黒字なのに資金が尽きる恐ろしさ ─ ITスタートアップにとっての「当座比率」【会計数値の糸口から / BS-第4回】 | ソング中小企業診断士事務所

黒字なのに資金が尽きる恐ろしさ ─ ITスタートアップにとっての「当座比率」【会計数値の糸口から / BS-第4回】

黒字なのに資金が尽きる恐ろしさ ─ ITスタートアップにとっての「当座比率」

BSくま

BS担当:くま
東京都内でSaaS型の業務効率化サービスを開発・提供するITスタートアップ「ネクストバリュー」。
代表の佐藤さん(34歳・仮名)は、創業3年目で月商はようやく500万円を突破。VCからの資金調達も完了し、順調に成長軌道に乗っている──そう思っていました。
ところが、ある日突然、銀行口座の残高が100万円を切っていることに気づきます。
「おかしいな……先月は黒字だったはずなのに」
PL(損益計算書)を見れば、確かに営業利益は50万円。
それなのに、なぜ現金がこれほど減っているのか。
今回はそんな「黒字に隠れる盲点」を、一緒にわかりやすく見ていきましょう。

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理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. ITスタートアップが知るべき黒字倒産の罠と当座比率で資金繰りリスクを可視化
    1. 黒字倒産に至る成長投資のキャッシュアウト問題
    2. 当座比率で見える資金繰りリスクの把握方法
  2. ITスタートアップの資金繰りリスクを可視化する当座比率とは何か
    1. 当座比率の定義と計算式
    2. ITスタートアップで当座比率が低下しやすい理由
    3. 当座比率が示す危険の兆し
    4. 当座比率を軽視するリスク
  3. ITスタートアップが抱える資金リスクと当座比率低下の要因
    1. サービス開発とマーケティング投資に伴う先行投資リスク
    2. 売掛金回収までのタイムラグによるキャッシュフロー悪化
    3. VC資金依存による自己資本の薄さと資金ショートリスク
    4. SaaSモデル特有のキャッシュイン遅延と資金不足の構造
  4. ITスタートアップが当座比率を高めて資金繰り安定化する実践策
    1. 入金サイト短縮で当座資産を増やす交渉術
    2. 前払いサブスクモデルでキャッシュインを加速する方法
    3. 投資ペース調整によるキャッシュアウト管理のコツ
    4. 多様な資金調達で資金ショートに備える戦略
    5. 定期モニタリングで当座比率を常時把握する方法
  5. ITスタートアップの資金繰りリスクまとめと当座比率チェックのすすめ
    1. 資金繰りリスクと当座比率活用のまとめ
    2. 問いかけ:当座比率を確認できていますか
    3. 経営相談のご案内:資金繰り改善のパートナーとして

ITスタートアップが知るべき黒字倒産の罠と当座比率で資金繰りリスクを可視化

黒字倒産に至る成長投資のキャッシュアウト問題

佐藤さんの会社では、開発者5名と営業2名を抱え、サービスを継続的にアップデートしています。人件費は月300万円超。広告出稿も強化し、毎月100万円以上をSNSやSEO施策に投下してきました。

その結果、見込み顧客は増え、受注件数も順調に右肩上がり。「攻めの投資は正しい」と自信を持っていました。

しかし、SaaSモデル特有の課題が彼を待っていました。契約は増えても、課金は月額払い。初期費用は取らないモデルなので、実際のキャッシュインはごく少額です。しかも、BtoB案件では入金が翌月末や翌々月末になることも多く、売上計上から入金までに大きなタイムラグが発生していました。

つまり、PLでは黒字でも、BSの現金は減り続けていたのです。

当座比率で見える資金繰りリスクの把握方法

中小企業診断士に相談した際、初めて「当座比率」という言葉を聞きました。

用語 定義
当座資産 現金・預金・売掛金など、すぐに現金化できる資産
流動負債 1年以内に返済や支払いが必要なお金
  • 当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

佐藤さんの会社の当座比率は、なんと45%。業界理想水準(120%以上)から大きく下回り、短期的な支払能力が危険水域にあることが分かりました。

これまで佐藤さんは、売上や営業利益といったPLベースの数字ばかりを見ていました。しかし、スタートアップのように資金繰りが不安定な業態では、PLだけで安心するのは危険です。BSに目を向け、当座比率を把握しておくことで、初めて「黒字倒産」を防ぐ視点を持てるのです。

ITスタートアップの資金繰りリスクを可視化する当座比率とは何か

当座比率の定義と計算式

「黒字なのにお金が足りない」──そんな状況に陥ったとき、まずチェックすべき数字の一つが当座比率です。

当座比率は、企業が短期的な支払にどれだけ耐えられるかを測る指標です。

計算式はシンプルです:

  • 当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100(%)

当座資産:現金・預金・売掛金など「すぐ現金化できる資産」

流動負債:1年以内に支払期日が来る借入金や買掛金など「短期的に返済・支払が必要なお金」

この比率が高ければ、短期的な支払能力が高いことを意味します。一般的には120%以上が理想とされ、100%を下回ると注意、70%以下は危険水域と考えられています。

ITスタートアップで当座比率が低下しやすい理由

特にSaaSやITサービスを展開するスタートアップでは、当座比率が低くなりがちです。理由は大きく3つあります:

  • 売上計上と入金のタイムラグ

    BtoB契約では、請求から入金まで翌月末や翌々月末になることが多いです。「売上」は立っていても、現金が手元に入るまで時間がかかるため、当座資産が少ない状態になります。

  • 固定費の高さ
    • 優秀なエンジニアの人件費
    • 大規模なクラウド利用料
    • 広告費やマーケティング投資

    こうした固定費は毎月確実に出ていくお金なので、流動負債を押し上げる要因になります。

  • VC資金頼みの体質

    スタートアップは自己資本が薄く、資金調達で得たキャッシュを一気に投資へ回す傾向があります。調達後しばらくは現金が潤沢でも、月々の支出が大きいため、半年〜1年で急激に当座比率が低下するケースが多いのです。

当座比率が示す危険の兆し

佐藤さんの会社では、月商500万円に対し、開発費・広告費・人件費を合わせた月間キャッシュアウトは700万円。さらにVC調達で得た資金を新機能開発に投じており、現金残高は半年で1,000万円以上減少しました。

数値で見ればこうなります:

項目 金額
現金・預金 200万円
売掛金 100万円
当座資産合計 300万円
短期借入金+買掛金(流動負債) 650万円
当座比率 46%(300 ÷ 650 × 100)

理想値120%の半分以下です。数字を見れば、資金ショートが時間の問題であることが一目瞭然です。

当座比率を軽視するリスク

  • 黒字倒産リスク
    売上が好調でも、現金がなければ給与や外注費を払えず事業は続けられません。
  • 銀行評価の低下
    当座比率が低い企業は「返済能力が低い」と見なされ、借入枠を縮小される可能性があります。
  • 投資チャンスを逃す
    キャッシュ余力がないため、新規開発やマーケティングを抑制せざるを得なくなります。

ITスタートアップが抱える資金リスクと当座比率低下の要因

サービス開発とマーケティング投資に伴う先行投資リスク

ITスタートアップは、サービスを市場に届ける前に多額の初期投資が必要です。これにより当座比率が低下しがちです。

  • 開発人件費:優秀なエンジニア確保のため高水準の給与が必要
  • 外注コスト:UI/UXデザインやサーバー構築など一部工程を外部委託
  • マーケティング費用:リリース前から広告、PR、展示会参加などを実施

これらの支出は収益が立つ前に発生し、手元資金を大きく圧迫します。

売掛金回収までのタイムラグによるキャッシュフロー悪化

  • 月額課金モデル:入金が翌月や翌々月になるケースが多い
  • BtoB案件:締め支払いが多く、最大60日遅れでキャッシュが入金
  • 開発受託案件:長期プロジェクトでは検収まで売掛金が発生し続ける

PL上は黒字でも、売上計上から入金までの遅延で手元資金が減少する典型的な理由です。

VC資金依存による自己資本の薄さと資金ショートリスク

  • 自己資本比率が低く借入耐性が弱い
  • 先行投資型経営を続けることで現金消耗が早い
  • 追加調達が計画通り進まないと資金ショートリスクが急増

「次のラウンドが決まらなければ倒れる」という綱渡り状態になりやすいのがスタートアップの特徴です。

SaaSモデル特有のキャッシュイン遅延と資金不足の構造

  • 初期費用ゼロモデル:新規顧客獲得時のキャッシュ流入が少ない
  • 月額課金:毎月少額の入金で先行投資とのバランスが崩れやすい
  • LTV重視戦略:初期単価を抑え解約率を下げるため、さらに資金回収が遅延

その結果、黒字経営であってもキャッシュ不足に陥りやすい構造を持っています。

ITスタートアップが当座比率を高めて資金繰り安定化する実践策

入金サイト短縮で当座資産を増やす交渉術

BtoB契約では「翌月末払」が一般的ですが、交渉次第で入金タイミングを前倒しできます。

  • プロジェクト初期に一部前受金を設定
  • 月額課金モデルなら「年額払いプラン」を提示
  • 新規顧客開拓時に入金条件を柔軟に提案

入金サイトを短縮するだけで当座資産が安定し、資金繰りリスクを大幅に軽減できます。

前払いサブスクモデルでキャッシュインを加速する方法

SaaS企業は年額一括払いプランを設けることで、早期にまとまったキャッシュを獲得できます。

  • 年額プランを割引価格で設定し導入を促進
  • 早期キャッシュインで当座資産を増加
  • LTV向上と解約率低下の両立を狙う

顧客にも魅力的な条件を示しつつ、資金回収を前倒しできる一石二鳥の施策です。

投資ペース調整によるキャッシュアウト管理のコツ

成長投資を続けると当座比率はさらに低下します。投資と回収のバランスを可視化して制御しましょう。

  • 開発ロードマップを見直し、「今すぐ必要な機能」から優先実装
  • 広告費をCPA(顧客獲得単価)基準でシビアに管理
  • 投資額とリターンのタイミングを定期的に評価

無駄なキャッシュアウトを防ぎ、当座比率の維持・向上につなげることが重要です。

多様な資金調達で資金ショートに備える戦略

VC資金だけに頼らず、複数チャネルで資金調達手段を確保することで柔軟性を高められます。

  • 銀行借入:短期借入枠を設定し、キャッシュショートの安全網を構築
  • 補助金・助成金:IT導入補助金や研究開発助成金で投資負担を軽減
  • 売掛債権ファクタリング:売掛金を早期現金化し、資金繰りを改善

「次の資金調達ラウンドまで事業が持つか」を常に想定し、多角的に備えましょう。

定期モニタリングで当座比率を常時把握する方法

改善策を講じても状況は常に変化するため、当座比率を定期的にモニタリングする仕組みが必要です。

  • 月次決算で必ず当座比率をチェック
  • 投資前に「当座比率への影響」をシミュレーション
  • ダッシュボードでリアルタイムに資金残高を可視化

資金ショートを未然に防ぐには、事後対応ではなく常時先読みの管理体制が不可欠です。

ITスタートアップの資金繰りリスクまとめと当座比率チェックのすすめ

資金繰りリスクと当座比率活用のまとめ

ここまで、ITスタートアップが陥りやすい資金繰りリスクと、当座比率を活用した改善策について解説してきました。

PL(損益計算書)上は黒字でもキャッシュが不足するケースは決して珍しくありません。特にSaaSやITサービスを提供する企業では、売上計上と入金のタイムラグや先行投資の資金消耗、VC資金への依存など構造的な理由から、当座比率が危険水域に入りやすいのです。

しかし、悲観する必要はありません。当座比率を定期的にチェックし、投資と資金のバランスを数値で把握するだけで、資金ショートリスクは大幅に低減できます。

問いかけ:当座比率を確認できていますか

  • あなたの会社の当座比率は今何%ですか
  • 最後にその数字を確認したのはいつですか
  • PL黒字だけで安心していませんか

数字はあなたを責めるためのものではなく、未来を切り開くためのコンパスです。もし「現金が減ってきた」「先行投資のペースが不安」と感じるなら、当座比率を計算して現状を正しく把握することから始めましょう。

経営相談のご案内:資金繰り改善のパートナーとして

この記事は「会計数値の糸口から」シリーズの一つです。数字を切り口に経営のリアルを解きほぐし、改善のヒントをお届けしています。

  • 数字は難しいから専門家に任せている
  • 資金繰りを見直したいけれど、どこから手を付ければいいかわからない

もしそう感じているなら、ぜひお気軽にご相談ください。私たちは経営者の隣で数字を共有し、次の一歩を考えるお手伝いをしています。

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数字を味方につけることは、未来への安心を創ること。あなたの事業がより確かな歩みを進められるよう、全力でサポートいたします。

数字の裏側にある悩みは、決してあなただけのものではありません。
もし「うちも同じかもしれない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。
現場の声を丁寧にお聴きしながら、数字を“味方”に変える具体的な一歩を一緒に見つけていきましょう。


なお、本記事で触れた会計指標をはじめ、経営に欠かせない数字をシンプルに見える化できるのが、
当事務所オリジナルの 「わかるシート」 です。
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