
BS担当:くま
設備は揃っている。
店舗もある。機械もある。車両も、システムも、十分に投資してきた。
それなのに、なぜか経営は楽にならない。
売上は一定水準にあるはずなのに、資金繰りに余裕が出てこない。
「こんなに投資してきたのに、なぜ手元に残らないのか」
──そんな違和感を抱えたまま、次の投資をためらっている経営者は少なくありません。
この違和感の正体は、
固定資産の“量”ではなく、“働き方”を見ていないことにあります。
固定資産回転率は、
「どれだけ設備を持っているか」を測る指標ではありません。
その設備が、どれだけ売上を生み出しているか
──つまり、投資が事業として“回っているか”を映す数字です。
固定資産は、置いてあるだけでは利益を生みません。
動き、使われ、稼いで初めて意味を持ちます。
本稿では、
「持っている経営」と「動いている経営」の違いを、
固定資産回転率という数字を通じて読み解いていきます。
投資の是非ではなく、
投資を“経営に変換できているか”を考えるための一本です。
この記事を読むことで得られること
- 「設備はあるのに経営が楽にならない」という違和感の正体を、固定資産回転率という視点から整理できます
- 固定資産回転率を単なる計算式ではなく、「資産がどれだけ働いているか」を問い直す指標として読み解けるようになります
- 「わかるシート」で設備ごとの回転率を可視化し、投資判断や経営の軽さにつなげる具体的な一歩がイメージできます
まず結論:固定資産回転率は「どれだけ持っているか」を測る数字ではなく、持っている資産をどれだけ働かせているかを映す鏡であり、“持つ経営”から“使う経営”へ舵を切るための出発点です。
設備はあるのに楽にならない──ある中堅企業の状況
事業の「形」は整っているのに軽くならない経営
地方都市で事業を展開する、年商7億円強規模の中堅企業。
業種は製造・物流・サービスの要素を併せ持ち、倉庫・作業場・車両・専用設備など、一定の固定資産を保有しています。
これまでの経営判断は決して間違っていませんでした。
需要に応えるために設備を増やし、効率化のために機械を導入し、将来を見据えて拠点にも投資してきた。
その結果、事業としての「形」は整い、売上も安定しています。
経営者が抱える違和感
しかし最近、経営者は次のような違和感を抱えています。
- 売上は横ばい〜微増なのに、資金繰りに余裕が出ない
- 設備投資を重ねた割に、利益率が改善しない
- 新たな投資判断に踏み切る自信が持てない
帳簿上では固定資産が増え、BSは「大きく」なっている。
それなのに、経営の実感としては軽くならない──この矛盾が経営者を悩ませています。
問題の本質は「設備の働き方」
ここで問題になっているのは、設備が過剰かどうかではありません。
また、投資判断が間違っていたかどうかでもありません。
本当に問われるべきなのは、その固定資産が売上を生むために「どれだけ回っているか」です。
つまり、固定資産が経営の中で“働いている状態”にあるかどうかが重要なのです。
次に見るべき指標:固定資産回転率
この状態を数字で可視化するのが、次に見る固定資産回転率という指標です。
単に資産を持つことではなく、それをどれだけ効率的に売上へと結びつけているか──
ここに経営の「軽さ」を決める本質が隠されています。
固定資産回転率とは何か
固定資産回転率の定義
固定資産回転率とは、会社が保有している固定資産をどれだけ効率よく売上に変えられているかを示す指標です。
ここでいう固定資産とは、次のようなものを指します。
- 建物・店舗・工場
- 機械・設備・什器
- 内装・備品
- 車両・専用システム など
いずれも事業を行ううえで欠かせない資産ですが、同時に一度持つと簡単には減らせない「重たい存在」でもあります。
指標の定義と計算式
固定資産回転率は次の式で計算されます。
固定資産回転率 = 売上高 ÷ 固定資産
たとえば、固定資産が2億円、年間売上が4億円であれば、固定資産回転率は2.0回。
これは「保有している固定資産が、1年間で2回分の売上を生み出している」という意味になります。
数字自体に絶対的な正解はなく、重要なのは自社の中でどう推移しているか、投資前後でどう変化したかです。
固定資産回転率が見ている本質
ここで誤解されやすいのは、固定資産回転率が投資そのものの良し悪しを評価する指標ではないという点です。
高額な設備を導入したことが正しいか、投資額が多すぎたか少なすぎたか──そうした判断をするための数字ではありません。
この指標が見ているのは、もっとシンプルで厳しい問いです。
投資した後、その資産はどれだけ「働いているか」。
つまり、導入後にどれだけ売上を生むために使われているか、という点に焦点が当たっています。
「持っている」ことと「使えている」ことは違う
固定資産は持っているだけでは利益を生みません。
使われ、稼働し、回転して初めて経営に貢献します。
- 設備はあるが、稼働率が低い
- 店舗はあるが、空き時間が多い
- システムはあるが、活用しきれていない
こうした状態では、固定資産は資産ではなく“重り”として経営にのしかかります。
固定資産回転率は、その重りが「推進力」になっているのか、
それとも「足かせ」になっているのかを静かに教えてくれる数字です。
BSでありながら「使いこなし力」を映す指標
固定資産回転率はBS(貸借対照表)由来の指標ですが、単なる安全性や健全性を見るものではありません。
「どれだけ大きな会社か」「どれだけ資産を持っているか」ではなく、
持っているものをどれだけ経営に変換できているかという、極めて経営的な力を映します。
その意味で、固定資産回転率は「経営の使いこなし力」を映す指標と言えるでしょう。
よくある誤解と落とし穴
設備投資に潜む「思い込み」
固定資産回転率がうまく機能していない企業ほど、設備投資に対して共通した思い込みを抱えています。
それは一見もっともらしく、前向きに聞こえるものばかりです。
よくある誤解
- 設備投資は“将来への前向きな投資”である
- 固定資産が多い=事業規模が大きい
- 新しい設備を入れれば、生産性は自然に上がる
どれも間違っているようには見えません。むしろ健全な判断のようにも思えます。
しかし、これらの考え方には重要な前提が抜けています。
「その設備は、導入後にどれだけ使われているのか」という視点です。
実際に起きていること
現実の経営現場では、次のような状況が頻繁に起きています。
- 売上は伸びているのに、固定費が下がらない
- 設備は増えたが、稼働率が思ったほど上がらない
- 利益が出ない理由を探すと、減価償却費と維持費が静かに利益を圧迫している
固定資産は導入した瞬間から、
「減価償却費」「修繕費」「保守費」「光熱費」などの形で毎月確実にコストを生み続けます。
使われていなくても、稼働していなくても、そのコストだけは止まりません。
“眠っている資産”が経営を重くする
問題なのは設備投資そのものではありません。
本当の問題は、資産が十分に回転せず眠った状態になっていることです。
- ピーク時間しか使われていない設備
- 空き時間が多い店舗・工場
- 想定した稼働数に届かない機械
- 入れたものの、現場で使い切れていないシステム
こうした状態では、固定資産は経営を支える土台ではなく重りになります。
帳簿上は「資産」であっても、実態としては利益を吸い取る存在になってしまうのです。
問題は「資産の量」ではなく「回転」
ここで改めて整理すると、固定資産回転率が示している問いは極めてシンプルです。
設備は、どれだけ“回っているか”。
「どれだけ持っているか」「どれだけ新しいか」「どれだけ高額か」ではありません。
回転して初めて資産は経営に貢献します。
だからこそ、固定資産回転率を見る意味は、
「投資を否定すること」ではなく、投資を“使い切る経営”ができているかを確認することにあります。
固定資産回転率が低い会社の構造
低迷する会社に共通する構造
固定資産回転率が低迷している会社には、業種を問わずよく似た構造が見られます。
それは能力や努力の問題ではなく、設計の問題です。
典型的な状態① 設備導入後、売上計画が曖昧
設備投資を行う際、「これで効率が上がる」「これから必要になる」という判断はあっても、
具体的にどれだけ売上を生むのかまで落とし込まれていないケースが多くあります。
- 月に何回使う想定か
- 1回あたり、どれだけ売上が立つのか
- 何年で回収する設計なのか
これらが曖昧なまま導入されると、設備は「あること」が目的になり、
売上を生むための道具として設計されなくなります。
典型的な状態② 稼働率・回転数を管理していない
設備が導入された後、多くの現場では稼働率や回転数を定点観測していません。
- 今日は何時間使われたか
- 1日あたり何回稼働したか
- 想定と比べて多いのか少ないのか
こうした数字を見ないままでは、設備は「使われているつもり」「忙しそう」という感覚だけで評価されます。
結果として、稼働していない時間が見えず、改善の余地も見えないという状態に陥ります。
典型的な状態③ 「あるから使う」状態になっている
本来、設備は「売上を生むために使われるもの」です。
しかし固定資産回転率が低い会社では、次第に目的と手段が逆転します。
- 設備があるから、その工程を続ける
- 店舗があるから、営業時間を変えられない
- システムを入れたから、やり方を変えられない
こうして設備は、経営の選択肢を広げる存在から、縛る存在へと変わっていきます。
結果として起きること
この構造が続くと、経営には次のような影響が現れます。
- 売上はあるのに、利益が出にくい
- 固定費が重く、借入に頼らざるを得ない
- 投資も撤退も判断できず、身動きが取れない
数字上は資産が増えているのに、経営の実感としてはどんどん重くなる。
それは、固定資産が推進力ではなく「重さ」として経営にのしかかっている状態です。
固定資産は「未来」を縛ることもある
設備投資は本来、未来のための選択です。
しかし回転しない固定資産は、未来の選択肢を奪います。
- 次の投資に踏み出せない
- 環境変化に対応できない
- 攻めた判断ができない
固定資産回転率が低いとは、経営の自由度が低下しているサインでもあるのです。
固定資産回転率はどう使うべきか
点数ではなく“問いを生む指標”
固定資産回転率は「良い・悪い」を判定するための点数ではありません。
経営のどこに手を入れるべきかを考えるための“問いを生む指標”です。
この数字を前にしたとき、経営者が投げかけるべき問いは次の3つに集約されます。
見るべき問い① この設備は、売上を何回生んでいるか?
まず確認すべきは、その固定資産が一定期間で何回分の売上を生み出しているかです。
年間売上 ÷ 固定資産額
月間売上 ÷ 固定資産額
どちらでも構いません。重要なのは感覚ではなく回数として捉えることです。
設備を「高い・安い」で評価するのではなく、どれだけ回っているかで評価する。
この視点に切り替わるだけで、投資判断の基準は大きく変わります。
見るべき問い② 稼働していない時間はどれくらいか?
固定資産回転率が低い会社ほど、「忙しい」という印象と「実際の稼働率」がズレています。
- 営業時間は長いが、空き時間が多い
- ピーク以外は設備が止まっている
- 人はいるが、設備が使われていない
こうした“止まっている時間”は数字で見なければ意識されません。
固定資産回転率は、その止まっている時間の存在を静かに、しかし確実に突きつけてきます。
見るべき問い③ 人・時間・設備は噛み合っているか?
設備単体では経営は回りません。
- 人が足りず、設備を使い切れていない
- 設備はあるが、時間帯が合っていない
- 人と設備の配置が最適化されていない
固定資産回転率が低い背景には、人・時間・設備のズレが必ず存在します。
このズレを解消することが、回転率改善の本質です。
改善の方向性① 稼働率を上げる(時間・回転数)
最初に検討すべきは、今ある設備をより長く・より多く使えないかという視点です。
- 営業時間・稼働時間の見直し
- 回転数を増やすオペレーション改善
- 使われていない時間帯の活用
追加投資をする前に、既存設備の“余白”を使い切ることが重要です。
改善の方向性② 設備の役割を再定義する
次に必要なのは、その設備が何のために存在しているのかを問い直すことです。
- 売上を生む主役なのか
- 補助的な役割なのか
- 今後も必要なのか
役割が曖昧な設備ほど回転率は下がり、固定費だけを生み続けます。
改善の方向性③ 「持たない選択肢」も検討する
固定資産回転率を改善するためには、持つことを前提にしない発想も欠かせません。
- 外注・シェア・レンタル
- スポット利用
- 投資せずに変動費化する選択
固定資産を減らすことは経営のスケールダウンではなく、
経営の自由度を取り戻す選択です。
固定資産回転率は「改善の入口」
固定資産回転率は答えを教えてくれる指標ではありません。
しかし、どこに手を入れるべきかを考える入口として、これ以上に優れた指標はありません。
次は、この数字を 👉 「わかるシート」でどう可視化し、判断につなげるかを見ていきましょう。
「わかるシート」での可視化(GSS導線)
固定資産回転率を“感覚”で終わらせない
固定資産回転率は、理解したつもりになりやすい指標の一つです。
「設備が多いから仕方ない」
「投資したばかりだから今は我慢」
「そのうち回るはず」
こうした言葉で整理された瞬間、この指標は再び“感覚の世界”へ戻ってしまいます。
だからこそ必要なのが、数字を日常の意思決定に落とし込む可視化です。
わかるシート(設備 × 売上トラッカー)例
「わかるシート」では、固定資産回転率を設備・拠点単位で見える化します。
- A列:設備・拠点名
- B列:固定資産額
- C列:月間売上
- D列:固定資産回転率(自動計算)
- E列:稼働コメント/課題
計算例:
= C2 / B2
非常にシンプルな構造ですが、この一列が入るだけで経営の見え方が変わります。
このシートで「何が起きるか」
- 「投資したのに稼げない」が言語化される
感覚では把握しづらい設備ごとの稼働差・回転差が、数字として浮かび上がります。
・同じ投資額でも回っている設備
・存在しているだけの設備
これが一目で分かります。 - 設備ごとの役割整理が進む
回転率を見ながらコメントを書くことで、
・主力設備
・補助設備
・過剰設備
という整理が自然に進みます。
「全部大事」から「何が本当に必要か」へ、視点が変わります。 - 次の投資判断が冷静になる
感覚や勢いではなく、
・どの設備が回っているか
・どこがボトルネックか
・次に投資すべき場所はどこか
を数字ベースで判断できるようになります。
結果として、投資の失敗確率が下がります。
固定資産回転率は「問い」を管理する指標
このシートの目的は、回転率を上げること自体ではありません。
・なぜ回っていないのか
・どこに無理があるのか
・本当に持つべきか
こうした問いを継続的に持ち続けることです。
「わかるシート」は、固定資産回転率を一度きりの分析で終わらせないための装置です。
次のステップ
次は、この数字を 👉 「どう意思決定につなげるか」
その具体的な使い方を見ていきましょう。
まとめ──“持つ経営”から“使う経営”へ
固定資産は「持つだけ」では経営を良くしない
立派な設備、広い拠点、新しい機械。
それらは本来、売上と利益を生むための「手段」です。
しかし一度導入されると、固定資産は次第に「前提」になり、やがて「重さ」として経営にのしかかります。
経営を軽くするのは削減ではない
経営を軽くするのは、単なる削減や縮小ではありません。
問うべきは、その資産がどれだけ回り、どれだけ稼いでいるかです。
固定資産回転率は、資産の多寡を責める数字ではなく、
使いこなせているかどうかを映す鏡です。
問い続けるべき視点
- この設備は、きちんと働いているか
- 売上を生む役割を果たしているか
- それとも、ただ“そこにあるだけ”になっていないか
こうした問いを持ち続けることで、経営は少しずつ自由度を取り戻していきます。
数字は嘘をつかない
固定資産回転率は、あなたの会社の「使いこなし力」を静かに、しかし正直に語っています。
「持つ経営」から「使う経営」へ。
その転換点に立つための糸口として、この指標をぜひ活かしてみてください。
数字の裏側にある悩みは、決してあなただけのものではありません。
もし「うちも同じかもしれない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。
現場の声を丁寧にお聴きしながら、数字を“味方”に変える具体的な一歩を一緒に見つけていきましょう。
なお、本記事で触れた会計指標をはじめ、経営に欠かせない数字をシンプルに見える化できるのが、
当事務所オリジナルの 「わかるシート」 です。
あなたのお店や会社の数字を、すぐに“自分ごと”として把握できる仕組みをご提供しています。
