(写真はイメージです)
岐阜高島屋が本日、最終営業日となったということです。1977年創業ですから、1975年生まれの私にとってはほぼ同じ時代を生きてきたということになり、個人的にも感慨深いものがあります。
地元の方を中心に愛され、岐阜市の発展とともにあったのでしょう。多くの方がその最後を惜しむように行列を作って来店されたとのことです。
こうして長い歴史を誇るお店が次々と閉店していくのは、寂しい限りですが経営が成り立たない以上は続けられません。たとえ根強いファンがいたとしても採算が取れなければいつかは限界が来ます。
ゴーイングコンサーンが事業の目指すべき姿であり基本ですが、時代が変わる中で淘汰されていくのはある意味では自然ですし、消費者にとってより支持されるビジネスが生き残っていくのは社会全体にとっても重要なことです。
百貨店が苦境に立たされている現状を鑑みて、必ずそうなった理由があるはずです。では、その理由とはなんでしょうか。
様々考えられますが、大きくは
- 消費者のマインドの変化
- 競合の進出
この2点に絞ってご説明致します。
消費者のマインドの変化
長引く景気低迷の中、実質賃金が上がらない状況が続いていると前回の記事でご説明いたしました。
そんな中、「もっと安くて便利なものを買いたい」と考えるのは極めて自然ですし、私自身もそう思っています。現在ではどうしても百貨店でなければ買えないもの、というものが基本的にはなく、比較的富裕層の行くところ、というイメージもあり、景気後退に伴い自然と百貨店の利用者が減っていきました。
また、基本的には大都市やターミナル駅周辺に集中的に立地していることもあり、郊外への人口流出が加速していく中でなかなか行く機会もなくなり、「わざわざ百貨店に行く必要がない」と感じる人が増えるのは自然な流れだったと思います。
実際のところ、私も今までほとんど百貨店で買い物をしたことがありません。理由は、行く必要がないからです。これは今の若い世代の感じるところと同じだろうと思います。
競合の進出
そしてなんといっても、ショッピングモールやインターネットといった強力な競合が次々と現れたことが大きいのではないでしょうか。まずショッピングモールですが、百貨店との一番大きな違いは「誰が売っているのか」ということだと考えます。
百貨店は、百貨店が直接消費者に販売します。
一方でショッピングモールは各テナントがそれぞれモール内に場所を借り、それぞれのテナントがそれぞれの場所で経営しています。
好景気でバンバンお客さんが来る、高級ブランドがたくさん売れていた時代であれば、大きな利益を上げられたのは百貨店です。実際、バブル期の1990年頃には全国で10兆円近い売上を誇っていました。
しかし不景気になると売り上げが激減し、経営を圧迫します。
ショッピングモールであればテナントに場所を貸しているため、固定的に賃料が入りますが、百貨店の場合はあくまで売れて初めて収入が見込めるため、相対的に固定費の多い百貨店では非常に厳しい経営となります。
いわばハイリスクハイリターンな経営が百貨店という業態と言えます。さらに、費用面で見ても百貨店はその洗練されたイメージから接客品質も高いのですが、その分人件費の負担が多くなります。ただでさえ固定的な収入が見込めないところに加えて固定費である人件費率も高い、となれば、景気後退に伴い経営難に陥るのは自明の理でした。
さらにインターネット販売も右肩上がりで成長を続けています。私自身もアマゾンや楽天、ヤフーショッピングといったサイトを頻繁に活用しています。理由は簡単、安くて便利だからです。
誰もがスマートフォンを持ち、24時間365日いつでもどこでも買い物ができるのですから、わざわざ百貨店に足を運ぶ…というのがいかに難しい勝負を強いられることになるか、想像に難くありません。
百貨店衰退に学ぶ、事業経営のポイント
ここまで、百貨店衰退の理由を考えてきました。その中で、ショッピングモールやインターネット販売といった新たな競合の出現も見てきました。
こうした流れを見てきた中で、経営面において学べるポイントがあると考えています。
日本経済自体の不景気もあり、消費者のマインドの変化、低価格志向などもありました。「そういう時代だから仕方ない」という見方もあると思います。
ですが、経営の本質として変わらないこともあります。それは、「できる限り固定費を抑えること」「収入のコアとなる部分を作ること」の2点だと考えます。
1つずつご説明致します。
できる限り固定費を抑えること
上述したように、百貨店はその接客品質の高さが一つの強みです。いつ行っても素敵な笑顔で迎えてくれる、豊富な商品知識と心地よい会話、おもてなしの心…それらは、ある意味では日本ならではのサービスとも言えますし、それ自体はもちろん素晴らしいものです。
ですが、やはり人件費の負担が重くのしかかります。そのような接客技術に優れた人材は多くが正社員で、かつ比較的勤続年数の長い人が多いでしょうから、自然とその人件費の負担が重くなります。
おそらくは大変な企業努力の結果、お客様のために、少しでもご満足いただける売り場にしたい、最高の買い物体験を提供したい、そんな思いの中で多大な従業員教育を行った結果、築き上げてきた接客技術なのだと思います。そんな素晴らしいサービスが、結果として経営を圧迫してしまった…そう考えると、なんともやるせない気持ちにもなります。一定の固定費が発生する、というのは人件費というものの本質的な部分ですので、ある意味では避けられないことなのですが、「世界に誇れる日本の接客」という評価もあるだけに、一人の日本人としては悲しい気持ちにもなります。
ではどうすればよかったのでしょうか。人件費を抑えるために百貨店の業態を変えないままできることとすれば、従業員の流動化、一定程度の業績給の導入、非正規社員を増やす、等といったことが考えられます。もちろん、これら対策を実行する際には考慮すべき点として社員の士気向上や定着率、教育面など様々な課題がありますが、これらの対策を実現可能なところから対応していくことが固定費率を低下させ、損益分岐点売上高を下げることにもつながったのではないかと思います。
収入のコアとなる部分を作ること
ショッピングモールのように、たとえ全体の売上自体が振るわなくても、安定的に各テナントからの賃料が固定収入として入ってくるのは経営において非常に有利です。
これは一般家計においても同じだと思います。だからこそ安定的な大企業や公務員といった職業が、いつの時代も一定程度の人気を集めるのではないでしょうか。
ただ、不動産業であるショッピングモールとは異なり、固定収入を作るというのは業種により難しい場合も少なくありません。まず先述の固定費を抑えるところから考え、固定収入はそのうえで考えるという流れが良いかと思います。具体的には、自社の強みである技術や商品・サービスはなくすことなく継続し、よりその魅力を高めていき、競合との差別化を進めより付加価値を高めていく。そうすることで長く続けられる収入源となるのではないでしょうか。
よりユーザーニーズに沿った効率的な経営を実現するために
今後も、ますますユーザーに選ばれる商品・サービスが生き残っていくのだと思います。それはビジネスの本質ですが、近年ますますその動きが加速しているように感じます。
今後も生き残り、さらに発展できるビジネスとなるために大切なことは、基本的にはマーケットインの考え方で運営していくことです。マーケットインとは、企業側の視点ではなく、消費者のニーズに沿ったもの、消費者が求めるサービスを提供していくという考え方です。近年のマーケティングにおける重要な考え方で、現在業績を伸ばしている大企業では当たり前のように経営に根付いている考え方のはずで、今後ますますその重要性は高まっていく一方だと考えます。
そのためには、オンライン・オフライン問わずユーザーとの接点を作り、ユーザーの声を取り入れていくこと。その声を商品・サービス開発に活用し、愛される企業となっていくこと。言葉にしてみると至極当たり前のことのようですが、なかなかその取り組みが組織としてできていないという企業は少なくないのではないでしょうか。逆に言えば、その点を意識して力を入れて取り組んでいけば差別化にもつながるということになります。
私は中小企業診断士として、長く続いていく企業を少しでも増やせるような、そんなお手伝いができれば嬉しく思っております。
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