黒字なのに資金が苦しい─BtoB企業にとっての「売上債権回転期間」【会計数値の糸口から / BS-第10回】 | ソング中小企業診断士事務所

黒字なのに資金が苦しい─BtoB企業にとっての「売上債権回転期間」【会計数値の糸口から / BS-第10回】

黒字なのに資金が苦しい─BtoB企業にとっての「売上債権回転期間」【会計数値の糸口から / BS-第10回】

BSくま

BS担当:くま
売上は伸びている。
利益も出ている。
それなのに、なぜか資金が足りない。

通帳の残高は減り続け、
支払い日が近づくたびに不安になる。
そんな経験はありませんか?

「黒字なのに苦しい」
その違和感の正体は、
売上が現金になるまでの“時間差” にあります。

売上は、計上された瞬間にお金になるわけではありません。
請求し、入金され、
初めて資金として使えるようになります。

この“現金化までのスピード”を映す指標が
売上債権回転期間 です。

この数字が長い会社ほど、
いくら売上を伸ばしても資金は楽になりません。
むしろ、売上増が
資金繰りを苦しくすることすらあります。

本稿では、
売上と資金のズレを生む構造をひも解きながら、
黒字でも苦しくなる理由、
そして改善のための具体的な視点を
数字から読み解いていきます。

利益ではなく、
現金になるまでの時間 を見る。
そこに、資金繰り改善の糸口があります。

売上債権回転期間とは何か:BSでありながら資金繰りを映す指標

売上債権回転期間とは、
売上が現金として回収されるまでに何日かかっているか を示す指標です。

計算式は次のとおりです。

売上債権回転期間 = 売掛金 ÷ 売上高 × 365日

ここでいう売上債権とは、
売掛金や受取手形など、
「売上は立っているが、まだ入金されていないお金」 を指します。

つまりこの指標は、

  • 売上が現金になるまでのスピード
  • 資金の滞留時間
  • 運転資金の重さ

を映し出します。

ポイントは、
この指標が 貸借対照表(BS)由来 であることです。

BSは「ある時点の残高」を示す表ですが、
売上債権回転期間はそこから
時間の概念(何日) を読み取ります。

そのため、

BSでありながら資金繰りの状態を強く反映する指標
となります。

回転期間が短い会社は、
売上が素早く現金化され、
資金繰りが安定します。

一方で回転期間が長い会社は、

  • 売上はあるのに現金が足りない
  • 運転資金が膨らむ
  • 借入に依存する

という構造になりやすくなります。

ここで重要なのは、
この指標が
利益の大小とは直接関係しない
という点です。

利益が出ていても、
売上債権回転期間が長ければ、
資金は不足します。

逆に、
利益率が多少低くても
回収が早ければ
資金繰りは安定します。

つまりこの指標は、

「儲かっているか」ではなく
「現金が回っているか」

を示すものです。

売上を追いかけるだけでは見えない、
資金の詰まりどころを教えてくれる。
それが売上債権回転期間です。

次のセクションでは、
この指標が問題になる典型的な企業像を
具体的なペルソナとして設定していきます。

企業概要(ペルソナ):売上増だが入金遅延で苦しい会社

ここでは、典型的なケースとして
受託型のITサービス企業 を想定します。

  • 従業員:12名
  • 主な事業:システム開発・保守受託
  • 売上:年々増加
  • 利益:黒字を維持

表面上は、順調に成長している会社です。

案件数も増え、
受注単価も上がり、
売上は右肩上がり。

しかし、経営者の実感はまったく違います。

  • 通帳残高が増えない
  • 月末の支払いが不安
  • 外注費と人件費の支払いが先行
  • 借入に頼る頻度が増えている

「売上は伸びているのに、なぜ資金が苦しいのか」

その理由は、入金サイトの長さ にあります。

この会社の取引条件は、

  • 検収後に請求
  • 入金は翌々月末

つまり、
売上計上から現金化まで約90日 かかっています。

一方で、

  • 外注費:月末支払い
  • 人件費:毎月固定
  • 社会保険料:翌月支払い

現金の流出は早く、
流入は遅い。

その結果、

売上が増えるほど運転資金が必要になる構造
になっています。

さらに、案件の大型化に伴い
売掛金残高が膨らみ、
BS上の売上債権は年々増加。

売上債権回転期間は120日超 に伸びています。

この状態では、
いくら利益が出ていても
資金繰りは改善しません。

経営者の悩みは次のようなものです。

  • 黒字なのに資金が足りない
  • 売上を伸ばすほど不安になる
  • 借入が増え続けている
  • 投資判断ができない

これは決して特殊なケースではなく、
BtoBの受託型ビジネスでは非常に起こりやすい構造 です。

次のセクションでは、
この状況を悪化させる典型的な誤解と落とし穴を整理します。

よくある誤解売上=お金が入るという思い込み

資金繰りが苦しくなる会社に共通しているのは、
次のような認識です。

  • 売上が増えれば資金は楽になる
  • 利益が出ていれば問題ない

これは会計上は正しく見えても、
資金の現実とは一致しません。

売上とは、
あくまで計上された金額であり、
その時点で現金が入っているとは限りません。

特にBtoBビジネスでは、

  • 納品
  • 検収
  • 請求
  • 入金

というプロセスを経るため、
売上計上から入金まで数か月のタイムラグが生じます。

しかし多くの経営者は、

  • 売上が上がった安心感
  • 利益が出た達成感

によって、現金の動きを見落としがちです。

その結果、


売上が増える
→ 売掛金が増える
→ 現金は増えない
→ 運転資金が不足する

という状態になります。

さらに誤解を深める行動

  • 売上目標だけを追いかける
  • 入金サイトを交渉しない
  • 請求タイミングを意識しない
  • 売掛金残高を定期確認しない

これらはすべて、
「売上=お金」という前提に立っているために起きるものです。

しかし実際の資金繰りでは、

利益よりも「現金化のスピード」が重要になります。

売上が大きくても、
回収が遅ければ資金は不足します。

逆に、
売上規模が小さくても
回収が早ければ資金は安定します。

つまり問題は、

売上の大小ではなく、売上債権の滞留時間 にあります。

売上を「成果」として見るだけでなく、
現金化までのプロセスとして捉えること。

それが、
資金繰り改善の第一歩になります。

次のセクションでは、
回転期間が長くなる会社の構造を
具体的に整理していきます。

回転期間が長い会社の構造:検収遅れ/請求遅れ/条件交渉不足

売上債権回転期間が長い会社には、いくつかの共通した構造があります。
それは「資金繰りが苦しい会社の特徴」というより、
売上と現金の間にあるプロセスが設計されていない会社
と言い換えたほうが正確です。

① 検収の遅れ

まず最も多いのが 検収の遅れ です。

納品はしている。
作業も完了している。
しかし、

  • 顧客側の確認待ち
  • 承認フローの停滞
  • 担当者不在

といった理由で検収が進まず、
請求書を発行できない状態が続きます。

売上は立っていても、
請求ができなければ入金は発生しません。
この時点で回転期間は延び始めます。

② 請求の遅れ

次に多いのが 請求の遅れ です。

月末締め翌月請求のはずが、

  • 請求書作成が後回し
  • 内容確認に時間がかかる
  • 社内承認フローが長い

といった理由で、
請求が翌々月になってしまう。

この時点で、回収サイトはさらに後ろにずれ込みます。

③ 入金条件の未交渉

三つ目が 入金条件の未交渉 です。

取引開始時に提示された条件をそのまま受け入れ、

  • 検収後60日
  • 検収後90日

といった長い入金サイトを、
当たり前のものとして運用してしまう。

売上拡大を優先するあまり、
資金条件を設計していない状態です。

これらが重なると何が起きるか

納品 → 検収遅れ → 請求遅れ → 長期入金
という流れが生まれ、

売上債権が膨張し続ける構造になります。

長期化すると生まれる経営体質

  • 常に運転資金が不足する
  • 借入が増え続ける
  • 投資判断ができない
  • 売上増が不安要因になる

本来は成長であるはずの売上拡大が、
資金面では リスク要因 に変わってしまいます。

つまり問題は、
顧客の支払いが遅いことではなく、
売上から入金までのプロセスを経営として設計していないこと
にあります。

次のセクションでは、
この回転期間を改善するために、
どのような視点で資金の流れを設計すべきかを整理します。

改善の視点:請求タイミング/前受金/契約設計

売上債権回転期間を短縮するために必要なのは、
売上を増やすことではありません。

必要なのは、
売上から現金化までのプロセスを設計することです。

① 請求タイミングの見直し

多くの会社では、

  • 月末まとめ請求
  • 検収後まとめ請求

という運用になっていますが、これは回転期間を長くする要因になります。

改善の基本は、

  • 検収完了後すぐ請求
  • フェーズごとの分割請求
  • 月中締めの導入

といった、請求を前倒しする設計です。

請求日が1週間早まるだけでも、
年間では資金繰りに大きな差が生まれます。

② 前受金の導入

次に有効なのが 前受金 の導入です。

特に受託型ビジネスでは、

  • 着手金
  • 中間金
  • 納品時残金

といった形にすることで、
作業開始前に現金を確保できます。

これは単なる資金対策ではなく、
契約設計そのものの問題です。

前受金を設定できる会社は、資金繰りが安定するだけでなく、

  • 顧客との関係性が明確になる
  • プロジェクト管理がしやすくなる
  • 値引き交渉が減る

といった副次効果も生まれます。

③ 入金条件の交渉

そして最も重要なのが 入金条件の交渉 です。

取引条件は、一度決めたら変えられないものではありません。

  • 検収後60日 → 30日へ
  • 月末締め翌々月末 → 翌月末へ

といった交渉は、
売上規模や取引実績が増えた段階で十分に可能です。

ここでのポイントは、

売上条件と資金条件は別物

という認識を持つことです。

売上を優先するあまり資金条件を軽視すると、
成長が資金を圧迫します。

逆に、資金条件を設計すれば、
同じ売上でも必要な運転資金は大きく変わります。

売上債権回転期間の改善は「経営設計」

つまり売上債権回転期間の改善は、
経理の問題ではなく、経営の設計課題です。

次のセクションでは、
この回収プロセスを「感覚」ではなく数字で管理するための、
わかるシートによる可視化方法を示します。

わかるシート:売掛金回収日トラッカー

売上債権回転期間の問題は、
多くの場合「感覚」で語られています。

  • なんとなく入金が遅い
  • 資金が足りない気がする
  • 売上はあるのに残らない

しかし、

  • どの案件の回収が遅れているのか
  • どの顧客が長期化しているのか

を把握していなければ、改善はできません。

そこで有効なのが、
わかるシート(売掛金回収日トラッカー)です。

シート構成例

項目 内容
A列 顧客名
B列 案件名
C列 売上計上日
D列 請求日
E列 入金予定日
F列 入金実績日
G列 回収日数(自動計算)
H列 遅延アラート

計算例

回収日数:

=F2 - C2

未入金の場合:

=TODAY() - C2

これにより、

  • 売上から何日で現金化したか
  • 回収が遅れている案件
  • 顧客ごとの傾向

が一目で分かります。

さらに条件付き書式を使えば、

  • 60日超:黄色
  • 90日超:赤

といった形で、資金リスクを可視化できます。

導入効果

このシートを運用すると、次の変化が起きます。

  • 請求漏れがなくなる
  • 検収待ち案件が把握できる
  • 顧客ごとの入金傾向が見える
  • 回収遅延への対応が早くなる

そして最も大きいのは、

売上ではなく「現金化までの時間」で経営を考えるようになることです。

売上債権回転期間は、
PLには現れない資金の詰まりを示します。

わかるシートで回収プロセスを数字として管理することで、
資金繰りは

「不安」から「設計可能なもの」へ変わります。

次のセクションでは、
売上よりも回収スピードを重視する経営への転換についてまとめます。

まとめ:利益より“現金化速度”を見る

売上が伸びている。
利益も出ている。
それなのに資金が足りない。

この矛盾の原因は、
利益ではなく現金の流れ にあります。

会計上の利益は、
売上と費用の差として計算されます。
しかし資金繰りは、
現金が入ったかどうかで決まります。

つまり、

儲かっているかどうかと
お金があるかどうかは別問題

です。

売上債権回転期間が長い会社では、
売上が増えるほど売掛金が膨らみ、
必要な運転資金も増えていきます。

その結果、

  • 借入が増える
  • 投資ができない
  • 経営の自由度が下がる

という状態になります。

一方で、
回収スピードが速い会社は、

  • 同じ売上でも資金が残る
  • 借入依存が減る
  • 投資判断ができる

という、軽い経営になります。

重要なのは、

売上の大きさではなく
現金化までの時間
です。

売上を追いかける経営から、
回収スピードを設計する経営へ。

売上債権回転期間は、
その転換点を示す指標です。

利益を見るだけでは見えない
資金の詰まりを教えてくれる。
そして、

あなたの会社が
「どれだけ自由に動けるか」

を静かに示しています。

数字は、
資金の流れを正直に語ります。