動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
既存ルート依存から脱却しブランド価値を高めるチャネル多角化戦略
D2Cアウトドアブランドが示したチャネル展開の明暗
- 大型モール進出で固定客を失ったブランド
- チャネルを絞り込み「伝わる場」として育成し続けた結果LTVを高めたブランド
何のためにチャネルを増やすのでしょうか? ただ売上を伸ばすだけなら、価格を下げて一時的に需要を喚起する手もあります。ですが、本当に長く愛され続けるブランドを築くには、顧客とのつながりをいかに深めるかが鍵になります。本稿で取り上げるのは、アウトドア用品D2Cブランドの2つの対照的なケース。一方は大型モール進出で固定客を失い、もう一方はチャネルを絞り込み「伝わる場」として育成し続けた結果LTVを高めた、まさに明暗を分けた物語です。
中堅・大企業が注意すべき販路増加とブランド希薄化のリスク
中堅・大企業にとっては、自社ECだけでなく量販店や専門商社、代理店など、さまざまな販路をすでに持っているケースが多いでしょう。労力をかけずに「次の売り場」を増やす誘惑は強く、その先に潜むブランド希薄化のリスクは見落とされがちです。ここでは「どこで売るか」ではなく「誰が、どのように語るか」に視点をシフトし、チャネル育成の本質を明らかにします。
ケース前提条件整理|D2Cチャネル戦略の全体像
D2Cモデルのメリットと多チャネル戦略の背景
- D2C(Direct to Consumer)は、メーカーが中間流通を介さず直接消費者に商品を提供し、顧客接点やデータを獲得できるビジネスモデル。
- 自社サイトに限られるがゆえに、ブランドストーリーや顧客体験を自由に設計しやすいというメリットがある一方、認知拡大や集客のコスト負担が増す。
- 中堅・大企業は自社EC+量販店・専門店・モールなど多チャネルを使い分けることが一般的。リスク分散やリーチ拡大を実現できる反面、チャネルごとにブランドメッセージがバラバラになりやすい。
A社とB社の企業概要比較|D2Cアウトドアブランドの成功・失敗要因
項目 | A社(失敗例) | B社(成功例) |
---|---|---|
事業規模 | 従業員約20名/売上約3億円 | 従業員約25名/売上約4億円 |
メイン販路 | 自社EC → 大手量販卸・モール出店 | 自社EC+ポップアップ・展示会中心 |
ブランド訴求 | 耐久性・軽量性を兼ね備えたギア | “はじめてでも安心”をコンセプトとしたギア |
顧客層 | 20~40代アウトドア愛好家 | 30~50代ファミリー層 |
共通課題|売上成長限界・獲得コスト上昇・ブランド希薄化
- 売上成長の限界:立ち上げ初期のSNSバズを超える施策が見当たらない
- 新規顧客獲得コストの上昇:自社EC広告やSEOのROIが低下
- ブランド希薄化のリスク:販路拡大の先に「誰が」「何を」「どう伝えるか」が未整理
中堅大企業が活用したいチャネル資産とブランドコントロールの視点
中堅・大企業は、専門商社や大手代理店、量販店など多彩なチャネル網を既に構築しており、これを「すでにある資産」として活用できます。しかし一方で、取引先の営業担当や販売スタッフ、モールのランキングロジックなど、社外要因に依存しすぎるとブランドコントロールが難しくなりがちです。
チャネル依存が招くメッセージ一貫性の喪失リスク
- 取引先力量に左右されるメッセージ:商社のセールス資料や店頭スタッフのおすすめポイントが自社の狙いとずれてしまう
- ロイヤル顧客への裏切り感:長年のファンにとって「いつでも買える」状態は決して喜ばしいことではない
- チャネルごとに異なる価格・特典:顧客は混乱し、安心感を失う
このような課題は、チャネル数が多いほど顕在化しやすいもの。だからこそ「誰が語るのか」を戦略的にデザインし、チャネルを育成していく視点が有用です。
チャネル拡大の落とし穴:A社失敗例から学ぶD2Cアウトドア戦略の注意点
A社の事象描写|チャネル拡大で失速したD2Cアウトドアブランド
- 自社ECで熱心なファンを抱えるも売上成長率は横ばい
- 「もっと多くの人に届けたい」と量販店・大型モールへの卸売りを開始
- 店頭では製品特徴より「キャンペーン価格」「ポイント還元率」が強調される
- 自社EC限定の「限定色」「開発秘話」が伝わらず、常連客から「特別扱いがない」と不満噴出
失敗要因の背景|語りの断裂と顧客ケア不足によるブランド希薄化
- 語りの伝達経路の断裂
ブランド資料はあるものの、現場スタッフにストーリーが浸透せず。「軽量化の工夫」もスペック表だけで背景が共有されていない - 既存顧客へのケア不足
自社EC限定特典を解除したまま、数千人のリピーターに「モールでも買えます」という一斉DMを送信し優越感を損ねた - チャネル間での役割分担設計不在
大手量販店には「認知拡大」、自社ECには「ファン育成」という役割を与えず、両チャネルで同一の商品展開・価格設定に終始
改善アイデア|チャネル最適化とロイヤルティ強化の具体策
- ストーリー職人チームの結成
開発者インタビューや現地取材動画を制作し、YouTubeや社内ポータルで取引先にも共有する - チャネル別KPI設計
モール新規顧客数/自社ECリピート率/店頭来店時の滞在時間など、チャネルごとに目的に応じた指標を策定 - ロイヤルティプログラムの階層化
「モール会員」「EC会員」「リアル会員」ごとに異なるメリットを用意し、一貫性と希少性を担保
D2CアウトドアブランドB社のチャネル育成戦略と成果事例
B社チャネル育成プロセスの具体的手法
- チャネルの意思的絞り込み
自社ECと直営イベント(ポップアップ・展示会)の二軸にリソースを集中。既存チャネルはパートナー販売に切り替え、主導権を自社で握ることで情報コントロールを維持。 - 手触り感のある同梱物設計
商品説明書ではなく、創業者の一言・使い方アイデア・顧客の写真を組み込んだミニブックを作成し、到着時に商品以上の喜びを演出。 - 語り手の公認&育成
もともとキャンプ好きの30代女性スタッフを「ブランドストーリーテラー」として任命。社内昇進とストーリーテリング研修を担当させ、社外イベントで語らせる。
B社チャネル育成の成果と主要KPI
- LTV(顧客生涯価値)が約2倍に上昇
- 返品率は従来の8%から2%へ低減
- SNSエンゲージメント率(いいね+コメント/フォロワー数)が3.5%→7.8%に改善
チャネル育成の今後の課題と対応シナリオ
課題 | 懸念点 | 対応シナリオ例 |
---|---|---|
語り手への依存度が高まる | ストーリーテラーが異動・退職するとノウハウが流出 | 複数人によるナレッジ共有会実施、マニュアル+動画アーカイブによる標準化 |
自社EC以外のリーチ限界 | 新規顧客母数が一定の天井に達する可能性 | ブランドコラボ・共創企画の導入、限定イベントの外部開催(キャンプフェスなど) |
体験一辺倒でコスト上昇 | 同梱物や現場接客コストが増え、利益率圧迫 | デジタル体験の標準化(オンラインコミュニティ強化、AR商品説明)でコスト調整 |
▶︎ [初めての方へ]
失敗と成功を分けるチャネル戦略5つの本質ポイント
チャネル戦略を質で捉え直し顧客体験を深化
- 空虚な拡大感
- A社では「大型モール」や「大手量販店」という“売り場の数”を増やすこと自体にフォーカスしました。しかし、その先にある顧客体験が定義されていないため、価格競争へ巻き込まれるだけにとどまりました。
- 伝わる場の選択とデザイン
- B社は自社ECと直営イベントの2チャネルに絞り込み、各チャネルが持つ特徴(手に取る、話を聞く、雰囲気を体験する)を深掘り。
- 自社EC:同梱物で手書きコメントや写真を添え、開封時のワクワク感を設計
- ポップアップ:ストーリーテラーが直接会話し、ブランド背景を体感
- 応用のヒント
- 自社が「顧客にどんな感情を与えたいか」を起点に、チャネルを選び直してみると、ただ棚を増やすのではなく、顧客体験を増やす拡張が見えてきます。
- 「試着→店頭接客→購入後メール」のように、体験をつなげる“体験の回廊”を描くと、少ないチャネルでも深い体験設計が可能になります。
問いかけ:
- いまのチャネル数は、本当に「お客さまに価値を提供している」場所ですか?
- もし一つだけ残すなら、どこを残し、その場で何を届けたくなるでしょうか?
語り手設計と育成評価でブランドストーリーテリングを強化
- 誰が「語るか」の見落とし
A社では販路拡大時に「卸先の店頭スタッフ」や「モール担当」の声かけにブランドの想いが乗らず、結果として一律価格訴求・スペック訴求で終始しました。 - ストーリーテラーの明文化
B社は、社内外の語り手を「ブランドストーリーテラー」として肩書化。選考基準(アウトドア経験・SNS発信力・接客スキル)を設定し、レクチャーと定期的なフィードバックを実施しました。- レクチャー例:開発秘話を自分の言葉で語るワークショップ
- フィードバック例:来店客アンケートを基に「伝わりやすかったポイント/もっと知りたいポイント」を共有
- 評価と報酬連動
ストーリーテリングの貢献度をKPI化し、社内評価やインセンティブに結び付けたことで、語り手の持続的なモチベーションを維持。 - 応用のヒント
- 営業、EC運営、店頭スタッフ、パートナー企業――誰がどこで語るかをリストアップし、語れるテーマとスキルギャップを洗い出すと、自社の「育成プラン」が浮かび上がります。
- 語り手が複数いる場合、得意分野(技術、情緒、親近感づくりなど)を役割分担し、共有ストーリーの型を作ると一貫性が保ちやすくなります。
問いかけ:
- あなたの会社で「ブランドを語っている人」は誰ですか?
- その人に必要な情報や場づくりは、どこまで提供できていますか?
定量定性データ活用による顧客インサイト分析
- 数字だけが見える組織の限界
A社ではモール出店後の売上推移や新規顧客数の増減は追っていましたが、なぜリピートが落ちたのか、顧客の“感情”が捉えられていませんでした。 - 感情の声を拾い上げる仕組み
B社はLTVやリピート率などの定量データをKPIとしつつ、月次で顧客インタビュー会やSNSコメントのテキストマイニング結果を経営会議に報告。- 顧客インタビュー:購入動機、届いた感想、改善要望を深掘り
- Review分析:キーワード出現頻度やポジティブ/ネガティブの割合を可視化
- 定性結果の活用フロー
分析結果を「機能」「感情」「期待」の3つに分類し、次期施策の種にする- 機能面:スペックや使い勝手の改善ポイント
- 感情面:開封時や使用中の驚き・喜びポイント
- 期待面:次に欲しい情報や新商品案
- 応用のヒント
- 毎月定量レポートに「生の声」コーナーを設け、チーム全員が顧客の言葉に触れる機会を作ると、数値だけでは浮かばないアイデアが生まれやすくなります。
- 顧客アンケートやレビューを自動で集計・分類するツールを導入し、チャネルごとの声の違いを可視化すると、チャネル設計の調整に役立ちます。
問いかけ:
- 数字だけでなく、顧客の感情面の声を拾い上げる仕組みはありますか?
- その声は、次の施策にどのように反映されているでしょうか?
チャネル間体験一貫性と役割分担設計
- 混乱を生むバラバラの体験
A社の顧客は「モールで買っても自社ECの特典が受けられない」「店頭ではストーリーが届かない」といった体験格差にモヤモヤを抱え、ブランドへの信頼が揺らぎました。 - 役割分担で描く「顧客の旅路」
B社はチャネルを以下の4つに分類し、顧客がたどるストーリーを設計:- 認知接点(SNS広告・Web記事)
- 購入接点(自社EC・直営イベント)
- 体験接点(レビュー・コミュニティ)
- 継続接点(メール・LINE公式)
各段階で顧客に届けたいメッセージを明文化し、「役割分担シート」に落とし込みました。たとえば、認知段階では「共感ストーリー」、購入段階では「開封体験」、継続段階では「次への期待喚起」に重点を置くなど。
- 重複や抜け漏れのチェック
定性ヒアリングで「どの段階で顧客が迷っているか」「どの場面で離脱しているか」をデータで洗い出し、役割が被っている接点や、逆にカバーできていない接点を見える化。 - 応用のヒント
- 「顧客が絵を描けるほど鮮明な体験マップ」を社内で作成し、各部署やパートナー企業と共通認識を持つことで、チャネル間の連携がスムーズになります。
- 年間・四半期ごとに体験マップを見直し、新商品やキャンペーン投入にあわせて役割分担や伝えるテーマをアップデートすると、一貫性が保たれます。
問いかけ:
- 顧客の購入前~購入後までの旅路は、どのチャネルがどう担っているでしょうか?
- その旅路の中で「同じことを繰り返している」「誰も説明していない」と感じるポイントは?
PDSAサイクル活用で継続的改善体制を構築
- 一度作って終わりになっていないか
失敗の多くは、施策を立ち上げて終わりにし、振り返りや次サイクルへの反映が定着しないことにあります。 - PDCAからPDSAへ
Plan(計画)→Do(実行)→Study(学び)→Act(改善)のサイクルを回す「PDSA」で、定量・定性の分析結果を必ず次のプランに繋げる習慣化を。
B社では「月次ナレッジシェア会」を設け、定量データ+定性データを全社公開。学びとアイデアを持ち寄り、小さな改善を常に試せる体制を築きました。 - 応用のヒント
- 毎月の経営会議で「顧客からの気づきポイント」を定量報告の後に必ず共有すると、定性情報の重要度が全社で高まります。
- 改善アクションを小さく設定し、短期間で成果検証しやすいKPI(例:同梱物反響率、SNSコメント増減)を置くと、失敗のコストを抑えつつ学びを蓄積できます。
大企業・中堅企業が検討したいチャネル育成の具体視点と実践ステップ
顧客接点マッピングで対話ポイントを可視化
- 全チャネル一覧化:自社EC、量販店、代理店、コールセンター、SNS、イベントなどあらゆる接点をリスト化
- 顧客体験フェーズ分割:認知・比較・購入・使用・継続の5段階に分け、各チャネルが担う役割を明示
- 体験の質評価:アンケート得点、滞在時間、返答速度、レビュー評価で“感情的価値”を数値化
- ギャップ分析ワークショップ:営業、マーケ、店舗、CS担当を集め、顧客が迷ったり離脱したりするポイントを付箋で可視化
社内「語り手スキル」を可視化し育成ロードマップを設計
- 語り手アセスメント表の作成:経験値、発信力、接客力、ストーリー構成力などを5段階評価でスコア化
- 育成プログラム設計:座学+ロールプレイ+フィールド実践を組み合わせた3フェーズ研修
- 社内公募&選抜:部門横断でストーリーテラー候補を公募し、選抜面談で適性を確認
- OJT・フィードバック体制:先輩ストーリーテラーとペアで現場投入し、顧客アンケート結果をもとに月次レビュー
顧客データ統合と定量×定性分析フロー構築
データ種別 | 取得手段 | 活用目的 | 担当部門 |
---|---|---|---|
定量データ (売上・LTV・CSAT) |
CRM、BIツール | KPIモニタリング/目標対比 | 経営企画・マーケ |
定性データ (インタビュー・レビュー) |
顧客インタビュー、SNS分析ツール | 感情傾向把握/商品改善 | 商品開発・CS |
行動データ (サイト滞在・開封率) |
Web解析、メール配信システム | 体験設計の効果測定 | DX推進・マーケ |
- 月次ダッシュボード統合:全データを一画面で可視化し、部門横断で共有
- 定性インプット会議:週次または月次で顧客の声を読み合い、施策アイデアを即時起案
- アクションプラン追跡:課題→対策→実行→評価を記録し、次サイクルに引き継ぐ
横断チーム連携で継続的改善を実現
- チャネル育成専任チーム設置:マーケ、営業、CS、商品開発からメンバーを選出し、月次タスクを管理
- KPI連携表の策定:チャネルごとに「認知数」「購入数」「顧客満足度」「リピート率」を設定し、全社スコアボードで追跡
- 四半期見直し会議:定量・定性で得た学びを基に、チャネル育成プランを再設計し予算・人員配分を調整
- 成功事例・失敗事例ナレッジ共有:社内ポータルで具体的なストーリーを蓄積し、新プロジェクトに展開
私がもし、大企業・中堅企業の経営層だったら実行したいD2Cチャネル最適化の短中長期施策
短期(3か月以内)チャネル体験改善ワークショップ実施
- 全チャネル参加の顧客体験ワークショップを開催
営業、マーケティング、店長、コールセンター、EC運営担当を集め、接点ごとの強み・弱みを可視化 - 既存顧客50名招待の利用体験座談会を実施
EC・店頭・オンラインイベントの体験を録音・テキスト化し、全社で共有
中期(6~12か月)ブランドストーリーテラー制度と体験設計書導入
- ブランドストーリーテラー認定制度の設立
エントリー→選考→年間MVPまでのプロセスを明文化し、発表機会と報酬をセット - チャネル別体験設計書の作成と運用
EC、モール、実店舗、イベントの4Pマトリクスを新商品リリース時に必ず適用
長期(1~2年)ハイブリッドイベントとAIデータ活用プラットフォーム構築
- デジタル×リアル連動ハイブリッドイベント自社主催
同時オンライン配信、AR体験、田舎キャンプツアー連動など複合施策でファン基盤を拡大 - 顧客データ活用AIプラットフォームの開発
購入履歴×感性データ(レビュー・座談会)をクロス分析し、パーソナライズされたストーリー提案を自動化
チャネル拡大でブランド体験を深化する販路育成の総括
販路育成はストーリー設計で顧客熱量を維持
チャネル拡大は売上への近道と思われがちですが、「どこで売るか」を追いかけるほど「誰が語るか」をなおざりにしやすくなります。販路を育てるとは、顧客との対話地点にストーリーを埋め込み、チャネルごとに一貫した体験を設計すること。定量データだけでなく、感性や共感にも目を向けることで、ファンの熱量を落とさずに販路を拡大できます。
読者への問いかけ:自社チャネル育成シナリオ検討のヒント
- あなたの会社のチャネル地図を引いたとき、一番「想いが伝わっている」と感じる場所はどこですか?
- そこには「誰が」「どんなエピソードで」語りかけているでしょうか?
- もし新たに一人のストーリーテラーを任命するとしたら、どんな人物像をイメージしますか?
コメント