
動画で見る診断ノートの記事説明
※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。
9月の完全失業率は2.6%と、前月から横ばいとなりました。数字だけを見ると「雇用情勢は安定している」とも読めますが、その内訳に目を向けると現場では異なる動きが進んでいます。
女性を中心に就業者は増加し、正規雇用も過去最多を更新しました。一方で、仕事が見つからずに完全失業となる人も増えており、「人が必要な企業」と「仕事を探す人」という二者が、必ずしも出会えていない実態が浮かび上がっています。
いま起きているのは「雇用が増えた」「人が足りない」だけの状況ではありません。
労働市場の構造が変化し、採用・育成・職場設計の“前提”そのものが変わりつつあるということです。
中小企業にとっては、「採れない」「辞める」「定着しない」という悩みの背景に、マクロの統計上の変化が確実に影響しています。
目の前の採用・定着の課題は、単に企業努力の不足ではなく、“時代の変化”の中に位置づけて捉える必要があります。
この記事を読むことで得られること
- 「就業者は増えているのに人手不足が続く」矛盾の正体(働き方の多様化とミスマッチ構造)が整理できます
- 採用を“求人”ではなく“組織設計”として捉え直す視点(業務棚卸し・役割分解・教育の仕組み化)が得られます
- 今日から着手できる最初の一歩(仕事を減らす/役割を分ける/教え方を仕組みにする)が明確になります
まず結論:人手不足の本質は「人がいないこと」ではなく「受け入れる設計が足りないこと」。採用は求人強化ではなく、職場の再設計です。
就業者数が増加しても人手不足が解消しない理由と中小企業の採用課題
9月の統計では、就業者数は38か月連続で増加しました。特に女性の就業が大きく伸び、正規雇用も過去最多を更新しています。「働く人が増えている」という点だけを見ると、企業側の人手不足は少しは改善したように思われるかもしれません。
しかし、実際の中小企業の現場では、「応募が来ない」「採用できない」「定着しない」という声がむしろ強まっています。
ここにあるのは単純な需給の問題ではなく、“働き手の増加”と“企業が求める人材像”が一致していないというミスマッチ構造です。
就業者の増加は働き方の多様化によるもの
今回増えた就業者の多くは、いわゆる「フルタイムの長期雇用」を前提としていません。
- 育児や介護をしながら、限られた時間で働きたい人
- Wワークや副業で時間を分散して働く人
- リモートワークを前提とした働き方を希望する人
つまり、「働ける人が増えた」のではなく、「働き方の選択肢を求める人が増えた」のが実態です。
ところが、中小企業の多くは依然として、
- フルタイム
- 出社前提
- 長期前提
- 即戦力
といった、従来のモデルを前提としています。
この前提が変わっていない限り、応募は来ても定着しない・採用が成立しない状態が続きます。
企業が求めるスキルと働き手のスキルにギャップがある
また、企業が求めるスキルと、働き手が保有しているスキルの間にも差が生まれています。
| 企業が求めること | 働き手が強みとして持っていること |
|---|---|
| デジタル管理、業務効率化、顧客データ活用 | 実務経験(接客・現場対応・泥臭い業務処理) |
| 企画力や提案型営業 | ルーティン業務の正確さ |
| 即戦力・自己完結 | チーム内での協働前提での強み |
どちらが良い悪いではありません。
ただし、このままでは「採用が成立しない」ことは明らかです。
必要なのは、「人に“合わせる”仕事のつくり方」です。
中小企業に必要なのは職場設計の再構築
人材不足は「人がいないから起きている」のではなく、
役割・業務・関わり方の設計が時代に合わなくなっているから起きています。
本来であれば以下のプロセスを踏む必要があります。
- 業務を棚卸しする(やるべき仕事とやらなくてよい仕事を分ける)
- 役割を細分化する(1人にすべて求めない)
- 働き手に合わせて業務を編成する(ジョブクラフト)
- 必要に応じて教育と仕組みで補う
つまり採用は、「求人票を出す」行為ではなく、
組織設計そのものの見直しなのです。
ここまで問題の構造を整理しました。
次の第2章では、中小企業が実際に「採用・育成・定着」を改善するための具体策に踏み込みます。
▶︎ [初めての方へ]
この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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採用できない状況を打破するための中小企業向け3つの実践的処方箋
完全失業率は横ばいで、働き手の総数は増えているにもかかわらず、中小企業では「人がいない」という声は強まる一方です。このギャップは、採用活動を「求人を出す行為」として捉える限り、解消しません。
必要なのは、“採用”を“組織づくり”の文脈で捉え直すことです。
現場支援の中で、特に効果が大きかった改善ステップを、今日は3つに整理してお伝えします。
仕事を減らすことから始めて採用の土台を整える
採用の相談を受けると、多くの企業が最初に口にするのは「忙しくて余裕がない」という言葉です。しかしその「忙しさ」の内訳を棚卸しすると、以下のような“なくても困らない業務”が必ず見つかります。
- 誰も見ていない形式的な報告作業
- 先代から続いているが効果が薄い営業アプローチ
- 個人判断に依存した非効率な管理作業
採用に動く前にまずやるべきことは、業務の棚卸し=「やらない仕事」を決めることです。
これによって、
- 今いる人が無理なく回せる組織になる
- 採用する際に“必要な役割の中身”が明確になる
という二重の効果が生まれます。
1人にすべてを求めず役割を分解してチームで担う
多くの中小企業は、ひとりに多くの役割を求めがちです。ですが、前章で述べたとおり、今の労働市場では「万能型の即戦力」を探すのは現実的ではありません。
そこで必要なのは、以下のような採用の転換です。
| これまでの採用 | これから必要な採用 |
|---|---|
| 1人の正社員にフルタイムで多様な役割 | 役割を分解し、複数名・複数形態で分担 |
たとえば、以下のような組み合わせで、役割をチームで補い合う設計をします。
- 事務処理だけを担当するパート人材
- 顧客フォローだけに特化した時短社員
- 月10時間だけ管理を担う“スポット人材”
これは単なるコスト削減の話ではありません。
人が「できること」に合わせて仕事を設計することが、定着率を高める唯一の道なのです。
教育をコストではなく仕組みとして再定義する
定着しない最大の要因は「教え方が属人的」という点にあります。
- ベテラン社員の“感覚”で教えている
- OJTだけで習得を求める
- マニュアルはあるが“メンテされていない”
これでは、人は続きません。
逆に言えば、教育は次の順で仕組み化できます。
- 手順を分かりやすく可視化する(見える化)
- 進捗や理解度を記録する(管理)
- 定期的なフィードバックの場をつくる(対話)
つまり教育は、
「教える人の時間」を消耗するものではなく、
「再現性ある組織」を積み上げる投資であると捉え直す必要があります。
中小企業こそ採用を組織づくりの中心に据えるべき理由
この3つはすべて、
- お金をかけない
- 今日から始められる
- 企業規模に関係なく機能する
という共通点があります。
人手不足とは、
「人が来ない問題」ではなく、「組織が受け入れられる状態になっていない問題」です。
採用は広報ではなく、設計の問題です。
だからこそ、現場の変化は、経営改革の核心に直結します。
人が増えているのに人が足りない時代に中小企業が生き抜くための組織戦略
9月の雇用統計は、数字だけを見れば「安定」と言えます。
就業者は増加し、女性の正規雇用は過去最多。
一方で、失業者数も増えている状況です。
つまり今は、
「働きたい人はいる。でも、働ける職場は限られている」
という時代です。
- 長時間労働が前提になっている
- 教育が属人的で人が育たない
- 役割が曖昧で負荷が偏っている
こうした組織は、求人市場で“選ばれません”。
そしてこれは、景気が良い悪いとは別の話です。
雇用のミスマッチは、景気循環ではなく構造変化だからです。
今、問われているのは「受け入れる力」
人材が集まる企業は、特別な魅力がある会社ばかりではありません。
実は共通点は、とても地味です。
| 人が定着しない組織 | 人が育つ組織 |
|---|---|
| 仕事が個人に紐づく | 仕事が仕組みに紐づく |
| 忙しさが前提 | 余白を設計する |
| できる人が回す | チームで支える |
大切なのは、
「新しい人が入っても大丈夫な状態をつくること」です。
採用は未来を受け入れる準備です。
ここを整えずに求人だけを強化しても、好転しない時期が続きます。
経営は現場の小さな声から変わり始める
現場ではたらく人の、
- 「ここが難しい」
- 「この作業が不安」
- 「ここは手伝ってほしい」
という小さな言葉にこそ、改善の糸口があります。
人材不足の本質は、
「人が辞める理由が放置されていること」です。
だからこそ、採用戦略は経営戦略であり、
組織づくりは売上づくりと地続きなのです。
読者への問いかけ:採用力を高めるために今できること
今、あなたの会社では――
「新しい人が入ってきても、安心して働ける状態」
になっていますか?
もし、そう言い切れないなら、
採用を強化する前にできることが、まだ残っています。
- 仕事を減らす
- 役割を分解する
- 教育を仕組み化する
今日からできる小さな改善が、
半年後・1年後の採用力を大きく変えます。
数字の安定に油断せず、構造の変化に備える。
今が、その一歩を踏み出すタイミングです。

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