
動画で見る経営プログレッションの記事説明
※この動画は「経営プログレッション」全記事に共通して掲載しています。
この記事を読むことで得られること
- 継続型サービスで離脱が起きる理由を「初期体験」と「安心感」の視点で整理できます
- 担当交代や拠点差があっても品質を保つための情報共有・標準化の要点がつかめます
- 明日から始められる「初回3回の体験設計/ヒアリングシート」の最小ステップがわかります
まず結論:継続率を左右するのは技術や価格そのものではなく、
「初回3回で安心感を積み上げ、その手応えを言葉で共有する仕組み」を設計できているかどうかです。
訪問リハビリ・在宅ケアで利用者が継続する理由と離脱を防ぐ届け方
介護や医療に関わる訪問型のリハビリ・在宅ケアサービスは、高齢化が進む社会においてますます必要とされる存在です。しかし現場に目を向けると、「技術力は高いのに、なぜか長く続いてくれる利用者が増えない」という悩みが少なくありません。
これは決して、リハビリの質が低いからではありません。むしろ真面目に取り組んでいる事業所ほど、利用者が途切れてしまう現実に戸惑い、改善の糸口が見えずに苦しむ傾向があります。
訪問ならではの信頼構築と不安要因
訪問サービスは店舗型と違い、利用者の生活空間に直接入り込む仕事です。だからこそ、利用者との信頼関係は一層重要になります。ところが、制度や紹介先に依存してきた事業所では、「誰が訪問するか」によって印象や対応がばらついたり、スタッフの交代で安心感が崩れたりと、利用者が不安を感じやすい環境が生まれてしまいます。
さらに、サービスの成果が数値として短期間では見えにくいため、「リハビリを続ける意味があるのか」という疑念を利用者自身やその家族が抱きやすいのも特徴です。そうなると、たとえ最初は病院やケアマネジャーの紹介で利用が始まっても、数か月後には利用中止が相次ぎ、また新規獲得に奔走する──そんな悪循環に陥りがちです。
継続型サービス全般に共通する課題
このような課題は、在宅ケアに限らず、多くの“継続型サービス”に共通しています。たとえば習い事や会員制フィットネス、健康食品の定期購入、法人向けのサブスクリプション型支援サービスなども、初回の導入だけでなく「続けてもらう体験の設計」が成長の鍵を握ります。単発型サービスや店舗型ビジネスとは異なり、“継続する理由”を相手に感じてもらう仕組みがなければ、利用は長続きしません。
対照的な二つの訪問リハビリ事業所の事例比較
今回取り上げるのは、ある訪問リハビリ事業所の二つの対照的なケースです。
一方は、開業当初は地域の病院からの紹介で順調に利用者を増やしましたが、紹介が減少すると稼働率が低下し、スタッフの定着も進まず、利用者離脱に悩むようになりました。
もう一方は、サービスの“届け方”を見直し、初回訪問から安心感を届ける仕組みを整え、利用者が続けたくなる体験を設計したことで、安定した成長を実現しました。
結果の差は届け方の質にあり
同じリハビリ技術を持っていても、なぜ結果がこんなにも違うのか。
そこには、訪問の質ではなく、“届け方の質”にこそ大きな差がありました。
この記事で考える主要ポイント
- 継続型サービスにおける“初期体験”と“安心感”の重要性
- スタッフの交代があっても信頼を損なわない仕組みづくり
- 技術や価格ではなく、“続けたくなる理由”をどう届けるか
経営者に向けた示唆
継続型サービスを提供するすべての経営者にとって、今回の事例は「顧客に選ばれ続ける」という難題に向き合うヒントになるでしょう。
そして、こうした学びは訪問リハビリに限らず、規模の大小を問わず多くの事業に通じるものです。あなたのビジネスは、サービスの質だけに頼らず、“届け方”で続けたくなる体験を設計できているでしょうか──。
訪問リハビリ 失敗ケースと利用者離脱を招く組織課題 A社の実例分析
失敗事例
A社は、地方都市で10年近く訪問型リハビリを手掛けてきた事業所です。開業当初は、代表自身が地元の病院で理学療法士として長年勤務していた経歴もあり、その人脈から多くの患者が紹介され、順調に利用者を増やしました。
スタッフも口コミで集まり、最初の数年はほとんど営業らしい営業をしなくても稼働率が80%を超えていたといいます。
状況変化と紹介減少による過信の危険
しかし、状況は3年目あたりから少しずつ変わり始めました。地域の病院でリハビリ病棟が縮小されたり、同業の訪問事業所が増えたりと、紹介先のパイが限られてきたのです。それでもA社は「自分たちの技術なら必ず選ばれる」という思い込みが強く、利用者獲得の仕組みを整えないまま日々の訪問をこなしていました。
コロナ禍以降の利用者離脱と情報共有の欠如
問題が顕在化したのは、コロナ禍を経て利用者の入れ替わりが激しくなった頃です。新規の紹介は減少し、これまで続いていた利用者の離脱も目立つようになりました。離脱の理由を丁寧に聞く仕組みがなく、スタッフ間で情報が共有されることもほとんどありません。いつの間にか、定期訪問をやめてしまう家庭が増えていたのです。
スタッフ退職の背景と利用者の不安
A社ではこの時期、スタッフの入れ替わりも相次ぎました。待遇面の不満というよりも、「忙しいのに成果が感じられない」「次に続かない」という虚しさが退職理由として語られることが多かったといいます。利用者にしてみれば、せっかく慣れてきた担当者が突然辞め、新しい人に代わるたびに最初から説明し直さなければならない。そうした煩わしさや不安感が、さらなる離脱を招きました。
短期的な新規獲得施策の限界と稼働率低下
経営陣は新規獲得のために、地域のケアマネジャーへの営業やチラシ配布を強化しましたが、効果は一時的で、利用開始から半年以内に終了するケースが相変わらず多く、稼働率は徐々に下がっていきました。
当初80%を超えていた稼働率は、5年目には60%台前半にまで低下。売上も伸び悩み、スタッフの採用も困難になりました。
アンケートの形骸化と組織の無関心
象徴的な出来事があります。A社は毎年、年末に利用者向けアンケートを実施していましたが、質問はサービス全般の満足度を5段階で尋ねるだけで、自由記述欄もほとんど活用されていませんでした。ある年、代表が意を決して自由記述欄の内容を読み込んでみると、「担当が変わると雰囲気が違う」「やってもらっている内容は同じでも、話をよく聞いてくれる人とそうでない人がいる」といったコメントが目立ったのです。
にもかかわらず、その気づきが翌年の運営に活かされることはありませんでした。「人の入れ替わりは仕方がない」「医療保険や介護保険の枠の中ではできることが限られている」という思い込みが、組織を変える意欲を鈍らせていたのです。
本質的な問題は技術ではなく体験設計の欠如
このように、A社が抱えていた本当の問題は、リハビリの専門技術ではありませんでした。利用者が安心して“続けたい”と思える体験を届ける仕組みがなかったこと──ここに尽きます。
結果として、A社は常に新規獲得に追われ、紹介に頼る体質から抜け出せず、スタッフも利用者も長くとどまらないという悪循環に陥っていきました。
訪問リハビリ 成功事例 初期3回の体験設計で利用者を定着させる方法
成功事例
B社は、A社と同じ地域で訪問型リハビリを行う事業所です。開業はA社より少し遅く、代表はもともと病院勤務を経て独立したという点でも似ていました。しかし、その経営姿勢には早い段階から明確な違いがありました。
初回3回の体験設計で利用者と家族に暮らしの変化を描かせる
B社がまず取り組んだのは、新規利用者への「初回3回の体験設計」です。
初回訪問では、単にリハビリ内容を説明するのではなく、利用者と家族に「このサービスが暮らしのどんな場面を支えられるか」を共通の言葉で描いてもらう時間を設けました。
さらに初回から3回目までは、スタッフが必ず「ヒアリングシート」を用いて、体の変化だけでなく、気持ちの変化や日常生活での実感を記録しました。たとえば「階段の上り下りが少し楽になった」「安心して出かけられるようになった」といった利用者の小さな声を記録し、次の訪問時には必ずその話題を振り返ります。
これにより、リハビリの効果を目に見える数字だけでなく、日常生活の“変化の実感”として伝えられるようになりました。
情報伝達の標準化で担当者交代でも安心感を維持
B社はまた、スタッフ間の情報の伝わり方を重視しました。
どのスタッフが訪問しても同じ安心感を届けられるように、ヒアリングシートや記録のフォーマットを統一し、申し送りの際は単なるデータ共有ではなく「前回この方はこういう不安を話されていた」という言葉を添えるルールを徹底しました。
こうした細やかな情報の受け渡しが、スタッフが変わっても利用者が「わかってもらえている」という感覚を持ち続ける支えになりました。
紹介チャネルの多様化と地域での価値発信
さらに、B社は紹介チャネルにも多様性をもたせました。
病院やケアマネジャーだけに頼らず、地域の高齢者サークルや自治会、さらには近隣の小学校の保護者会などで「高齢期の健康維持とリハビリ」をテーマにした勉強会を開き、住民や家族に直接サービスの価値を伝える機会を増やしました。
結果として、利用者の家族や地域の口コミからの紹介が年々増え、病院からの紹介が減っても安定した新規獲得ができるようになったのです。
代表の理念とスタッフ教育が届け方の質を高める
こうした取り組みの背景には、B社代表の「技術を届けるだけでは足りない」という強い想いがありました。
医療保険・介護保険の制度はサービスの枠組みを規定しますが、その範囲内であっても、届け方の工夫次第で利用者にとっての体験はまったく変わる──代表はそのことを早くから意識していました。
その想いは、スタッフの教育にも表れています。
B社では、新人スタッフが初めて訪問する際、単にマニュアルを読むだけではなく、先輩が利用者宅での言葉のかけ方や安心感の伝え方を実際に見せ、その背景を丁寧に解説します。スタッフは技術と同じくらい、「届け方」の技術も学ぶことになります。
成果と指標 利用者定着率と経営改善
利用者の定着率は、B社では初回利用から半年後でも80%以上を維持しています。
一方で、A社は同じ期間で60%を下回ることが珍しくありません。
この差は、決してリハビリ技術の優劣ではなく、初期体験の設計と、安心感の継続を支える仕組みの違いによるものでした。
経営面の好循環と紹介増加の効果
B社は経営面でも着実に成果を上げました。
安定した定着率により新規獲得の負担が減り、スタッフの残業時間も短縮。スタッフの定着率も向上し、結果として人材採用コストが下がり、サービスの質を高めるための投資に余力を回せるようになりました。
そして何より、利用者からの紹介が増えたことで、広告宣伝費に頼らずとも利用者数を増やすことができるようになったのです。
継続型サービス全体への示唆
B社の歩みは、訪問型リハビリという特定の業態にとどまらず、多くの継続型サービスに共通する示唆を与えてくれます。
それは、「良いサービスは黙っていても続けてもらえる」という幻想を捨て、続けてもらう体験をどう設計するかに経営資源を割くべきだというメッセージです。
利用者の目線で、安心・信頼の積み重ねを意図的に届けることこそが、長く選ばれ続けるための最も確実な道なのです。
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この記事は「経営ラボ」内のコンテンツから派生したものです。
経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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訪問リハビリ スタッフの物語 佐藤さんの気づきと安心を届ける実践
スタッフの物語
B社のスタッフである佐藤さん(仮名・40代後半・理学療法士)は、病院勤務から転職してきたベテランです。
長年、医療機関の現場で「成果=機能回復の数値」という価値観を叩き込まれてきたため、訪問リハビリの現場に入った当初は戸惑いが多かったといいます。
病院と在宅での評価観の違いによる戸惑い
「病院では、退院までの期間や可動域の改善度合いが目標でした。だから、成果は目に見える数字で評価されるのが当たり前。でも在宅では、杖なしで歩けるようにならなくても、その人が安心して暮らせることが重要だったりする。正直、最初はその違いがよく分からなかったんです。」
ヒアリングシート導入がもたらした転機
佐藤さんが転機を迎えたのは、B社が導入したヒアリングシートと、その活用法でした。
初めて担当した利用者は、70代の女性で、膝関節の痛みから外出を控えるようになっていた方でした。佐藤さんは病院時代と同じように関節の可動域や筋力の数値ばかりを追っていましたが、訪問3回目の終わりに、その女性が小さな声でこう話したといいます。
利用者の「変化の実感」を記録し共有する文化
「この前、娘と一緒に近所のスーパーまで歩けたんです。まだ膝は痛いけど、行けると思えたら気持ちが楽になりました。」
ヒアリングシートにその言葉を記録すると、次回訪問時にチームメンバーから「前回より表情が柔らかくなったね」「お孫さんに会いに行けるのが楽しみになっているみたいだ」といったコメントが交わされました。
佐藤さんはそのとき初めて、利用者の生活における小さな変化こそが、安心感と継続意欲を生み出すのだと実感したのです。
働き方と記録の変化 利用者目線の聞き取りを優先する実践
「数値だけでは見えない“変化の手応え”を一緒に喜ぶことが、こんなにも大事なんだと気づきました。
技術を届けるだけではなく、その人の暮らしを支えている実感をどう届けるか。
そこにこそ、訪問リハビリの価値があると腑に落ちました。」
この気づきは、佐藤さんの働き方を変えました。
初回訪問では、身体評価よりもまず「どんな暮らしを取り戻したいか」を丁寧に聞くことを意識し、ヒアリングシートの記録を家族にもわかりやすく説明しました。
また、スタッフ同士の申し送りの際には、技術的なアプローチだけでなく「この方はこういう場面で不安を感じる」「最近は家事を再開して少し自信がついてきた」など、気持ちの変化を必ず添えるようになりました。
チーム文化の変化と離職率低下という成果
こうした取り組みは、チーム全体の雰囲気も変えました。
若手スタッフは「成果が数字で見えにくいからやりがいが感じにくい」と悩んでいましたが、利用者の生活におけるエピソードをチームで共有することで、「自分たちの支援が確かに役に立っている」という実感を持てるようになったのです。
結果として、B社のスタッフ離職率は2年連続で前年の半分以下に減少しました。
安心を届けることの本質と教育への展開
佐藤さんは、今ではこう語ります。
「私たちが届けているのは、技術や施術そのものではありません。
“この人たちに任せていれば安心だ”という気持ちです。
その安心感は、最初の数回での信頼の築き方と、その後の小さな変化を見逃さずに伝え続けることで生まれます。」
かつては病院で数字を追っていた佐藤さんが、いまはスタッフ教育の場で「安心を届けることの意味」を新人に説く立場になりました。
この変化は、B社が取り組んだ仕組みづくりの成果を最も象徴的に示すエピソードといえるでしょう。
訪問リハビリ 比較と学び 初期体験設計で差がつく在宅ケアの成功法則
比較と学び
A社とB社の最大の違いは、リハビリの専門技術の高さではありませんでした。
どちらの事業所にも経験豊富なスタッフがおり、施術のレベルも大きくは変わらなかったといえます。
にもかかわらず、利用者の定着率や紹介件数、スタッフの定着度合いには明確な差が出ました。
その差を生んだのは──届け方の設計力です。
初期体験の設計が継続を左右する理由
まず注目すべきは、初期体験の設計です。
A社は初回訪問を、いわば“説明と施術の開始”としてしか捉えていませんでした。
利用者や家族がどんな期待や不安を抱いているのかを言葉にし、その場で共有するという視点は希薄でした。
結果として、訪問を重ねても利用者の安心感が深まらず、やがて「続ける意味があるのか」という疑問が残りやすかったのです。
B社の初回3回設計が生む信頼の蓄積
一方B社は、初回3回を特別な期間と位置づけ、
- 安心して任せられる
- 小さな変化が実感できる
- それが次の希望につながる
という体験を届けることに注力しました。
この“最初の山場”で得られた信頼は、その後のリハビリを続けるかどうかに大きな影響を与えました。
継続型サービスでは、この初期の接点での体験設計が、後の成果を左右する鍵だといえます。
担当交代時の安心感と申し送りの重要性
次に、スタッフ交代時の安心感です。
訪問型サービスでは、担当者が変わると利用者の心理的負担が大きくなります。
A社では引き継ぎが場当たり的で、利用者は「また一から説明しなければならない」と感じ、離脱のきっかけになることも少なくありませんでした。
B社はヒアリングシートや申し送りのルールを整え、記録の質を統一することで、担当者が変わっても利用者が「わかってもらえている」という安心感を持ち続けられるようにしました。
紹介チャネルの多様化がもたらす安定成長
三つ目は、紹介チャネルの多様化です。
A社は病院やケアマネジャーからの紹介にほぼ依存していましたが、B社は地域住民向けの勉強会や家族との接点を積極的に広げました。
紹介の源泉を一つに絞らなかったことが、環境変化に左右されない安定成長につながりました。
業務の丁寧さだけでは足りない届け方の仕組み
こうして比較すると、A社は“目の前の業務を丁寧にこなす”ことに留まり、利用者の体験全体を設計する視点が欠けていたことがわかります。
一方、B社は“届ける仕組み”を通じて安心感と関係性を積み重ね、その結果、利用者・スタッフ・紹介者の三者がともに信頼を深めていく好循環を築きました。
学びの結論 継続型サービスで差別化する要点
ここから導き出される学びは明快です。
継続型サービスでは、技術や価格ではなく、初期体験と安心感のデザインこそが差別化の要になるということです。
利用者が「続けたい」と思う理由は、施術そのものの優劣よりも、「この人たちに任せれば安心」「変化を一緒に喜んでくれる」という感覚に支えられています。
そして、その感覚は偶然には生まれず、届け方の設計によって再現性を持って育てることができます。
現場の丁寧さと経営視点をつなぐ中間領域の重要性
多くの現場では、「今目の前の利用者に最善を尽くすことが最も大切」と考えがちです。もちろんそれは大前提です。しかし、同じように最善を尽くしていても、成果が長続きする組織とそうでない組織があるのはなぜか──その答えは、日々の業務の背後にある“届け方の仕組み”にあります。
現場の丁寧さと経営の視点をつなぐ、この中間の領域こそが、持続可能な成長を支える分岐点となるのです。
中堅大企業への展開 規模拡大で生じる拠点間ばらつきと安心感の設計
中堅・大企業への展開視点
訪問型リハビリは地域に根ざした事業ですが、そこで見えてきた課題は、規模の大きな組織にも驚くほど共通しています。
特に全国展開している介護・医療・教育・フィットネスなどのサービス業では、「地域や拠点ごとに成果が大きくばらつく」という現象がしばしば見られます。
このばらつきの要因を詳しく調べていくと、制度や価格の差ではなく、現場における初期体験と安心感の届け方が地域によって揺らいでいるという実態が浮かび上がります。
店舗間で異なる定着率の原因は届け方の差
たとえば、全国規模で展開する大手フィットネスクラブを考えてみましょう。
入会から3か月以内に退会する人の割合が、店舗ごとに大きく異なるケースがあります。
設備やトレーニングメニューはほとんど同じなのに、なぜかある店舗は定着率が高く、別の店舗は低い。
その差を生んでいるのは、入会初日にどれだけ安心感を与えられているか、そして利用者の小さな達成感をどう共有できているか──つまり“届け方”の質なのです。
サブスクリプション型事業でも共通する導入体験の重要性
また、金融サービスや通信サービス、教育系のサブスクリプション型事業などでも同様です。
契約を結んでも、利用開始から数か月以内に解約されるケースが多いのは、サービスそのものの機能不足というより、初期の導入体験が不十分で「ここに任せておけば安心」という感覚が得られないことに起因している場合が少なくありません。
特に近年はオンラインやアプリを介したサポートが増え、人と人との接点が薄くなりやすいため、安心感をどう補うかが競争力の分岐点になっています。
安心感は設計可能という発想とシンプルな仕組みの有効性
ここで重要なのは、“安心感は属人的ではなく設計できる”という発想です。
B社が導入したヒアリングシートや申し送りルールは、特別なシステムではなく、誰でも実行できるシンプルな仕組みでした。
しかし、それがあるかないかで、利用者が感じる信頼感とスタッフの働きやすさが大きく変わったのです。
規模の大きな組織ほど、拠点間でサービスの届け方にムラが生じやすく、その結果として定着率や紹介率の差が生まれます。
逆に、安心感を届けるための共通言語やプロセスを整えれば、拠点ごとのばらつきを抑え、全体としての成長力を底上げすることが可能です。
データと現場感覚の分断を埋める現場主導の改善プロセス
また、中堅・大企業にはもう一つ特有の課題があります。
それは「データと現場感覚の分断」です。
本社が定期的に顧客アンケートを収集しても、そこから得られる数字だけでは“顧客の気持ちの変化”を読み取るのが難しく、施策が現場に浸透しないことが少なくありません。
B社のように、現場のスタッフが顧客の言葉を拾い、それをチームで共有しながら届け方を改善していく──このプロセスを、いかに多拠点の組織でも再現できるかが重要です。
CXと文化の育成がツール導入の効果を決める
近年、多くの企業が「顧客体験(CX)」を経営指標に掲げていますが、その実効性を左右するのはITツールやデータ基盤だけではありません。
“初期体験をどう届けるか”をチームで語り、改善を続ける文化を組織に根づかせることこそがCXの本質です。
この視点が欠けたままツールを導入しても、結局は現場に活かされず、形骸化してしまう例を多く見てきました。
訪問リハビリ事例が示す普遍的な応用可能性
訪問リハビリという一見ニッチな分野の事例は、実はこうした普遍的な課題を照らし出しています。
B社のように、限られたリソースの中でも安心感を生み出す仕組みを整え、利用者とスタッフの双方の定着率を高めた経験は、規模や業種を問わず多くの企業に応用可能です。
規模が大きいほど、人や場所の違いによるムラをどう埋めるかが経営課題となりますが、その答えは往々にして“特別な投資”ではなく、“届け方の設計”という足元の改善にあります。
訪問リハビリ まとめと組織が取り組むべき初期体験設計で定着率を高める方法
まとめ+問いかけ(案)
訪問型リハビリという業種は、介護保険や医療保険という制度の枠に規定されており、事業者が自由に価格やサービス内容を決められるわけではありません。
だからこそ、多くの事業所は「限られた条件の中でどれだけ専門技術を高めるか」に注力しがちです。
A社もその一つでした。スタッフは誠実で技術も確かでしたが、“続けてもらう理由”を届ける仕組みを持たなかったため、利用者もスタッフも定着せず、常に新規獲得に追われる状態から抜け出せませんでした。
B社の違いと仕組み化が生んだ好循環
一方、B社は制度の枠を言い訳にせず、初期体験を重視し、安心感を届ける仕組みを育てました。
その結果、利用者の定着率は高まり、スタッフもやりがいを感じて長く働くようになり、紹介が紹介を呼ぶ好循環が生まれました。
特別な設備や派手な宣伝をしたわけではありません。届け方を設計しただけで、同じ技術を持つ組織でも成果がまったく変わる──この事実は、あらゆる継続型サービスに通じる普遍的な教訓です。
中堅大企業への示唆と拠点間ばらつきへの対処
この教訓は、中堅・大企業にもそのまま当てはまります。
規模が大きくなればなるほど、現場の届け方にばらつきが生じやすく、結果として地域や店舗によって顧客定着率に差が出ます。
本社が打ち出すキャンペーンや施策が期待通りに機能しないとき、その背景にはしばしば「現場で安心感が届いていない」というシンプルな事実があります。
組織の大きさや業種の違いにかかわらず、最初の体験がどれほど顧客の心に残り、安心感を支え続けられるか──その設計こそが持続的な成長の分かれ目なのです。
人と人の接点の質を設計する重要性と再現性
B社の事例は、技術や設備ではなく人と人との接点の質を設計することが、組織の成果を決定づけるという点を改めて教えてくれます。
そして、その接点の質は属人的な才能ではなく、誰でも実践できる仕組みと文化によって再現性を持たせることができます。
ここにこそ、中小から大企業まで規模を問わず取り組むべき経営の本質があるといえるでしょう。
読者への問いかけ
あなたの組織では、サービスを始めたお客様や利用者が、安心して「ここに任せておけば大丈夫だ」と感じ続けられているでしょうか。
その安心感は、担当スタッフの人柄や偶然の出会いに頼っていないでしょうか。
初期体験から安心感を届ける仕組みを持つことが、継続型サービスの価値を何倍にも高めることを、今回のケースは示しています。
あなたの継続型サービスは、技術や価格ではなく“届け方”で差がついていませんか?

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