物価高と人手不足が引き金に―倒産件数12年ぶり5,000件超から見る中小企業の危機【診断ノート】 | ソング中小企業診断士事務所

物価高と人手不足が引き金に―倒産件数12年ぶり5,000件超から見る中小企業の危機【診断ノート】

物価高と人手不足が引き金に―倒産件数12年ぶり5,000件超から見る中小企業の危機【診断ノート】

動画で見る診断ノートの記事説明

※この動画は「診断ノート」全記事に共通して掲載しています。

物価高と人手不足がじわじわと経営を追い詰めています。帝国データバンクの調査によれば、2025年4~9月の倒産件数は5,146件と、12年ぶりに5,000件を超えました。とりわけ資金力の弱い中小・零細企業が打撃を受け、負債5,000万円未満の倒産が全体の6割を超えています。値上げも賃上げも思うように進まず、事業継続を断念せざるを得ない現実は、決して他人事ではありません。この半年の数字は、次の半年への警鐘でもあります。

この記事を読むことで得られること

  • 「物価高×人手不足」が倒産リスクを高めるメカニズムを、数字と構造で整理できます
  • 資金繰り悪化の本質(資金の“呼吸”の乱れ)と、早期に察知する可視化の要点がわかります
  • 価格転嫁・生産性向上・財務強化をどの順序で進めるか──現場で動ける優先順位が明確になります

まず結論:外部要因に受け身でいるほど倒産リスクは高まります。まずはキャッシュフローを可視化し、価格転嫁・生産性向上・財務体質強化の順で一歩を進めることが、生き残りの最短ルートです。

4つの体系で読む、井村の経営思想と実践
記事・ツール・コラム・思想─すべては一つの設計思想から生まれています。
現場・構造・感性・仕組み。4つの視点で「経営を届ける」全体像を体系化しました。

実践・口

経営相談の窓口から
失敗事例の切り口から
会計数値の糸口から

現場の声を起点に、課題の本質を捉える入口。
今日から動ける“実務の手がかり”を届けます。

時事・構造

診断ノート
経営プログレッション
 

経営を形づくる構造と背景を読み解きます。
次の一手につながる視点を育てる連載です。

思想・感性

日常発見の窓口から
迎える経営論
響く経営論

見えない価値や関係性の温度に光を当てます。
感性と論理が交差する“気づきの場”です。

実装・仕組み

わかるシート
つなぐシート
みえるシート

現場で“動く形”に落とし込むための仕組み群。
理解・共有・対話を支える3つの現場シートです。

  1. 倒産増加が示す中小企業の経営リスクと構造的脆弱性の現状
    1. 全国倒産件数の増加と中小零細企業への影響
    2. 業種別の倒産傾向と影響を受けやすい業態
    3. 倒産増加の背景にある構造的経営課題
    4. 現場力依存型業種の脆弱性と早期発見の重要性
    5. 統計の示す意味と次章への導入
  2. 物価高と人手不足の二重苦が中小企業の経営を追い詰める原因と影響
    1. 二重苦がもたらす中小企業への直接的な圧迫
    2. 物価高の影響 販売価格に転嫁できない「サイレント赤字」
    3. 人手不足の影響 地方・小規模企業ほど深刻になる採用とコストの負担
    4. 二重苦が招く経営判断の遅れと悪循環
    5. 受け身では乗り切れない 外部要因を踏まえたビジネスモデルの見直しが必要
    6. 次章への接続 キャッシュフローと経営の呼吸を整える視点へ
  3. キャッシュフローの呼吸を整えて中小企業の経営を安定させる方法
    1. 資金繰りの悪化が倒産の主因になる現実
    2. 現金の流れのズレが引き起こす資金ショートのメカニズム
    3. 資金の呼吸が乱れると経営は守りに入り負のスパイラルに陥る
    4. まず現場で取り組むべきシンプルな可視化と管理
    5. 経営者の行動を変える具体的な可視化の問い
    6. 数値に基づく判断で値上げ交渉や人員配置を進める
    7. 次章への展望 経営改善の優先順位と実践策へ
  4. 中小企業が優先すべき経営改善策 物価高と人手不足に対応して事業を守る具体的打ち手
    1. 経営改善の目的 稼ぐ力と耐久力を同時に強化する必要性
    2. 価格転嫁の戦略見直し 顧客に納得される価格改定の設計
    3. 人材活用と業務プロセス改善 限られた人材で生産性を高める
    4. 資金繰りと財務体質の強化 キャッシュフロー可視化と早期対応
    5. 実行の心構え 経営者の現実認識と優先順位付けの重要性
  5. 生き残る中小企業が実践する経営の基本と対応力
    1. 要点の整理 生き残る企業に共通する三つの視点
    2. 数字に基づく早期意思決定の習慣
    3. 現場の声を経営に連動させる仕組み
    4. 変化を受け入れ実行する柔軟性
    5. 結び 経営の現実と行動への問いかけ

倒産増加が示す中小企業の経営リスクと構造的脆弱性の現状

全国倒産件数の増加と中小零細企業への影響

2025年4~9月期、全国の倒産件数は5146件。これは前年同期を上回り、12年ぶりに5000件を超える水準です。とりわけ注目すべきは、この増加が一部の大企業ではなく、中小・零細企業を中心に起きているという点です。負債総額5000万円未満の案件が全体の62%を占め、事業規模の小さな企業ほど経営の脆弱さが露呈しています。

業種別の倒産傾向と影響を受けやすい業態

業種別では、サービス業が1348件で最多、小売業が1120件、建設業が1013件と続きます。これらはいずれも、物価高や人手不足の影響を最も受けやすい業種です。価格転嫁が難しい一方、最低賃金の引き上げや原材料費の高騰により、コスト増がじわじわと利益を削っています。

倒産増加の背景にある構造的経営課題

倒産の背景には単なる一時的な景気の波ではなく、構造的な経営課題があります。たとえば次のような特徴が浮かび上がります。

  • 仕入れや人件費など固定費が重いのに、販売価格に十分反映できない
  • 人手不足でサービス品質が低下し、顧客離れが進む
  • 金利上昇によって借入負担が増し、資金繰りが逼迫する
  • 経営判断が後手に回り、気がつけばキャッシュが尽きている

現場力依存型業種の脆弱性と早期発見の重要性

特にサービス業や小売業は、店舗や人材という“現場力”が収益の源泉であるだけに、人材確保の遅れや採算割れの慢性化が、企業存続のリスクに直結します。私はこれまで支援してきた現場でも、数字をきちんと見える化できていない企業ほど、問題を早期に察知できず、気づいたときには打つ手が限られてしまうケースを数多く見てきました。

統計の示す意味と次章への導入

今回の統計は、単なる数字の増減ではありません。経営体質を問われる時代が本格的に到来したことを示すシグナルです。次章では、そのシグナルの背後にある「物価高と人手不足」という二重苦のメカニズムを掘り下げていきます。

物価高と人手不足の二重苦が中小企業の経営を追い詰める原因と影響

二重苦がもたらす中小企業への直接的な圧迫

今回の倒産件数増加の背景にあるのは、単純な景気後退ではなく、長引く物価高と深刻な人手不足という二重苦です。この二つは、特に中小企業において経営資源を直接圧迫するため、表面的な売上の増減よりも経営体力を奪いやすいのです。

物価高の影響 販売価格に転嫁できない「サイレント赤字」

まず物価高の影響です。エネルギー価格や原材料費の上昇は一時的なものではなく、海外情勢や円安の長期化を背景にコスト構造そのものを変えつつあります。本来なら販売価格への転嫁が求められますが、競合の多い市場では値上げに踏み切れず、粗利率がじわじわと削られる「サイレント赤字」が広がっています。

人手不足の影響 地方・小規模企業ほど深刻になる採用とコストの負担

次に人手不足です。若年層の減少と都市集中の加速により、地方の小規模企業ほど人材確保が困難です。現場では「人がいないから仕事を断る」「採用単価が上がり人件費が利益を圧迫する」といった声が目立ちます。さらに最低賃金の引き上げが追い打ちをかけ、採用してもコスト負担が増すことで、利益を確保しにくい構造が続きます。

二重苦が招く経営判断の遅れと悪循環

こうした二重苦は、財務面だけでなく経営判断のスピードと質にも影響します。たとえば人員不足を補うために現場責任者が日常業務に追われ、数字や資金繰りを把握する時間が減り、結果として打つべき手を先送りにしてしまう――そんな悪循環は珍しくありません。

受け身では乗り切れない 外部要因を踏まえたビジネスモデルの見直しが必要

ここで改めて考えたいのは、物価高や人手不足が「外部要因」だからといって、ただ受け身になっていては危機を乗り越えられないという点です。これらの変化を前提として、ビジネスモデルや組織の仕組みを見直すことが求められています。

次章への接続 キャッシュフローと経営の呼吸を整える視点へ

次章では、この変化に直面する企業がどのようにキャッシュフローを守り、経営の“呼吸”を整えていけるかを考えます。

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経営は、数字・現場・思想が響き合う“立体構造”で捉えることで、より本質的な理解と再現性のある改善が可能になります。
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キャッシュフローの呼吸を整えて中小企業の経営を安定させる方法

資金繰りの悪化が倒産の主因になる現実

経営が危機に陥る最大の理由は、利益が出ていないことではなく、お金が回らなくなることです。帝国データバンクの調査でも示されている通り、今回倒産した企業の約6割が負債総額5,000万円未満の中小・零細規模でした。つまり、巨額の赤字ではなく、日々の資金繰りの綱渡りが続いた末に限界を迎えたケースが少なくないのです。

現金の流れのズレが引き起こす資金ショートのメカニズム

たとえば原材料費の値上げや人件費の上昇は、損益計算書ではコスト増として見えますが、実際の現金支出はさらに先行して発生します。受注や売上があるのに手元資金が減るのはそのためです。加えて、仕入先への支払いサイトが短く、得意先からの入金サイトが長い企業ほど、キャッシュアウトが先行して資金が詰まりやすくなります。

資金の呼吸が乱れると経営は守りに入り負のスパイラルに陥る

この「資金の呼吸」が乱れると、経営判断は一気に守りに入り、設備投資や人材確保など将来への投資が後回しになり、負のスパイラルに陥ります。したがって、経営改善の第一歩は利益改善ではなく、キャッシュフローの健全化と可視化です。

まず現場で取り組むべきシンプルな可視化と管理

現場でまず取り組むべきは、単に試算表を眺めるのではなく、キャッシュフローと損益構造を一体で把握できるシンプルな管理表を持つことです。特に中小企業では「利益が出ているのにお金がない」という状況がしばしば起こりますが、その原因の多くは在庫増加や売掛金の回収遅れにあります。これらをPL・BS・CFのつながりの中で見える化することで、問題を早期に察知できるようになります。

経営者の行動を変える具体的な可視化の問い

私はコンサルティングの現場で、月次の資金繰り予測と損益分岐点の確認を“現場の言葉”に翻訳することを重視しています。難しい会計用語ではなく、「あと何か月、このままの売上・コストで持ちこたえられるのか」「来月の仕入支払いはこの入金でまかなえるか」という具体的な問いに即した可視化が、経営者の行動を変えます。

数値に基づく判断で値上げ交渉や人員配置を進める

さらに、変動費率・固定費・人件費構造を把握することで、値上げ交渉や人員配置の見直しを“感覚”ではなく“根拠”をもって進められるようになります。こうした数値管理の習慣がないまま、外部環境の変化に翻弄されてしまえば、今回のような物価高・人手不足の二重苦に直面したとき、あっという間に資金ショートに陥りかねません。

次章への展望 経営改善の優先順位と実践策へ

次章では、このような厳しい外部環境下でも事業を持続させるために、中小企業が取り得る経営改善の優先順位と実践策を考えます。

中小企業が優先すべき経営改善策 物価高と人手不足に対応して事業を守る具体的打ち手

経営改善の目的 稼ぐ力と耐久力を同時に強化する必要性

倒産リスクを下げるためには、単なる経費削減や一時的な資金繰り支援にとどまらず、根本的に事業の稼ぐ力耐久力を強化することが不可欠です。とりわけ、今回の倒産増加の背景である「物価高」と「人手不足」に対応できる改善の方向性は、次の3つに整理できます。

価格転嫁の戦略見直し 顧客に納得される価格改定の設計

多くの中小企業では、仕入れ値の上昇分を販売価格に反映できないことが赤字拡大の主要因となっています。重要なのは単なる値上げではなく、提供価値を明確にした上での納得できる価格改定です。

  • 付加価値を打ち出せる商品・サービスの再定義
  • 小口取引や緊急対応などのコストを見える化して価格体系を適正化
  • サブスクリプション化やメンテナンス契約など、継続収益モデルへの移行

値上げを発表する際には、単なるコスト増の説明に留めず、顧客が得るメリットや品質維持のための必要性を丁寧に伝えるコミュニケーションが求められます。

人材活用と業務プロセス改善 限られた人材で生産性を高める

人手不足が深刻化する中、限られた人材を最大限に活かす取り組みが急務です。属人化の解消と業務効率化は、コスト削減とサービス安定化に直結します。

  • デジタルツールやクラウドサービスによる業務の標準化・自動化
  • シニアや女性、外国人など多様な人材の活用と定着支援
  • 従業員のスキルアップを目的とした社内研修・ジョブローテーションの強化

人件費の上昇は避けられない現実であり、生産性を高めることで人件費負担を吸収できる組織づくりがポイントです。

資金繰りと財務体質の強化 キャッシュフロー可視化と早期対応

負債5000万円未満の小規模倒産が増えていることは、小規模企業こそ資金繰り管理の巧拙が命運を分けることを示しています。キャッシュフローを可視化して早期に手を打つことが重要です。

  • 早期の借入リファイナンスによる返済負担の軽減
  • 変動費・固定費の再評価と資金繰り表の運用習慣化
  • 事業再構築補助金や省力化投資補助金など、公的支援制度の適切な活用

キャッシュフローを可視化し、将来の赤字転落リスクを早めに把握できれば、手遅れになる前に有効な打ち手を講じられます。

実行の心構え 経営者の現実認識と優先順位付けの重要性

こうした改善は一朝一夕では進みませんが、経営者自身が「今のままでは危うい」という現実を受け止め、優先順位を明確にして一歩を踏み出すことが、事業を守る最大の防御策です。

生き残る中小企業が実践する経営の基本と対応力

要点の整理 生き残る企業に共通する三つの視点

今回の半年間のデータが示すのは、外部環境は変えられなくても、経営の土台は整えられるという現実です。価格転嫁が進まない、賃上げに耐えられない、資金繰りが続かないといった問題の多くは、外部要因ではなく内部の備えと対応力の差が生み出しています。生き残る企業には共通点があり、これを経営判断の中心に据えることが重要です。

数字に基づく早期意思決定の習慣

まず、月次・週次で限界利益や損益分岐点を把握し、決算を待たずに意思決定する習慣です。原材料費や人件費の上昇がじわじわと利益を食う局面では、短いサイクルで現状を数値化し、値上げ交渉やコスト構造の見直しを速やかに行う企業が持ちこたえます。

現場の声を経営に連動させる仕組み

次に、現場の変化を経営判断につなげる仕組みです。顧客動向や従業員の負荷を早期に検知し、サービス内容の再設計や販路シフトを迅速に実行できる組織は、収益の守り方が巧みです。現場と経営の情報フローを短くすることがカギになります。

変化を受け入れ実行する柔軟性

さらに、旧態依然とした慣行に固執せず、新しい収益モデルや付加価値づくりに挑む柔軟性が重要です。サブスクリプション化、作業の標準化、外部施策の活用など、小さな実験を繰り返して成功の確度を高める経営姿勢が、危機耐性を高めます。

結び 経営の現実と行動への問いかけ

経営の本質を考えれば、この現状を乗り切るためには特別な秘策は不要です。日々の数字と現場に正直になり、変化を先送りしないことが肝要です。あなたの会社は、昨日より早く正確に数字を把握し、未来へのアクションに落とし込めているでしょうか。市場変化をチャンスに変える企業こそ、次の半年を乗り越えていけるはずです。

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