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訪日観光の回復で好調に見えていた百貨店業界に、変化の兆しが出ています。 J.フロントリテイリングと高島屋が発表した2025年3〜8月期の決算では、いずれも営業利益が前年を下回りました。
背景にあるのは、為替の変動によるインバウンド需要の減速と、高級ブランド依存の販売構造です。
円安期には追い風となった外国人観光客の購買が、円高に転じた途端に勢いを失う──この落差が、外部環境に依存したビジネスの脆さを浮き彫りにしています。
「外の風」で成長してきた事業は、その風が止んだとき、何を支えにできるのか。
それは大手企業だけでなく、多くの中小企業にも突きつけられた問いです。
この記事を読むことで得られること
- 百貨店の減益を招いた「為替変動 × 外需依存」の構造が一目で整理できます
- 外因頼みを脱し、追い風を“内製化”する実務ステップ(再投資・LTV設計・多角化・可変費化・データ運用)がわかります
- 自社の「誰のための事業か」を起点に、強みの可視化とKPI設計など明日からの見直しの一歩を決められます
まず結論:為替やインバウンドといった“外の風”に売上を預ける経営は脆い。追い風を内製化し、「誰のための事業か」を軸に収益構造を再設計することが、再現性ある強さを生みます。
百貨店の減益背景|為替変動とブランド消費の影響で営業利益が減少した理由
減益の概況と為替・ブランド消費の関係
J.フロントリテイリングと高島屋が公表した2025年3月〜8月期の決算では、それぞれ営業利益が前年同期比で約2割減少しました。 一見すると好調に見えていた百貨店業界に何が起きたのか。その要因は、為替とブランド消費の関係にあります。
円安期の追い風と円高への転換がもたらした影響
近年の百貨店は、円安によるインバウンド需要を追い風に高級ブランド品を中心に売上を伸ばしてきました。特に2023〜2024年は、外国人観光客による免税売上が国内顧客の減少を補っていた時期です。 しかし、2025年に入り円高傾向へと振れたことで、外国人の購買意欲が一気に鈍化しました。 ブランド品の価格上昇も重なり、「買い控え」が起きたのです。
外需依存型収益モデルの脆弱性と全国売上の動向
さらに、円安時には訪日客の“爆買い”が百貨店の利益を押し上げていましたが、その構造はあくまで「外需依存型」。国内消費の基盤が弱まる中で、為替の変動はダイレクトに利益を揺さぶります。 全国の百貨店売上も6か月連続で前年割れ。数字の裏には、「インバウンド頼みの成長」に偏った構造の歪みが見えてきます。
結論としての減益の性質
つまり今回の減益は、一時的な景気の波ではなく、外部要因に依存してきた収益モデルが限界を迎えた兆候といえるでしょう。
外部環境依存リスクと為替影響|為替変動で売上が止まるビジネスモデルの危険性
外部の追い風を実力と誤認する経営の危うさ
今回の減益が象徴しているのは、「外部の追い風」を自社の実力と誤解した経営の危うさです。
為替変動と外需依存が招く「環境が止まると売上も止まる」構造
円安による訪日客の購買増、免税品需要、海外ブランド人気――こうした外的要因は、一時的に業績を押し上げることがあります。しかし、それが企業の競争力を高めたとは限りません。為替が円高に振れただけで売上が減る構造は、つまり「外の環境が止まれば、売上も止まる」ビジネスモデルなのです。
外部依存リスクは百貨店業界に限らない具体例
このリスクは、百貨店業界に限りません。
- たとえば補助金や助成金に大きく依存している業種では、制度変更一つで経営が揺らぐことがあります。
- 特定の大口取引先に依存している下請け企業も、発注減で一気に赤字に転落する可能性があります。
- また、流行や外部トレンドに乗って急成長した企業ほど、需要が落ち着いた途端に売上が激減するケースも少なくありません。
追い風期に見えにくい構造的弱点と再設計の必要性
「環境が良いときほど、構造の弱さは見えにくい」。追い風の時期に内部の課題を見直さないまま拡大を続けると、外部要因の変化がダメージとして跳ね返ります。
環境変化を前提にした収益構造の再設計が生む強さ
逆に、環境の変化を前提に収益構造を再設計する企業は、たとえ売上が落ちても利益を確保できます。
経営者に求められる自社主導の成長体質
為替も観光も補助金も、すべては“借りものの追い風”です。経営者に求められるのは、それが止んだときにも立ち続けられる構造──外因ではなく、自社の力で風を起こせる体質を築けるかどうかです。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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百貨店の構造転換と地域回帰|誰のための売場に戻れるかが再生の鍵
経営トップの指摘と業界全体の転換点
J.フロントリテイリングの小野社長は会見で、「外部環境に左右されない中長期の成長が経営課題だ」と述べました。
この言葉は、単なる決算コメントではなく、百貨店業界全体の構造転換を示唆しています。
かつての百貨店の役割と近年の変化
かつての百貨店は、地域の暮らしや文化の中心にありました。家族連れで訪れる「買い物の場」であり、同時に「体験の場」でもありました。
しかし近年は、訪日客の増加やブランドテナントの拡大により、顧客層が海外・都市部へと偏り、“地域の顧客との関係”が薄れていきました。
その結果、為替や観光動向といった外部環境が変化するたびに、売上も揺れ動く構造になったのです。
百貨店の本来の強みと編集力の重要性
本来、百貨店が持つ強みは「地域の顧客に寄り添う編集力」にあります。
ブランドを並べるだけではなく、顧客のライフスタイルや価値観を提案する力こそが、百貨店の原点です。
この力を取り戻せるかどうかが、インバウンド消費の次の時代を左右します。
地方商業や中小小売にも共通する課題
実はこの課題は、地方商業や中小小売にも共通しています。
地域住民を顧客としてどうつなぎとめるか、リピーターをどう育てるか──。
「地域に選ばれる理由」を再構築しなければ、外からの追い風が止んだ瞬間に経営は立ち行かなくなります。
再生の本質は売上回復ではなく問い直し
百貨店の再生とは、単に売上を戻すことではなく、「誰のための売場なのか」を問い直すことなのです。
中小企業の生存戦略|外因の波を内製化して為替や補助金ショックに強くなる方法
外因に左右される典型的なケースと問題点
為替や観光動向、流行や補助金──これらはすべて企業にとっての「外因」です。追い風にもなれば逆風にもなります。中小企業の現場でも、円安で受注が増えた製造業が円高で受注を失う、補助金で拡大したサービスが制度変更で収益を失う、SNSの流行で急成長した小売がアルゴリズム変更で集客を失うといった事例は少なくありません。
外因に隠れた自社の強みを可視化する
こうしたケースに共通するのは、外因により「自社の強み」が見えにくくなっている点です。まず行うべきは、外的要因を取り除いても残る自社のコア能力を洗い出すことです。製品設計力、顧客接点、サービスの提供プロセス、ブランド信頼などを具体的に定義して可視化します。
外因を内製化するための実務的なステップ
- 利益の先取り投資:為替や補助金で得た余剰を一時的な消耗ではなく、顧客基盤や商品開発に再投資すること。
- 顧客の継続化施策:流入チャネルで集めた顧客をLTV(ライフタイムバリュー)で育てる会員制度、定期購入、地域密着イベントの設計。
- 収益の多角化:一つの外部要因に依存しないために販路や製品ラインを広げる。国内需要の深掘りとB2B/B2Cのバランス調整。
- 業務・コストの可変化:需要変動に応じて変動費比率を高めることで、売上低下時の損失を抑制する。
- データで意思決定する体制:顧客行動、在庫回転、販促効果を定量化し、外因が変化したときに素早く戦術を切り替えられる仕組み。
短中長期で残すべき成果とKPI設計
「風が吹いたときに何を残せるか」を念頭に、短期はキャッシュ確保、中期は顧客定着、長期はブランド/製品差別化を狙います。KPIは現金同等物、リピート率、顧客あたり収益、製品別粗利率などで設計します。
経営の問い直し:誰のための事業かを明確にする
大手百貨店が「誰のための売場か」を問い直すように、中小企業も「誰のための事業か」を再検討する時期に来ています。外因に頼る経営から、内因で動く経営へ転換できるかどうかが、為替が止まっても補助金が終わっても顧客に選ばれ続ける強さを決めます。
読者への問いかけ
外の環境が変われば、数字も揺れる。
そのたびに「仕方がない」と片づけてしまえば、経営はいつまでも波待ちのままです。
為替も景気も補助金も、確かに自社では動かせません。
けれども、“変えられないもの”に左右されないための仕組みは、自らの手でつくることができます。
いま、自社の収益は何に支えられているでしょうか。
そしてその支えは、もし明日、外の風が止まっても立ち続けられるでしょうか。

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