
PL担当:うさぎ
売上は上がった、しかし翌月は下がる。
新規は取れる、でも定着しない。
キャンペーン月だけ盛り上がり、その後沈む。
この“波の正体”は、集客や広告の問題ではありません。
事業の土台に 「戻ってくる理由」が設計されていないことにあります。
売上高より、まず見るべきは
再来店・再購入がどれだけ起きているか──リピート率。
リピートは「偶然の満足」ではなく
意図してつくり込む経営行動です。
本稿では、安定経営を支えるこの指標を掘り下げます。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。
■企業概要
業態:地域密着型ヘアサロン(セット面6席/スタッフ4名)
客層:30〜50代の固定客中心、ホットペッパー経由で新規も流入
収益構造:初回来店は割引クーポン利用が多く、利益薄
課題:
- 新規獲得は順調。しかし3回目の壁を越えられず離脱が多い。
- 月次売上は波があり、広告依存から抜け出せない状態。
「月単位では黒字だが、年間で見ると不安定」
「常に新規を追い続ける疲弊感がある」
という典型的な“ジェットコースター型”収益構造。
リピート率が利益を決める ─ 限界利益の構造から見る
新規顧客の獲得には、広告費・人件費・初回カウンセリング・導入説明など、必ず高い“獲得コスト”が乗ります。
一方、リピート顧客はすでに関係性が成立しているため、追加獲得コスト0で売上が立つ構造です。
その差はダイレクトにLTV(顧客生涯価値)と限界利益率に跳ね返ります。
つまり、同じ売上1万円でも以下のような違いがあります。
| 種類 | 売上 | 獲得コスト | 限界利益(概念) |
|---|---|---|---|
| 新規顧客 | 10,000円 | 3,000〜5,000円 | 低い |
| リピート顧客 | 10,000円 | 0円 | 非常に高い |
指標の定義
リピート率 = 期間内リピート顧客数 ÷ 全利用顧客数
例えば、100名利用 → 40名が再来店なら40%となります。
低リピートの会社は何が起きているか
リピート率が低い会社は、
「常に新規を仕入れ続けなければ売上が成立しない体質」になります。
- 広告費が止まった瞬間に売上が落ちる
- キャンペーン月と非キャンペーン月の差が極端
- 新規反響が市場環境に左右され、経営が安定しない
つまり、新規獲得型経営は加速すればするほど、固定費の上昇・疲弊・粗利率悪化を招く構造を内包しています。
誤解と落とし穴──“数値は出るが原因が見えない”
リピート率は「数字」で判定できます。
しかし、数字が出ているのに、原因の正体が見えない──ここに多くの企業が陥ります。
よくある誤解
| 誤解 | 経営側の思考 | 実際の落とし穴 |
|---|---|---|
| 接客力で決まる | 良い接客なら戻ってくるはず | 体験後の“記憶維持”がなければ自然減衰 |
| 商品力で決まる | 商品が良ければ継続購入 | 商品満足とリピート行動は別物 |
| 広告運用で改善できる | リターゲティングすれば戻る | そもそも戻る“理由”や動機設計が欠如 |
ここが重要です:
リピートは、「その瞬間の満足」では決まりません。
体験設計 × 事後フォロー × 記憶の維持という「再購入の回路」が用意されているかで決まります。
典型的失敗例(経営現場で頻発)
- 来店時は満足 → その後「思い出す機会」がゼロ
- 体験記憶は時間とともに必ず薄れる
- 良かったはずなのに、戻る理由が思い出せない
- DM・LINE配信が“売り文句だけ”で終わる
- 「お得」「割引」「今日まで」ばかりでは関係が摩耗
- “関係性”ではなく“通知ストレス”として認知される
- 担当スタッフごとに接客・提案内容がバラバラ
- ブランド体験が標準化されず、記憶が整理されない
- 「あの時と違う」「言われたことが違う」の違和感が蓄積
体験満足は“記憶”であり、そのままでは減衰する
「よかった」「また来たい」──これは欲求ではなく記憶です。
時間が経つほど、必ず薄れ、消えていきます。
よって経営側が作るべきは、
- 思い出す機会
- 再訪を促す体験の延長
- 記憶を呼び戻す仕掛け
数値(リピート率)だけを追っても改善が進まない背景には、
仕組みとして“思い出させる導線”が欠落しているという構造があります。
リピート率は設計で上げる──感覚ではなく仕組み
「また来てほしいから丁寧に接客する」「気持ちを込めてフォローする」
──これらは大切ですが、属人的で再現性がないという決定的弱点があります。
リピート率は“好かれた”結果ではなく、
“戻ってくる導線を設計した”結果です。
高リピート企業の共通点
| 共通点 | 本質 | 失敗企業との決定的差 |
|---|---|---|
| 初回の段階で「次回予約の理由」をセット | 来店時満足を“行動”に転換 | 次も来てね、で終わらせない |
| 連絡は「告知」ではなく“思い出させる体験の追体験” | 記憶を再度呼び起こす | 割引や宣伝だけの通知では摩耗 |
| 顧客のステージ管理(新規→ミドル→ロイヤル) | 体験に応じて接点と提案を変える | 一律配信・一律割引で疲弊 |
つまり、
高リピート企業は「良い接客」のさらに先、
“行動に導く設計”の有無で勝っています。
例:美容サロンにおけるリピート設計
| ステージ | 顧客の心理 | 事業者が設計すべき行動 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 新規 | 期待と不安/比較モード | 初回だけの満足で終わらせず “次回来店の理由”を言語化して提示 | なぜ戻るかを明確化 |
| ミドル | 比較→選別→定着判断期 | 体験のフォローと“覚えている接触” (指名、施術履歴、好み反映) |
「自分ごと化」させる |
| ロイヤル | 信頼/帰属/既に選択完了 | キャンペーン不要 “あなたに合う提案”で自然回帰 |
負担のない自走的リピート |
「また来てね」では人は動きません。
高リピート企業は、次回来店の理由を必ずセットします。
- 次回で効果が最大化する
- 今回の施術の持続期間
- ここで切り替えタイミングが来る
- 今後のメニュー最適化の計画
こうして、「再訪する必然性=再購入理由」を顧客の言語で提示します。
リピートは満足の延長ではなく、
理由の設計によって起きる行動です。
“思い出させ設計”がコア
DM・LINE・アプリ通知は、
「売り込み」ではなく記憶補助として設計します。
- 前回の言語化された成果
- 体験の振り返り
- 個別履歴に基づく提案
- 忘却曲線を前提にしたタイミング設計
通知の役割は、思い出させ、行動へ橋渡しすることです。
“定着”が利益を生む ─ リピート率の経営インパクト
多くの経営者は「売上が上がること」に意識を奪われます。
しかし、組織が本当に救われるのは「売上の安定性」のほうです。
リピート率 +10% は、売上 +10%よりもはるかに強い経営改善効果を持ちます。
なぜか。
それは、リピートは“利益構造”に直撃する改善だからです。
新規依存経営は、利益が残らない
新規売上は派手に見えます。
広告もイベントもキャンペーンも数字を“一瞬”押し上げてくれます。
しかしその裏側では、必ず以下の負担が積み上がります。
- 広告費/紹介手数料
- スタッフ対応工数
- 初回説明・案内時間
- トライアル価格による粗利低下
- クレーム・ミスマッチによる心理コスト
つまり、新規売上には見えない原価が乗っています。
「売れたのに利益が残らない」会社の多くは、この“新規原価”を理解していないことが共通しています。
リピート売上は、利益の“純度”が高い
一方、既存顧客の再購入は、
獲得コスト0・説明時間減・信頼蓄積済み・単価上昇余地あり、という利益回収フェーズに入っています。
| 比較 | 新規 | リピート |
|---|---|---|
| 獲得コスト | 広告/紹介/イベント | 0 |
| 説明・案内工数 | 高 | 低 |
| 単価 | 初回割引で低め | 信頼定着で上げやすい |
| クレーム | 初回は高 | ロイヤルは低 |
| 粗利 | 低(割引+コスト) | 高(単価↑×コスト↓) |
リピートは単なる「売上の継続」ではなく、
利益回収サイクルそのものなのです。
- 採用負荷が下がる
- 研修が軽くなる
- スタッフ定着率も上がる
- 事業リスクが低減する
利益は、内部の摩耗を減らすことで生まれます。
リピート率向上は、企業の摩耗を止める唯一の仕組みとも言えます。
“安定・自走・予測可能”が生まれる
新規依存は、毎月アクセルを踏み続けなければ成立しません。
しかしリピート経営は、アクセルを緩めても落ちにくいのです。
- 今月の来店予定数が見える
- 粗利の予測が立つ
- キャンペーンに振り回されない
- スタッフの精神が擦り減らない
定着は経営リスクの逆転装置です。
リピート率 +10% は、“数字の上昇”ではなく“摩耗の停止”を実現します。
売上が増えるのではなく、
売上が崩れない事業体質へ移行するのです。
“利益”とは、顧客が戻ってきた分だけ静かに積み上がるもの
売上の波は派手です。
しかし利益は「静かに・確実に・継続的に」蓄積されます。
- 騒がしい売上
- 静かに積み上がる利益
この2つを取り違えた会社は、改善ではなく消耗の道へ進みます。
リピート率は“華やかさの指標”ではなく、事業の寿命の指標です。
事業が生き延びるか、摩耗して終わるかはリピート率が決めます。
「わかるシート」での可視化 ─ 数字ではなく“定着プロセス”を管理する
リピート率は本来、感覚ではなく“追跡されるべき行動履歴”です。
にもかかわらず、多くの現場ではこう扱われています。
- 「最近来なくなった気がする…」
- 「なんとなく離脱が増えた感じ」
- 「フォローしてるつもり」
経営において“つもり”は最も危険です。
数字は冷静で、過去を正確に記録しますが、現場感情は常に記憶の上書きがおきます。
だからこそ「わかるシート」にはリピート率の履歴管理を仕組みとして埋め込みます。

◆ “人ではなく設計で” リピートを管理する
以下は、わかるシートで具体的に設計する際の例です。本ケースに寄せたオーダーメイド設計を想定しています。
■ わかるシート(リピート率トラッカー)構造
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| A列 | 顧客ID |
| B列 | 初回来店日 |
| C列 | 2回目利用日 |
| D列 | 3回目利用日 |
| E列 | 自動ステージ判定(新規/ミドル/ロイヤル) |
| F列 | フォロー要否アラート(自動色分け) |
自動判定例(基礎式)
=IF(C2<>"","ミドル", IF(D2<>"","ロイヤル","新規"))
2回来店で「ミドル」、3回来店で「ロイヤル」へ自動昇格。
離脱アラート例(経過日数による自動色分け)
=IF(TODAY()-MAX(C2:D2)>60,"赤", IF(TODAY()-MAX(C2:D2)>30,"黄","緑"))
- 赤 : 60日以上来店なし(要即時フォロー)
- 黄 : 30日超過(軽フォロー)
- 緑 : 通常維持
◆ 提示ではなく「思い出させる」接点設計へ
多くの企業がリピートで失敗する理由はこれです。
「また来てくださいね」という言葉だけで終わる。
記憶は放置された瞬間から減衰し始めます。
わかるシートの役割は“思い出してもらう理由づくり”の起点です。
例:美容サロン
最終来店日+ケア周期30日 → 黄アラート
→ 「前回のケアから1ヶ月経ちました、肌状態はいかがですか?」
※売込ではなく“体験の続き”の提案
例:フィットネス
ミドル→ロイヤル昇格時
→ 「継続3回達成!次は個別メニュー組みませんか」
情報が“提案ではなく記憶の再接続”になります。
◆ 担当者に依存しない“定着の再現性”
属人的フォローは、辞めた瞬間に崩壊します。
経営者が見るべきは「誰がやるか」ではなく“仕組みがあるか”です。
| 管理方式 | 結果 |
|---|---|
| スタッフの感覚フォロー | 退職・異動で消える |
| わかるシート管理 | 仕組みとして残る |
◆ 「売上を見る経営」から「定着を見る経営」へ
リピート率は売上結果ではなく、顧客関係の現在値です。
| 視点 | 経営 |
|---|---|
| 売上 | 過去の結果 |
| リピート | 未来の予測線 |
| 離脱アラート | 経営体温計 |
現場のフォローが遅れた瞬間、数字は必ず沈黙してから崩れます。
しかし可視化された仕組みは先に警告を出します。
昨日リピートが落ちたのではありません。
60日前に“思い出す機会”が設計されていなかっただけです。
「わかるシート」は、売上を追う経営から未来を迎える経営へ転換するための装置です。
◆ まとめ
- リピート率は感覚ではなく記録で管理すべき指標
- わかるシートが離脱ポイントを“色”で可視化
- 人に依らず仕組みで定着率を上げる
- 売上ではなく LTVと利益構造を育てる経営へ
売上を追う経営から、戻ってきてくれる顧客を迎える経営へ。
まとめ──売上より“戻ってくる理由”を見る
リピート率とは、売上の「結果」を眺める指標ではありません。
それは、この店をもう一度選んでもらう理由が存在しているかを問う指標です。
多くの経営は、出会い(新規)を増やすほうに力を注ぎます。
広告、キャンペーン、割引、SNS、PR…。
もちろんそれらは必要ですが、それだけでは企業は成熟しません。
経営は「出会い」より「再会」の設計で決まるからです。
◆ 新規はアクセル、リピートはエンジン
新規顧客は、アクセルを強く踏めば増やせます。
予算を投下し、配信を増やし、認知を広げれば必ず反応は得られます。
しかし──
アクセルを踏み続けなければ動かない車は「自走」ではありません。
リピートはエンジンです。
- 無理に踏み込まなくても動き続ける
- エネルギー効率が高い
- 長距離に耐える
- 温度・摩耗に強い
経営における「安定」や「黒字定着」は、
広告投資でも改善フローでもなく、
戻ってくる顧客による下支えで成立します。
◆ “戻る理由”が仕組み化されているか
多くの企業に不足しているのはサービス品質でも宣伝能力でもなく、
「もう一度来ようと思い出させる回路」です。
- 再来の理由が言語化されていない
- 記憶を呼び起こす接点がない
- 体験が次回につながらない
満足だけでは、リピートは生まれません。
“満足は過去、再来は未来”だからです。
だからこそ、フォローは売り込みではなく、記憶の再点火である必要があります。
◆ 追いかける経営から、迎え入れる経営へ
売上が上下して疲弊する会社に共通するのは、
「顧客が戻る仕組みが“偶然”に依存している」ことです。
- 覚えていてくれたら来る
- 思い出してくれたら戻る
- タイミングが合えば予約する
本来、経営は偶然に任せてはいけない領域を設計する行為です。
リピート率を可視化し、離脱と継続のラインを読み、
その都度、体験の続きを接続する設計を行う。
それが、売上を追う経営から
“戻ってくる顧客に支えられる経営”への転換です。
◆ 未来は「再会」を前提に設計する
- 新規を追わなくても沈まない
- 無理に売らなくても回り続ける
- 予測可能なキャッシュフローが作れる
- スタッフが消耗しない
- 顧客が「常連化」を自然に辿る
それは派手さではなく、
とても静かで、強靭な経営状態です。
お客様を追いかけるのではなく、
また戻りたくなる位置に店を構える。
仕組みは、感情を支えるためにあります。
体験は、記憶を継続させるために存在します。
定着は、企業の未来を保証する土台そのものです。
売上の波に翻弄される経営から、
リピートに支えられる経営へ。
今日から見るべき数字は、売上の増減ではなく──
「戻ってきてくれた理由が、何だったのか」。
その問いを持つ瞬間に、
経営はようやく“再会の設計”へと動き始めます。
数字の裏側にある悩みは、決してあなただけのものではありません。
もし「うちも同じかもしれない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。
現場の声を丁寧にお聴きしながら、数字を“味方”に変える具体的な一歩を一緒に見つけていきましょう。
なお、本記事で触れた会計指標をはじめ、経営に欠かせない数字をシンプルに見える化できるのが、
当事務所オリジナルの 「わかるシート」 です。
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