる

たとえば、次のような仕組みが整っているかどうかが鍵になります。

  • トラブル発生時の対応ルールは定められているか
  • どこまで補償するのか、基準は明確か
  • 顧客や取引先に説明できる状態になっているか
  • 現場が迷わず判断できる軸を持っているか

これらが曖昧なままだと、対応はその場しのぎになりやすくなります。
判断が個人に依存し、対応にばらつきが生まれ、結果として信頼をさらに損なう可能性もあります。

規模が小さいからこそ、ダメージは直接的です。
一件の対応が、そのまま評判や資金繰りに影響することもあります。

中小企業ほど「問題が起きたときの設計」が重要

だからこそ中小企業ほど、

「問題を起こさない」こと以上に、
「問題が起きたときの設計」を持っているかどうか
が重要になります。

誠実さは、気持ちだけでは伝わりません。
判断基準と実行プロセスが整っているかどうか。
そこに、企業としての強さが現れます。

診断士視点:誠実さは感情ではなく設計で示す

問題が起きたとき、多くの企業はまず「誠実に対応します」と表明します。
その姿勢自体は大切ですが、経営の視点で見ると、それは出発点にすぎません

本当に問われるのは、その言葉をどう実行へ落とし込むかです。

誠実さは「決断」と「仕組み」で形になる

たとえば、次のような判断と整備が必要になります。

  • 損失をどのタイミングで計上するのかという決断
  • どこまでを補償対象とするのかという範囲の定義
  • 迅速に支払いを進めるための体制整備
  • 社内での意思決定フローの整理

こうした具体的な判断と実行が積み重なって、はじめて「誠実な対応」は現実のものになります。

費用を計上するという行為は、単なる会計処理ではありません。
それは、企業としてどこまで責任を引き受けるのかを数字で示す決断です。

誠実さは、損益計算書の中で初めて現実になる

誠実さは、感情や声明の中にあるのではありません。
損益計算書(PL)という形で初めて現実になるものです。

経営とは、理念や想いを掲げるだけでは終わりません。
それを、売上・費用・損失といった数字に落とし込み、組織として実行できる状態にすることです。

想いを、損益計算書に落とせているか

言い換えれば、

想いを、損益計算書に落とすこと。

そこまで設計できているかどうかが、
企業の強さを静かに分けていきます。

まとめ|信頼は、守るものではなく“再設計するもの”

どれだけ管理を徹底しても、問題をゼロにすることはできません。
品質管理を強化し、チェック体制を整えても、想定外は必ず起こります。

しかし、対応は設計できます。

  • どの範囲まで責任を引き受けるのか
  • どの基準で判断するのか
  • どのタイミングで公表するのか
  • どのように費用を計上し、組織として動くのか

これらは偶然ではなく、経営の設計次第です。

信頼は、何も起きなかった結果として積み上がるものではありません。
むしろ、問題が起きた後にどう動いたかによって、再び形づくられていきます。

守るだけではなく、状況に応じて再設計するもの
それが、企業にとっての信頼です。

最後の問い

あなたの会社で問題が起きたとき、
その誠実さを“数字と仕組み”で説明できますか。

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