東京ディズニーリゾートの成功事例から学ぶ:価格設定とサービスの質向上がもたらす持続的成長の鍵 | ソング中小企業診断士事務所

東京ディズニーリゾートの成功事例から学ぶ:価格設定とサービスの質向上がもたらす持続的成長の鍵

価格設定とサービスの質向上がもたらす持続的成長の鍵:東京ディズニーリゾートの成功事例から学ぶ

東京ディズニーリゾート(TDR)は、私も家族も大好きなテーマパークです。結婚する前には妻と何度も行きましたし、楽しい思い出がたくさんあります。好きなキャラクター、映画、アトラクション、いくらでも出てきます。東京ディズニーランドができて40年以上、私たちのようなTDRを愛する人たちが全国に多くいるはずです。そんなTDRがさらなる値上げを発表しました。過去にも何度も値上げを繰り返してきていますが、その人気は今でも健在です。その強さはどこにあるのでしょうか。中小企業診断士の視点から考察します。

東京ディズニーリゾートの価格設定の推移と業績状況

TDRは、1983年の開業以来、度重なる値上げを行ってきました。開業当初の入園チケットは3,900円でしたが、2024年10月1日からは初めての1万円を超える予定です。(大人1日券で1万900円、オリエンタルランドが6月23日に発表)TDRの入園者数は増加し、業績も向上していますが、そんな中でのさらなる値上げとなる見込みです。

価格設定の推移を振り返ると、TDRは定期的に価格を見直し、段階的に値上げを実施してきました。例えば、2000年代初頭には5,000円台、2010年代には7,000円台、そして2020年代には9,000円台と、徐々に価格を引き上げてきました。このような価格設定の戦略は、インフレや運営コストの上昇を反映したものであり、また、顧客に対して高品質なサービスを提供するための投資を可能にしています。

2024年3月期の業績は、売上高が5,138億円(前年比30%増)、営業利益が1,395億円(前年比49%増)と過去最高を記録しました。これは、円安を追い風としたインバウンド顧客の増加や、新アトラクションの導入が寄与した結果です。また、変動価格制の導入により、高価格帯チケットの構成比が増加し、ディズニー・プレミアアクセスの販売も好調でした。

このように、TDRは価格設定の戦略を巧みに活用し、顧客に高い付加価値を提供することで、値上げ後も顧客満足度を維持し、業績を向上させています。特に、プレミアムな体験を提供することで、価格に見合った価値を感じる顧客を引きつけることに成功しています。

TDRと言えば年間パスポートの存在やその徹底した世界観の演出から、強固で熱狂的なファンが多くいることも有名です。長引く景気低迷の中、一般的に見れば「チケット代、どんどん高くなっていて行きづらい」と言う見方もあるかもしれませんが、実際は来園者が減ることも売上が落ちることもなく、依然として堅調な業績を維持していることは驚きです。今後、1万円を超えていく中でどのような反響が出てくるのかは注意深く見守りたいと思いますが、ここまでの推移を見る限り、TDRの価格設定は成功してきていると言えるでしょう。

そんなTDRの経営から、私たち中小企業経営に関係する人間が学べることはなんでしょうか?

中小企業経営にとっての価格設定のポイント

TDRを運営するオリエンタルランドは一般的に巨大企業ですが、ビジネスを運営していくという意味では中小企業であってもその本質は同じです。TDRの成功事例から、サービスの価格設定について考えていきたいと思います。

中小企業にとっても、大企業と同じく価格設定は非常に重要な経営戦略の一部です。以下のポイントを押さえることで、効果的な価格設定が可能になります。

  • コスト起点型
  • 自社のコストを回収し、一定の利益を確保できる価格に設定することが基本です。例えば、製造業では原材料費、人件費、設備費などを考慮し、適正な利益率を上乗せした価格を設定します。

  • 競合起点型
  • 業界平均や競合他社の価格を参考に設定する方法です。特に、競争が激しい市場では、競合他社の価格動向を常に把握し、適切な価格調整を行うことが求められます。

  • 顧客起点型
  • 顧客がいくらまでなら支払う意欲があるかを基に価格を設定します。顧客の購買意欲や価格感度を調査し、それに基づいて価格を設定することで、顧客満足度を高めることができます。

価格設定の際には、取引先との価格交渉も重要です。価格交渉の準備として、原価計算や取引先の経営方針の把握が必要です。また、見積書の作成時には、不確定要素を排除するためのチェックリストを活用することが有効です。

なお、コスト起点型の価格設定には問題点もあります。下記の対話で詳しく触れていますので、是非ご覧ください。

価格設定見直し実現のための対話~データ分析に基づいた顧客ニーズ再認識の重要性(経営相談の窓口から)
【登場人物】 設定:経営者が、価格設定の見直しを行うべきか判断に迷い、コンサルタントに相談を持ちかけた場面から始まる。営業部長も同席している。 井村さん、今日はお忙しいところありがとうございます。実は、長年悩んでいる価格設定について、ご相談...

サービスの質向上

TDRの接客サービスは極めて洗練されたものであることで有名です。「夢の国」という演出を徹底することで、ゲストである私たちに特別な、非日常的な体験を提供することをキャスト(スタッフ)全員が誇りをもって仕事をしているように感じられます。顧客だけではなく、働く人にとってもTDRは「夢の国」なのでしょう。特別な場所で特別な仕事をしている、という実感が、よりスペシャルな接客へとつながり、さらに顧客満足度が増え強固なファンが増えていく、というサービス業の理想的な好循環の中にあり続けているように感じます。

一般的にサービスの質を向上させるためには、以下の要素が重要です。

  • 正確性
  • サービスが正確であることは、顧客からの信頼を得るために不可欠です。例えば、飲食業では注文の正確な提供が求められます。

  • 迅速性
  • 顧客の期待に応える迅速なサービス提供が求められます。例えば、物流業では迅速な配送が顧客満足度を高めます。

  • 柔軟性
  • 顧客の多様な要求に応えるための柔軟性が必要です。例えば、カスタマイズ可能な商品やサービスを提供することで、顧客のニーズに応えることができます。

また、業務改善の取り組みとして、職場環境の整備や業務の明確化、情報共有の効率化が挙げられます。これにより、従業員のモチベーションが向上し、サービスの質も向上します。例えば、定期的な研修やフィードバックの実施により、従業員のスキルアップを図ることができます。

値上げが必ずしも顧客離れにつながらない理由

値上げ、というとネガティブなイメージがあり、経営が苦しくやむを得ず行うもの、といった見方もあるかと思います。しかし、戦略的に値上げを行う場合もあります。もちろん、値上げ=業績向上とは必ずしもなりませんが、意味のある値上げ、顧客にとって納得感があり受け入れられる値上げであることが重要です。

値上げが顧客離れにつながらない理由として、以下の点が挙げられます。

  • 付加価値の提供
  • 値上げによって提供される付加価値が顧客にとって魅力的である場合、顧客は価格に見合った価値を感じます。例えば、新しいサービスや商品の導入、既存サービスの改善などが挙げられます。

  • ファン客の存在
  • 値上げ後に残るのは、企業や商品に対して強い愛着を持つファン客です。これにより、顧客の満足度が高まり、リピート率も向上します。例えば、ブランドロイヤルティが高い顧客は、多少の値上げにも応じる傾向があります。

  • 心理的効果
  • 高価格の商品は、心理的に高品質と感じられることが多く、顧客満足度が向上します。例えば、高級レストランや高級ホテルでは、高価格が高品質の証とされることが多いです。

3つの理由をあげましたが、どの要素もTDRの強みと言えるものです。3つ目の心理的効果は、強固なファンにとってはTDRへの想いが揺らぐことがなく値上をしても変わらず行き続けることで、値段が高くなっても十分な満足感を覚えていればさらなる愛顧向上にもつながる可能性があります。

値下げが必ずしも売上向上につながらない理由

では、逆のパターンも考えてみます。先ほどとちょうど反対の話ですが、値下げをすることで顧客にっては買い求めやすくなり、売上が向上する、少なくとも販売数は増加する、という一定の見方もできますが、必ずしもそうならない現実があります。

値下げが売上向上につながらない理由として、以下の点が挙げられます。
TDRの場合は値上をしてきましたが、中小企業経営においては売上不振の対策として値下げを検討するケースもありますが、値下げは時としてさらなる業績の悪化を招き致命的な結果につながることさえあります。

  • 利益の減少
  • 値下げによって売上が増加しても、利益が減少することが多いです。これは、値下げによる売上数量の増加が利益を補うほどではない場合に起こります。例えば、値下げによって一時的に売上が増加しても、長期的には利益が減少することがあります。

  • 価値の低下
  • 値下げは、商品やサービスの価値を低く見せることにつながり、顧客の信頼を損なう可能性があります。例えば、頻繁な値下げは、商品やサービスの品質に対する疑念を生むことがあります。

  • 競争の激化
  • 値下げ競争に巻き込まれると、価格以外の差別化要素が失われ、長期的な競争力が低下します。例えば、価格競争に陥ると、他の企業も値下げを行い、結果的に全体の利益が減少することがあります。

特に2番目の価値の低下が深刻だと考えます。消費者の根強い心理として「安かろう悪かろう」というものがあります。「値段が類似サービスと比較して極端に安いものは、品質も悪いはずだ」という一種の思い込みですが、それにより消費者に選ばれにくくなってしまうのです。折角業績回復のために値段を下げたのに、かえって売れなくなるというのはまるで悲劇です。しかし、現実にこのようなことが起こってしまいます。だからこそ安易な値下げはすべきではありません。

まとめ

TDRの成功事例から学べることは、価格設定とサービスの質向上が密接に関連していることです。中小企業経営においても、適切な価格設定とサービスの質向上を図ることで、顧客満足度を高め、持続的な成長を実現することが可能です。値上げを恐れず、付加価値を提供し続けることが、長期的な成功への鍵となります。

価格設定の戦略を見直し、顧客に対して高い付加価値を提供することで、値上げ後も顧客満足度を維持し、業績を向上させることができます。特に、プレミアムな体験を提供することで、価格に見合った価値を感じる顧客を引きつけることが重要です。また、サービスの質を向上させるためには、従業員のスキルアップや業務改善の取り組みが不可欠です。これにより、顧客満足度を高め、持続的な成長を実現することができます。

中小企業の場合であっても、他社にはない独自のサービスや技術でプレミアム感を演出することは十分、可能です。それをもって差別化につなげ、競争力向上、自社のブランド力向上を実現できれば価格で勝負する必要がなくなり、より安定した事業の成長が見込めるでしょう。

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